様々な分野で活躍し、輝かしいキャリアを築いてきた講師の方をお招きするリレー講座もいよいよ最終回となりました。6回目となる授業は、サントリーホールディングス株式会社顧問の福本さんです。
福本さんには昨年もご講演をいただきましたが、その時に聴講した学生から多くの質問が寄せられ嬉しい驚きだったというエピソードから始まった90分。「私は何のために働くのか」を軸としながら、社会人としてキャリアを積み重ねていくヒントをたくさん紹介してくださいました。
創業から100年以上受け継がれる、「やってみなはれ」精神
今世紀に入ってから世界中に市場を拡大しているサントリーは、2兆3000億円の売上(2021年度)を持つ大企業。現在はお酒や飲料だけでなく、外食、健康食品、花、そしてハーゲンダッツアイスクリームなど、幅広い事業を行っています。サントリーは創業以来、「やってみなはれ」と「利益三分主義」という2つの精神を軸に、長い歴史を作ってきました。
創業は1899年の大阪。ぶどう酒を製造する鳥居商店から始まりました。1907年に甘味葡萄酒「赤玉ポートワイン」を発売し、外国人や上流階級に支持され大成功を収めました。最近ではプレミアムモルツのヒットやハイボールブームを成功させたサントリーには、今に至るまで、上述の「やってみなはれ」「利益三分主義」という創業精神が貫かれています。
「やってみなはれは、現状に満足せず常に成長を続けようとする挑戦。そして利益三分主義は、近江商人の三方よしに通じる精神で、高品質な商品やサービスの提供だけでなく、真に豊かな社会の実現を目指すこと。創業から100年以上経っても、私が勤めたサントリーにはこの精神が受け継がれています」
就活は、みなさんが企業を選ぶ場でもある
大学では文学部だった福本さんは、ご自身の就活を「志無し、業界希望無し」だったと振り返ります。様々な企業の説明会に参加する中で、印象に残ったのがサントリーでした。
「私が社会人になったのは、男女雇用機会均等法が施行される前で、男女の給与に大きな差があった時代。4大卒の女性はなかなか採用されませんでした。ところがサントリーの説明会には若い女性社員がいて、ウィットに富んでいて珍しかったんです。サントリー商品をよく知らず、第一志望でもなかったんですが、人事の楽しそうな雰囲気に惹かれて面接を受け、入社しました。
5年くらい働くかという軽い気持ちでの就活でしたが(笑)、自分はこれをやりましたと言える仕事がしたいと思っていました。そこで女性を戦力とする会社を探していたんです」
福本さんはご自身の経験を踏まえ、就活に挑む学生たちに自分に合った企業を選ぶヒントを紹介してくださいました。
「説明会で会った社員の印象と組織風土は、重なることが多いんです。みなさんたくさんの説明会に参加されると思いますが、そこにいる社員を観察することで、企業を深く理解できると思います。就活は学生のみなさんが選ばれる場であると同時に、みなさんが企業を選ぶ場でもあります。ぜひ萎縮せず、自分に合った企業を選んでほしいですね」
1人のプロとして、仕事に挑む姿勢とは
新人の福本さんは人事に配属され、研修担当に。入社6年目で目標とするロールモデルが社内にいないことに気づき、仕事の幅を広げて強みをつくるために社内留学制度に手を挙げ、2年間の教育を受けました。その後、広報に異動しサントリーホールの担当になります。
「広報は記者に情報を発信し、記事にしてもらう仕事。クラシックも芸術もあまりわからなかった私は記者とコミュニケーションがとれず、1年間まともな仕事にならず本当に悩みました。ある時、PR会社の女性社長から『貴女、今のままだと次の仕事はない。会社もつぶれるわよ』と言われ、勇気を出して記者の人間関係に入り込んでいったんです。するとだんだんと話を聞いてくれる人が増えました」
その後、結婚・出産をした福本さんは、3年間の育休を取得。早くから育休制度があったサントリーでは、お互いかばい合う社風があったそうです。育児と仕事を両立しながら広報として奔走したウィスキー博物館は、ご自身のレガシーになったと福本さんは当時を語ります。
2008年に支配人としてサントリーホールに戻ったとき、300人の大所帯になっていました。前任者と違い自分は強いリーダーシップを発揮するタイプではない福本さんは、みんなの意見を聞きながら3~5年先のパーパスを作り上げます。このとき「リーダーシップのかたちはひとつではない」と気づき、この経験がその後の福本さんの軸となりました。そして入社33年目の2015年には、サントリーホールディングスの役員に就任。会社の理念を事業に反映させる立場として、サステナビリティの実現に挑みました。
講義のまとめとして、
福本さんは女性が仕事で活躍するために役立つ心構えを強調しました。
① 目の前にある自分の仕事を楽しむ
② 努力を惜しまず熱中する
③ 人との関係を大切にする
「みなさんが社会人になると、様々な仕事を経験すると思いますが、どんなときもどんな姿勢で挑むかが大切です。好きなことなら夢中になる、人よりも努力する、まわりに応援しようと思ってもらえる。みなさんが1人のプロとしてキャリアを形成していく中で、ぜひこの3つを意識してほしいと思います」
キャリアは「目の前の仕事にベストを尽くす」ことから始まる
続く質疑応答では「モチベーションを維持する方法は?」という質問に、「新しい仕事はもがき苦しむほど大きくステップアップできる」と回答。「仕事ができる人とは?」という問いに対しては、「言われたことだけではなく、一歩先を見て動ける人。自分のアウトプットを受け取る、まわりの人のことも考えられる人ですね」と答えてくださいました。
いまと社会環境は大きく違いますが、大企業で輝かしいキャリアを築いてきた福本さんにも就活や新しい仕事に挑む苦労があったのは、これから社会で活躍する学生達にとって新鮮な共通点だったのではないでしょうか。サントリーの「やってみなはれ」精神を体現し、「目の前の仕事を軽んじることなく、ベストを尽くして挑む」ことで実績を残した福本さんの講義は、学生達の未来を支えるひとつの軸になることでしょう。
深澤教授の話
今年度の女性とキャリア形成6人目のゲスト、最後を飾っていただいた福本様は、昨年度に引き続きのご登壇となりました。ソフトな語り口がとても印象的ですが、ご自身のお話しからは、真面目に目の前の仕事に取り組む大切さや、やはり人間関係を何よりも大切にされてきた数々のエピソードをお聞かせいただきました。最後に、感じたこと、それはサントリー様の社員の方の、会社を愛する心の強さです。今の時代“愛社精神”という言葉はあまり登場しなくなりましたが、やはり、会社と社員のエンゲージメントを大切にされていることは、企業の成長には欠かせないものだと考えます。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
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