タグ: 女性とキャリア形成

2023年6月15日

何のために働く?「女性とキャリア形成」の授業で元スターバックスCEOによる講演が行われました。

5月11日に共通教育科目「女性とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業に、元スターバックスコーヒージャパン株式会社CEOの岩田松雄氏をお招きし「ミッション」についての講演が行われました。現在は株式会社リーダーシップコンサルティング代表として、多くのリーダーを育成されている岩田氏。変化の多い現代を生き抜くための力の養い方や、使命としての「ミッション」の大切さを話されました。

変化の大きい時代の力の付け方とは

進行は担当のグループ(CUBE)が行う授業スタイルです。
司会の学生から紹介され、岩田氏の講演が始まりました。
岩田氏はまず講演の聞き方のコツとして、「最後に必ず一つ質問しようと思って聞くこと」を紹介しました。岩田氏が大学生のころから40年間実践している聞き方です。集中して話を聞くようになり、分からないこと引っかかることをそのままにしない姿勢が身に付きます。学生も就活のセミナーなどでも実践できる方法です。今回の講演も質疑応答の時間が設けられます。「なんでも聞いて下さい」と気さくに話されました。

今回進行を担当したグループの学生

最初に示されたのは「VUCA」という言葉。VUCAとは将来何が起こるか予測困難な状態のこと。現代はVUCAの時代と話します。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻など、なにがきっかけで世界が変わるか分からない時代です。

このVUCAの時代に必要なことは、3つ。
1つめの「視座を高める」は自分が他の人の立場だったときを考え、俯瞰して物事をみることです。
2つめは「視野を広げる」こと。知らないことを知ることです。検索で物事を調べようとしても、自分の興味のあることしか調べません。「意識的に知らないことに興味を持っていくことは大事」と言います。
3つめは物事や情報をどう受け取るか「視点を鍛える」こと。これらには学び続ける力が必要です。「卒業するためだけの学力ではなく、自分の基礎を作るために学ぶことが大切」と話しました。

企業は世の中を良くするためにある!

岩田氏は新卒社員として日産自動車株式会社に入社。当時から経営に興味があり、アメリカへ社内留学し経営理論を学びます。帰国後日本コカ・コーラ株式会社や株式会社アトラス、株式会社タカラ、株式会社イオンフォレストなど名だたる企業の社長や役員を歴任されました。社長に就任してから、これからは企業価値の時代になると気付き、働く姿勢や「何のために働くのか」が大事になると感じたと言います。

そこで大事なのが「ミッション」です。
ミッションとは企業の存在理由。
岩田さんは、企業とは「商品やサービスなど企業活動を通し、世の中を良くするためにある」と言います。企業は利益を出さなければ存続できませんが、利益はあくまでも手段であることを忘れてはならないと強調されました。

ではなぜミッションが大事なのでしょう。
「社会は大きく変化しています。すべての変化に対応したマニュアルは作れない。指針となるものがミッション」と岩田氏。
現在は多様性の時代です。様々な価値観を持った人たちが同じ方向を向くのは難しいことですが、ミッションがあれば共通のゴールになるのです。「就活のときも、その企業のミッションを一緒に実現したいと思える会社を探されたらいいと思います」と語りました。

自分の「ミッション」を見つけよう

ミッションは企業だけではなく、個人にも。
「自分が、好きで得意で人のために役に立つことをヒントに、自分の使命を考えていってください」と話しました。好きなことは情熱を持って取り組み、継続できることです。継続して続けていると、それは得意になり、のちに人の役に立ちます。

「好きなことが分からない、という時はまずは目の前のことを一生懸命やること」と話しました。
例としてお茶汲みをされている姿に岩田さんが出会われたことをきっかけに、その後岩田さんの社長秘書になった人の話をされました。お茶を出すタイミング、温度、好きな銘柄などをお客様に合わせ提供するという気配りを岩田さんが見ていて、秘書に登用したという話です。どんな仕事でも手を抜かず取り組むことで、サポートを得られたりチャンスをつかんだりできるのです。

小さな成功体験が自信につながる

講演後に学生たちはグループで意見交換し、質問を考えました。
質疑応答の時間に進行役の学生が挙手を促すと、多くの学生が手を挙げました。
「岩田さんのミッションはなんですか」という質問には
「リーダーを育てること。日本に良い経営者を増やしたい」と話し、
「もっと言えば、目の前にいる人を元気にしたい。この講演を聞いてくれた皆さんのやる気をちょっとでも起こせたら、今日のミッションは達成です」と語りました。

次の学生は「挫折したときはどうすればいいでしょうか」と質問。
岩田氏は「自分の価値を信じること。倒れてもいいけれど、指だけでも動かしてみる。落ち込んでいる自分に落ち込まないこと」と、やる気を失わないことの大切さを伝えました。
「そのためには小さな成功を積み重ね、自分をほめることです。経験だけではなく実績を積み重ねることが自信になります」。

最後に司会の学生から「頑張りは必ず誰かが見ているから、アルバイトや学業なども一生懸命取り組んでいきたいと思いました。素晴らしい講演をありがとうございました」と感想とお礼の言葉がありました。

これから社会に出る学生たちにとって「何のために働くのか」という根本的なテーマを考えるきっかけとなる講演でした。

担当教員からのメッセージ

岩田様には、本講座のみならず、キャリア開発実践論、キャリアデザインなど、数多くの授業においてご講演をいただいています。そして、その際は、決して大学生向けの内容ではなく、日頃、岩田さんが主たる相手として時を共にされている企業トップや経営層、管理職に話されていることを本学の学生に語って下さっています。学生にはややレベルが高いのではないかと思いましたが、本学の学生は、岩田さんのお話しに真剣に耳を傾けており、また、岩田さんが、語り掛けて下さる言葉が素晴らしく、きっと5年後10年後まで学生一人ひとのキャリア形成に大きく関わる内容として届いてくれていると感じます。岩田様には、改めて心から感謝申し上げます。

2023年5月24日

「女性とキャリア形成」の授業でアフラック生命の木島葉子氏から女性役員になるまでのお話を伺いました。

共通科目「女性とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、アフラック生命保険株式会社(以下、アフラック生命)の木島葉子顧問をお迎えし、女性役員になるまでの経緯や大切にしていることについての講演が行われました。進行は担当のグループの学生たちが行うなど、学生主体の組み立てとなっており、講演後も積極的に質疑応答が行われました。

アフラック生命とはどんな会社?

木島氏は実践女子大学の卒業生。そして現在、実践女子学園の常務理事をされています。
「このような形で皆さんとお会いすることができて大変嬉しく思っております」と自己紹介が始まりました。アルバイトとスキーなどスポーツに夢中な大学時代を過ごしたと言い、
「女性のキャリアの話の冒頭にはふさわしくないかもしれませんが、大学生活は自分のやりたいことを自由にできる素晴らしい4年間です」と話しました。

今回進行を担当したグループの学生

就職活動をしてアフラック生命へ入社。当時はまだまだ小さな会社だったそうです。アフラック生命は、1974年に日本で初めてがん保険を提供する保険会社として誕生しました。がん保険は、がんに罹患された人々を経済的にサポートする「生きるための保険」です。来年50周年を迎えるにあたり「生きるを創る」というVISIONを掲げ、女性を含む人財の能力の発揮やダイバーシティ推進に取り組んでいます。

アフラック生命の推進するダイバーシティ

アフラック生命は創業時から役割や評価などの男女差はなく、1997年に生保業界で初の女性役員が誕生しました。しかし、2014年の女性の管理職は10%にとどまり、他社との差も無くなってきたため、女性活躍を推進していたとは言い難い状況に。
そこで目標を策定し、2025年までに部下のいる管理職の女性割合30%達成を目指しています。

育児と仕事の両立セミナーも積極的に開催。男性社員はもちろん、社外の配偶者も参加できるセミナーで、産休前や復帰後の働き方やキャリアを考えます。また男性の育休取得は100%を目指しており、取得時期はいつにするかなど上司の方から確認するようにして、育休を取りやすい環境を作っています。

働き方改革にも力を入れており、テレワークやフレックス制度も導入。
「重要なのは、こういった制度を育児や介護をしているなど限られた一部の社員が使うのではなく全社員が使うこと」と木島氏。さまざまな制度を組み合わせ、組織的に実践していくことが大切と話します。

危機時の対応で成長した

では木島氏がどのようにキャリアを築いていったのでしょう。
木島氏は「私自身のキャリアを話すうえで外すことができないのが危機時の対応です」と語りました。
2011年の震災の際は、翌日から業務を再開したものの、計画停電で継続に支障が出るという事態に。パソコンも電話も動かず、対応が困難になりました。ただ、そのとき物事の進め方や、やり方を決める判断材料をそろえることの重要さに気付いたといいます。

「危機時を経験することでだんだん不安は小さくなり、自信は大きくなっていきます」と木島氏。あの時大丈夫だったから今回もできると、困難にも主体的に取り組むことができるようになったと言います。
そして「主体的に取り組むことで、チームのサポートを得られることにもつながった」と話しました。

最後は気合!女性が活躍する社会へ

ただ、「キャリアをアップしていくとは、日々の積み重ねの結果である。」と話します。
必ずしも危機時の対応を経験しないといけないわけではなく、日々の仕事を真面目にやることが基本だと語りました。
「そして私が何より大切にしているのは、気合です」と木島氏。
何事も絶対にやりとげるという気持ちで、周りを巻き込み動かしていくのだと話しました。

経営など上に立つ一員として大事にしているのは、常に人に見られていることを忘れないということ。女性で役員を務めているのは日本ではまだまだ少ないため、ロールモデルとしての自覚を持ち恥ずかしくないように取り組んでいると言います。また、実践女子学園の理事になり、学園の精神である「女性が社会を変える、世界を変える」が自分の夢になったと言います。「100年以上前にこの考えを持っていたことに感動を覚えました」と話し、今の時代になんとしても実現したいと思っていると力強く語りました。

日本の女性の活躍推進はまだまだ道半ば。ただ、これからどんどん良くなっていくはずと言います。
「皆さんもぜひ自分の軸を持って頑張っていってほしいと思いますし、私も応援していきたい」と学生にエールを送りました。

自分のこれからに活かせる講演に

その後グループごとで感想を話し合い、木島氏への質問の時間が持たれました。
「男性がいない環境で育ち、強く言えないのですが、男性にも自分の意見を言えるようになるには?」という質問には
「私もどちらかというと黙っている方が好きなんです」と意外な回答が。
「ただ仕事をしているときは、役割を果すため自分のプライベートな性格は二の次だと思います。またそのための準備や練習をするなど、求められていることに対して自分はどう振舞えばいいかを考え実行することが大切です」と話しました。

「自分の強みの見つけ方は?」という質問には
「自分では見つけづらいので、友人や家族など他人に教えてもらうのがいいですよ」と回答されました。

最後に進行役の班の学生から
「できないことはないという強い言葉が印象に残りました。お話の内容をこれからにつなげていけたらと思います」と感想を述べ、
講義は終了しました。

担当教員からのメッセージ

企業トップを迎えて行う「女性とキャリア形成」も今年で3回目を迎えました。ゲスト講師のトップを務めていただいたのは、アフラック生命保険の元専務取締役で、本年4月からは本学の常務理事に就任された木島葉子さんでした。企業における女性の活躍という視点では、常にトップランナーを務めて来られた木島さん、やはり仕事には厳しく、人には優しくというご本人の確固たる理念をお聞かせいただきました。本学の卒業生であり、学生にとっては、本当に良きロールモデルであると感じました。今年も6人のゲストが登場されます。

2023年5月22日

「国際理解とキャリア形成」の授業で「未来のオリンピックの姿を考える」講義が行われました。プレゼンはスポニチに掲載!

共通科目「国際理解とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、4月18日にスポーツニッポン新聞社の皆さまをお迎えし「未来のオリンピックの姿を考える」講義が行われました。この日はオリエンテーションとして藤山健二編集委員から現在のオリンピックの形や問題点が提示されました。後日学生たちはプレゼンテーションに臨み、その様子はスポニチに掲載される予定です。

スポニチってどんな新聞?

最初にスポーツニッポン新聞社の池田氏からスポニチに関して説明がありました。
スポニチは来年75周年を迎える老舗のスポーツ新聞社です。新聞発行だけでなく、マラソン大会や将棋の王将戦、映画コンクールなど年間250件以上のイベントの主催や後援も行っています。

「スポニチを読んだことはありますか?」と池田氏が学生たちに問いかけると3,4人が手を挙げました。女子大生にはあまり身近ではない新聞です。
スポーツ新聞とは、野球やサッカー、オリンピックなどのスポーツを中心に、芸能やレジャーなどのニュースを伝える大衆紙です。駅やコンビニで売っているイメージが強いですが、定期購読者の割合は65%と多く、女性読者も約1/4いると言います。

「皆さんWBCは観ましたか?」と聞かれるとほとんどの学生が手を挙げました。スポニチが配った優勝記事の号外も、ものの数分で1万部がなくなったと言います。大きな盛り上がりに、池田氏も「やっぱりスポーツには国をひとつにする力があると感じたイベントでした」と語りました。
webニュースは自分から興味があることを拾いに行きますが、新聞は記事が目に入ってくるためさまざまな情報を知れるのがメリットだと言い、
「幅広い情報を知っていると、いろんな人と話もはずみ信頼も得やすいです。皆さんも新聞を読んでもらえればと思います」と話しました。

オリンピックの理念とは

続いて藤山氏からオリンピックに関する話が始まりました。
藤山氏はスポーツ記者歴40年。
世界陸上やゴルフのマスターズ、サッカーW杯などさまざまな大会を取材するなか、オリンピックは夏冬合わせ7度担当されています。

2021年に行われた東京大会では、日本は58個のメダルを獲得、そのうち金メダルは27個と史上最多でした。多くの選手の活躍があった反面、オリンピック終了後に汚職が明らかになり、元理事が逮捕されるなど問題も残りました。
「残念ながら毎回多くのどの大会でも出てくる話です」と藤山氏。このイメージからも若者のオリンピック離れが進んでいると言われています。

また、2022年の冬の北京大会中には、ロシアがウクライナに侵攻。オリンピックが「平和の祭典」と呼ばれるのは理由があります。オリンピックは「スポーツを通じて平和な世界の実現に寄与する」ことを目的にしており、オリンピック開幕7日前からパラリンピック閉幕7日後までは休戦とすると国連に定められています。IOCはロシアの五輪休戦決議違反を強く非難し、現在ロシアとベラルーシの選手は大会に出場できないという処分もされています。ただ、政治とスポーツは別ではないかという議論も。オリンピック憲章にも「個人の競技者間の競争である」と明記されており、国家間の競争ではないということが、オリンピックの理念でもあります。

これからのオリンピックの女性参加とは

「皆さんは女子大生ということで、オリンピックと女性について考えていきたいと思います」と藤山氏。

オリンピック第一回大会の女性参加は0人。スポーツは男性が行うものでした。しかし反対の声が広がり第2回から22名が参加。東京大会の男女比は男性51.2%、女性は48.8%になり、次のパリ大会では男女50%ずつになる予定です。ただ、数を一緒にすれば平等なのか、という議論もあります。女子選手として出場できる国は先進国ばかりで、女性にスポーツが解放されていない国もまだ多くあります。また、トランスジェンダーを公表している選手がどちらの性で出場するのか、に関しては体格差やホルモンバランスなどの問題も残っています。
「スポーツで大切なことは公平性」と藤山氏は話します。年齢や体重などで階級を分けるのもその一つ。「トランスジェンダーの選手を拒否するのではなく、これから検討必要な問題です」と話しました。

さらにメタバースはオリンピックにどのように活用されるかも、これからの姿を考えるのに大切です。これからはバーチャル空間でオリンピックが行われる可能性も出てくるかもしれません。
「ぜひそういったテクノロジーの面からもオリンピックについて考えてもらえたらいいと思います」と藤山氏は語りました。

プレゼンは記事に!

最後に学生から
「一流の選手に共通する姿勢や言動はありますか」と質問があり、
藤山氏は
「思考がポジティブ。怪我など落ち込むことがあっても前向きにとらえることができる人たち」と回答され、講演を終えました。

今年のお題は
「実践女子大生が考える、新しい五輪の姿」です。

次回は元女子マラソン選手である有森裕子氏もお迎えし、オリンピックについての理解をさらに深めます。その後グループで検討し、プレゼンテーションに臨みます。
プレゼンテーションの様子は、なんと記事になりスポニチに掲載予定。よりよい発表にするため学生たちはグループで早速話しあっていました。

担当教員からのメッセージ

2014年からスタートした本授業では、一貫してオリンピックパラリンピックを学生とともに考えてきました。延期された「東京2020」の1周年イベントが開催されたのが昨年、そして来年は、もうパリ五輪が開催されます。
東京2020のレガシー講座の位置付けで行われているスポーツニッポン新聞社様とのコラボ授業、今年も、どんなアイデアが提案されるのか、とても楽しみです。

2023年1月24日

「実践キャリアプランニング」の授業でロレアル パリによるストリートハラスメントに立ち向かうトレーニング講義が行われました。

共通科目「実践キャリアプランニング」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、食生活科学科の学生が日本ロレアル株式会社のブランドであるロレアル パリとのコラボ授業を受けました。公共の場でのハラスメントに対しどう立ち向かうか、どう被害者に寄り添うべきかというセンシティブな内容に、学生たちも真剣に耳を傾けていました。学生たちは、企業が社会的責任に対しどう取り組んでいるか、企業の幅広い活動について学ぶ機会になりました。

女性を応援し続けるロレアル パリ

菊池裕貴氏は、2014年に日本ロレアルに入社。メイベリン ニューヨークというブランドでネイルやリップ、マスカラなどの開発、マーケティングに携わり2021年からはロレアル パリのブランドディレクターを務めています。ロレアル パリは、1909年発祥のブランドで、髪の毛を染めるヘアカラーから出発しました。日本ロレアルはイヴ・サンローラン・ボーテやシュウ ウエムラ、メイベリン ニューヨークなど数々の人気ブランドを抱えていますが、なかでもロレアル パリは100年以上変わらずヘアカラーやヘアオイルなどを取り扱っています。

掲げているスローガンは「あなたにはその価値があるから」。50年前から変わっていません。ブランドのマニフェストは時代に合わせ10年ほどで変わるのが一般的なところ、ずっと変わらずに女性の価値や自分らしい生き方を応援し続けています。

ストリートハラスメントって?

「日本は、残念ながら女性が生きにくいと正直思っています」と菊池氏。「これをどうにか変えていくために固定観念を打破し、女性の活躍をサポートするブランドになっていきたいと強く思っています」と語りました。

その一環として行われているのが「STAND UPプロジェクト」です。女性をとりまくストリートセクシャルハラスメントに対して立ち向かうためのプロジェクトで、世界各国で行われています。ストリートハラスメントとは公共の場でのハラスメントのこと。電車や飲み会の場、また家族のなかでの会話も該当します。こういった行為に立ち会った「傍観者」の立場に対しトレーニングを行い、ハラスメントを減らしていこうとするトレーニングをロレアルは一般社団法人Voice Up Japanと協力し行っています。

目をそらしてしまいがちなストリートハラスメント

続いてVoice Up Japanの佐野エレナ氏が登壇し「5Dアクション」についての講義が始まりました。ハラスメントを受けた人のなかで、誰かが介入したことで状況が改善したと答えたのは86%に上ります。「どんな形であれ誰かが介入してくれたら状況がよくなったと思えた人の割合は多いので、あまり不安にならずぜひ皆さん実践していただけたら」と佐野氏は語り掛けます。

不自然な身体の接触、お酌の強要、ストーキング行為…直接的な言葉をかけられるだけではなく、じっと見つめられるのもハラスメント行為にあたります。ハラスメントを受けた影響は、その場での不快感だけでなく長期的に残ります。自尊心を傷つけられ、うつやPTSDになったり、被害を受けた場所が怖くて近づけず行動制限を受けたり。日常生活が変えられてしまうのです。

「5Dアクション」を知りどう行動できるか考えよう

そういった場面に立ち会ったときにどう介入するか。学生たちはその方法として「5Dアクション」を学びました。物を落とすなどして気をそらす「Distract」、店員や責任者などに協力を求める「Delegate」、録画や録音して証拠を記録する「Document」、あとから被害者をケアする「Delay」、直接行動する「Direct」。「どんな行為ならできそうだなと思いますか」と佐野氏は学生に問いかけ、「Distract」や「Delay」なら行動できそうと学生も多く手を挙げました。

佐野氏は飲み会での先輩の発言や満員電車などさまざまなシチュエーションを想定し、自分に何ができるか学生たちに考えさせました。「自分の10分で、その人の一生が変わるかもしれません」と佐野氏。声を掛けるなど小さいと思える行動でも介入できると言います。また佐野氏は大切なこととして「ハラスメントは受けた人のせいではない」ということを強調します。自分がハラスメントの被害を受けた場合も「決してあなたのせいではありません」と伝えました。

学生たちも5Dアクションに前向きに

学生たちからは感想や意見がたくさん集まりました。「痴漢され自分も助けてほしいと思ったことがあるので、今後見かけたら見て見ぬふりはしたくない」「自分に何ができるか難しいが、どれかを実践してみたい」「一人では難しいが友達と一緒ならできるかも」といった前向きな意見が多数。実際に助けられた経験がある学生も。ストーカー被害に遭い、いまでも影響を受けていることを打ち明けてくれた学生もいました。

質問も多くありました。「お酒の場では自分もアルコールが入っていて行動は難しいのでは」「満員電車では自分も身動きできない」などの意見には「見てましたよという視線を送るだけでも有効です」と回答がありました。「自分がハラスメントを受けているときに助けてもらう方法は?」という質問には「アピールすることができればベストですが、一番は自分を守ることが最優先。あとから誰かに打ち明けてケアをする方法もあります」と伝えました。

学生たちの心に響く講義

ハラスメントは自分が加害者にもなりえます。例えば友達が誰かに付きまとわれた経験を話したとして「しょうがない」「可愛いからだよ」という言葉はその友達に原因があったことになり、二次加害につながってしまいます。またハラスメントは外見では嫌がっているか分からないことも。介入していいのか判断が難しいこともありますが「ちょっとしたことでも勇気を出してみるということは重要だと思います」と語られ、講義は終了しました。

2022年9月5日

2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」最終回に、サントリーホールディングス株式会社顧問の福本さんをお迎えしました!

様々な分野で活躍し、輝かしいキャリアを築いてきた講師の方をお招きするリレー講座もいよいよ最終回となりました。6回目となる授業は、サントリーホールディングス株式会社顧問の福本さんです。
福本さんには昨年もご講演をいただきましたが、その時に聴講した学生から多くの質問が寄せられ嬉しい驚きだったというエピソードから始まった90分。「私は何のために働くのか」を軸としながら、社会人としてキャリアを積み重ねていくヒントをたくさん紹介してくださいました。

創業から100年以上受け継がれる、「やってみなはれ」精神

今世紀に入ってから世界中に市場を拡大しているサントリーは、2兆3000億円の売上(2021年度)を持つ大企業。現在はお酒や飲料だけでなく、外食、健康食品、花、そしてハーゲンダッツアイスクリームなど、幅広い事業を行っています。サントリーは創業以来、「やってみなはれ」と「利益三分主義」という2つの精神を軸に、長い歴史を作ってきました。

創業は1899年の大阪。ぶどう酒を製造する鳥居商店から始まりました。1907年に甘味葡萄酒「赤玉ポートワイン」を発売し、外国人や上流階級に支持され大成功を収めました。最近ではプレミアムモルツのヒットやハイボールブームを成功させたサントリーには、今に至るまで、上述の「やってみなはれ」「利益三分主義」という創業精神が貫かれています。

「やってみなはれは、現状に満足せず常に成長を続けようとする挑戦。そして利益三分主義は、近江商人の三方よしに通じる精神で、高品質な商品やサービスの提供だけでなく、真に豊かな社会の実現を目指すこと。創業から100年以上経っても、私が勤めたサントリーにはこの精神が受け継がれています」

就活は、みなさんが企業を選ぶ場でもある

大学では文学部だった福本さんは、ご自身の就活を「志無し、業界希望無し」だったと振り返ります。様々な企業の説明会に参加する中で、印象に残ったのがサントリーでした。

「私が社会人になったのは、男女雇用機会均等法が施行される前で、男女の給与に大きな差があった時代。4大卒の女性はなかなか採用されませんでした。ところがサントリーの説明会には若い女性社員がいて、ウィットに富んでいて珍しかったんです。サントリー商品をよく知らず、第一志望でもなかったんですが、人事の楽しそうな雰囲気に惹かれて面接を受け、入社しました。

5年くらい働くかという軽い気持ちでの就活でしたが(笑)、自分はこれをやりましたと言える仕事がしたいと思っていました。そこで女性を戦力とする会社を探していたんです」

福本さんはご自身の経験を踏まえ、就活に挑む学生たちに自分に合った企業を選ぶヒントを紹介してくださいました。

「説明会で会った社員の印象と組織風土は、重なることが多いんです。みなさんたくさんの説明会に参加されると思いますが、そこにいる社員を観察することで、企業を深く理解できると思います。就活は学生のみなさんが選ばれる場であると同時に、みなさんが企業を選ぶ場でもあります。ぜひ萎縮せず、自分に合った企業を選んでほしいですね」

1人のプロとして、仕事に挑む姿勢とは

新人の福本さんは人事に配属され、研修担当に。入社6年目で目標とするロールモデルが社内にいないことに気づき、仕事の幅を広げて強みをつくるために社内留学制度に手を挙げ、2年間の教育を受けました。その後、広報に異動しサントリーホールの担当になります。

「広報は記者に情報を発信し、記事にしてもらう仕事。クラシックも芸術もあまりわからなかった私は記者とコミュニケーションがとれず、1年間まともな仕事にならず本当に悩みました。ある時、PR会社の女性社長から『貴女、今のままだと次の仕事はない。会社もつぶれるわよ』と言われ、勇気を出して記者の人間関係に入り込んでいったんです。するとだんだんと話を聞いてくれる人が増えました」

その後、結婚・出産をした福本さんは、3年間の育休を取得。早くから育休制度があったサントリーでは、お互いかばい合う社風があったそうです。育児と仕事を両立しながら広報として奔走したウィスキー博物館は、ご自身のレガシーになったと福本さんは当時を語ります。

2008年に支配人としてサントリーホールに戻ったとき、300人の大所帯になっていました。前任者と違い自分は強いリーダーシップを発揮するタイプではない福本さんは、みんなの意見を聞きながら3~5年先のパーパスを作り上げます。このとき「リーダーシップのかたちはひとつではない」と気づき、この経験がその後の福本さんの軸となりました。そして入社33年目の2015年には、サントリーホールディングスの役員に就任。会社の理念を事業に反映させる立場として、サステナビリティの実現に挑みました。

講義のまとめとして、
福本さんは女性が仕事で活躍するために役立つ心構えを強調しました。

① 目の前にある自分の仕事を楽しむ
② 努力を惜しまず熱中する
③ 人との関係を大切にする

「みなさんが社会人になると、様々な仕事を経験すると思いますが、どんなときもどんな姿勢で挑むかが大切です。好きなことなら夢中になる、人よりも努力する、まわりに応援しようと思ってもらえる。みなさんが1人のプロとしてキャリアを形成していく中で、ぜひこの3つを意識してほしいと思います」

キャリアは「目の前の仕事にベストを尽くす」ことから始まる

続く質疑応答では「モチベーションを維持する方法は?」という質問に、「新しい仕事はもがき苦しむほど大きくステップアップできる」と回答。「仕事ができる人とは?」という問いに対しては、「言われたことだけではなく、一歩先を見て動ける人。自分のアウトプットを受け取る、まわりの人のことも考えられる人ですね」と答えてくださいました。

いまと社会環境は大きく違いますが、大企業で輝かしいキャリアを築いてきた福本さんにも就活や新しい仕事に挑む苦労があったのは、これから社会で活躍する学生達にとって新鮮な共通点だったのではないでしょうか。サントリーの「やってみなはれ」精神を体現し、「目の前の仕事を軽んじることなく、ベストを尽くして挑む」ことで実績を残した福本さんの講義は、学生達の未来を支えるひとつの軸になることでしょう。

深澤教授の話

今年度の女性とキャリア形成6人目のゲスト、最後を飾っていただいた福本様は、昨年度に引き続きのご登壇となりました。ソフトな語り口がとても印象的ですが、ご自身のお話しからは、真面目に目の前の仕事に取り組む大切さや、やはり人間関係を何よりも大切にされてきた数々のエピソードをお聞かせいただきました。最後に、感じたこと、それはサントリー様の社員の方の、会社を愛する心の強さです。今の時代“愛社精神”という言葉はあまり登場しなくなりましたが、やはり、会社と社員のエンゲージメントを大切にされていることは、企業の成長には欠かせないものだと考えます。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

関連情報 【企業トップ層が語る!リレー講座】

【第5回】2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第五回に、元(株)資生堂執行役員常務の関根さんをお迎えしました!

【第4回】2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第四回に、SBI金融経済研究所取締役理事長の政井さんをお迎えしました!

【第3回】2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第三回に、元スターバックスコーヒージャパン(株)CEOの岩田さんをお迎えしました!

【第2回】2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第二回に、株式会社ANA総合研究所顧問の河本さんをお迎えしました!

【第1回】2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第一回に、OGのアフラック生命保険株式会社取締役専務執行役員の木島さんをお迎えしました!

2022年8月3日

2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第五回に、元(株)資生堂執行役員常務の関根さんをお迎えしました!

様々な分野で活躍し、輝かしいキャリアを築いてきた講師の方をお招きするリレー講座の第五回は元(株)資生堂執行役員常務を務めた関根さんです。
「皆様にとって仕事とは?」という問いかけで始まった授業では、資生堂に入社した関根さんがどんな壁にぶつかり、それをどう乗り越えてきたかというエピソードを軸とし、学生達が社会人として活躍しキャリアを形成していくためのヒントがたくさん盛り込まれていました。途中、美しい立ち姿や座り姿のコツを学ぶ時間も設けられ、学生からは歓声が上がっていました。

商品を「売らない」ビューティーコンサルタントとして

1972年にビューティーコンサルタントとして資生堂に入社した関根さん。学生時代に尊敬する先生と出会い、将来の夢は教師になることでしたが、御父様が寝たきりになったことで大学進学を諦めざるを得ず、就職を決めたそうです。「初任給が高い会社」を探す中で、出会ったのが資生堂でした。
入社したばかりの関根さんが担当したのは、スーパーなどに設けられた不定期の特設会場で、通りかかった人に化粧品を紹介・販売する仕事。高度経済成長を背景にした厳しいノルマは、なかなか達成できませんでした。

「毎日終礼で各自の売上を報告するんですが、ノルマの1割しか売れない日もありました。自分が目標を達成できなければ、チームの誰かが足りない分をカバーしなくてはなりません。毎日がプレッシャーでした」

悩んだ関根さんがたどり着いたのは、なんと「売らない」ことでした。いくらノルマを達成できても押し売りはやりたくなかった関根さんは、「商品を売る」から「商品を利用したお客様の喜び」にシフトしました。
「お客様に声を掛ける際、最初に『売りません』と言った上で、商品を体験していただいたんです。『押し売りされないなら…』と商品を試したお客様の美しさを、資生堂の商品で引き出すことで、自然と購入につながっていったんです」

多くのお客様から支持された関根さんは、着実に売り上げを伸ばしていきました。ここで関根さんが学んだのは、自分達はお客様のためにあるということでした。働くのは上司や会社の評価を得るためではなく、お客様の喜びのため、信頼を得ること仕事の本質をつかんだ関根さんは、実績を積み重ねていきました。

40年以上在籍する中で、様々な仕事を経験

その後、関係会社に出向し、そこで女性初の本部長に任命されました。さらに宇都宮支社の支社長、大阪支店支店長を経て、50歳のときに国際マーケティング部へ。ドイツ人上司のもとで、グローバル人材に囲まれながら働き、各国を飛び回りました。

「上司に私の配属理由を聞いたら『人事考課に自分の意見が言える。グローバル人材の第一要件を満たしていた』と言われました。意見を言わない日本人の中で、関根さんはものおじしないという評価だったようです」

英語がそれほど得意ではなかったという関根さんは、NYで行った30分の英語スピーチに秘書にルビを振ってもらうこともあったそうです。国際事業部での経験は、英語やグローバルビジネスに本気で取り組むきっかけになったと当時を振り返りました。

そして2012年に資生堂の執行役員に就任、2014年には執行役員常務、顧問を務めた関根さんは、2018年に独立し、(株)Bマインドを設立しました。現在は女性活躍、プラス志向講師として全国で活躍しています。

目の前に現れた壁は、困難であると同時にチャンス

関根さんはこれから社会に出る学生達に、チャレンジ精神の大切さを強調しました。

「お給料をもらう以上、会社では興味のない仕事もやらなくてはなりません。時には不本意な異動もあるでしょう。でも目の前の課題を『やりたくない』と思う前に、それをチャレンジととらえてほしいんです。勇気を出して新しい環境に飛び込むと、新しいものが見え、自分に足りないものがわかります。ぶつかった壁から逃げず、立ち向かうことが自分を成長させる経験になります。

仕事もプライベートも輝くための要件として①自分の強みを知る・磨く、②チャレンジ精神(失敗を恐れない)、③主体的であること、④タフな精神力を意識することがポイントだと関根さんは語ります。そして持続的な幸せという意味のwell-beingに役立つポジティブ思考を紹介しました。ポジティブ思考は物事を良い方に考えることではなく、つらく苦しい中で希望や解決策を探す思考と、探し出した光に向かって進んでいく強い精神のことです。それには目の前の壁そのものに価値を見出し、試練として受け止め、困難を突破して成長する「ブレークスルー思考」が役に立つといいます。

「人生は選択と挑戦の連続といえます。選択で大事なのは、ポジティブな思考と視点。挑戦で大事なのは、自分の強みと課題が一致していることです。そのためには自分の強みや得意分野を磨いておくのは、とても役に立ちます。

人生はアップダウンの連続といえます。チャレンジして失敗しても、それは貴重な経験ととらえればいいんです。みなさんには逆境を楽しみ、苦しいときほど笑うタフな精神力を身に付けていただきたいですね」
と締めくくりました。

well-beingにつながる具体的な手法で、輝く未来を創っていく

大きな拍手で終了した講演の後は、質疑応答の時間となりました。「自分に似合うメイクを教えてほしい」という質問には、質問した学生の長所を活かす具体的なメイクアドバイスがあり、みな真剣に聞き入っていました。また「プレゼンテーションで意識すべきことは?」という問いには、「ミスなく語るよりも、聴衆の目をみて心から湧き上がる自分の言葉で語ることが大切」と強調しました。

関根さんが紹介してくださった、キャリアを①今、やらなければいけないこと(must)、②今できること(can)、③やりたいこと(will)の3つでとらえる視点は、社会で活躍する際、自分を客観的に振り返る上で役に立つ視点になりそうです。仕事だけではなくプライベートも輝くwell-beingを実現する具体的な手法の数々は、学生の心に強く響いたようです。

深澤教授の話

女性とキャリア形成、5人目のゲストは、元資生堂執行役員常務の関根近子様でした。私が資生堂勤務時代には大変お世話になった方で、久しぶりにお目にかかりましたが、さらにパワーアップされておられるお姿に感動いたしました。全身から溢れるオーラに加え、ポジティブ思考のお話しに学生は魅了されていました。
60名を超える学生が教室でお聞きしているのに、学生一人ひとりと会話をされておられることを感じる、その雰囲気づくりがとても印象的でした。
やはり、こうして対面で、ゲストの姿から感じる「想い」を浴びることが大切であることを改めて感じました。この場を借りて関根様に心から感謝申し上げます。

2022年7月17日

2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第四回に、SBI金融経済研究所取締役理事長の政井さんをお迎えしました!

様々な分野で活躍し、輝かしいキャリアを築いてきた講師の方をお招きするリレー講座の第四回はSBI金融経済研究所取締役理事長の政井さんです。卒業生である政井さんは、今年の4月に客員教授に就任したばかり。
「人生100年時代」といわれる今、社会人として活躍できる期間はより長くなっていると政井さんは語ります。「マラソンのように続く社会人生活の中で、みなさんが目の前の課題を乗り越えるときに参考になれば嬉しいです」という言葉とともに、女性の活躍につながる様々なエピソードを紹介してくださいました。

世界で女性活躍推進の流れが始まったのは、1975年のメキシコシティから

今は当然のこととして、世界が取り組んでいる女性活躍。その始まりは、1975年にメキシコシティで開催された第1回国際婦人世界会議でした。ここで「国連婦人の10年」が採択され、各国が社会における女性の活躍を考えるようになりました。1979年には第34回国連総会において「女子差別撤廃条約」が採択され、あらゆる場面における男女の平等が約束されました。
こうした世界の動きを受け、日本では少し遅れて1985年に「女子差別撤廃条約」を批准した後、「男女雇用機会均等法」が施行されました。政井さんが就職した1987年の頃は、まだ職場における男女平等の制度が浸透する黎明期にあったそうで、法律が施行されたことは、ニュースとして扱われていました。2015年には「女性活躍推進法」や企業の女性活躍を数値で測るコーポレート・ガバナンス・コードが制定され、より具体的な実現に向けて日本社会がさらに動き出しています。

「女性活躍推進といったダイバーシティの流れが弱まることはありません。今は一部の世界的な企業だけの取り組みのように見えることも、やがては様々な企業へ広がっていき、日本全体の流れとなっていきます。ダイバーシティが推奨される背景には、いろいろな人の意見を聞くことで、組織がより良くなるという考えがあるからですが、見方を変えれば、その一員である自分がしっかりとした意見を持ち、それを伝えていくことが重要です。」

改めて、世界各国のジェンダーギャップ指数を見てみると、我が国は、ヨーロッパや北米に比べ出遅れています。教育や健康といった項目では上位国との差はあまりないものの、政治や経済といった社会に出てからの指標には、世界でも課題が残る中、我が国ではその中でも大きなジェンダーギャップが残っています。

「ここまで過ごしてきた皆さんの人生では、大きなジェンダーギャップをあまり感じることはなかったかもしれません。しかしながら、こうした統計を見ると一歩社会に踏み出せば、これまでとは違うことが多く待ち受けていることがうかがわれます。それを少し頭の片隅に置いておいてほしい。もちろん、先ほど申し上げたように、ダイバーシティの流れは弱まることはありませんが、ご自身が置かれている状況を理解しておくことも大切だと思います。また、少し話がそれますが、今日ご紹介したように、自分たちの身の回りで起こっていることを少しばかり統計や制度等で確認することで、物事への理解が深まり、知識が増えます。是非、意識してみてください。」

写真と共に振り返る、政井さんのキャリア

続く講義では、一人っ子で可愛がられたという政井さんの写真と共に、時代がどう変わってきたのかを振り返りました。政井さんが小さかった1970年代の日本の経済規模は73兆円で、現在の約8分の1しかありませんでした。
実践女子大学の英文科で学んでいた政井さんは、「仕事をするなら、英語を使った仕事をしたい」という気持ちから外資の金融機関に就職し、20年間勤めました。宗教や慣習が異なる20か国を超える仲間と共に取り組んだ為替を扱う仕事は、「国が変われば当たり前も違う」「異なる背景を持つ人達とゴールを目指す」ことを学んだ、貴重な経験になったと言います。
また、この間、仕事の合間をぬって、これまで仕事で得た知識を体系的に整理する機会を作りたいと、夜間大学院へ。
その後、部長として新生銀行へ転職。日本の金融機関ならではの文化などを通じて、「日本をよく知らなかった自分」に気づくことができたと当時を語りました。
執行役員となった頃には、学会発表等の機会を通じ、専門性を高めていきます。2016年には日本銀行の政策委員会審議委員に就任しました。任期満了に伴う退任後、現在は社外取締役などの責任ある立場として活躍しています

私の座右の銘のひとつは、『とりあえずやってみよう』。20代の頃、初めてのミッションでJAPAN DESKを設置するため、NY出張したのですが、さすがに緊張していました。そんな時、たまたま頼んだ中華のデリバリーにおまけのフォーチュンクッキーがあって、その中に、ウィリアム・コベットこの言葉“You never know what you can do till you try.”が入っていたのです。これを見て、なんだか気が楽になりました。
もうひとつは、『愛されたいなら、愛されるに相応しい人になれ』。これは古代ローマの詩人オウィディウスの代表作のひとつ「恋愛指南」にある言葉ですが、仕事の上でも必要な視点だと感じています。例えば、自分に任せてもらいたい仕事が任せてもらえないと感じたら、それはひょっとすると周りの目からみれば、仕事を未だ任せられる自分になっていないのかもしれません。自分の足りないものに気づき、それを埋める努力をするという視点も大切だと感じています。」

女子大には、女性がイニシアティブをとれる貴重な環境がある

「今はキャリアの総集編」と講義を締めくくった政井さんに、学生からたくさんの質問が寄せられました。「外資系金融で外国人と働く中で、困ったことは?」という質問には、「察する文化に慣れた日本人は、身体が大きくて押しの強い外国人の要求をのんでしまいがち。でも後からやりたくない、できないというのは卑怯だとされる。自分の意志は最初にはっきり伝えることが重要」と答えました。
また「英語を使う外資系企業に就職するために、今からやっておくことは?」という問いには、「相手に『この人は喋れる』という印象を持ってもらうことが大事です。何か、自分の興味があることを、英語で滔々と語ることができるよう練習しておくこともいいと思います。また、何でも興味を持つことは大事です。というのも、語れるものを持っていなければ、英語でも伝えられるものがありませんから。」と回答しました。
「女子大で良かったと思うことは?」という質問には、「男女共学の大学にあるジェンダーギャップが、女子大にはありません。みな女性がやる環境では、企画やリーダーなどに挑戦できる可能性が高くなり、イニシアティブをとった経験は社会で役立ちます。何事も視点を変えれば、違ったものが見えてきます。弱点と感じることを、利点に変える視点が大切ですね」
学生の挙手が止まない中、あっという間に講義時間が終了を迎えました。終始生き生きとユーモアたっぷりに学生に語る政井さんの言葉は、社会で活躍する学生達をこれからも勇気づけていくことでしょう。

深澤教授の話

昨年に引き続き、本授業にご登壇いただいた政井貴子様は、本学出身の先輩。外資系の金融機関での長年のご経験に加え、日本銀行でのご活躍は、現役の学生にとって決して近い存在ではないはずです。しかし、政井様が、目の前の仕事に、一つひとつ懸命に取り組まれたことの具体的なエピソード、そして実践女子大学での学びが、社会で十分に通用することなどをお話し下さり、学生たちの政井様との距離があっという間に近づいたことを感じました。やはり卒業生のお話しにはとても説得力があることを改めて感じました。この場を借りて政井貴子先輩に心から感謝申し上げます。

2022年7月4日

2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第三回に、元スターバックスコーヒージャパン(株)CEOの岩田さんをお迎えしました!

多くの人が知る大企業で確かな実績を残してきた講師の方をお招きするリレー講座の第三回は、元スターバックスコーヒージャパン(株)CEOの岩田松雄さんです。現在は株式会社リーダーシップコンサルティング代表として、未来の日本を創るリーダーを育成している岩田さんに、不透明な時代に女性がキャリアを形成するために、役立つヒントを語っていただきました。

女性の活躍は、1人ひとりの能力が発揮されること

1982年に日産自動車に入社し生産管理に携わった岩田さんは、社内留学先のUCLAビジネススクールにて経営理論を学びました。その後外資系コンサルティング会社やコカ・コーラを経て、2000年にはゲーム会社の(株)アトラスで代表取締役社長を努め、赤字を克服しました。その後、タカラで常務取締役、イオンフォレストで代表取締役社長を務め、2009年にスターバックスコーヒージャパン(株)CEOに就任し、それぞれV字回復させました。2013年に現在の株式会社リーダーシップコンサルティングを設立し、今に至ります。多くのリーダーを育成している岩田さんは、今の時代をどうみているのでしょうか。

「多様性が尊重される時代に、ジェンダーの扱いは慎重になっています。私は男女にはもって生まれた物理的な差があり、それぞれのよさがあると考えています。社会で大切なのは男女の関係なくその人が持つ能力を最大限発揮して活躍することです。
1980年代の米国では、黒人や少数民族といったマイノリティを過度に優遇するアファーマティブアクションが社会に混乱をもたらし、公平についての深い議論につながりました。女性だからといって差別されるのはもってのほかですが、個人を見ずに『女性である』という理由だけで優遇されるのは、女性とひとくくりにした乱暴な扱いであり、女性にとって失礼なことではないでしょうか。

マスメディアやネットでは情報が氾濫していますが、情報に翻弄されることなく自分の頭で考え、情報を取捨選択することが、これからの時代を生き抜く力につながっていくと思います」

企業は世の中をよくするために存在している

岩田さんによれば、企業は世の中をよくするためにある。企業は利益を挙げなければ存続できませんが、利益はあくまでも手段であることを忘れてはならないと強調します。

「みなさん就活では気になった企業を研究すると思いますが、その際はその企業のミッションをぜひチェックしてみてください。企業によって掲げているミッションは様々だと思いますが、共通しているのは『世の中をよくするためにやること』です。商品やサービスを通じて企業は世の中を良くするために存在しているのです。利益は決して目的ではなく、ミッションを実現するための手段です。その企業はなんのために存在しているのか、それを考えることが深い企業理解につながっていきます」

どの企業にも、経営理念、ミッション、ビジョン、バリューなど、が必ずあります。この明文化されたミッションに共感した人達が集まり、ミッションの実現に向かって邁進することで、企業は成長していきます。

自分のミッションも考えてみよう

ミッションは企業だけでなく、私たち1人ひとりにも大切なものだと岩田氏は語ります。個人のミッションは、「自分はなんのために存在しているのか」ということになります。

「私たち1人ひとりにも、ミッション(使命)を持つべきです。企業と同様に、個人のミッションは自分の存在理由といってもいいでしょう。使命とは自分の命をどう使うかと書きます。『自分が生きた証』にもなるミッションは、どうやって考えればよいのでしょうか。それは自分が好きなこと、得意なこと、人のためになることの三つが重なるところがヒントになります。(詳しくは拙著「ミッション」(アスコム)を参照してください)

自分の成長や環境変化とともに、ミッションは変わっていくものですし、変わってもいい。一度決めたからといって変えないのではなく、常に自分のミッションを考え、進化させることが大切です」
岩田さんは、仕事は「志事」、働くは「傍を楽に」と表現します。仕事は志をもって取り組む事、働くのは傍(まわり)を楽にさせるためという視点は、個人や組織の利益の追求だけでなく真に豊かな未来を目指す、いま注目される持続可能性にもつながるものでした。

質疑応答の後、花束のプレゼントが

報酬を得る手段に留まらない、幅広い視点で仕事を考える授業が終わった後、学生から様々な質問が寄せられました。「岩田さんのミッションは?」という問いに、「想定していた質問です(笑)」とジョークで返した岩田さん。現在のミッションは、「日本をよくするためにリーダーを育てることです」と笑顔で答えていました。

このほかにも「社長になりたいと思ったきっかけは?」という質問には、「社長だった父の姿を見て育ち、サラリーマンをやるからには頂点を目指したいと思ったから」と回答。また「挫折への対処法は?」には、「普段本を読んで出会ったいい言葉をノートに書き留め、悩んだときに読み返すようにしています」と答えました。「たくさん挫折をしてきました」と苦笑する岩田さんの手元には、自分を支えるこうしたノートが何冊もあるそうです。
この日は偶然にも岩田さんの誕生日とのことで、最後に学生から素敵な花束が贈呈されました。企業や自分が「なんのために存在するのか」という深いテーマを考えるきっかけになった今回の授業は、学生達の未来の支えになっていくことでしょう。

深澤教授の話

今年の前期は、「キャリアデザイン」に加えて、「女性とキャリア形成」にもご登壇いただきました。新入社員時代の志、懸命に努力された英語力向上のためのお取り組み、そして社長という立場でなくては見えない景色やご苦労など、豊富なご経験を通し、まさに「生き方」について示唆に富んだお話しをいただきました、さらには、岩田様の軸と言えるリーダーシップとミッションについても触れていただき、大変大きな勇気をいただくご高話でした。この場をお借りして心から感謝申し上げます。

2022年6月13日

2022年共通教育科目「女性とキャリア形成」第二回に、株式会社ANA総合研究所顧問の河本さんをお迎えしました!

日本を代表する大企業で着実にキャリアを積み重ねてきた講師の方をお招きし、女性のキャリア形成について語っていただくリレー講座の第二回は、株式会社ANA総合研究所の顧問を務める河本宏子さんです。国内線の客室乗務員(以下CA)として全日本空輸株式会社(以下ANA)に入社した河本さんは、当初長く勤める気持ちがなかったというのは意外です。軽快な登場曲に合わせて、拍手の中で颯爽と登場した河本さん。会社と共に自身も成長してきたという、貴重な経験を語ってくださいました。

1979年に同志社大学を卒業し、CAとして全日本空輸(ANA)に入社

京都で生まれ育った河本さんは、同志社の女子中高一貫教育を経て、そのまま大学へ。1979年にANAに入社し、国内線CAとして社会人のスタートを切りました。当時、CAは3~4年勤務し、結婚して子供ができたら退職する人がほとんどで、河本さんも自身のキャリアをそう考えていたそうです。

1986年、ANAが初の定期国際線に進出することになりました。面談で「社命に従います」と言った河本さんは、国際線CA異動リストに自分の名がありませんでした。

「このとき初めて、自分は国際線を乗務してみたかったんだと気づきました。その後、『国際線乗務を希望します。』と意思表明し、次の機会にかないました。

この時の経験から、河本さんは「自分の意志を言葉にして伝えることの大切さ」を心に留めるようになりました。

広い世界に出て、初めて気づいた自社の価値

ANAの国際線進出は順風満帆ではなく、国内線の利益が国際線の赤字を支えているような状態でした。転機となったのは1999年のスターアライアンスへの加盟です。世界最大の航空連合への加盟は、ANAにとって「世界と手を繋ぐ」ことでビジネスを拡大していく大きな転換点となりました。

「国際線乗務は私達にとって初めての経験でしたが、楽しかったです。就航当初はスーツ姿の日本人ビジネスマンが多かったのですが、スターアライアンスに加盟すると国籍、性別、服装など、多様なお客様をお迎えすることになりました。カルチャーの違いを知ることでの学びもありました」

会社の新しい挑戦にCA全員も挑む中、利用してくださったお客様から「座席やトイレが清潔」「食事がおいしい」「CAやスタッフが礼儀正しい」という感想が届くようになりました。 「世界各国の様々なお客様にご利用いただくことで、国内線では当たり前だった自社の強みを改めて実感することができました」と河本さんは当時を振り返ります。

客室本部長の時にiPadを導入。世界初の試みが注目される

1999年、「マネジメントもおもしろいのでは?」と感じた河本さんは管理職に。2009年には客室本部長として、多くのCAを束ねる立場を努めました。ANAが掲げる「お客様体験価値の向上」にCAが大きな役割を担う中、ANAは世界で初めてCA全員にiPad貸与を導入し、注目を集めました。全CAがiPadを携行することで、重いマニュアルが電子化されペーパレスになったたことをはじめとして、多くの業務が効率化されました。

「この画期的な変化は、IT部門をはじめとした社内の多くの方が支えてくださったからこそ実現しました。この経験で仕組みを考える人と使う人、ITが得意な人とそうでない人、さまざまな接点で共創が生まれるのを体験できました」

2017年になると河本さんはANAの役員を退任、ANA総研に移られ現在は顧問を務められています。また、東日本旅客鉄道株式会社・三井住友トラストホールディングス株式会社・株式会社ルネサンスの3社で社外取締役も務められています。

「対話」から生み出される一人ひとりのWell-being

続く授業では、河本さんが長く勤めたANAの経営がどう変化してきたか、また現在取り組まれているESG経営に触れました。企業にとって大切なのは「事業を通じて社会に貢献し、そこで働く一人ひとりのWell-beingを実現すること」。河本さんが取締役を務める3社は、鉄道、金融、健康と事業領域は異なるものの、幸福度に貢献しようと目指す点は共通していると言います。

「社会的価値と経済的価値。この二つを一緒に育てていくことが、企業の存続と成長に必要だととらえています。企業が潰れてしまっては、幸福な社会を生み出すこともできません」

河本さんが学生達に新たな視点を提示したのは、D&Iというキーワードでした。いまD(Diversity:多様性)と I(Inclusion:包摂)に多くの企業が注目していますが、真の多様性は組織にいろいろな人がいることではなく、まじりあうことだと河本さんは言います。「いろいろな人がいるだけでは、真の多様性とはいえません。その人達が自由に意見を出し合う環境があり、そのぶつかりあいからInnovation(革新)が生まれることが大切なのです」

講義の締めくくりは、もうひとつのキーワードWell-beingでした。働きやすさや働き甲斐を考えたとき、「出産直後は育児で大変だろうからプロジェクトを任せない、海外出張は無理」など、決めつけてしまうことに疑問を呈します。「働きやすさだけではなく、本人がやりたいことを実現できる環境について対話からスタートすることが働き甲斐にもつながるのではないでしょうか。組織のメンバー1人ひとりとの対話を通して、初めてWell-beingが実現できるのでは」

「意志を言葉にする」という言葉に、勇気づけられた学生達

真剣なまなざしが集中した講演後は、5人のグループ(CUBE)から1つずつ質問が寄せられました。「意見を言うマインドを保つには、どうしたらいいですか?」という質問には、河本さんも自身が役員になりたての頃は、会議で意見を言えなかった経験を披露。その上で「役員会では必ず1回は発言すると決める」「後になると言いにくくなるので、最初に意見を言う」といったアイデアが紹介されました。

このほかにも「CAの仕事で忘れられないことは?」「ANA経営危機におけるエピソードは?」「意見を言いやすい環境を作るには?」など、多くの質問が投げかけられ、河本さんは当時の経験を交えながら、丁寧に答えていました。 河本さんが何度か触れた「意志を言葉にする」という言葉には、多くの学生達が感銘を受けたようです。盛り上がる中であっという間に終了時間を迎えたこの授業がきっかけとなり、社会に出ても真の多様性や幸福を考え、追求できる学生が増えていくことでしょう。

深澤教授の話

河本様の豊かなご経験に基づく数々のお話しは、学生にとって分かりやすく、とても学びの深い大切な時間となりました。ご講演後にいただいたメッセージには、次の4点が綴られていました。①「何のため」という問いかけを忘れず、その時に「立ち返る原点」は?②周りとの比較ではなく違いを受け入れる「一人ひとり」輝く社会とは?③先人の「変わる」ことを恐れないチャレンジから学ぶことの価値は?④「未来は、想像と創造」。過去に囚われず豊かな発想で想像し、道を進むときに必要な武器の用意をどのようにしますか?いずれも、これからの時代を歩む学生にとって、生涯持ち続けて欲しい大切な問いかけとなりました。河本様には、この場を借りて心から感謝申し上げます。

2022年6月3日

Life Ship株式会社代表取締役の田形正広氏が「キャリアデザイン」の授業で世界にただ一つの講演を行いました。

2022年度の共通教育科目「キャリアデザイン」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)は「今、社会や企業が求める人材とは」をテーマに、キャリア形成を学びます。企業のトップなどゲストも多数招き、リアリティがあると評判の授業。2022年5月10日(火)のゲストは、Life Ship株式会社の代表取締役の田形正広氏。深澤教授との縁により実践女子大学で講演を行うのは7回目となります。世界にただ一つのコンテンツである「ワンピースキャリア論」に、学生たちも興味津々で耳を傾けていました。

漫画「ワンピース」でキャリアを学ぶ?

田形氏はLifeship株式会社という、派遣社員の評価をスムーズに行う評価管理ツールを提供するベンチャー企業の代表取締役。人材派遣会社パーソルの営業部部長を経験後、Lifeship株式会社を起業しました。 そんな田形氏が大好きな漫画が「ワンピース」です。ワンピースは週刊少年ジャンプで連載中の、世界的にも人気の少年漫画。主人公のルフィを中心に海賊たちが大冒険を繰り広げる物語です。田形氏は「ワンピースには人生で起こることのほぼすべてが詰まっている」と言います。仕事のことやリーダーシップについても描かれているのというのです。キャリアと漫画がどう結び付くのか学生たちも興味津々です。

楽しく自由に一生懸命に「今」を生きるとは

田形氏は「伝えたいメッセージは2つだけ」と講演をスタートしました。メッセージの一つ目は「人生は冒険だ!」。「忘れがちですが自分の人生の主役は自分なんです。自分の人生に遠慮は無用」と田形氏。家族や友達を気にして進路を選んでしまうことがないようにアドバイスしました。

二つ目のメッセージは「海賊になろう!」です。海賊になるとはどういうことでしょうか。これはワンピースに出てくる海賊たちのように、楽しく、自由に、一生懸命に「今」を生きようということ。田形氏は、まず自由とは「何を信じてどの道を進むか自分で決めるということ」と定義しました。自由には責任が伴います。何をしてもいいですが、それを人のせいにはできません。何をどう行動するのか一つずつ自分で決断する必要があります。

しかし、決断するのは容易なことではありません。それには自分なりの価値観を持ち、情報を集めることが必要です。たくさんの情報を精査し、判断していくことが大切だと言います。田形氏のひとつの判断基準は「好き・嫌い」といった簡単なもの。なぜそれが好きなのか、嫌いなのかを掘り下げていくことは自分を客観視することにも繋がります。

では、「一生懸命に」生きるとはどういうことでしょうか。それは行動を起こしているかどうかだと田形氏は言います。勇気を持ってまずは動いてみること。それにより悩んだり失敗したりすること。成功したかどうかは問題ではなく、まず行動できていることが一生懸命「今」を生きている証拠なのです。

現実をワンピースに例えると何が武器や力になる?

ワンピースの世界では、能力者と呼ばれる特殊な力を持つキャラクターが登場します。能力は「悪魔の実」という特別な果物を食べると身に付くのですが、代わりにカナヅチになってしまうという犠牲を伴います。悪魔の実を現実で例えると、これは時間を犠牲にして身に付ける専門的な技術や資格です。しかし、悪魔の実を食べていないキャラクターも多数活躍しており、田形氏は「あると大きな力を発揮するが必ずしもマストではない」とも助言しました。

また、ワンピースのなかで強いキャラクターは「覇気」という力を身に付けています。覇気には3つの種類があり、それぞれを現実に当てはめることができると言います。

気配を読む「見聞色」の覇気は、自己客観力と他者共感力。自分を俯瞰し長所短所を把握することは大切です。また相手の立場に立ち、コミュニケーションを円滑に行うことも社会生活ではとても重要な力です。

大きなパワーを出せる「武装色」の覇気は、自己コントロール力だと言います。感情に振り回されずに常に冷静でいる力を身に付けることは大切ですが、なかなか難しいこと。これを身に付けるには、田形氏は「いつも挨拶、笑顔を忘れず、つい甘えてしまう家族にも言い方に気を付けると訓練になります」とアドバイスしました。そしてこの見聞色と武装色をどちらも身に付けた人は、誰もが認める魅力的な人になると言います。 最後の「覇王色」の覇気は天性の自信。努力や実績で身に付いた自信とは別に、自分にはできるという根拠のない自信があると、より大胆に行動することができるのです。

「つながり」のキャリア論

今回の講義を通して田形氏が伝えたかったことは「自分の行動や経験と人の縁は繋がっていく」ことだと田形氏は実感を込めて言います。「どこでなにがどう繋がるかは分からない。ただ、勇気を出して行動すると願いは叶っていきます」。例として田形氏と深澤教授との繋がりが挙げられました。キャリアコンサルタントが大勢集まる会で深澤先生が講演をした際に、名刺交換をし、深澤教授の著作の感想を思いきってメールで送ったことから縁ができ、夢だった大学での講義が実現したと語りました。 田形氏は「自分にしかできない仕事=天職」と定義し、田形氏自身もまだ見つかっていないと言います。「自信満々に見えるかも知れないけど軸がブレることもあるんです」と飾らない言葉で真摯に学生に語る田形氏。初就職した会社は半年で退職し、パーソルでも企画職に在籍していた際システム開発のプロジェクトに失敗した過去や、去年思い悩んでいたことも語ってくれました。それでも「自分の人生を生きるために行動しよう」としたことが今に繋がっていると強調しました。

学生の頃より大人になってからが楽しいと自信をもって言える

講義を聞いた学生たちから、いくつか質問も飛び出しました。周りを気にしてしまって、ネガティブな感情が出てくる場合はどうすればいい?という学生には、田形氏はそれは周りや自分のことをよく観察している証拠だから「見聞色の覇気の達人になれる素養がありますよ」と答えました。ただ、冷静に自分を見つめ、主観的な感情に振り回されないようにと助言しました。

学生時代と大人になってからの自由はどう違うのか、といった質問には、学生時代は無責任だったが大人は責任とともにスリルがあると語り「大人の方が楽しいと自信を持って言えます」と答えました。大人になってからは仲間やお金なども増え社会や人のためにできることが広がると熱く語りました。

社会の荒波を乗り越えていくことは大変なことです。しかしその先に仲間や愛情といった「宝物」が待っている、と学生たちへエールを送りました。

深澤教授の話

日本の中でも、ここ実践女子大学だけで聞ける特別講座田形正広様の「ワンピースキャリア論」も、今年で7回目となりました。田形様のキャリアをご披露いただきながら、その数々のご経歴がワンピースにトレースされて、キャリア論として語られる内容は、毎年、学生がとても楽しみにしている講座です。7回目ですが、内容も資料も毎年アップグレードされ、そして、その年々の、田形様のキャリアの今が重なりながら進化していくこと、とても興味深く聞かせていただいています。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。