社会連携プログラム
SOCIAL COOPERATION PROGRAM
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2023年6月1日

海外勤務とサンティアゴ巡礼の共通点は?「国際理解とキャリア形成」の授業で「一期一会」の授業が行われました。

5月2日に共通科目「国際理解とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、株式会社資生堂で長年、国際事業に関わる勤務をされていた片山琢美氏をお招きし、講演が行われました。「人々との出会い」をキーワードに、片山氏の海外キャリアとサンティアゴ巡礼の経験を通した、国際交流についてお話を伺いました。学生たちにとって「国際理解とはなにか」を考える貴重な機会となりました。

世界中を飛び回った資生堂勤務時代

最初に片山氏は学生たちに「海外を旅したことがある、行ってみたい人はどれくらいいますか」と問いかけました。8割ほどが手を挙げ、海外に関心がある学生が多いことが分かります。
片山氏の初の海外経験は新婚旅行でフランスに行った時だと言います。そのとき空港の清掃員の女性にチップを求められたことが「最初の異文化体験」だったと話しました。
片山氏は「私の話を通し、国際理解ということにさらに興味を持っていただければ嬉しいです」と語りました。

片山氏は1975年に資生堂に入社。
最初は物流システムの開発部署でシステムは苦手でしたが物流の現場に興味があり、退社するまで物流に関する仕事に携わりました。業務範囲は日本にとどまらず、欧米、中国に東南アジアと、まさに東奔西走されていました。

文化の違いは働き方にも出る

その豊富な海外キャリアのなかで印象に残っている出来事として、フランス駐在中の出来事を語ってくれました。
フランス語はカタコトで、英語でやりとりをしていた片山氏。通訳を介し現場とやりとりをしていましたが、ある日現場の課長から「あなたは私たちの仕事が遅いと言った」と抗議を受けました。データ入力の手順をしっかり守るように、ゆっくりやってほしいという意味で”slowly”という単語を使っていたのを勘違いされたのです。「このような言葉のすれ違いはよくある、と通訳の人は言ってくれたけれど、違う言葉を遣えばよかったと思いました」と異文化を痛感したエピソードとして話されました。

また、文化が違えば仕事の向き合い方も違います。
日本の工場では、ある人が手間取っている作業があれば他の人がサポートするのが当然ですが、フランスではその人の仕事を奪う屈辱的な行為と受け取られます。仕事の分担ひとつとっても、その国の文化や考え方が反映されているのです。

3回のサンティアゴ巡礼

「皆さんはサンティアゴ巡礼について知っていますか」と片山氏。
スペイン北西部にあるキリスト教の聖地のひとつであるサンティアゴ・デ・コンポステーラ教会へ続く800kmの巡礼路を一ヵ月かけて歩く旅です。ピレネー山脈の険しい山道や麦畑が延々と続く一本道を、雨の日も暑い日もひたすらに歩く。片山氏は退職後、この巡礼を自転車で1回、徒歩で2回踏破しました。

最初は自転車の旅。
高校時代、ゴッホの描いたフランスの田舎アルル地方の絵に魅せられた片山氏は、自転車でフランスの田舎道を走るのが夢でした。半年かけ念入りに準備をして臨みましたが、計画通りに走れたのは最初の2日間だけ。道に迷い大雨に遭い絶望的な気持ちになったと言います。しかし、道中で出会ったフランス人夫妻や、日本語勉強中のウクライナ人など様々な人々と出会い、助けられ巡礼を達成できたのです。「まさに一期一会の連続でした」と片山氏は出会いを語りました。
その後の2回の巡礼でも国籍も年齢も様々な多くの人々と出会い、人生観が変わるような貴重な交流を重ねました。

巡礼路では全員が「ファミリー」に

巡礼をする人々の動機は様々です。
キリスト教への信仰心から始まった巡礼ですが、今では自己探求など自分と向き合うことを目的としている人が多数です。巡礼者は学生たちと同年代の若い人々もいます。片山氏が巡礼に出会った若者も、巡礼中は疲れていたり悩んでいたり。しかし巡礼後に再会したときはどこかたくましくなっていたと言います。
「弱い自分に真摯に向き合い、様々な人々に励まされながら歩き通したことは意義深いです」と話しました。

巡礼路では巡礼者はひとつの共同体となります。同じ目的を持ち同じつらい道程を歩いているなかで、連帯感が芽生えるのです。名前も知らない人と寝食を共にし、お互いを助け合い励まし合うことで信頼も生まれます。人種や国籍、宗教を越え平等な空間であり、巡礼者にとっては巡礼路そのものが聖地と呼べる空間になっています。
巡礼を終えた人は自分に自信を持ち、知らなかった自分に出会えるというポジティブな変化を感じるのです。

「一期一会」を大切に

海外キャリアとサンティアゴ巡礼を通し、片山氏が伝えたいことは「一期一会」と話します。
日本で働いているときに研修に来たフランス人の青年とは、国際部門への異動の際パリで再会し、今でも家族ぐるみの付き合いが続いているといいます。巡礼でも、言葉も文化も違っても、出会った人に誠実に心を込めて接するという思いは共通していると気付いたと話しました。人々との出会いを通し、自己よりも他者を優先し助け合うことの大切さを学んだと語りました。「ぜひ皆さんもサンティアゴに行って歩いてみてください」と講演を終えました。

最後に学生から、
「夏に海外に行きたいと考えていますが、海外の人と話すための工夫はありますか」と質問がありました。
「一期一会は、勇気を出すことで出会えます。文法などを気にせず、単語でもいいので勇気を出して話すこと」とアドバイスを送られました。

学生たちにとって国際交流の在り方を改めて考える貴重な講演でした。

担当教員からのメッセージ

私が資生堂に勤務している頃から存じ上げていた片山さん、3回の巡礼の道を踏破された後、この経験をもとに大学で学び直しを行われたことをお聞きし、今年、初めてお越しいただきました。この授業のタイトルでもある「国際理解」の本質につながる様々な経験をされている片山さんのお話しから、学生は貴重な時間を過ごさせていただいたと感じています。膨大な資料の中から、授業にあわせた資料をご準備いただいたことに改めて心から感謝申し上げます。
改めて「一期一会」の大切さを教えていただきました。

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