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2022年9月5日

共立メンテナンスのビジネスホテル「ドーミーイン」の認知度を上げる施策についてプレゼンする特別授業が行われました。

高橋裕樹特任教授による「株式会社共立メンテナンス」とのコラボ授業が6月24日に渋谷キャンパスにて行われました。1か月前に課題が出され、この日は最終プレゼンテーションに臨みます。課題は「共立メンテナンスが運営するビジネスホテル「ドーミーイン」の女子大生の認知度を上げる施策を考える」。全18班のなかから選ばれた5班が全員の前で発表を行いました。プレゼンの時間は10分です。共立メンテナンスの橋本氏と船木氏も丁寧にFBしてくださいました。

ストーリーズ広告を利用して女子大生にもアピール

一番手の班は、ドーミーインはビジネスマンからは人気が高いが学生が利用するには SNS映えしない点に注目しました。インスタグラムでは「#ドーミーイン」の投稿が少なく、20代はドーミーインには泊まっていないことが分かります。そこで、インスタグラムのストーリーズ広告を利用する案を提案。インフルエンサーにドーミーインを利用してもらい、その様子をストーリーズで流します。ドーミーインに来店しその「インスタを見た」と言うと特典がもらえるという作戦です。また、学生は電車での移動が多いため、駅構内で広告を展開することで、学生の目にもつきやすいのではないかと提案しました。

共立メンテナンスのお二人からのFBは「実例を入れていて説得力があった」と誉め言葉が。「ドーミーインとインスタの親和性についてもう少し言及があれば」という意見もありました。

口コミの投稿を増やす工夫を

2番目の班は20代女性の半数がビジネスホテルを使うという調査結果と、女子大生はSNSの投稿や口コミから情報を得るので、多くの人に利用してもらい口コミしてもらうことを目的に据えました。Z世代はオタク活動など宿泊以外の目的でホテルを利用することが多いことに注目。20代が多く利用する民泊サービスの「エアビー」などを比較することで、ホテル選びの基準は「安く安全でかわいい」ことが重要であるとしました。そこでビジネスマンに人気の夜鳴きそばではなく夜パフェなどのスイーツを出したり、浴衣やアメニティを充実させたり、女性専用フロアを作るなどを提案。様子をインスタグラムに投稿すると特典を付けることで口コミ効果を狙いました。

「現状分析をしっかりしている」という感心の言葉とともに、「フロアや部屋のレイアウトを変えることはすぐには難しい。実現可能性は少し薄い」というFBもありました。

女子大生のブームに乗れ!サウナで認知度アップ

次の班は女子大生にも人気のサウナに焦点を当てました。ドーミーインはビジネスマンの間で、温浴設備が整っているブランドという認識があり、サウナも評判が良いです。そこで注目したのが、女性も月数回サウナに行く人が最近増えていること。女子大生の80%以上がサウナに行った経験があります。ドーミーイン公式のSNSでサウナの魅力をアピールし、サウナ女子会「サ活」に利用してもらうという作戦です。

FBではサウナへの着眼点とコンセプトがしっかりしていることへの褒め言葉が。「インパクトがあるので、提案の仕方をもう少し工夫したらさらに良かったですね」と助言がありました。

SNSを使ってまずは知ってもらうことから

「認知度を上げる」課題ということで、泊まることにこだわらない提案をする班もありました。認知度を上げるにはやはりSNSを活用します。知ってもらう策としてTwitterで自分の周りにあるドーミーインの写真を投稿してもらい、「#私の街のドーミーイン」というハッシュタグをつけてもらいます。どこにある、というのを広げてもらうのです。また「助けてください」という自虐的なアピール方法で大学生に面白く思ってもらう作戦です。公式アカウントをフォローし投稿してくれた人の中から1か月に5人ほど宿泊券などのプレゼントを行います。キャンペーンは継続的に行い、大学構内のポスターなどで宣伝することも提案しました。

共立メンテナンスのお二人からは知ってもらう対策に特化していることや、公式アカウントのフォローのハードルを下げる施策も考えられていることについて感心の言葉が聞かれました。

「住むホテル」で思い出作りを

最後の班はドーミーインのイメージを変える戦略を提案しました。ビジネスマン向けの短期滞在ホテルというイメージをなくし、女子大生でも泊まりやすくするために考えたのが、長期宿泊です。女子大生の友達と共同生活してみたいという願望に狙いを定め、安価で長期宿泊プランを設定。朝食プランやアメニティを充実させ自分の家のように使えるようにします。観光目的にも利用でき、「住むホテル」として友達との思い出作りの場にしてもらうという提案です。

お二人からは「とても説得力のあるプレゼンでした」と評価が。ただ「プランを利用したくなるところまでもう一歩踏み込んでほしかった」という言葉もありました。

それぞれの考えやリサーチ力が光ったプレゼンテーション

5組の発表を終え、最後に総評がありました。「一次資料提出の時から、方向性が大きくグループに分けられました。プランを作る、広報に力を入れる、施策に着目する、の3つです」。それぞれのグループの中から優れていた班などに最終プレゼンに臨んでもらったということでした。最後に優秀班の発表が。「どの班もよく調べていて優劣は本当に僅差でした」と選ばれたのはサウナの魅力をアピールした3番目の班でした。優秀班にはドーミーインの無料宿泊券がプレゼントされました。

学生たちからも「今まで知らなかったが、ドーミーインの魅力を知れた」「短い期間だったがいい発表ができてよかった」という感想が聞かれました。

高橋特任教授からのメッセージ

 今回の授業は実際に企業様(株式会社共立メンテナンス)のご協力をいただき、グループで議論し、中間報告から最終的に企業様にプレゼンテーションを実施する課題解決型の授業を行いました。
共立メンテナンス様からのお題は「ドーミーインの女子大学生の認知度を上げる施策を考えよ!」でした。

今回の授業では全国にビジネスホテルを展開する「ドーミーイン」の認知度を上げることができるのか?同時に共立メンテナンス様の事業内容の理解、ビジネスホテルの理解、女子学生の消費者行動などの現状分析を行い、解決に向けて自分たちができることを考え、企業、業界理解、マーケティング的思考を深める事ができました。ビジネスホテルの特徴や、なぜ女子学生の認知度が低いのかなどグループで議論し課題を発見し、新しい宿泊サービスを企画提案できた事は学生にとって貴重な体験となりました。この授業をきっかけに学生自身も社会人として必要なスキルや取組姿勢など多くの学びがあったと思います。共立メンテナンス様、船木様、橋本様、本当にありがとうございました。

2022年7月28日

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を総括!五輪メダリストの有森さんが本学で特別講義を行いました。

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会からもうすぐ1年となる7月5日(火)、五輪女子マラソンメダリストの有森裕子さんが本学渋谷キャンパスを訪れ、特別講義を行いました。有森さんは、新型コロナウイルス感染症拡大により原則無観客で行われた前例のない大会を振り返り、「五輪は選手だけでなく見る人、支える人、すべての人々が主役の祭典。国と国の対抗戦でもない」と、五輪憲章に立ち返りその意義を見直す必要があると語り、「未来の五輪を変えていけるのは、大会運営当事者ではなく皆さんの声だけ。人ごとと考えずに自分の声で五輪を変えていく楽しみを見いだしてほしい」と呼び掛けました。

「自分で自分をほめたい」、あの名言から26年。東京五輪のレガシーとは

2、3年生が対象のキャリア教育科目「国際理解とキャリア形成」の一環として行われたこの特別講義。2020年、2021年に続き、五輪女子マラソンメダリストの有森裕子さんとスポーツニッポン新聞社の藤山健二編集委員との対談が実現しました。指導教授は文学部国文学科の深澤晶久教授(キャリア教育)です。

冒頭は、1996年のアトランタ五輪の女子マラソンに出場した有森さんが、見事銅メダルを獲得した直後のインタビュー映像を視聴するところからスタートしました。1996年の新語・流行語大賞にも選ばれた「自分で自分をほめたい」というあの名言が生まれたのは、まさにこの時です。あれから26年――、コロナ禍で1年延期、原則無観客という異例の状況下で開催された東京五輪から間もなく1年がたとうとしています。有森さんは大会開催当時を振り返り、「本来、東京五輪が開催されるはずだった2020年からすでに2年以上たっているが、なんともスッキリしない」と話します。「東京五輪の余韻はあっさりしていて、どこか冷めた感がある。オリンピアンの一人として五輪の基本に立ち返らなければいけないと思うようになった」。

一方で、東京五輪での日本人選手の活躍には目覚ましいものがありました。有森さんが2度目のメダルを手にしたアトランタ五輪での日本人のメダル獲得数は、金3個、銀6個、銅5個の計14個。それに対し昨年の東京五輪では、金27個、銀14個、銅17個の計58個と、日本人選手の競技力は確実に向上しています。それでも有森さんは「東京五輪には振り返る内容が乏しい」といいます。「コロナ禍での異例の開催となったことで、大会開催前に想定していたレガシー創出は実現できなかった。これは仕方のない結果だが、今もなお東京五輪のレガシーは何だったのか問い続けている状況にある」。

とはいえ、ソーシャルインクルージョンの実現には東京五輪の開催がプラスに働いたと続けます。「選手だけでなく、観客や運営サイド、さまざまな人たちのことをあらゆる角度から考える機会となったことには意義があった。大会後はパラリンピアンからの発信が増え、彼らを支えるスポンサーも当然のように増えた。障害は決して特別なものではなく、自分たちもいつでも障害者になり得る。すべての人たちが社会に参画する機会を持ち、共に生きていくことについて考える頻度が高まったことは喜ばしい」。

今こそ五輪憲章の基本に立ち返るとき

「五輪の主役は選手だけではない。観客も、運営スタッフも、ボランティアも、すべての人が主役」と話す有森さん。だからこそ、原則無観客での東京五輪は異様な大会だったと指摘します。「選手は参加したという満足度を得られたかもしれないが、観客という大きな主役を欠いての開催は異常だったと言わざるを得ない」。その言葉を受けて「選手の声だけが響く会場の様子を記事にするのには苦労した」と回顧した藤山氏は、ロシアの軍事侵攻が五輪休戦決議違反だと非難されている点に話を移しました。「五輪開幕の7日前からパラリンピック閉幕の7日後までを休戦とする」という五輪休戦決議は193のすべての国連加盟国によって採択されましたが、ロシアは北京五輪閉幕後間もなくウクライナへの侵攻を開始。ロシアおよび同盟国であるベラルーシの選手たちは、北京パラリンピックの出場を禁止され、その後も国際大会から締め出されています。この現状に対し有森さんは、「そもそもオリンピックは選手個人、もしくは団体による競技大会であり、国と国との対抗戦ではない」と述べた上で「国として選手をひとくくりにして排除しても平和的解決にはつながらない。五輪憲章を掲げているのだから、もう少し丁寧に判断してほしかった。このままでは排除された選手たちが国際大会の場に復帰する道のりは険しい」と、ロシアやベラルーシの選手の立場に寄り添いました。

そこで藤山氏は、「オリンピック競技大会は、個人種目もしくは団体種目での競技者間の競争であり、国家間の競争ではない」という五輪憲章の一文をあらためて掲示。有森さんは、「選手の中には国旗を掲げてメダルを取ることを目標に戦っている人もいる。それでも五輪憲章の根本原則を軸にしないと、本来の五輪のあるべき姿が崩れていく恐れがある」と警鐘を鳴らします。「五輪は国と国との対抗戦ではないし、世界選手権のようなチャンピオンシップでもない。標準記録はあるものの、それに満たなくても各国から1人は参加していいというルールがある。あくまでも『平和の祭典』であり、メダルの数を数えたり、国別の順位を決めたりすることには矛盾があることに疑問を持ってほしい」と学生たちに投げ掛けました。

さらに有森さんは、「メダルを逃して謝罪する日本人選手の姿をよく見るが、メダルが取れなかったことで自分を卑下する必要はない。自分をたたえることが支えてくれた人たちへの感謝になるはず」と続け、五輪は個人もしくは団体が競い合う中で、自身を高め、互いを認めることこそ重要だと強調。「競技前の記者会見で『本調子ではないけれど頑張ります』とコメントする選手がいるが、これは応援している人に対しても、一緒に戦う選手たちに対しても失礼」とスポーツマンシップの在り方についても疑問を呈しました。

そんな有森さんにとって、東京五輪からの新種目、スケードボードの選手たちの姿は印象深いものだったといいます。「スケードボードの選手たちは、互いの健闘をたたえ合っていた。メダルが取れた、取れなかったに関わらず、仲間の勇気を称賛し合うその姿は、順位や国を過剰に意識し競い合うほかの競技の選手たちの異様さを浮き彫りにした」。

男女平等な五輪とは

藤山氏は、2024年に開催されるパリ五輪では、長い歴史で初めて男子と女子の参加選手数が同じになる点を取り上げ、何を持って男女平等の五輪とするのか、その問題の複雑さについても有森さんに見解を求めました。「女子マラソンは1984年のロサンゼルス五輪で初めて採用された種目。当時は女性の体力的な問題が懸念されていたが、昨今では女子マラソンへの見方は変わってきた」と有森さん。陸上競技においては男女平等を声高にうたう場面に遭遇しなかったものの、「男性、女性という性別だけではくくれない世の中になってきていると感じる」と話します。「たとえば、生まれながらにして男性ホルモン値の高い女子選手の女子種目への出場を制限するような規定もある。ホルモン値をコントロールし、本来の自分の体を変えないと出場できないというのは、その人の基本的な人権を脅かすことにもなりかねない」とし、「一般社会のジェンダー問題がスポーツ界の問題にもなってきている。これを契機に、皆さんも男女平等について考えてみてほしい」と呼び掛けました。

順風満帆ではなかった有森さんの競技人生

対談の終盤は、有森さんの競技人生について話が及びました。中学、高校と、大きな大会で成績を残したことがなく、大学4年生の時は体育の教員になるつもりだったという有森さん。教育実習先の学校で「体育の先生って頭良くないんでしょ?」と生徒から思いも寄らぬ言葉を投げられ、スポーツ選手としてこのイメージを覆すことに興味を持ち、競技生活を続けることにしたといいます。「大学4年生の夏に、実業団に挑戦したいと両親を説得。予備知識を持たないまま、リクルート陸上部の門を叩いた。そこで初めてマラソンの名指導者、小出義雄監督にお会いし、1時間かけて陸上に懸ける思いを熱弁。『君の根拠のないやる気に興味がある』と監督に言わしめるに至り、入社させてもらえることになった」とのこと。当時は練習メニューをこなすだけで精いっぱいだった有森さんに対し、小出監督は決して「早く走れ」とは言わず、「何時間かかってもいいから、メニューはこなそう」と説いていたそうです。その言葉に従いながら、1日に30~40km、月に1,000kmと走り続けているうちに、有森さんはめきめきと実力をつけていくことになります。

そして、そんな血のにじむような努力の結果、ようやく手に入れたバルセロナ五輪の切符。しかし、有森さんは手放しで喜べなかったといいます。「女子マラソンの代表枠は3人。すでに2人は内定していて、残る1枠を松野明美選手と争うかたちに。当時は明確なオリンピックの代表選考基準がなかったこともあり、最終的に代表に決まった私を批判する人も少なくなかった」。そんなプレッシャーの中、有森さんはバルセロナ五輪で見事銀メダルを獲得して凱旋帰国します。「飛行機を降りて通路に出て無数のカメラのフラッシュを浴びた瞬間、メダルが取れて本当に良かったと思った。この時、メダルがまるで防弾チョッキのように感じられた」。

その後のアトランタ五輪までの4年の間も大変な道のりだったという有森さん。足底筋膜炎の手術を乗り越え、再びオリンピックの舞台に立ちます。「よくぞここに戻ってこられたと思った。そして、続く自分の人生の武器として、どうしてもメダルが欲しかった。誰かに自分の言葉を聞いてもらうためにはメダルが必要だった」。そして、見事銅メダル獲得を果たした有森さんは、目標にたどり着くまでの過程で悔いなくやり切った自分をたたえ「自分で自分をほめたい」、そう口にしたのでした。

未来のオリンピックは皆さんの手で

2つ目のメダルを手にした有森さんは、その後自らプロを宣言。今では当たり前となった選手の肖像権の自己管理やCM出演など、後進に新たな道を開きました。そんな有森さんは、五輪の未来について「スポーツを通した平和の祭典という基本を崩してほしくない。世界にまたがる祭典なので、さまざまなメッセージや社会の気付きを表現し、人間社会に寄与できる場であってほしい。世界中のすべての人たちをつなげる架け橋となり、大きな平和の象徴となる祭典であってほしい」と展望を語りました。「未来の五輪を変えていけるのは、大会運営当事者ではなく皆さんの声だけ。人ごとと考えずに自分の声でオリンピックを変えていく楽しみも見いだしてほしい」と呼び掛け、「五輪は選手のためだけのものではない。選手ファーストは競技当日だけで、基本は社会ファースト。さまざまな人々が共存する中で育んでいくのが五輪。ぜひ皆さんの手で未来の五輪を育ててほしい」と結びました。

グループワークでオリンピックの将来像を考える

 有森さんと藤山氏の対談の後、学生たちは「実践女子大生が考える五輪の将来像」というテーマで行うプレゼンテーションに向け、グループに分かれてブレストを行いました。開催規模、開催時期、開催地はどこがいいか、参加国、参加者(男女)はどうするか等々、作戦を立てるにあたり、有森さんに直接質問しに行く学生の姿も見られました。

 今回の特別講義から拾い上げたヒントを盛り込みながら、学生たちはどのようなオリンピックの将来像を考えるのか。プレゼンテーションは、今後の「国際理解とキャリア形成」の授業の中で行われる予定です。

深澤教授の話

スポーツニッポン新聞社様とのコラボ講座は、今年で5回目を数えました。
「東京2020」について、共に考え、共に参加することを楽しみに進めてまいりましたが、延期、そして無観客開催と、想定外の変化の中で行われた大会から1年、大切なのはしっかりと振り返ること、まさにレガシーを考えることに意義があると考え、本年も継続して実施いたしました。
そして、今年も有森裕子さんと藤山健二記者にお越しいただきました。
オリンピアンの立場から、また現場での長い取材経験からの視点は、とても興味深い内容でありました。とりわけ、オリンピックパラリンピックは、国別対抗ではなく、個人と個人が競い合い高めあうことであるというお話しは、今後のオリンピックパラリンピックを考える上で大変貴重なお話しでした。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

2022年7月27日 スポーツニッポン新聞に掲載

©スポーツニッポン新聞社

今回の取り組みが7月27日(水)のスポーツニッポン新聞にて掲載されました。また、オリンピック・パラリンピック1周年記念セレモニーにも本学が参加しており、その取り組みも記載されています。

2022年7月27日

JR東日本の皆様と一緒に日野市の魅力を伝える「駅からハイキング」のコース作りを行いました。

6月22日(水)に日野キャンパスで、現代生活学科の授業(担当:須賀 由紀子教授)でJR東日本とのコラボ授業が行われました。学生たちは実際にJR日野駅にて行われる「駅からハイキング」というウォーキングイベントのコースや特典を考えます。キャンパスのある日野市の魅力を考えるアイディア出しをJR東日本の社員の皆様と一緒に行いました。

駅は「きっぷを買う場所」から「地域の魅力を発信する場所」へ進化している

須賀 由紀子教授

去年のこの授業の履修者である現代生活学科OGが、JR東日本に入社し八王子駅に配属となり奮闘していることが紹介され授業はスタートしました。

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、北は青森県から南は静岡県・伊豆半島(伊東市)まで1都16県の東日本地域の、鉄道を中心にした業務を運営しています。現在約4万8千人の社員が働いています。昨年度はコロナ禍の影響で大きな赤字が出てしまいましたが、社会インフラのひとつとして大きく成長を続けている企業です。

企業理念は「究極の安全」と「すべての人の『心豊かな生活』の実現」。鉄道会社ですから安全はもちろん大事です。その上で同じくらい重要視されているのが豊かな暮らしの手助けをすること。窓口担当の鈴木氏は「駅はきっぷを買う場所でしたが、今では地域の魅力を発信する場所になっていると思っています」と言います。茨城県では自治体と共同し、名産の栗をアピールする「笠間栗ファクトリー」の建設や、JR青梅線沿線の空き家を「沿線まるごとホテル」に生まれ変わらせるなど、地域創生に力をいれています。豊田駅長の糸井氏は「キャンパスのある日野駅とともに、日野市のPRに力を入れていきたい」と言います。

「駅ハイ」ってどんなイベント?

その地域創生の取り組みとしてのひとつが「駅からハイキング」です。「駅ハイ」とも略され、季節に応じた地域の魅力を楽しめる無料のウォーキングイベントです。東日本各地の駅で実施され、常時50コース以上が用意されています。期間は、1日以上3ヶ月以内とコースによってバラバラ。アプリを使って参加受付するので、受付時間内であれば時間に縛られず日帰りでいつでも気軽にハイキングを楽しめます。また多人数で動くようなツアーと違って、コロナ禍でも自然や観光を楽しめるのも現代のニーズにぴったりです。

駅ハイは地域の文化や歴史、産業やグルメなど埋もれていた観光素材を掘り起こし、その地域の活性化につなげることが目的なので、地域の人が紹介したいスポットを取り上げコースに組み込みます。また、コースを巡る際に地元住民の方々とトラブルにならないように事前の相談や下見なども行う必要があります。他にもチラシやマップを作成したり、資料を集めたりと実施されるまでの工程はさまざま。ルートの案が提出されてから3ヶ月ほどで、ようやくコースが開始されます。

「駅ハイ」のコースを考えよう!

学生たちには日野駅からの「駅ハイ」コースを考える課題が与えられました。ただ、「元々駅ハイを知ってた方はいますか?」と聞かれて手を挙げた学生は0。それもそのはず、参加者の年齢の割合は50~60代の方が大半を占め、20代はわずかしかいません。そのため、ターゲット層をどこに向けるかも学生たちで考えます。あえて若者向けのルートにするのもひとつの案です。

参加人数は土日の多いコースで、一日平均100人。昨年日野駅で行った新撰組ゆかりの地を巡る自然散策コースは一週間で約750人が参加されました。

コースレイアウトは本当に多種多様。所要時間もコースによってまちまちですが、施設などの立ち寄り時間も含めてだいたい4時間ほど、約12~15kmくらいのものが多いとのこと。スタートとゴールの駅は必ずしも同じでなくてもよく、沿線沿いを歩いて隣駅がゴールというコースもあります。コース、立ち寄り施設、特典…すべてを学生たちで考えなくてはなりません。糸井駅長の「皆さんならではの視点でコースを考えてみてください」とエールを受け、後半のグループワークに移っていきました。

日野市の魅力って?どんな特典がいい?アイディア出しから形にする

学生たちは3つの班に分かれ、模造紙に思い付きやキーワードとなる言葉をふせんで貼り付け、アイディア出しをしていきます。それぞれの班をJR東日本の社員の皆さんが回り、話を聞きながらどんなことができるかアドバイスをしてくださり、さらに案を深めていきます。

TOYODA BEERを若者に楽しんでもらいたい、という班は、10月に行われる「オクトーバーフェスト」と連携した特典を考えていました。インスタ映えするビールフロートの開発や、ステッカーやコースターなど様々な案が出ました。TOYODA BEERは約130年前に現在の日野市域で誕生した多摩地域最古のビールで、現代に復刻されたクラフトビールです。

TOYODA BEERに注目する班はもう1班あり、謎解きまちあるきやおいしいパン屋さんのある日野市豊田地区のパンの食べ歩きなど50~60代の参加者も若者気分になれるような案を考えていました。

もう1班は若者をターゲットに、SNS上でのフォトコンテストやハッシュタグの活用などを考えていました。また、土日に家族で楽しんでもらえることを考え、子どもも喜ぶガチャガチャやモノ作りの体験を特典にするなどの案を話し合っていました。

教室には昨年のこの授業で試作したTOYODA BEERの学生オリジナルラベルも展示して、アイディア出しの空間を作りました。

※TOYODA BEER実行委員会のご了解のもと、教育上の目的で作成したものです。

申請する時に注意すべきことは?

授業はあっという間に終了。最後に糸井駅長から「自分たちもとても刺激になり、新しいものが生まれそうというワクワク感がありました」と言葉をいただきました。学生たちはグループワークを経て、6月末にはJR東日本に企画を提出。学生たちのコースが実施されるのは10月上旬の予定です。実際にコースの実施されるまでチラシやマップ作成に携わっていきます。

2022年6月28日

「未来フォーラム」のメンバーと学生たちでグループ対話をする特別コラボ授業が行われました

2022年度の共通教育科目「キャリアデザイン(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)」は「今、社会や企業が求める人材とは」をテーマに、キャリア形成を学ぶ授業です。企業のトップから直接講演を聞ける機会があり人気の授業。今回は「未来フォーラム」のメンバーの皆さんと学生たちのグループ対話が実施されました。未来フォーラムは様々な業種の労働組合の集まりで、11企業から組合のリーダーたちが参加してくださいました。学生たちは、各企業から、働く意義ややりがいなどを直接伺える貴重な機会となりました。

労組組合の集まり「未来フォーラム」との特別コラボレーション授業

いつもと違い机を動かして班が作られた教室で授業が始まりました。11の班には各企業の労働組合のメンバーが着席しています。始めに、代表幹事を務めるセイコーエプソン労働組合の品川執行委員長から「未来フォーラム」について紹介がありました。未来フォーラムとは、業種の枠を超え「人のために、社会のために、未来のために」という理念に共感する労働組合の集まりです。

労働組合とは、かつては従業員が団結してストなどを起こし、会社と対峙し改善要求する団体というイメージでした。しかし現在では会社の存続、発展が従業員の生活に影響する、ということを重視しています。皆が生き生きとより良い人生を送るために、より良い社会を実現するという理念のもと、労働組合はあります。未来フォーラムには現在26の労働組合が参加しています。この日はそのうち11の企業の労働組合のメンバーが訪れました。

学生たちはこの日に備え名刺を作って質問を考え準備をしてきました。企業ごと11班に分かれ、1回15分ずつ、名刺交換から始まり、質疑応答を行います。テーマは「仕事のやりがい」と「働く意義とリアル」。仕事に対する本音を率直に聞けるまたとない機会です。時間ごとにローテーションし、計4回班を回り、企業と対話が行われました。

なぜその企業を選んだの?

学生から多くあった質問は「なぜこの会社を選んだのか」ということ。給湯器の企業株式会社ノーリツでは「機械が好きだったからという理由が最初」という方が。しかしそのあと「お風呂は人を幸せにする」という企業理念に共感していったと言います。
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社では「入社の決め手は良い人が多いからという人が多い」との回答が。良い人が集まる会社であれば居心地がよく、自分も成長できると思ったということでした。 株式会社ツムラの方は「健康とはワークライフバランスを考える」という理念にも共感したと話しました。

どんなときにやりがいを感じる?

アルプスアルパイン株式会社の方は「自分の作った製品が使われていることに喜びややりがいを感じる」と言います。トイレなどの製造販売会社TOTO株式会社の方は、当時は少なかったユニバーサルデザインに力をいれていることに魅力を感じたと言います。「障害者の方の生活を支えているのだと実感しました」と話してくれました。

仕事のリアル…難しいことは?

仕事の難しさを隠さず教えてくれる方も。近畿日本ツーリストではコロナで旅行業界が打撃を受けたとき、従業員の早期退職を募ったエピソードを話してくれました。「労働組合として仲間たちを守れず辛かった」と伝えてくれました。また、現在「ワーケーション」が話題になっていますが、企業としてはなかなか進まないと言います。

どうやって企業を選べばいい?

就活へのアドバイスとして、自己分析が大事だという企業も複数ありました。丸井グループの方は「幅広く手掛けている会社なので自分の好きなこと、得意なことを仕事にできる」と思い入社したといいます。そのためにも自分の特徴や何が得意かを知っておくことの大事さを強調されました。
システム会社であるBIPROGY株式会社では、システム作りというよりお客様とどういうシステムにするかのやりとりがメインなので「システム会社でも理系より文系の人の方が求められる」と言った目から鱗の情報も。文系だからと諦めずに気になった企業にチャレンジするエールにもなりました。
株式会社ヤナセでは、「仕事は手段です、では目的はなにかを考えましょう」という話が。「なぜ働くのか」を考えることの大事さを話していました。セイコーエプソン株式会社では、言われたことだけをこなすのではなく、自分で考えて行動することの大切さを伝えました。「自分がどんなことが好きか知っておき、気になったことにチャレンジしてください」とエールを送っていました。

 「自分で選んで決めること」が大事

あっという間に時間は過ぎグループ対話は終了。最後に品川委員長からコメントをいただきました。「就職活動はどこを選ぶか、何を選ぶか不安かと思いますが、必ずベストを選ばなくてはいけないのではありません。自分で決めたという事実が大事。正しい正しくないにとらわれず、選択することを恐れずに決断してください」と語りました。

最後に学生たちからの感想も聞かれました。「素朴な疑問にも真剣に答えてくれて嬉しかった。就活は不安で一杯だが、頑張ろうと思えた」という学生や「この業界で行こうと決めていたつもりだが、今日の話を聞いて、魅力的な業界がたくさんあってまた迷ってきた」という学生も。学生たちにとって様々な刺激となったようでした。最後は全員で写真を撮り、なごやかに終了しました。

深澤教授からのメッセージ

私自身が企業時代に労働組合の中央執行委員長を務めていたご縁から、毎年未来フォーラム様にお世話になり、このような機会をいただいています。まさにこれから就職活動が始まる3年を主体とした当科目の履修学生にとっては、企業を知るとともに、「働きがい」や「やりがい」などを社員の方から直接お聞き出来る絶好のチャンスとなり、学生の真剣な姿が印象的でした。学生の中には、授業終了後、渋谷までの帰り道でも、お声をかけていただき、授業の延長戦を続けていただいた労組さんもいらっしゃったとのこと、そのお気遣いに感動いたしました。
何よりお越しいただいた方が皆さん労働組合の幹部の方々、誰よりも会社のことを知り、会社のことを考え、働く従業員のことを日々考え続けているメンバー、熱気が溢れており、教室の空気が今までと違う雰囲気でもありました。学生たちが、働くことをポジティブに捉え、今日お越しいただいた未来フォーラムの皆さんのように、企業を牽引する存在になって欲しいと願います。未来フォーラムの皆様、本当にありがとうございました。

2022年6月3日

来館者増や価値創造など印刷博物館の課題解決を学生が提案へ!本学との社会連携授業がスタートしました

凸版印刷株式会社(東京都文京区)が運営する「印刷博物館」と本学の初の社会連携授業が6月3日(金)、渋谷キャンパスでスタートしました。学生が印刷博物館が抱える来館者増や新たな価値創造などの課題を分析、解決策を提案します。最終プレゼンテーションは7月1日と8日の2回に分けて行われ、16チームがアイデアを発表します。

印刷博物館

印刷博物館は、印刷の起源から最新の印刷技術まで古今東西の印刷文化を学べる企業博物館です。社会連携授業は、学生がグループワークで取り組む課題解決型授業(PBL)として実施され、国文学科の「実践キャリアプランニング」(4限)の授業のなかで実現しました。

現状分析の上で具体策のプレゼンを!

講師の中西氏

キックオフ授業は午後3時すぎ、渋谷キャンパスの503教室でスタート。同博物館部長で学芸員の中西保仁氏が登壇し、PBL型授業のミッション提示(お題出し)を行いました。具体的には「印刷出版文化に関心の薄い層に来館してもらう」と「新たな体験価値を生み出し、継続的に発信していく」の2つです。学生たちは、いずれかのテーマを選んでグループワークを行い、解決のための具体策をスケジュールも含めて検討します。

中西氏は、グループワークについて「現状を分析した上で、皆さんが考えようとしている施策は、どこまで実現できていて、どこが出来ていないのか拾い出して欲しい。このプロセスを入れていないと、説得力はゼロです。その結果、何が印刷博物館の問題なのか分かるので、それを明示して欲しい」と強調しました。併せて、解決するためのスケジュールも大事だと強調。「例えば30日でクリアできるのか、1年掛かるものなのか。その規模感を含めて、より具体的に施策をプレゼンテーションして欲しい」と語りました。

 グループワークの課題
学生たちのグループワーク風景

国文学科2年生66人が挑戦

最終プレゼンで発表する各チームは、1チーム4~5人で構成。実践キャリアプランニングの授業を今年度履修した国文学科の2年生66人を16チームに分けました。学生らは約1か月かけ、提案づくりにチームで挑戦します。その一環として、学生らは実際に印刷博物館を4日(土)に現地訪問、同博物館の現状や課題に対する理解を深めました

2年前のリニューアル効果は?

同博物館は、凸版印刷の創業100周年を記念して同社本社ビル(東京都文京区)に隣接して2000年に設立。2020年10月にガラっとフルモデルチェンジしてリニューアルオープンしました。この間の年間来館者数は平均3万人、20年間の累計来館者数(2020年)は63万人を超えています。中西氏によると、リニューアル前の同博物館は▼中高生の来館が少ない▼団体客を増やす施策が持てていない▼初来館者が8割もあり、リピーターの獲得が出来ていない-などが課題だったとか。このため、リニューアルは①活動の体系化に着手②多様な来館者ニーズに対応③施設が老朽化し活動自体がマンネリ化-などを克服するため必要だったと振り返りました。

深澤晶久教授の話

印刷博物館様と本学とで締結した包括連携協定に基づく初めての具体的な試みとして、2年生のキャリア教育科目「実践キャリアプランニング」にご協力をいただきました。毎年、この授業の後半では、企業様にご協力をいただき、PBL形式の授業を展開しおりますが、今年のテーマは一段とリアルな内容をご提示いただきました。

 翌日、4日には有志の学生13名が実際に印刷博物館を訪れ、中西様をはじめ多くの皆様から、展示物や企画内容のご説明をいただき、来週からはグループワークに臨みます。学生の豊かなる創造力に期待をしたいと思います。授業当日、そして翌日の視察において、ご丁寧に対応いただきました印刷博物館様に感謝申し上げます。

2022年1月25日

元タカラジェンヌを講師に招いて特別授業!日本舞踊の奥深さや魅力を学生が学びました(12/20)

日本舞踊の奥深さや魅力を学ぶ特別授業が12月20日(月)、元タカラジェンヌで日本舞踊家の尾上五月先生を講師に招いて渋谷キャンパスで行われました。五月先生は、宝塚歌劇団時代のエピソードも紹介しながら、日本舞踊の醍醐味を解説。学生たちに、日本舞踊に限らず「日本の伝統的な独自の文化に目を向けてほしい」などと語り掛けました。

尾上五月先生は、元宝塚歌劇団65期生。1979~82年間の在団中は、五月梨世(さつき・りせ)の芸名で元月組男役として宝塚の華やかな舞台を彩りました。五月先生の同期には、元雪組トップの杜けあきさんなどがいます。五月先生によると、宝塚音楽学校時代に日本舞踊と出会い、その面白さに目覚めたといい、現在は尾上流師範として活躍中です。

五月先生は、今回の特別授業で「宝塚で培った男役の美学も、できれば日本舞踊に活かしていきたい」などと抱負を語りました。「宝塚音楽学校の生徒は、道路と並走する阪急電車に向かってお辞儀をする?」「宝塚音楽学校の下級生は、階段の踊り場の壁側を直角に歩く?」など、宝塚音楽学校や同歌劇団にまつわる「あるある話」を紹介。学生は興味津々、目を輝かせて聞き入れていました。

お座敷で踊られる「舞」も日本舞踊

特別授業は午前9時から約100分間行われました。それによると、五月先生は、まず日本舞踊のカテゴリーについて発言。歌舞伎舞踊や能狂言に由来する曲目もあれば、「お座敷で踊られる『舞』も、すべて日本舞踊」と語りました。

その上で、「『日本舞踊はどこに行けば観られるか』と聞かれるのが、悩ましい」と胸の内を明かしました。というのも、歌舞伎は歌舞伎座(東京・東銀座)、能狂言は国立能楽堂(東京・千駄ヶ谷)などの各地の能楽堂に足を運べば鑑賞が可能ですが、日本舞踊は「どこで、どんな公演をやっているかは、よほど調べないと分からない」からです。また、日本舞踊の公演を見たくても、「どんな日本舞踊家が世の中にいるか名前が知られていない」のも日本舞踊界にとっては悩みの種。常設の専用劇場がないことや、日本舞踊家があまりテレビに出演していないことが影響しているのだそうです。

「(日本舞踊の公演は)われわれ日本舞踊家が、企画をして公演を運営して上演をして、そして皆さんに『こんな公演をやりますから見に来てください』と案内をして開催します。通年でいつもやっているわけではなく、わざわざ企画して『こういう公演をやります』と決めた時に、日本舞踊の公演が上演されます」(五月先生)

五月先生の特別授業

かつて人気の「お稽古事文化」

尾上流師範として

五月先生はまた、「日本舞踊は、『お稽古事文化』としてこの国に根強く残ってきた」と強調しました。今の子供のお稽古事と言えば、バレエやダンスがポピュラーですが、ほんの50年ほど前は「バレエ教室に子供が通うのと同じくらい、日本舞踊がポピュラーだった」という時代がありました。それがどんどん日本舞踊を習う子供が少なくなり、今では五月先生が主宰する日本舞踊教室にも、「小さいお子さんが通ってくることは、本当に少なくなった」と憂慮しているのだとか。

「日本舞踊がこれだけ衰退してしまったのは、恐らくわれわれ日本人の中に西洋文化に対する憧れがすごく強いからだと思います。畳の生活よりテーブルと椅子の生活の方が便利ですから。そうやって西洋文化が手軽に手に入るようになると、自分たちの伝統文化に目を向けなくなってしまうのですね」(五月先生)

日本舞踊は「歌詞を踊る」

そんな日本舞踊は、西洋由来のバレエやダンスと、どこが違うのでしょうか。五月先生は、バレエやダンスとの違いをいくつか指摘する中で、真っ先に「メロディーやリズムを踊るのがバレエやダンス。日本舞踊は『歌詞を踊る』」という点を挙げてくださいました。そこで、五月先生は日本の新春・正月を象徴する端唄「初春」を学生に紹介しました。

 〽 初春や 角に松竹 伊勢海老や 締めも橙 うらじろの
 〽 鳥追う声も うららかに 悪魔祓いの 獅子舞や
 〽 弾む手毬の 拍子良く つく羽根ついて ひいふうみい
 〽 よっつ 世の中 良い年と いつも変わらぬ のし昆布

「何てことのないお正月の情景を、ただ歌っている」と語りつつも、歌詞に散りばめられた正月の風物詩や縁起物、伝統行事、風習などを解説。その上で、日本舞踊は歌詞を踊るという意味を学生に理解してもらうため、日本舞踊の実演というサプライズもありました。

端唄「初春」を解説
サプライズで実演

「日本舞踊は、歌詞の中にある役柄、それから物語、風景、情景というものを踊っていく。踊りで体を動かすなかで、演技の割合がとても高いのが日本舞踊。しとやかで静かなイメージがある日本舞踊ですが、実は能動的に演技や表現をしている部分が多いのです」(五月先生)

男性と女性、年齢も関係なし

もう一つ、男性や女性の性別で役割分担がないのも、日本舞踊の特徴です。バレエは、トウシューズを履くのは女性、女性を持ち上げるのは男性と役割分担が決まっていますが、日本舞踊はそうではありません。中高年の男性が可憐な少女の役を踊るというのも、珍しくないのです。逆に言えば「男の踊りも女の踊りも両方とも踊れないと、日本舞踊を習得したことにはならない」と、五月先生は強調しました。

さらに、年齢に関係なく楽しめるのも日本舞踊の魅力です。例えば、バレエを続けるには、年齢を経てもトウシューズを履きこなす脚力が要求されます。しかし、日本舞踊はそうではありません。そこまでの身体的能力がなくても、踊れる踊りがたくさんあるからです。

凛とした師範の美しい舞姿
日本舞踊の魅力を解説

このため、日本舞踊は「何歳からでも始められるし、何歳までも踊っていられる」という特徴があります。かえって、年齢を重ねて経験を積み重ねることで、「自分の知識や経験が日本舞踊の理解を深めるのに役立つようになる」と言います。

「日本舞踊は、バレエほどの高い身体能力が要求されない代わりに、『これはどういう意味で踊っているのか』を理解しながら踊るものです。ですので、大人の場合、体は硬いかもしれないけれども、今までの人生経験が稽古の後押しをしてくれる。そういう部分がたくさんあるので、年をとってから始めるお稽古事としては、日本舞踊はすごく向いています」(五月先生)

「結界を張る」は独特な礼儀作法

五月先生のレクチャーは、日本舞踊全般の話から、日本の伝統や古来の文化にも話題が広がりました。例えば、扇子を膝の前に置いてお辞儀をするという所作についてです。非常にフォーマルで、礼儀正しいこの所作には「結界を張る」という意味があると五月先生は説明しました。五月先生によると、「結界を張る」というのは、相手と自分との間に境界線を引き、相手を尊敬しつつ自分が人にへりくだるという意味だそうです。茶道や食事の時の礼儀(箸の置き方)にも通じる「非常に独特な礼儀作法のひとつ」と語りました。

「日本人には、控えめで美しい、そして自分をへりくだる文化があります。日本の文化、古来からの文化が、日本舞踊には随所に盛り込まれており、日本舞踊は日本の伝統文化を知る上でとても勉強になるのです。今の結界の話もその一つです」(五月先生)

着物や浴衣は外国人にアピールする武器

日本舞踊といえば、やはり着物は欠かせません。五月先生は「着物の着付けは、本当に面倒臭い。世界中どこを探しても、ここまで着るのがややこしい民族衣装はない」と苦笑しつつも、「古来からの民族衣装を今も使いこなしているというのは、日本ぐらいだ」と強調しました。それはなぜか。五月先生は、「日本人の深層心理に、深い自国の文化への愛があるから」と推察します。

具体的には、外国人とコミュニケーションを図ろうと思えば、着物の効果はてき面です。五月先生も約27年前、米国生活に何枚か着物を持参し、日本人のコミュニティや教会のチャリティなどのイベントの機会に、着物姿で日本舞踊を踊ったそうです。本人がびっくりするほどの脚光を浴び、「次から次へと声がかかり、引っ張りだこだった」と当時を振り返りました。

その経験もあり、五月先生は着物の着付けについて「普通に着物を自分で着られるのは本当に素敵なこと。ぜひ皆さんも着付けを習得してほしい」と学生にアピールしました。もちろん海外勤務や留学の際には、着物は高価な上に、着付けをマスターするだけの時間がないという事情があるかも知れません。その場合でも、やはり「踊りを踊らなくてもいいので、浴衣一枚でも海外に持っていってほしい。現地で浴衣を着て登場したら、きっとみんなのスーパースターになれるはず」とユーモアをたっぷりに話してくださいました。

日本文化の大切さをアピール

日本の文化を学ぶ大切さを強調

日本文化への理解が進みました

グローバル化が進展する昨今、英語を流暢に話す日本人は格段に増えました。でも、日本や日本の伝統・文化を聞かれた途端、多くの日本人が口ごもってしまうのはなぜでしょうか。五月先生が「いくら語学が堪能になっても、話す内容がないからだ」と残念がるところです。五月先生は、今回の日本舞踊の特別授業を通して、自国の文化を学ぶ大切さを学生に繰り返し強調しました。そして以下のメッセージを学生に残し、同日の特別授業を締め括りました。

「誇りを持って自分の国の文化を学び、習得してほしい。そして自分たちの先祖が培ってきた文化を受け入れ、それを敬ってほしい。自分の国についての知識は、いくら詳しくなっても決して邪魔にならない。たくさんのことを貪欲に学んで誇りを感じてほしいと私は申し上げます」(五月先生)

「芸能文化史」の授業で実現

尾上五月先生の特別授業は、美学美術史学科の「芸能文化史」の授業のなかで実現しました。担当は串田紀代美准教授です。2・3・4年生の約15人が同授業を履修しています。今回の特別授業は、1年生の「民俗芸能入門b」と2年生の「民俗芸能特講d」の履修生を含め約70名が受講しました。

授業を終えて五月先生と

串田紀代美准教授の話

この授業は、日本の伝統芸能について知識を深めることが目標です。しかし現状は西洋文化の人気が高く情報発信も圧倒的に多いので、日本の伝統芸能は危機的状況にあります。履修者の少なさが、それを如実に伝えています。そのため、能狂言や日本舞踊など舞踊・演劇分野で活躍している特別講師を毎年お招きしています。学生の反応は驚くほどよく、本授業がきっかけで本格的に日舞の稽古をはじめた学生もおります。やはり、学生の知的好奇心を刺激する工夫が日々の授業の中でいかに大切か、実感させられます。今回の特別授業も、学生のリクエストがきっかけでした。

 昨今、大学教育の中で批判的思考の態度を身に付けることが要求されています。批判的思考力は、さまざまな課題について自ら考え、問い続けることで鍛錬されます。「芸能」全般を通じて興味のある事柄に出会い、それについて深く考え追求しつづけることこそ、大学生の意義ある学習だと考えます。

指導は串田准教授