「ケア労働とジェンダー平等」をテーマに講演をおこないました。
女性未来研究所が主催する研究プロジェクト企画講演会で、「男女が共に担うべきアンペイドワーク ~家族にとってのジェンダー平等とは」というテーマで人間社会学科の山根純佳教授が登壇されました。女性が担いがちな家事やケアの、ジェンダー平等につながる道筋を探るオンライン講演が行いました。
アンペイドワークは女性の負担が圧倒的に大きい
アンペイドワークとは、家事のほか、育児や介護などの無償労働のこと。このアンペイドワークを、日本では圧倒的に女性が担っているという現実があります。家事やケアの不平等な配分は変わらないのか、何が原因で、どうすれば平等に仕事を担えるのかを探っていきます。
家事時間は、未配偶者では男女に大きな差はありませんが、有配偶者になると女性が男性の倍も多くなります。女性の家事時間に関しては、洗濯や掃除など家事の時間は減っていても、育児時間が増えているというデータもあります。食洗機などのテクノロジーが家事を助けてはいても、その分休めているわけではありません。
「特に睡眠と余暇のジェンダー不平等は見過ごされがちな問題です」と山根教授は言います。男性が一日に趣味に使える時間を1とした場合、女性はわずか0.37。女性にとって余暇や睡眠は削るものになっているのです。
男性の労働時間が長いことが原因?
なぜ男性は家事、特に育児や介護などのケアをしないのでしょうか。一般的によく言われる理由に「男性は労働時間が長く、働き方を変えられないから」というものがあります。しかし、男性の帰宅時間が17-19時台と22-23時台の場合を比べても家事時間は変わらない、というデータが。男性は時間があっても家事をするわけではないのです。
もうひとつ「家事・育児は女性に向いているから」というものがあります。男性は個人の競争を重視し、ひとつのことに集中するのでケアが苦手でも仕方がない、女性は感情の機微に敏感でよく気がつく、という考えです。
女性ならうまくケアできるのか?
男性が行う家事は「目に見える家事」と言われます。
洗濯機を回す、食器を洗う、子どもをお風呂に入れるなどです。対して「女性は家事マネジメントをしています」と山根教授。連絡帳の記入、持ち物チェック、消耗品の在庫確認など「見えない家事」を多く行っています。こうした細かい気配りが必要な作業は、男性には難しく女性が得意であると思われがちです。しかし女性だからといってこうした家事は得意と言えるでしょうか。私の受け持つ実践女子大学の学生たちのなかで家事が得意だという学生はわずかです。子育ても同様です。子どもを持ってはじめてケアを引き受ける主体になるのです。
一方でケアを引き受けた人は感覚や認知能力を使って複雑な労働をおこなっています。「女性はケアが得意だから」と言うことで女性の負担を軽視していると言えます。ケアは「Care For(身体的労働)」の他に「Care About(気遣い)」が必要と言われています。山根教授は気遣いという曖昧なものではなく、「Sentient Activity(察知する)」という認知的な労働と捉えるべきではないかと語ります。
ケアには多くのことを判断し、なにをするべきか「考える」という活動があります。どんな食事を作って食べさせるか、好みや今の状態などを自分の予定などとあわせて考えとりあえず判断します。その後様子をみて判断が適切だったかまた観察します。「とりあえずこうしよう」と行ったことも「ああすればよかった」と後悔することは多々あります。
さらにその決断の責任は判断した女性が負います。ベビーシッターが虐待を起こしていたことが分かった事件では、預けた母親が責められるということが起きました。ケアにはたくさんの公共の支援や施設など情報を得ることが大切ですが、こういった情報を知ることも自己責任になっています。
日常生活を支配する「男性性」「女性性」
男性の長時間労働は変わらない、というのは「変えようとしていないから」と山根教授。職場や働き方を変えずとも、自分が変われば変わります。休みの日に家事をする、睡眠時間を削るということを男性はしません。「女性がやるから」という思い込みがあるためです。女性は「やらざるを得ない」から行っています。
家庭という領域に自分が当事者としてかかわっていく意識があるか。この意識には稼ぎ手であるかどうかは別問題です。「男性だから」ケアできなくても仕方ない、という考え方は男性を免責しているのです。
共にケアする社会に向けて
山根教授は、ケアは「協働」であるという意識が大切であると語ります。
「ケアは一人ではできません。また女性だからといってうまくケアができるわけではないのです」
そしてケアをしないということは、できることをしていないという責任感の欠如であるという意識を持つことが大切だと説きます。やろうと思えばやれることをやっていない、というのは恥ずかしいことであるという意識改革が必要です。
保護者会の参加や、子どもや高齢者を病院に連れていくのは男性でもできることです。
男性の参加が多くなればなるほど、仕事の調整もつきやすく、平日の保護者会自体もなくなっていくでしょう。地域のジェンダー問題も解消されていきます。
世の中が変わらないから自分も変わらないのではなく、まず男性は当事者意識を持ち、女性も思い込みをなくしていくことが重要であると語り講義は終わりました。
この後、ゲストも含めパネルディスカッションなども行われ、女性の立場や家族のなかのジェンダー平等をさらに深く考え、オンライン講義は終了しました。