2022年度の共通教育科目「キャリアデザイン」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)は「今、社会や企業が求める人材とは」をテーマに、キャリア形成を学ぶ授業です。企業のトップなどゲストも多数招かれ、4月19日に行われた授業では、元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄氏による講演が行われました。岩田氏はリーダー論のなかで「ミッション」を自覚することの大切さを学生たちに伝えました。
リーダーに必要なのは「ミッション」
岩田氏は「今回の話は企業の部長さんたちにも話す内容です」と前置きをされました。学生レベルに落とすことはせず、企業を経営するためのリーダー論を語ると宣言。そして「それは自分が生かされている理由である、ミッションについてです。これをこれから就職活動で企業を選ぶ際の基準にしてください」と講演が始まりました。
「ミッション」とは、存在理由のこと。自分のできることを多くの人のために、世の中のために使ってみることを意識することと言います。企業におけるミッションは経営理念にあたります。企業のミッションは利益を上げることだと思われていますが、それは間違い。利益を上げることはミッションを行うための手段であるだけだと熱く語りました。
リーダーにとって必要なことは「ミッション」「ビジョン」「パッション」の3つが必要だといいます。なかでも一番大事なのがミッション。なぜかと言えば組織の「共通のゴール」が分かるからです。組織にはいろんな価値観を持った人が集まります。企業のミッションがはっきりしていれば、全員同じ方向に向かって行動できるのです。また、ミッションに共鳴した人がさらに集まり、企業としてもできることが増えていきます。それはやがて利益向上にも繋がっていくのです。
仕事は「志事」!個人のミッションの見つけ方は?
では個人のミッションはどうやって見つければよいのでしょうか。岩田氏は自分にとって「好きなこと」と「得意なこと」と「誰かのためになること」の3つの輪の重なるものはなにか探すことを勧めました。情熱を持って、継続して取り組むことができ、対価がもらえること。まずはビジョン(目標)を持つことから始め、突き詰めていくと自分のミッションが分かってくるといいます。「好きなことや得意なことが分からない場合は、まず目の前のことを一所懸命やってください」と語りました。お茶汲みで賞をもらった方を例に挙げ、どんな小さいことでも真剣に向き合って一所懸命にやれば好きになると断言しました。
スターバックスのミッションの素晴らしさ
岩田氏は新卒で日産に入社しました。生産管理など現場の仕事を経験し、アメリカへ留学。経営学を学び、帰国後コカ・コーラで役員を経て、ゲーム会社アトラスの社長に就任。プリクラで一大ブームを巻き起こし売上をV字回復させました。その後化粧品ブランドボディーショップを運営するイオンフォレストの社長を歴任し、2009年にスターバックスコーヒージャパンのCEOに就任しました。
岩田氏はスターバックスの経営理念、つまりミッションに共鳴したと言います。スターバックスで大切にしていることは「Just Say YES!」。道徳や倫理などに反しない限りお客様が喜んでくれることは何でもする、という考えです。スターバックスにはコーヒーの入れ方などのオペレーションには細かいマニュアルがありますが、サービスについてのマニュアルはありません。店員一人ひとりが考えて自ら行動します。目の前のお客様へ最善を尽くすというミッションに基づいて、正社員やアルバイトなど役職に関係なくサービスの裁量があるのです。スターバックスは会社としても居心地がよく、バイトも長続きするといいます。経営理念が浸透したスタッフが長くいることで、バイトにもしっかりとした研修を行えます。そして若いスタッフにもミッションが共有されていきます。例えイレギュラーであることでも目の前のお客様を大事にすることで、お客様に感動を与え、売上にも繋がる良い循環が生まれているのです。
自分のミッションを考え人生戦略を考える
「今回の話は企業のリーダー論ですが、想像しにくかったら自分の人生戦略としてミッションを考えてみてください」と岩田氏。特に自分は何が得意で何をしたいのか考えることは、就職活動のときの指針になると言います。知名度や企業の規模などにとらわれず、自分のミッションと企業の経営理念が近いかどうかを考えて選んでほしいと語りました。
学生からは「ミッションを考えるときに、魅力的な選択肢に迷ってしまうのですが、どうすればぶれないでいられますか」という質問が投げ掛けられました。
例えば岩田氏のミッションは「リーダーを育てること」。しかしこのミッションにも最近気付いたといいます。「ミッションは進化させていいんです」。好きなことや得意なことは変わっていくことがあります。また自分の置かれた環境に合わせビジョンも変わります。まずは目の前のことを一所懸命に努力してください、と語りました。「努力して小さな成功体験を積み重ねることが大切です。努力しなければ夢は叶いません。過去の成功体験は、なにかを新しいことを行おうとするときに思い出して力になります。そのためには、学び続けてください」と、学生たちにエールを送りました。
深澤教授の話
夏季集中講座と後期のグローバルキャリアデザインの授業で毎年お世話になっている岩田松雄様のご講義は、今年から前期のキャリアデザインに舞台を移してご登壇いただきました。学生にとっても、とても身近なスターバックスコーヒーを舞台に、そのトップとしての思いや現場で起こった数々のエピソードの紹介もいただき、あっという間の100分でした。岩田様のお話しの中心は、リーダーシップとミッション、VUCAの時代に生きる学生たちにとっては、大変大きな勇気をいただくご高話でした。この場をお借りして心から感謝申し上げます。