社会連携プログラム
SOCIAL COOPERATION PROGRAM
TOPICS
2023年1月12日

「グローバルキャリアデザイン」の授業で指揮者の櫻井優徳氏がコミュニケーションスキルについて講演を行いました。

全学部対象科目「グローバルキャリアデザイン」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、11月18日(金)に指揮者の櫻井優徳氏による講演が行われました。櫻井氏は実体験に基づいたコミュニケーションスキルについての話を語られ、なかなか触れ合う機会のない職業のエピソードに、学生たちも興味津々で聞いていました。

指揮者に一番必要なことは「コミュニケーションスキル」?

まず櫻井氏は実際に使用された指揮棒と楽譜を班ごとに回し、学生たちは直接触らせていただきました。櫻井氏は「指揮棒はそんなに高くないんですよ、でもスコア(楽譜)は高い」と話します。「でも一番お金がかかるのは燕尾服」。指揮者はコンサートの際、燕尾服かタキシードを着用しますが、3、4回も使うと汗でダメになってしまうと言います。服は一着25万円ほどするためなかなか大変だと、学生たちにも親しみの持てるところから講義は始まりました。

「指揮者というイメージは高圧的に思われているかもしれません」と櫻井氏は話し始めました。しかし櫻井氏が40年以上指揮の仕事をする上で大切にしていることは、なにがなんでも「コミュニケーションスキル」だと言います。コミュニケーションスキルを活かすためには、マインドセットがされないといけません。
そのために櫻井氏が心掛けていることが紹介されました。

プロの指揮者として心掛けている3つのこと

一番心掛けていることは「リスペクト」。
リスペクトは日本語では「尊敬」と訳されますが、元々の語源としては「他者のあらゆる言動を認識して受容する」ことで、上下関係はないと言います。「特にリーダーは、立場に関わらず相手を尊重することがとても大切」と櫻井氏。リーダーがリスペクトを持って仕事をすれば、より一層物事がスムーズに進むと言います。

櫻井氏は指揮者としてオーケストラに何か注文をするとき、怒ったり叱ったりはしないと言います。怒るや叱るというのは私的感情の入ったリスペクトに欠けた行為。ただ音程が違うなどの理由を「指摘する」のだと話しました。

2つ目は「メンタルモデルのフィルターを外す」こと。
メンタルモデルとは、価値観やこだわりなどからくる独自の固定観念のこと。先入観や思い込み、決めつけというものは無意識に発生してしまいます。第一印象でいやだなと思うひとでも実際には良いひとであることはたくさんあります。櫻井氏は、学生たちに「メンタルモデルを意識的に外し、自分をフラットな状態に戻すくせをつけてほしいと思います」と語りました。

3つ目は「丁寧に伝える力、丁寧に聞く力」です。
コミュニケーションは、発信者だけが満足するだけでは成立したとは言えません。情報だけを伝えてもきちんと伝わったとは限らず、自分の伝え方に不備があることもあります。しかし、ひとは発信するだけで満足してしまいがち。相手に伝わったか確認するところまでが大切だと話します。

さらに櫻井氏は「丁寧に聞く力」のほうが難しいと言います。
「僕も経験がありますが、ひとの話を聞くというのはとても難しい。ものすごくエネルギーを使うし気が抜けない」。櫻井氏が話を聞くときに気を付けていることは、人の話を遮らないこと、途中で意見をしないことだと言います。ひとは自分の意見を言いたくなるし自分の話をしたくなりますが、相手に全部言いたいことを吐き出させることが大切と話します。

グループワークでコミュニケーションスキルを高めよう

ここで櫻井氏は、学生たちに「自己紹介」のグループワークをさせました。まず一人が班のメンバーに自分の思う自分のチャームポイントを話します。聞いていたメンバーは、そのひとの言ったチャームポイントとは全く違う、そのひとの魅力を見つけそのひとに伝える、というものです。

自分の思う強みと、外からみたそのひとの魅力を伝え合うこのワークは、櫻井氏が心掛けている3つのことを網羅しています。特に初対面では相手の欠点が目に付くもの。長く付き合っていけばいい人だと知っても、その魅力にすぐに気付くことはなかなか難しいことです。「初対面の最初の1分で相手のいいところを2つ探すくせをつけると、コミュニケーションが取りやすくなりますよ」と櫻井氏は秘訣を語りました。

また、「自分の感じている強みと、違った角度からみた魅力は当然どちらも自分の武器になります」と櫻井氏は言います。自分の強みをしっかり認識していくことが大事ということも伝えました。

実体験に基づいた学び

最後は学生からの質疑応答がありました。
「どうして指揮者に?」の質問には、
17歳のとききっかけになった演奏会のいきさつを語ってくださいました。

「櫻井さんのお考えにやさしさを感じましたが、そういった考えになった原体験は?」という質問には
「20代、30代のときは独りよがりで他人とぶつかりました。多くの衝突を経て気付き、組織マネジメントを学びなおしました」と回答。
「立派な人生ではなく、しくじってばかりです。でも失敗はしていない。しくじっても、すぐ反省をして次に生かそうとしています」と語りました。

「モチベーションの維持の仕方は?」という質問には、
「モチベーションは一日のなかでも波があります。落ち込んだ時には無理して上げなくてもいい。無理して上げると麻痺してしまいます。セルフコントロールをして平常値を維持できるようにし、本番前など、上げなくてはいけないときには上げられるように心掛けています」と答えました。

授業の終わりには、櫻井氏が指揮をしたエルガーの「威風堂々」を流しながら学生たちをお見送りしてくださいました。学生一人ひとりとグータッチをして、就活へのエールを送られました。
実体験に基づいた考えに、学生たちも多くの気付きを得た講演でした。

深澤先生の話

マエストロによるコミュニケーション論の授業は恒例となりました。
櫻井先生が伝えられる「指揮者として心掛けている3つの考え」は、とても分かりやすく、毎年、学生の心に深く刻まれています。
「指揮者の姿を大学の教室で」という、ほとんど見かけることのない極めて価値ある時間を過ごさせていただいていることに改めて感謝申し上げたいと思います。

TOPICS一覧ページへ戻る