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2023年1月15日

「ケア労働とジェンダー平等」をテーマに講演をおこないました。

女性未来研究所が主催する研究プロジェクト企画講演会で、「男女が共に担うべきアンペイドワーク ~家族にとってのジェンダー平等とは」というテーマで人間社会学科の山根純佳教授が登壇されました。女性が担いがちな家事やケアの、ジェンダー平等につながる道筋を探るオンライン講演が行いました。

アンペイドワークは女性の負担が圧倒的に大きい

アンペイドワークとは、家事のほか、育児や介護などの無償労働のこと。このアンペイドワークを、日本では圧倒的に女性が担っているという現実があります。家事やケアの不平等な配分は変わらないのか、何が原因で、どうすれば平等に仕事を担えるのかを探っていきます。

家事時間は、未配偶者では男女に大きな差はありませんが、有配偶者になると女性が男性の倍も多くなります。女性の家事時間に関しては、洗濯や掃除など家事の時間は減っていても、育児時間が増えているというデータもあります。食洗機などのテクノロジーが家事を助けてはいても、その分休めているわけではありません。

「特に睡眠と余暇のジェンダー不平等は見過ごされがちな問題です」と山根教授は言います。男性が一日に趣味に使える時間を1とした場合、女性はわずか0.37。女性にとって余暇や睡眠は削るものになっているのです。

男性の労働時間が長いことが原因?

なぜ男性は家事、特に育児や介護などのケアをしないのでしょうか。一般的によく言われる理由に「男性は労働時間が長く、働き方を変えられないから」というものがあります。しかし、男性の帰宅時間が17-19時台と22-23時台の場合を比べても家事時間は変わらない、というデータが。男性は時間があっても家事をするわけではないのです。

もうひとつ「家事・育児は女性に向いているから」というものがあります。男性は個人の競争を重視し、ひとつのことに集中するのでケアが苦手でも仕方がない、女性は感情の機微に敏感でよく気がつく、という考えです。

女性ならうまくケアできるのか?

男性が行う家事は「目に見える家事」と言われます。
洗濯機を回す、食器を洗う、子どもをお風呂に入れるなどです。対して「女性は家事マネジメントをしています」と山根教授。連絡帳の記入、持ち物チェック、消耗品の在庫確認など「見えない家事」を多く行っています。こうした細かい気配りが必要な作業は、男性には難しく女性が得意であると思われがちです。しかし女性だからといってこうした家事は得意と言えるでしょうか。私の受け持つ実践女子大学の学生たちのなかで家事が得意だという学生はわずかです。子育ても同様です。子どもを持ってはじめてケアを引き受ける主体になるのです。

一方でケアを引き受けた人は感覚や認知能力を使って複雑な労働をおこなっています。「女性はケアが得意だから」と言うことで女性の負担を軽視していると言えます。ケアは「Care For(身体的労働)」の他に「Care About(気遣い)」が必要と言われています。山根教授は気遣いという曖昧なものではなく、「Sentient Activity(察知する)」という認知的な労働と捉えるべきではないかと語ります。

ケアには多くのことを判断し、なにをするべきか「考える」という活動があります。どんな食事を作って食べさせるか、好みや今の状態などを自分の予定などとあわせて考えとりあえず判断します。その後様子をみて判断が適切だったかまた観察します。「とりあえずこうしよう」と行ったことも「ああすればよかった」と後悔することは多々あります。

さらにその決断の責任は判断した女性が負います。ベビーシッターが虐待を起こしていたことが分かった事件では、預けた母親が責められるということが起きました。ケアにはたくさんの公共の支援や施設など情報を得ることが大切ですが、こういった情報を知ることも自己責任になっています。

日常生活を支配する「男性性」「女性性」

男性の長時間労働は変わらない、というのは「変えようとしていないから」と山根教授。職場や働き方を変えずとも、自分が変われば変わります。休みの日に家事をする、睡眠時間を削るということを男性はしません。「女性がやるから」という思い込みがあるためです。女性は「やらざるを得ない」から行っています。

家庭という領域に自分が当事者としてかかわっていく意識があるか。この意識には稼ぎ手であるかどうかは別問題です。「男性だから」ケアできなくても仕方ない、という考え方は男性を免責しているのです。

共にケアする社会に向けて

山根教授は、ケアは「協働」であるという意識が大切であると語ります。
「ケアは一人ではできません。また女性だからといってうまくケアができるわけではないのです」
そしてケアをしないということは、できることをしていないという責任感の欠如であるという意識を持つことが大切だと説きます。やろうと思えばやれることをやっていない、というのは恥ずかしいことであるという意識改革が必要です。

保護者会の参加や、子どもや高齢者を病院に連れていくのは男性でもできることです。
男性の参加が多くなればなるほど、仕事の調整もつきやすく、平日の保護者会自体もなくなっていくでしょう。地域のジェンダー問題も解消されていきます。
世の中が変わらないから自分も変わらないのではなく、まず男性は当事者意識を持ち、女性も思い込みをなくしていくことが重要であると語り講義は終わりました。

この後、ゲストも含めパネルディスカッションなども行われ、女性の立場や家族のなかのジェンダー平等をさらに深く考え、オンライン講義は終了しました。

2023年1月12日

JWP研究会が慶應義塾大学 前野隆司教授よりwellbeingの特別講義を受けました

10月22日(土)に「実践ウェルビーイングプロジェクト(JWP)研究会」の学生たちが、慶應義塾大学日吉キャンパスに訪問し、前野隆司教授の講演を伺いました。wellbeingの第一人者である前野氏の講演を聞き、学生たちは「幸せとはなにか」を改めて考える機会となりました。今回学んだことは今年2月に行われる「女子大生フォーラム」内の企画に活かされていきます。

幸せは科学できる!

「みなさんは幸せについて考えていますか」前野氏は学生たちに問いかけます。「幸せというと、スピリチュアルに結び付きやすく思われますが、科学的に解明されているんです」。1980年代から心理学の分野で研究が始まり、アンケートの結果を統計学で調査することで、幸せなひと・不幸せなひとには相関があることが分かってきました。

学生たちは事前に「wellbeing circle」という幸福度診断を行い、この日に臨みました。「ありがとう力」「やってみよう力」などそれぞれの指数が輪になって反映されます。前野氏は「円の大きさはあまり気にしないでください」と伝えます。指数に個人差があるのは当たり前のこと。他人と比べるものではありません。ただ、自分の指数はどこが高く何が低いのか、自分の特徴を知るための目安となります。自分の強みや弱みなど性格傾向を知り、コントロールすることで幸せに近づけます。また、個人差がある幸福度ですが、統計を取ると傾向が見えてくるのです。例えば飽きっぽい性格のひとは幸福度が低い傾向がある、など大勢の結果を集めることで分かってきます。

幸せってどんな状態?

「Wellbeing」とは、日本では「幸せな状態」という意味で広まっていますが、元々は「健康・精神・福祉が充実し良好な状態」を指す言葉です。「皆さんは、人類史上一番幸せに生きられる時代を生きています」と前野氏。医療は発展し寿命も伸び、福祉も広まっている現代社会は、古代や中世のひとたちからは考えられないくらい「幸福」な時代です。実際、幸福度は身体にも影響を与えます。ポジティブな感情は免疫、自律神経に影響するため、幸福度の高いひとたちは長寿という傾向も確認されています。幸福度とパフォーマンスの関係も研究されており、幸福度が高いひとはそうでないひとに比べ創造性が3倍、生産性も31%アップします。年収も高い傾向が確認されており「幸せで悪いことはない」と前野氏は言います。

幸せになるために必要な力は?

ではどうすれば幸せになれるのでしょうか。日本ではお金があれば幸せだと思う傾向が高いですが、「年収と幸福度は、最初は比例するが一定の年収を越えると幸福度は変わらない研究結果がある」と、地位や財産による幸せは長続きしないと話します。

指針となるのが「幸せの4つの因子」と呼ばれる4つの心的要因を伸ばすこと。

自己実現と成長「やってみよう力」、
他者とのつながりや感謝の気持ち「ありがとう力」、
前向きと楽観性「なんとかなる力」、
独立と自分らしさ「ありのままに力」です。

前野氏は、これらを伸ばすには「自分とは違う価値観を経験すると、寛容になり自分の枠が大きくなる」と話します。前野氏が留学して現地のひとたちの時間感覚に戸惑った話を交えつつ、新たな価値観が身についたという留学の良さを伝えました。

自分の行動で幸せは決まる

前野氏は学生たちに向け、「学外でこういった活動をすることは素晴らしいことです」と、JWP研究会に参加すること自体「学ぶ意識の高い」チャレンジ精神ある幸福度の高い行為だと伝えました。そして、主体性を持ち、諦めずに経験しつづけることが幸せになる一歩であると話します。「やるかやめようか迷ったら、やってください」と、行動するうちに苦手なことや弱みがなくなっていくと自身の体験を交えて語りました。
「皆さんが幸せに気を付けてどう行動したかで、幸福度は決まります。どんどん行動して自分の人生を幸せにしてください」とエールを送りました。

幸せについて考えるきっかけとなる講演

講義を受け、自分たちが今考えられるwellbeingについてディスカッションを行い、前野氏に質問する機会をいただきました。

ずっとひとと一緒にいると疲れてしまい一人行動するのが好きな学生から「ひととの繋がりが幸福度に関わると仰っていましたが、社交的になるべきでしょうか」と質問が。
前野氏は「自分の特徴を認識できているので無理する必要はありません。一人でいる時間になにか熱中できることを探してみましょう」とアドバイス。

「日本の幸福度ランキングはなぜ低いのでしょう」という質問には
「日本人は謙虚で集団主義なので、低めに答えてしまう傾向もあります。ただ、自己肯定感が低く心配症の面もある。自己肯定感を高めるには、喜びを誰かと分かち合うことも大切」と語りました。

また、「先生が幸せそうだなと思うひとはどんなひとですか」という質問には
「自分でこれをやると決めたひとは格好良い」と言い、「皆さんがこれからこうしていこう、と決意して前に向かって歩んでいく姿をみると、格好いいなと思い僕は幸せな気持ちになります」と伝えました。

学生からは「幸せについてあまり考える機会がなかったので、とても良いきっかけになりました」と感想も聞かれ、講義は和やかな雰囲気で終了しました。

深澤先生の話

今回ご縁をいただき、日本のウェルビーイング研究の一人者である前野先生のお時間を頂戴し、JWP(実践ウェルビーイングプロジェクト)のためだけにワークショップを開いていただいたことに対して、改めて心から感謝申し上げます。

ウェルビーイング研究の深さを知り、なぜ、今ウェルビーイングなのかという社会背景を知り、将来世代の若者の生き方の大切を知り、とても濃密な2時間の学びの機会をいただきました。

本学のキャンパスを飛び出してのプログラムも、こうしたプロジェクトならではの貴重な機会に繋がったと思います。
前野先生ありがとうございました。
そして、参加された学生の皆さん、一人一人がウェルビーイングを深く研究するきっかけになればと思います。

参加学生の声

・幸せは、工夫すれば伸びることを学びました。ウェルビーイングサークルの凹んでいる部分を見て、特徴を知りコントロールしながら生きていきたいと思いました。
こうしたコントロールが幸福度を上げることになり、SDGsのように国際目標を提示しなくとも幸福は自分でつかむことができる事を改めて実感しました。幸福度を上げていく為にも、自分と向き合いたいと思います!
ウェルビーイングの学びの初回として、前野教授のお話を聞けたことはとても良いスタートになったと思います!

・自分自身のwell-beingについて数値化することで、「幸せ」というものについてより深く考えるようになりました。
また、今まで幸福について曖昧に捉えていましたが、科学的に示されているということをお聞きでき、定義を知ることができてよかったです。
well-beingとは、人それぞれであり様々な形であるからこそ今後より重要になってくるのだと改めて感じました。

2023年1月12日

「グローバルキャリアデザイン」の授業で指揮者の櫻井優徳氏がコミュニケーションスキルについて講演を行いました。

全学部対象科目「グローバルキャリアデザイン」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、11月18日(金)に指揮者の櫻井優徳氏による講演が行われました。櫻井氏は実体験に基づいたコミュニケーションスキルについての話を語られ、なかなか触れ合う機会のない職業のエピソードに、学生たちも興味津々で聞いていました。

指揮者に一番必要なことは「コミュニケーションスキル」?

まず櫻井氏は実際に使用された指揮棒と楽譜を班ごとに回し、学生たちは直接触らせていただきました。櫻井氏は「指揮棒はそんなに高くないんですよ、でもスコア(楽譜)は高い」と話します。「でも一番お金がかかるのは燕尾服」。指揮者はコンサートの際、燕尾服かタキシードを着用しますが、3、4回も使うと汗でダメになってしまうと言います。服は一着25万円ほどするためなかなか大変だと、学生たちにも親しみの持てるところから講義は始まりました。

「指揮者というイメージは高圧的に思われているかもしれません」と櫻井氏は話し始めました。しかし櫻井氏が40年以上指揮の仕事をする上で大切にしていることは、なにがなんでも「コミュニケーションスキル」だと言います。コミュニケーションスキルを活かすためには、マインドセットがされないといけません。
そのために櫻井氏が心掛けていることが紹介されました。

プロの指揮者として心掛けている3つのこと

一番心掛けていることは「リスペクト」。
リスペクトは日本語では「尊敬」と訳されますが、元々の語源としては「他者のあらゆる言動を認識して受容する」ことで、上下関係はないと言います。「特にリーダーは、立場に関わらず相手を尊重することがとても大切」と櫻井氏。リーダーがリスペクトを持って仕事をすれば、より一層物事がスムーズに進むと言います。

櫻井氏は指揮者としてオーケストラに何か注文をするとき、怒ったり叱ったりはしないと言います。怒るや叱るというのは私的感情の入ったリスペクトに欠けた行為。ただ音程が違うなどの理由を「指摘する」のだと話しました。

2つ目は「メンタルモデルのフィルターを外す」こと。
メンタルモデルとは、価値観やこだわりなどからくる独自の固定観念のこと。先入観や思い込み、決めつけというものは無意識に発生してしまいます。第一印象でいやだなと思うひとでも実際には良いひとであることはたくさんあります。櫻井氏は、学生たちに「メンタルモデルを意識的に外し、自分をフラットな状態に戻すくせをつけてほしいと思います」と語りました。

3つ目は「丁寧に伝える力、丁寧に聞く力」です。
コミュニケーションは、発信者だけが満足するだけでは成立したとは言えません。情報だけを伝えてもきちんと伝わったとは限らず、自分の伝え方に不備があることもあります。しかし、ひとは発信するだけで満足してしまいがち。相手に伝わったか確認するところまでが大切だと話します。

さらに櫻井氏は「丁寧に聞く力」のほうが難しいと言います。
「僕も経験がありますが、ひとの話を聞くというのはとても難しい。ものすごくエネルギーを使うし気が抜けない」。櫻井氏が話を聞くときに気を付けていることは、人の話を遮らないこと、途中で意見をしないことだと言います。ひとは自分の意見を言いたくなるし自分の話をしたくなりますが、相手に全部言いたいことを吐き出させることが大切と話します。

グループワークでコミュニケーションスキルを高めよう

ここで櫻井氏は、学生たちに「自己紹介」のグループワークをさせました。まず一人が班のメンバーに自分の思う自分のチャームポイントを話します。聞いていたメンバーは、そのひとの言ったチャームポイントとは全く違う、そのひとの魅力を見つけそのひとに伝える、というものです。

自分の思う強みと、外からみたそのひとの魅力を伝え合うこのワークは、櫻井氏が心掛けている3つのことを網羅しています。特に初対面では相手の欠点が目に付くもの。長く付き合っていけばいい人だと知っても、その魅力にすぐに気付くことはなかなか難しいことです。「初対面の最初の1分で相手のいいところを2つ探すくせをつけると、コミュニケーションが取りやすくなりますよ」と櫻井氏は秘訣を語りました。

また、「自分の感じている強みと、違った角度からみた魅力は当然どちらも自分の武器になります」と櫻井氏は言います。自分の強みをしっかり認識していくことが大事ということも伝えました。

実体験に基づいた学び

最後は学生からの質疑応答がありました。
「どうして指揮者に?」の質問には、
17歳のとききっかけになった演奏会のいきさつを語ってくださいました。

「櫻井さんのお考えにやさしさを感じましたが、そういった考えになった原体験は?」という質問には
「20代、30代のときは独りよがりで他人とぶつかりました。多くの衝突を経て気付き、組織マネジメントを学びなおしました」と回答。
「立派な人生ではなく、しくじってばかりです。でも失敗はしていない。しくじっても、すぐ反省をして次に生かそうとしています」と語りました。

「モチベーションの維持の仕方は?」という質問には、
「モチベーションは一日のなかでも波があります。落ち込んだ時には無理して上げなくてもいい。無理して上げると麻痺してしまいます。セルフコントロールをして平常値を維持できるようにし、本番前など、上げなくてはいけないときには上げられるように心掛けています」と答えました。

授業の終わりには、櫻井氏が指揮をしたエルガーの「威風堂々」を流しながら学生たちをお見送りしてくださいました。学生一人ひとりとグータッチをして、就活へのエールを送られました。
実体験に基づいた考えに、学生たちも多くの気付きを得た講演でした。

深澤先生の話

マエストロによるコミュニケーション論の授業は恒例となりました。
櫻井先生が伝えられる「指揮者として心掛けている3つの考え」は、とても分かりやすく、毎年、学生の心に深く刻まれています。
「指揮者の姿を大学の教室で」という、ほとんど見かけることのない極めて価値ある時間を過ごさせていただいていることに改めて感謝申し上げたいと思います。

2022年11月15日

「グローバルキャリアデザイン」の授業で連合の前事務局長の相原康伸氏が「公益」についての講演を行いました。

全学部を対象としたキャリア教育科目である「グローバルキャリアデザイン」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)で、10月21日(金)に現ILEC(公益社団法人教育文化協会)理事長の相原康伸氏が講演を行いました。労働組合連合の役割や雇用の問題、国際社会での日本の在り方、多様性など幅広く「働くこと」を捉えなおす内容を伺い「公益のためにどう行動変容するか」を考えました。学生たちは、いま起こっていることを違う視点から見る大切さを学びました。

「公益」について考える

相原氏の話は「公益とはなにか」というところから始まりました。
あまり馴染みのない言葉のようですが、実は「皆さん、今日も実践しているんです」。それは、マスク。自分だけでなく他者の健康を守るために着けているマスクは公益にあたります。公益とは自分のみならず、他者や公の利益を考え、行動することです。
「今日一番のメッセージは、公益に対してどう行動を変容していくか」。
私たちが置かれている様々な社会の課題に対し、公益のために日々の行動をわずかにでも変えること。今回の講演のテーマが最初に語られました。

連合の役割とは

相原氏は日本労働組合総連合会(連合)の前事務局長でした。連合とは日本の労働組合の中央組織です。加盟組合員は約700万人。連合および労働組合の役割は、職場の声をまとめて企業に伝えること。企業は、労働組合が話し合いたいときは受けなければならないという法律があります。真正面から向き合って話す。労働者のことを考えた経営を行うように提言していく大事な役割です。

また「働くということは、いつもピカピカな状態じゃないんです」と相原氏。メンタルが弱ったり、人間関係に悩んだり労働条件に困ったり。これらを受け止めるのも連合の大切な役割です。連合には年間1万5千件から2万件の相談が寄せられます。コロナ禍になってから特に増えたのは、女性・フリーランス・非正規雇用の人々からの声。相原氏は「弱い立場の人たちにさらにしわが寄っている」と伝えました。

憲法第28条には労働三権があり、
働く上で尊重されてしかるべきことが定められています。
団結すること、
交渉すること、
行動すること。
これらは労働者がより良い仕事をする上での権利であり労働組合の根拠となる法律です。ただ、労働組合は企業との関係だけでなく「雇用されていない人、例えばフリーランスや未就業者も含めすべての人に利益があるように努めることが大事」と語ります。当事者だけでなく全員が利益につながるかを考える「ソーシャルダイアログ(社会対話)」を覚えていてほしいと相原氏はエピソードを交え、力を込めて語りました。

国際社会の問題に対しどう変容させるか

今の学生が社会に出るとき求められることは、創造性、今までとは違う視点を持つこと、他者とのコラボレーション能力などが挙げられます。さらに大事なことは「異文化の人たちに対する普遍的な敬愛が持てるかどうか」。グローバルな視点を持つことが求められています。現在、国際社会では貧困と分断が深刻で、日本は世界の中でもいち早く労働力人口が減少しています。多様性やジェンダーの問題も立ちはだかります。それらをどのように変容させるべきか、相原氏は課題を改めて確認していきました。

貧困の課題は、日本のひとり親世帯の問題も。ひとり親の子どもの大学進学率は59%。日本は大学卒業後、新卒一括採用のため初職決定率は9割と世界でも極めて高いですが、新卒で正社員になれないとあとで挽回が利かないとも取れる側面を相原氏は話します。
また、ジェンダーギャップについても問題提起。「特に政治・経済の分野で女性の進出が圧倒的に少ない」と言います。その例として「中学生の女子生徒会長は2割」という話が。「組織の上に立つのは男性という思い込みが社会変容を妨げているのではないか」と、この問題が根深いことを話されました。

行動変容するために

相原氏は、主要国のなかでも日本は若者世代の投票率が低いことにも触れました。日本は「シルバー民主主義」と呼ばれ、ボリュームが大きく投票率の高い高齢者に目掛けて政治をします。「皆さんが政治に参加する姿勢を期待したいと思います」と語りました。
そして、「未来を予測することはできないけれど、未来を予測するのに最も効果的なのは自ら行動すること」と言います。
「私たちがどのように行動するかによって、公益を資することができるかを考えてみてください」とメッセージを送りました。

授業の最後には学生たちからの感想も聞かれました。
「初職決定率の高さをいいものと考えていましたが、お話を伺って失敗すると挽回しにくいというリスクの面もあることにも気付きました」
と言った声や、
「ジェンダーギャップや選挙の話などいままで重要視していなかったけれど、将来や公益を考えることの大切さを知りました」
という感想が。
いままで当然だったものを、改めて見つめなおし問い直す姿勢を学びました。

深澤教授の話

相原様には、毎年この授業にお越しいただき、労働組合の役割のみならず、高い視座広い視点から世の中を見つめることの大切さを教えていただいています。刻々と変わる世の中で、時代を敏感に読み、その変化にどう対応していくかが、大学生の今後のキャリア形成に重要になると考えます。今年も、大変に貴重なお話しをいただきありがとうございました。心から感謝申し上げます。

2022年11月7日

「実践キャリアプランニング」の授業で実践女子大学OGの千葉美那弓氏が人生とお金の関わりを考える講演を行いました。

「実践キャリアプランニング」の授業で、10月14日(金)に実践女子大学OGの千葉美那弓氏が人生とお金の関わりや、ライフプランについての講演を行いました。専攻とはまったく異なる職種についた千葉氏は、人生を逆算して考える「ライフプラン」の大切さを伝えてくれました。

別ジャンルに飛び込み勉強の日々

今回の講師の千葉氏は実践女子OG。今年3月卒業したばかりの、学生たちに身近な先輩です。学部は日野キャンパスにある生活科学部食生活科学科。健康栄養を専攻していました。在学中に栄養士の資格が取得できる学科です。しかし、千葉氏が選んだ会社は証券会社。その理由は「栄養士の仕事は年を取ってからでもできるかなと思った」からだと言います。そのまま栄養士になることに疑問を持ち「お金の勉強をした方が、これからの人生に対して良いのではと思ったんです」と言います。インターンシップに積極的に参加し「様々な業界・企業の話をきいて、栄養士にならなきゃという固定観念を捨てられた」と話しました。

専攻と全く違う職種にあえて飛び込んだ千葉氏は、毎日勉強の日々。6時に起床し、経済ニュース番組を見ながら朝ご飯を食べたら出社。始業までの1時間でまた新聞やニュースを読み、その日の経済動向をチェックします。今の仕事は営業。研修を終え、7月にデビューしたばかりです。新しく資産運用をしたい方や、運用がしばらくない方にテレアポを取り訪問しています。

お金を考えるにはライフプランを考えよう

アイザワ証券は創業104年の老舗証券会社。17都府県48店舗展開しており、千葉氏は静岡県の三島支店に配属されています。証券会社とは株や証券などの金融商品を取り扱う会社です。お金は人生においてかかせないものです。お金と人生の関わりを考えるには、どんな人生を送りたいか考える「ライフデザイン」と人生の具体的な計画「ライフプラン」を決めることが大事だと言います。特に、人生の三大費用と呼ばれる「教育資金」「住宅購入費」「老後の費用」にどれくらいかかるのか考えるのに、ライフプランは大切です。三大費用は、合わせてなんと1億ほどかかると言われています。

今回の講義を聞く学生たちは2年生で、まだ人生に関わるお金をきちんと考えたことはないかもしれません。そこで、まず考えてほしいのが「家計管理」だと言います。自分の今の生活を営むための収入と支出を管理することで、きちんとお金の動きを把握することができます。また、お金の動きは収入と支出の他に、「貯蓄」が大事。お金が入ったら使う前に貯蓄に回す、先取貯蓄をしておくことが大事だと千葉氏は言います。

人生100年時代!お金に働いてもらう考え方

これからの日本は人生100年時代が到来し、2007年生まれの2人に1人は100歳になると言われています。そこで大切になってくるのは、お金を貯めるだけではなく「資産運用」です。超低金利時代の今、銀行の利子は0.001%。「この金利で、預けたお金を倍にするには何年かかると思いますか?」千葉氏の問いかけに、1,000年くらいという選択肢で手を挙げる学生が多い中、答えはなんと72,000年。気が遠くなる時間が必要なのです。預けているだけではお金は増えません。そこで資産を運用し、自分でお金を増やすことが求められています。

資産を使って株や債券を買うことを投資と言います。投資をすることはその企業の株を買うことで、自分のお金が直接企業のために使われるということになります。国の国債を買えばそのお金は公共サービスについて利用され、自分のお金が直接社会貢献に使われることが説明されました。

また、今注目されているのが「つみたてNISA」です。長期積み立て、分散投資が可能で20年間非課税のため資産運用の方法として国も推進しています。18歳以上が対象のため、学生たちも口座を作ることができます。「つみたてNISAをやっている人いますか?」と聞かれると、2、3名の学生が手を挙げました。学生たちがしっかり資産形成を考えていることに千葉氏も感心していました。

投資に「絶対」はない!

良いことに思われる投資ですが、リスクもあります。お金を運用することは必ず利益が得られるわけではありません。世界情勢や景気などにより損失が出ることも。金融商品は自分の意思で選ぶので、利益・損失は自己責任ということを覚えておかなければいけません。

投資は怖いイメージがあるのも確かです。投資詐欺が増えており、被害者の多くが20代30代の若い世代です。「「必ず」「絶対」という言葉に騙されず、自分でしっかりお金の流れを確認することが大事です」と千葉氏からの言葉がありました。

いろいろな企業の話を聞いて柔軟な考えを持とう

早めに就職先を決めて、4年生の間自由に過ごしたかったという千葉氏は、2年生の終わりからインターンシップの参加を申し込むなど積極的に就職活動を行いました。いつまでに何をしたいか逆算して考えることはライフプランと同じです。

また、就職した今だから思うこととして、「就職先は意外と決まります」と言います。「不安や焦りはあると思うけど、妥協せずあきらめずに就活に取り組んでほしいです」と、これから就活を迎える学生たちにエールを送りました。

2022年11月7日

「グローバルキャリアデザイン」の授業で元マイナビ専務・浜田憲尚氏が就職活動の本質に迫る講演を行いました。

現代生活学科の授業「グローバルキャリアデザイン」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)で、10月14日(金)に元マイナビ専務の浜田憲尚氏による講演が行われました。これからまさに就職活動が控えている学生たちに、就職活動の本質やなぜ働くのかなど、全体を俯瞰する視点の大切さを語って下さいました。

偶然出会った自分が打ち込める仕事

マイナビのロゴは、「M」の字をウェーブに見立てた一人の人生を描いているといいます。一人ひとりの可能性と向き合い、成長させる「きっかけ」でありたいというのが企業理念です。マイナビは1973年設立。現在全国70か所、海外8拠点を持つ大きな企業です。「マイナビという会社は、一言でいえば皆さんと企業をつなげる仕事をしています」と浜田氏。アルバイトからフリーランス、アスリートたちの支援やウェディング事業まで幅広く扱っています。新卒生が企業に就職することももちろんそのひとつ。「日本は新卒一括採用のため、たくさんの企業が待ち構えています。活かさない手はない」と力強く仰いました。

それから浜田氏の異例の入社の経緯を教えてくれました。大学で哲学を専攻していた浜田氏は院へ進みたかったのですが、親に説得され就職することに。就職活動に乗り気でなかったため、偶然DMを見たマイナビの面接に応募。当日向かってみると誰もいません。開始時間と終了時間を間違えていたのです。そこにいたある社員の方が気にかけてくれ、少し話すと「今度会おう」と時間と場所を指定されました。後日行ってみると、なんとそれは最終面接。話した社員の方は当時の人事部長だったというのです。

そのままマイナビに入社し、営業を経て、京都拠点の立ち上げや新卒向けの就職情報サービス開発に携わり、常任理事顧問に。まさにマイナビをNo.1就職情報サービス会社に育てた第一人者です。昨年退社し、現在はマイナビの海外展開の事業サポートをなさっています。「就職活動せずに入社した僕が就職を語るのも変な話なのですが」と前置きしつつ、長く勤めた理由を「打ち込める仕事に出会ったから」だと話します。会社が大切に育ててくれ、若くても仕事を任せてもらえたことや、自分たちでサービスを作り利益を得る楽しみ、クライアントの期待。そして人や企業の運命を左右する仕事であるという責任感があったからだと言います。

就職活動の前に考えてほしいこと

今回の講義を聞くのは就職活動前の3年生。今の心境は?と浜田氏に問われ、不安な心境を打ち明けました。「採用してくれる企業があるだろうか」「今の段階であまり動けていない」「行きたい会社が見つかるか…」わくわくしている学生たちは少ないようです。そこで浜田氏は「なぜ働くのか」ともう一つの問いかけをしました。「まずはお金を稼ぎたいから」「働いていない自分は想像つかないから」と、学生たちから回答が。では、自分にとってベストな就職には何が重要か、再度浜田氏は問いかけます。学生からは「自分の希望する職につくこと」「自分が大切にしていることを大事にしてくれる環境」などの回答が出ました。

浜田氏は「働くことは糧(かて)を得ること」と言います。そして「どんな職につき、糧を得るかは方法論です」と続けました。また人生で最も悲しいことは、何のために生きているのか分からないことだと言い、反対に存在価値が認められると自分に意味があると思えると話します。これらは生きがいや仕事のやりがいにつながることです。人は必要とされている、自分が活かされていると感じるとそこで働く意味があると思います。「人は誰しもいきいきと働くべき」と浜田氏は続けます。そのためにはそもそもどう生きたいか、自分を見つめることが大事です。就職すること自体を目的にせず、「なぜ働くのか」を考えることが大切だと語りました。

企業と学生、お互いがベストな就職を目指して

そして「皆さんがいきいきと働くことは企業にとっても良いこと」と浜田氏。企業とは、物やサービスなど「価値」を提供して対価をもらいます。その企業の価値を最大化するものが「人材」です。自分の力を活かして活躍すれば、企業の価値も上がっていくということ。そのため、企業側も「ベストな就職」を求めています。マイナビは企業と学生両者にとってベストな就職をする手助けをしています。質の高い情報や、たくさんの選択肢を提供し、精度の高いマッチングを目指しています。

最後に、学生たちに向けこれからの就職活動についてアドバイス。現在の採用基準は「量より質」。人数を採りたい時でも、基準を下げてまで採用する企業は少ないと言います。そのためインターンシップなど、早めの企業研究をしてほしいと助言しました。また「これまで、学生さんたちのたくさんの意見や期待をもらってマイナビも成長しました。もっといいサービスにしていきたいので、積極的に利用して頑張ってください」と応援しました。

縁がつながり就職先に!OGも応援

「深澤教授が資生堂在籍時に人事で関わったときのご縁で、年に1回学生たちの前で話す機会をいただきました」と浜田さん。
縁はさらに続き、なんとこの授業がきっかけで、2名の学生がマイナビに入社しています。
OGである中島さんと渡辺さんも最後に挨拶されました。
「この授業でマイナビに興味を持ち入社しました」
「自分たちも就活のとき先輩にいろいろ話を聞いてもらいました。良かったら相談してください」
と先輩らしい優しい言葉も。
就活に対し不安もある学生たちですが、将来のことを考える良い機会となりました。

深澤教授の話

マイナビの浜田様とは、もう15年来、私の企業人事時代から大変にお世話になっています。
そして毎年この授業にお越しいただいていますが、ご自身の就職活動を含めたキャリアの興味深いエピソードや、マイナビという会社の社会的意義など、学生にとっては、毎年、本当に多くの学びの機会をいただいています。
“就活の本質”という、浜田様でしかお聞き出来ない内容であり、これから就職活動に臨む学生にとって、貴重な時間となりました。
浜田様にはこの場を借りて、厚く御礼申し上げます。

2022年9月28日

スポーツニッポン新聞社との社会連携でこれからのオリンピック・パラリンピックの在り方を学生たちがプレゼンする授業が行われました。

2021年に行われた東京オリンピック・パラリンピック2020大会から一年。これからのオリンピックはどうなるかを考える授業が7月19日(火)に渋谷キャンパスにて行われました。ひと月前には有森裕子氏の講演を聞き、改めてオリンピックのレガシーについて考えました。この日は全6班が「オリンピックの明日」についてプレゼンします。開催規模や時期、参加国やジェンダー問題など、これからのオリンピックはどうあるべきかを発表しました。こちらは共通科目「国際理解とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の、スポーツニッポン新聞社との社会連携授業です。この授業の様子は7月27日付のスポーツニッポン本紙にも掲載されました。

ジェンダー平等を実現するには?

1班目のテーマは「スポーツにおける男女平等」です。現在のオリンピックは男女にこだわりすぎているのではないかと指摘。東京大会では競泳や卓球など男女混合種目が増えました。ただ、サッカーなど混合が難しい競技もあることを問題点として挙げました。また女性のスポーツは先進国しか進んでいないことも懸念点として着目。宗教や国の経済事情など女性選手がうまれにくい環境も多くあります。そこで、 IOCが各国を指導することを提案。政治的な思惑とは外れたIOCであれば、男女平等の理念を広められるのではと期待をかけました。

発表の終わりにはスポーツニッポン新聞社の藤山健二編集委員からの講評がありました。藤山氏は、東京大会で混合種目が増えた点に着目したことに感心されていました。唯一男女の区別がない競技として馬術を紹介し、「これから混合種目はさらに増えるだろう」と述べました。IOCが今後様々な種目にプッシュしていくべきだという考えにも賛成していました。

開催時期はスポーツの秋に!

次の班は開催時期や規模、開催地の決定の仕方について提案。時期は気候が良くスポーツがしやすい秋に据えます。開催地は、一般投票をするシステムをプラスすることを提案しました。各国のプレゼンのあとに、全世界の人がネット投票できる仕組みです。決定から参加することでさらに興味を持ってもらえる効果を狙います。参加国は、貧困地域も含めすべての国から参加できるように働きかけます。2016年から導入された難民選手団の人数や出場種目を拡大するなどを提案しました。

藤山氏は「具体的な例が出てきて面白かった」と感想を伝えました。その上で、秋開催の難しさには現在のオリンピックの問題があることを教えてくれました。現在のオリンピックの最大のスポンサーはアメリカのメディアです。視聴率を取るために、他にスポーツの大会のない夏に行うことが、オリンピック憲章にも記載されているのです。スポーツそのものより利権が重視されている大きな問題です。ただ、全世界的に気温が高くなっている昨今「改善していかなくてはいけない」と藤山氏は語りました。

国対抗の意識を減らしてより自由なオリンピックに

3班目は、有森裕子氏の講演を聞き学んだ「オリンピックは国対抗ではなく個人戦である」という点にフォーカスしました。入場を国ごとではなく競技ごとにしたり、国旗や国歌の使い方を改めたりするなどの案が出ました。また、現在の報道は自国選手のメダルの数や国旗を背負った写真など、観客が国対抗だと思ってしまう在り方であるという点を指摘。「ガンバレニッポン」など国を背負わせるメディアの伝え方を改め、選手個人の戦いにフォーカスしたものにすることを提案しました。そうすることで選手のプレッシャーを減らし、LGBTQなども公表しやすくなる効果があると繋げました。

藤山氏も「おっしゃる通り変えていかないといけない」と大きく頷きました。IOCはむしろ国ごとで競わせようとする風潮があるため、それに流されないよう「メディアに携わるものとして、叱られた気分です」と笑いを交えながら述べました。

SNSで選手もみんなも発信しよう!

4班目は、大会が終わった後の振り返りが少ないのではないかという問題点に着目。解決方法として、大会後もSNSを利用し選手や著名人などに積極的に投稿してもらうことを提案しました。2つ目の問題として、特に日本人選手の自己肯定感が低いことを挙げました。選手に国を背負わせるような報道を改め、選手自身も楽しみ良心を感じてもらえる発信をすることが大事だと述べました。さらに、オリンピックの初心である「五輪休戦決議」を思い出し、競技以外のところでも国や選手同士が交流を深めることを提案。争いの多い現代だからこそ、異文化理解やジェンダーなど多様性を受け入れるきっかけになる大会にすることを目指すことを提案しました。

藤山氏からは「SNSでの発信は今後盛り上がっていくと思います」との同意の意見が。これまで選手個人の発信はあまり望ましく思われていませんでしたが、これからはどんどん選手も発信していくべきだと語りました。「そのためには、選手の意識を変えなくてはいけない、オリンピックは個人の戦いなのだということを選手にも共有していく必要がある」と述べました。

もっと多くの人が参加できるオリンピックへ

5班は、オリンピックのモットーに注目。「より速く、より高く、より強く」は男性寄りの考えではないか?と問題提起しました。現代に合わせて「より美しく、共に感動を」と加えることで、女性や後進国も参加することの意味を与えると提案。一人ひとりが目に見えない壁をなくす意識付けが大事であると述べました。性別で試技の場を分けることを廃止し、ホルモン測定値で出場可能とすることで、トランスジェンダーの選手も葛藤なく参加できるようにします。また、オリンピックとパラリンピックは同時開催を提案。別々だとパラリンピックの時期に薄れてしまう関心を集めたままにします。さらに開催地の負担を減らすため、複数国で同時開催という案も出しました。競技ごとに適した場所で行えるため、選手の負担も減るとプレゼンしました。

藤山氏も「男性中心の時代のモットーだったので、変更は良い案ですね」と感想を述べました。オリパラの同時開催や、開催国を分けることもとても具体的で面白かったと語りました。また、経済的にも環境的にも、近い将来複数国での開催は実現するのではないかとも述べました。

一点集中をやめて地方も活性化

6班目は開催地の問題に注目し、一都市で開催することの問題点を取り上げました。全世界から人が集まることで街は混雑し交通は混乱します。そこで開催を国全体で行うことを提案。競技ごとに分散することで、人の集中を防ぎ混乱を防ぎます。また、地方でも競技を行うことで、地方住民も親近感を持って楽しむことができ、観光客も増えるため地域活性化につなげることができます。会場は新設せず、すでにある施設をオリンピック用に改修し利用。費用を抑えられるだけでなく、地方の会場のバリアフリー化を進め、老朽化の防止にもなると提案しました。

藤山氏からは「中身があってとても良い案」と感心の言葉が。東京大会で利用された国立競技場は、1600億円かけ新設され、維持費に年間24億円かかると言われています。現状は大きな赤字であるためどう運営していくかが注目されています。このような事態を避けるため、2030年に誘致中の冬季オリンピック札幌大会は、札幌だけでなく北海道全域で行われる予定であることを教えてくれました。

今回をきっかけにもっとオリンピックについて知ってほしい

6組の班のプレゼンを終えて、藤山氏からの総評をいただきました。「すべての班を聞いて、皆さんの関心はジェンダーの公平性のことなのだなと感じました」と感想を述べました。そして、オリンピック憲章に個人の戦いであると記載されていることが学生たちにとって衝撃であったように、この事実をもっと広めるべきだと語りました。「そのためには、まず選手の意識改革も大事。選手がまだオリンピックを国対抗と思っている」と問題点も述べました。こういった考えを広めるためにも「みなさんがSNSで発信してもらえればいいと思います」と伝えました。そして「せっかくオリンピックについてここまで考えたのだから、より深く知るきっかけにしてください」と語りました。

また、プレゼンの様子を撮影してくれていた亀山氏にもコメントをいただきました。亀山氏はスポーツが大好きで、スポーツニッポン新聞社へ入社。しかし大学卒業からコロナ禍が始まり、コロナ禍ではスポーツは不要不急と言われ苦しい思いをしたと言います。「皆が好きな娯楽についても、今後どういった付き合い方をしていくかという観点を持つのも面白いと思います」とメッセージを伝えました。また、就活にあたり自分の意見を持ち、周りの人たちの意見を取り入れる柔軟性を持つようエールを送りました。

東京大会の残した<レガシー>とは

最後に深澤教授の総括がありました。深澤教授は東京大会の準備・運営を行う組織委員会の「文化・教育委員」の一員でした。前回の東京大会は、戦後の復興の象徴として、建物などハード面を強化した大会でした。今回の東京2020大会は、未来を担う若者たちの心に残るソフト面を重視した大会を目指していました。そのため全国810の大学・短大と連携協定を締結し、オリンピック・パラリンピック教育の推進や醸成に取り組みました。しかし、大会後に組織委員会に報告書を提出したのは実践女子大学を入れてわずか数校。「開催の延期や無観客開催など、各大学で盛り上げることが難しかったことが窺われます。」と深澤教授は語ります。東京2020大会が終わってから1年。新型コロナウイルスという思いもよらない感染症の影響を受けた異例の大会でしたが、次の世代に何をつなぐか、何が残ったのか考えることが大事だと述べました。なぜなら、「きっとまた東京でオリンピックは行われます」。今回の大会について授業を行ったことや、大学で取り組んだことをレガシーとして受け継ぎ、その時に改めて考えるきっかけにしてほしいと語り授業は終了しました。

2022年7月4日

映像制作のテクニックを身に付け、自己表現をバージョンアップ!「プロに学ぶ動画作りと学生間交流」がスタートしました

YouTubeやTikTokなど、誰でも気軽に思い思いの動画を世界に発信できる時代になりました。動画コンテンツが氾濫する中で、印象に残る動画づくりのテクニックをプロに学ぶ、実践女子大初のプロジェクトがスタートしました。教室には映画監督の山﨑達璽(やまざきたつじ)氏をお迎えし、人の心を動かす「映像」を生み出すプロの視点を学びます。実践女子大学、実践女子大学短期大学部、山野美容芸術短期大学の3つのキャンパスをzoomでつなぎ、学外の学生とも交流しながら実際に映像を制作する実践型の取り組みです。

地域の高齢者と学生の異世代交流の中から生まれた、今回のプロジェクト

プロジェクトを推進する三田先生 によれば、3年前に始めた地域支援活動の一環として始めた異世代交流が背景にあったといいます。そこでは地域の高齢者と学生達がzoomでつながり、交流を深めていました。
ネットに公開された動画は、話題になると一気に広まる大きな影響力を秘めています。この動画の持つ力を教育という観点で学び、自己表現に活かすのが今回のプロジェクトの目的です。

講師は映像教育を広げる活動を行っている、映画監督の山﨑達璽(やまざきたつじ)氏

今回講師としてお招きしたのは、様々な教育の場で映像教育を広げる活動を行っている映画監督の山﨑達璽(やまざきたつじ)氏です。山﨑氏は大学の卒業制作『夢二人形』がカンヌ映画祭にノミネートされ、1999年に映画監督デビュー。2008年、片岡愛之助らを主演に映画『宮城野』を発表しました。現在は企業PR映像やMVなどの幅広い映像を手掛けるほか、学校で映像教育を広げる活動も行っています。

山﨑氏が運営するFilm Education Labでは、下記を目指しています。
・映画をはじめとする映像表現物の鑑賞を通して、その内容・主題・本質を把握して味わいながら楽しむ方法を学ぶ
・動画を使った映像表現を自ら体験することを通して、未来を生き抜くための5つのチカラを身につける

「未来を生き抜くための5つのチカラ」とは、
① 協働作業ができる、
② 多様性を理解する、
③ 実社会とつながる、
④ メディアリテラシー、
⑤ 学び続けることから構成されています。

「映像表現は、文字や言葉を使った言語表現だけでなく、静止画や動画、効果音や音楽など非言語表現も活用する高度な表現方法です。映像制作を通して表現したいことを的確に伝えるためには、学ぶべきポイントがたくさんあるんです」と山﨑氏。プロの映像作家の視点から、楽しみながら動画づくりに取り組むワークショップを多くの学校に提供しています。

「動画ではなく、映像を」という言葉で始まった、第一回目

全5回のプロジェクトには、実践女子大学、実践女子大学短期大学部、山野美容芸術短期大学から22名の学生が集いました。山野美容芸術短期大学の学生は、その様子を撮影した動画を観て講座に参加します。

授業の冒頭で、山﨑氏は動画と映像の違いに触れました。(YouTubeなどのSNS)動画は目的語が自分で、私が「私」のことを伝えるものが多いです。一方、映像(作品)は目的語が「他者」で、私が他者(主人公や取材対象)を伝えるもの。ですから、自分以外の誰かに、大切な何かを伝えるものが映像といえます。映像には自分本位ではない、他者の視点が必要なんです。この講座では、動画に他者の視点(プロのテクニック)を取り入れることで、就活や会社のプレゼンで動画を活用する際に、役立つスキルを学びます」

ペアになって自己PR動画を撮影、編集してみよう

第一回目のテーマは、自己PR映像(1分)。学生が自身のスマホを使いながら、撮影と編集の基礎を学びました。生徒がペアになり、相手が話す自己PRを相手のスマホで撮影します。
撮影では「背景を考える」「順光で撮る」「画面を水平に」など、学生がすぐ参考にできるテクニックが紹介されました。山﨑氏によれば、スマホのカメラ機能はかなり進化していますが、こうしたちょっとしたことを意識することで、他者が観やすい動画になるそうです。
意外に盲点なのは、カメラの高さ。どの位置で撮影するかで、相手の印象が大きく変わります。下から撮ると被写体はカメラを見下ろすようになり、威圧感を与えてしまいます。逆に上から撮ると卑屈な印象を与えてしまうことがあるそうです。さらに撮影される側の一工夫として、レンズをじっと見つめると険しい表情になってしまうため、レンズのあたりを面で見ることがおすすめされました。

撮影した動画は、授業終了後、学生が編集ソフトを使って45秒にまとめます。動画制作に挑戦する学生達に、山﨑氏は「あまり無理しないで、できるところまでやってみてくださいね」と穏やかな言葉を掛けていました。
動画を使って何かを伝えることは、通信環境の進化に伴い、今後ますます一般化していきます。今回のプロジェクトで得た体験を通じて、社会に発信する力を身に付ける学生が増えていくことでしょう。

2022年6月15日

「キャリアデザイン」の授業で元スターバックスCEOの岩田松雄氏が「ミッション」についての講演を行いました。

2022年度の共通教育科目「キャリアデザイン」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)は「今、社会や企業が求める人材とは」をテーマに、キャリア形成を学ぶ授業です。企業のトップなどゲストも多数招かれ、4月19日に行われた授業では、元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄氏による講演が行われました。岩田氏はリーダー論のなかで「ミッション」を自覚することの大切さを学生たちに伝えました。

元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄氏

リーダーに必要なのは「ミッション」

岩田氏は「今回の話は企業の部長さんたちにも話す内容です」と前置きをされました。学生レベルに落とすことはせず、企業を経営するためのリーダー論を語ると宣言。そして「それは自分が生かされている理由である、ミッションについてです。これをこれから就職活動で企業を選ぶ際の基準にしてください」と講演が始まりました。

「ミッション」とは、存在理由のこと。自分のできることを多くの人のために、世の中のために使ってみることを意識することと言います。企業におけるミッションは経営理念にあたります。企業のミッションは利益を上げることだと思われていますが、それは間違い。利益を上げることはミッションを行うための手段であるだけだと熱く語りました。

リーダーにとって必要なことは「ミッション」「ビジョン」「パッション」の3つが必要だといいます。なかでも一番大事なのがミッション。なぜかと言えば組織の「共通のゴール」が分かるからです。組織にはいろんな価値観を持った人が集まります。企業のミッションがはっきりしていれば、全員同じ方向に向かって行動できるのです。また、ミッションに共鳴した人がさらに集まり、企業としてもできることが増えていきます。それはやがて利益向上にも繋がっていくのです。

仕事は「志事」!個人のミッションの見つけ方は?

では個人のミッションはどうやって見つければよいのでしょうか。岩田氏は自分にとって「好きなこと」と「得意なこと」と「誰かのためになること」の3つの輪の重なるものはなにか探すことを勧めました。情熱を持って、継続して取り組むことができ、対価がもらえること。まずはビジョン(目標)を持つことから始め、突き詰めていくと自分のミッションが分かってくるといいます。「好きなことや得意なことが分からない場合は、まず目の前のことを一所懸命やってください」と語りました。お茶汲みで賞をもらった方を例に挙げ、どんな小さいことでも真剣に向き合って一所懸命にやれば好きになると断言しました。

スターバックスのミッションの素晴らしさ

岩田氏は新卒で日産に入社しました。生産管理など現場の仕事を経験し、アメリカへ留学。経営学を学び、帰国後コカ・コーラで役員を経て、ゲーム会社アトラスの社長に就任。プリクラで一大ブームを巻き起こし売上をV字回復させました。その後化粧品ブランドボディーショップを運営するイオンフォレストの社長を歴任し、2009年にスターバックスコーヒージャパンのCEOに就任しました。

岩田氏はスターバックスの経営理念、つまりミッションに共鳴したと言います。スターバックスで大切にしていることは「Just Say YES!」。道徳や倫理などに反しない限りお客様が喜んでくれることは何でもする、という考えです。スターバックスにはコーヒーの入れ方などのオペレーションには細かいマニュアルがありますが、サービスについてのマニュアルはありません。店員一人ひとりが考えて自ら行動します。目の前のお客様へ最善を尽くすというミッションに基づいて、正社員やアルバイトなど役職に関係なくサービスの裁量があるのです。スターバックスは会社としても居心地がよく、バイトも長続きするといいます。経営理念が浸透したスタッフが長くいることで、バイトにもしっかりとした研修を行えます。そして若いスタッフにもミッションが共有されていきます。例えイレギュラーであることでも目の前のお客様を大事にすることで、お客様に感動を与え、売上にも繋がる良い循環が生まれているのです。

自分のミッションを考え人生戦略を考える

「今回の話は企業のリーダー論ですが、想像しにくかったら自分の人生戦略としてミッションを考えてみてください」と岩田氏。特に自分は何が得意で何をしたいのか考えることは、就職活動のときの指針になると言います。知名度や企業の規模などにとらわれず、自分のミッションと企業の経営理念が近いかどうかを考えて選んでほしいと語りました。

学生からは「ミッションを考えるときに、魅力的な選択肢に迷ってしまうのですが、どうすればぶれないでいられますか」という質問が投げ掛けられました。
例えば岩田氏のミッションは「リーダーを育てること」。しかしこのミッションにも最近気付いたといいます。「ミッションは進化させていいんです」。好きなことや得意なことは変わっていくことがあります。また自分の置かれた環境に合わせビジョンも変わります。まずは目の前のことを一所懸命に努力してください、と語りました。「努力して小さな成功体験を積み重ねることが大切です。努力しなければ夢は叶いません。過去の成功体験は、なにかを新しいことを行おうとするときに思い出して力になります。そのためには、学び続けてください」と、学生たちにエールを送りました。

深澤教授の話

夏季集中講座と後期のグローバルキャリアデザインの授業で毎年お世話になっている岩田松雄様のご講義は、今年から前期のキャリアデザインに舞台を移してご登壇いただきました。学生にとっても、とても身近なスターバックスコーヒーを舞台に、そのトップとしての思いや現場で起こった数々のエピソードの紹介もいただき、あっという間の100分でした。岩田様のお話しの中心は、リーダーシップとミッション、VUCAの時代に生きる学生たちにとっては、大変大きな勇気をいただくご高話でした。この場をお借りして心から感謝申し上げます。

2022年4月21日

2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第一回に、OGのアフラック生命保険株式会社取締役専務執行役員の木島さんをお迎えしました!

本学卒業生を含む企業トップをお招きし、ご自身のキャリアや仕事で人生を充実させるために必要なことを語っていただく全6回のリレー講座がスタートしました。記念すべき第一回は、アフラック生命保険株式会社取締役専務執行役員の木島葉子さんです。「まだ校舎が古かった」という1986年に本学を卒業した木島さんは、女性の社会進出が今ほど叫ばれていなかった時代にどうキャリアを形成していったのでしょうか。

参加者全員の集合写真

1986年に家政学部食物学科を卒業し、アフラックに入社

学生時代の話をする木島氏

本学の卒業生である木島さんは、学生時代は趣味のスキーに熱中し、お花屋さんでアルバイトに励む、アクティブな学生でした。卒業論文のテーマは「高血圧予防に関する主婦の意識と健康管理状況の調査」。この時代はまだパソコンやインターネットがなかったため、卒業論文はすべて手書きで清書が大変だったそうです。

新卒の木島さんがアフラックに入社した1986年は男女雇用機会均等法が施行され、企業が女性の採用に本腰を入れ始めた年でした。多様性や女性の活用がごく当たり前のこととなっている現代と異なり、「4年制の女子大卒が入れる会社は少なかった」と木島さんは当時を振り返ります。

仕事で初めてのことやわからないことに遭遇したとき、どう対処するか

「大学ではあまり勉強しませんでした(笑)」と謙遜する木島さんは、アフラックの新人時代はバイトの延長のような意識しかなく、目の前の書類を処理する日々でした。そんな木島さんに転機が訪れたのは入社3年目にメンバー10人を束ねるチームリーダーになったときでした。

「事務処理ではない新しい仕事を担当することになり、会社にはいろんな仕事があることを実感しました。営業出身の女性上司だったんですが、出張同行や代理店研修の講師など、多くのことにチャレンジする場を与えてもらいました。上司は厳しかったですが、幅広い仕事を経験できて、いまでも感謝しています」

入社13年目には、当時まだ企業では少なかったコールセンターの立ち上げを担当。お客様からの電話にマニュアル通りに応えるだけでなく、お客様の声をもとに自社のサービスを設計していく仕事だと気付き、大きな感動を覚えたそうです。そして入社15年目の2001年に課長に昇進。その翌年、課長として実務経験がない部署に異動しました。 「部下に相談にこられても、その部署の業務がわからないから答えられないんです。二か月間、悶々と過ごしました。でもある時、わからないなら聞こうと思ったんです。上司、部下、他部署など、上下横斜めあらゆる方向の社員に質問し、部署の業務を理解していったんです。この経験で初めての仕事も、恐くなくなりました」

目の前の危機に対応することが、自分を成長させキャリアを上げていく

アフラックでの仕事を振り返るとき、木島さんの印象に残っているのは危機への対応です。そのひとつは2011年に発生した東日本大震災です。このとき木島さんが在籍していた調布オフィスは、計画停電でコールセンターの電話やPCが使えず、業務ができない状態になっていました。そこで大阪オフィスと提携し、なんとか業務を復旧。保険契約者の安否確認とお見舞いという、それまで体験したことがないボリュームの仕事に直面することになりましたが、無事乗り越えることができました。

「危機に対応する火事場の馬鹿力って、それまでの自分の集大成だと思うんです。想定外の大変なことに直面すると不安ですが、以前危機を乗り越えた経験が少しでもあれば、たとえ前例がないことでも『今回も何とかなる』と思えるんです。アフラックで長年勤める中で、震災をはじめとしたいくつかの危機に対応することで、自分が変わり自信がつきました。困難に積極的に取り組むようになったと思います」

どんなにすごいキャリアでも、それは日々の積み重ねの先にある

入社以来、遭遇したハードルを1つひとつ乗り越えることで着実にキャリアを形成し、今では取締役と専務執行役員という重責を務めるようになった木島さん。次は社長を目指し、自分にプレッシャーをかけていると語ります。木島さんは、キャリアをこう考えています。

「キャリアを上げるということは、日々の積み重ねだと思います。組織において責任あるポジションは、一足飛びに得られるものではありません。いま自分がいる場所で、目の前にある課題に真摯に取り組むことが、キャリアになっていくと私はとらえています。

経験がない新しい仕事に直面すると、自信を喪失しがちですよね。でも必要な情報や能力は、集めればいいんです。自分が完璧を目指すのではなく、得意な人を集めてチームで取り組むという視点も組織では重要です。大きな仕事こそ、自分1人だけではできません。人をまとめて動かす、チームビルディングが必要なんです」

会社で誰かと衝突しても、コミュニケーションを諦めない「対話」の積み重ねが解決につながる

学生からの質問

木島さんの講演後は、5人のグループ(CUBE)から1つずつ質問が寄せられました。真剣に聞いていた学生ばかりだったこともあり、たくさんの学生が手を挙げ、それに木島さんが丁寧に、時にユーモアを交えて答えていました。

「チームで誰かとぶつかったときは、どうすればいいでしょうか?」という質問には、木島さんが過去に仕事仲間と衝突した体験がユーモアを交えて披露され、教室に笑いが巻き起こりました。「どんな組織にも、嫌な人はいる」「いくら嫌でも仕事は一緒にやらなければならない」「その人から逃げるのは時間の無駄」という木島さんによれば、相手の意見をしっかり聞き、その背景を理解する「対話」を重ねることで、対立を解決する答えが見えてくるといいます。

また「女性の社会進出のために、学生である私たちがいまやっておくべきことは?」という問いの答えは、意外にも「自然体であること」。社会でいろいろな人に会う中で、時には女性だからといって差別されることもありますが、そういう時こそ「自分はどうしたいか」を考え続けることが大切だと強調しました。

このほかにも「自信を失いそうになったときはどうすれば?」「社長の次は何を目指しますか?」など、学生から次々と手が挙がりました。OGという共通点を持つ木島さんの言葉は、これから社会で活躍する学生達の支えになっていくことでしょう。

深澤晶久教授の話

昨年度から始まった本授業も2年目に入りました。今年は62名の学生が履修、学部も学科も学年も異なるメンバーが集まり、まさにダイバーシティクラスの様相を呈しています。今年の最初のゲストが本学卒業生の木島様ということもあり、クラスの雰囲気も柔らかく、学生たちの真剣な表情も印象的でした。木島様が醸し出される温和の雰囲気と、一方常にアグレッシブに生きてこられたそのお姿から、学生たちは沢山のことを学ばせていただきました。そして驚いたのがご講演の後のインタラクティブセッションです。時間内に全ての質問にお答えいただけない数の手が挙がりました。初回の授業から主体性を大いに感じる学生たち、これからの授業が楽しみです。最後に、今年もご講演いただいたアフラック生命保険株式会社の木島専務に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。