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SOCIAL COOPERATION PROGRAM
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2022年6月13日

2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第二回に、株式会社ANA総合研究所顧問の河本さんをお迎えしました!

日本を代表する大企業で着実にキャリアを積み重ねてきた講師の方をお招きし、女性のキャリア形成について語っていただくリレー講座の第二回は、株式会社ANA総合研究所の顧問を務める河本宏子さんです。国内線の客室乗務員(以下CA)として全日本空輸株式会社(以下ANA)に入社した河本さんは、当初長く勤める気持ちがなかったというのは意外です。軽快な登場曲に合わせて、拍手の中で颯爽と登場した河本さん。会社と共に自身も成長してきたという、貴重な経験を語ってくださいました。

1979年に同志社大学を卒業し、CAとして全日本空輸(ANA)に入社

京都で生まれ育った河本さんは、同志社の女子中高一貫教育を経て、そのまま大学へ。1979年にANAに入社し、国内線CAとして社会人のスタートを切りました。当時、CAは3~4年勤務し、結婚して子供ができたら退職する人がほとんどで、河本さんも自身のキャリアをそう考えていたそうです。

1986年、ANAが初の定期国際線に進出することになりました。面談で「社命に従います」と言った河本さんは、国際線CA異動リストに自分の名がありませんでした。

「このとき初めて、自分は国際線を乗務してみたかったんだと気づきました。その後、『国際線乗務を希望します。』と意思表明し、次の機会にかないました。

この時の経験から、河本さんは「自分の意志を言葉にして伝えることの大切さ」を心に留めるようになりました。

広い世界に出て、初めて気づいた自社の価値

ANAの国際線進出は順風満帆ではなく、国内線の利益が国際線の赤字を支えているような状態でした。転機となったのは1999年のスターアライアンスへの加盟です。世界最大の航空連合への加盟は、ANAにとって「世界と手を繋ぐ」ことでビジネスを拡大していく大きな転換点となりました。

「国際線乗務は私達にとって初めての経験でしたが、楽しかったです。就航当初はスーツ姿の日本人ビジネスマンが多かったのですが、スターアライアンスに加盟すると国籍、性別、服装など、多様なお客様をお迎えすることになりました。カルチャーの違いを知ることでの学びもありました」

会社の新しい挑戦にCA全員も挑む中、利用してくださったお客様から「座席やトイレが清潔」「食事がおいしい」「CAやスタッフが礼儀正しい」という感想が届くようになりました。 「世界各国の様々なお客様にご利用いただくことで、国内線では当たり前だった自社の強みを改めて実感することができました」と河本さんは当時を振り返ります。

客室本部長の時にiPadを導入。世界初の試みが注目される

1999年、「マネジメントもおもしろいのでは?」と感じた河本さんは管理職に。2009年には客室本部長として、多くのCAを束ねる立場を努めました。ANAが掲げる「お客様体験価値の向上」にCAが大きな役割を担う中、ANAは世界で初めてCA全員にiPad貸与を導入し、注目を集めました。全CAがiPadを携行することで、重いマニュアルが電子化されペーパレスになったたことをはじめとして、多くの業務が効率化されました。

「この画期的な変化は、IT部門をはじめとした社内の多くの方が支えてくださったからこそ実現しました。この経験で仕組みを考える人と使う人、ITが得意な人とそうでない人、さまざまな接点で共創が生まれるのを体験できました」

2017年になると河本さんはANAの役員を退任、ANA総研に移られ現在は顧問を務められています。また、東日本旅客鉄道株式会社・三井住友トラストホールディングス株式会社・株式会社ルネサンスの3社で社外取締役も務められています。

「対話」から生み出される一人ひとりのWell-being

続く授業では、河本さんが長く勤めたANAの経営がどう変化してきたか、また現在取り組まれているESG経営に触れました。企業にとって大切なのは「事業を通じて社会に貢献し、そこで働く一人ひとりのWell-beingを実現すること」。河本さんが取締役を務める3社は、鉄道、金融、健康と事業領域は異なるものの、幸福度に貢献しようと目指す点は共通していると言います。

「社会的価値と経済的価値。この二つを一緒に育てていくことが、企業の存続と成長に必要だととらえています。企業が潰れてしまっては、幸福な社会を生み出すこともできません」

河本さんが学生達に新たな視点を提示したのは、D&Iというキーワードでした。いまD(Diversity:多様性)と I(Inclusion:包摂)に多くの企業が注目していますが、真の多様性は組織にいろいろな人がいることではなく、まじりあうことだと河本さんは言います。「いろいろな人がいるだけでは、真の多様性とはいえません。その人達が自由に意見を出し合う環境があり、そのぶつかりあいからInnovation(革新)が生まれることが大切なのです」

講義の締めくくりは、もうひとつのキーワードWell-beingでした。働きやすさや働き甲斐を考えたとき、「出産直後は育児で大変だろうからプロジェクトを任せない、海外出張は無理」など、決めつけてしまうことに疑問を呈します。「働きやすさだけではなく、本人がやりたいことを実現できる環境について対話からスタートすることが働き甲斐にもつながるのではないでしょうか。組織のメンバー1人ひとりとの対話を通して、初めてWell-beingが実現できるのでは」

「意志を言葉にする」という言葉に、勇気づけられた学生達

真剣なまなざしが集中した講演後は、5人のグループ(CUBE)から1つずつ質問が寄せられました。「意見を言うマインドを保つには、どうしたらいいですか?」という質問には、河本さんも自身が役員になりたての頃は、会議で意見を言えなかった経験を披露。その上で「役員会では必ず1回は発言すると決める」「後になると言いにくくなるので、最初に意見を言う」といったアイデアが紹介されました。

このほかにも「CAの仕事で忘れられないことは?」「ANA経営危機におけるエピソードは?」「意見を言いやすい環境を作るには?」など、多くの質問が投げかけられ、河本さんは当時の経験を交えながら、丁寧に答えていました。 河本さんが何度か触れた「意志を言葉にする」という言葉には、多くの学生達が感銘を受けたようです。盛り上がる中であっという間に終了時間を迎えたこの授業がきっかけとなり、社会に出ても真の多様性や幸福を考え、追求できる学生が増えていくことでしょう。

深澤教授の話

河本様の豊かなご経験に基づく数々のお話しは、学生にとって分かりやすく、とても学びの深い大切な時間となりました。ご講演後にいただいたメッセージには、次の4点が綴られていました。①「何のため」という問いかけを忘れず、その時に「立ち返る原点」は?②周りとの比較ではなく違いを受け入れる「一人ひとり」輝く社会とは?③先人の「変わる」ことを恐れないチャレンジから学ぶことの価値は?④「未来は、想像と創造」。過去に囚われず豊かな発想で想像し、道を進むときに必要な武器の用意をどのようにしますか?いずれも、これからの時代を歩む学生にとって、生涯持ち続けて欲しい大切な問いかけとなりました。河本様には、この場を借りて心から感謝申し上げます。

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