タグ: 社会学概論

2025年8月6日

これからの時代に必要な企業の存在意義とは?「社会学概論」の授業で花王の小泉篤氏による特別講義が行われました。 

7月9日に「社会学概論」(担当:人間社会学部人間社会学科 原田謙教授)の授業で、花王株式会社特命フェローの小泉篤氏による特別講義が行われました。学生たちにとっても身近な製品を数多く作っている花王。長く愛されている企業ですが、その経営戦略は時代によって変わっています。これからの時代に必要な企業の在り方を、さまざまな観点から教えていただきました。

日本人の清潔文化を作った花王

小泉氏は入社から花王一筋。
執行役員を経て、現在は社内の課題解決などを担当する特命フェローを担っています。
インドネシア駐在の経験もある小泉氏は「グローバル潮流の変化に挑むイノベーションとは」というテーマで講演を始められました。

まずは花王の歴史から。
1887年創業で、今年で138年を誇る老舗企業です。
「清潔な国民は栄える」という理念のもと石けんを販売したのが始まり。日本人の清潔文化に大きく寄与してきました。
小泉氏は「インドネシアに駐在した際、この理念を実感しました」と話します。
発展途上国の一部では、川などで洗濯したり体を洗ったりすることがふつうで、衛生状態が悪いところも。地域の清潔と国の発展はつながっていると感じたと話しました。

花王は生活者が直接使うBtoCの製品を多く製造しています。洗剤やスキンケア、ヘアケアから化粧品まで幅広く、なんと61ものブランドがあるそうです。
授業の冒頭では、花王と聞いて思い浮かべるブランドのアンケートも。
スキンケア製品の「ビオレ」や洗剤の「アタック」、生理用品の「ロリエ」などが学生たちにも広く認知されていました。

利益を求めるより企業の存在意義を考える

ここからは経営の話です。
現在、花王をはじめ多くの日本企業は「ESG経営」を行っています。
ESGとは環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)の3つの要素を重視する言葉。環境や社会に対して企業として責任ある経営を行うことです。
「日本の多くの企業はESG経営に舵を切る前は株主資本主義経営だった」と小泉氏。
「株主の利益を最大化させるために会社を運営することが最優先されていた」と話します

グローバルで転機が訪れたのは2008年。リーマンショックが起こり企業の株価は急落。
「そこで企業は株主資本主義経営に対して反省したのです」と小泉氏。
短期的な利益よりも、なぜ企業が存在するのかという長期的な会社の価値を求めるようになっていきました。
2020年にはダボス会議で「企業は収益の最大化だけでなく、社会課題の解決のために取り組むべき」とマニフェストが改訂され、世界的にESG経営の機運が高まりました。

ブランドにもパーパスはある!

花王も2019年から本格的にESG戦略を取るように。
花王の原点である清浄観から「きれいをこころに、未来に」をスローガンに、きれいな世界を作ることで社会に貢献する企業を目指しています。
こういった企業の社会的意義を表す言葉は「パーパス」と呼ばれます。「その企業は何のために存在するのかを表す言葉」と小泉氏は説明しました。
花王はパーパスにのっとり、コロナ禍では「プロテクトJAPAN」というプロジェクトを展開。消毒液の増産に対応したり、感染予防の情報やエッセンシャルワーカーの支援も行ったりしました。

「パーパスは企業ブランドの花王だけでなく製品のブランドにもある。61のブランド全部にパーパスがあります」と小泉氏。
例えば生理用品の「ロリエ」は「生理現象をとりまく環境をより良くしていく」がパーパス。生理の考え方や仕事中の女性の居心地の悪さを変えるため、職場のトイレに生理用品を無料で提供する「職場のロリエ」という活動も行っています。

イノベーションを起こすことの大切さ

「コロナ禍以降、世の中はより変化が激しくなり、想定外のことが起きるのが当たり前になってきている」と小泉氏。
またECやSNSの発達で海外市場は拡大し、カネもヒトもボーダレス化しています。
そこで必要なのが社会やビジネスに新しい価値を生み出す「イノベーション」です。

イノベーションの一つとして有効なのが「役に立つ」ものから「意味がある」ものはなにか考えること。(ライプニッツ代表山口周氏の「ニュータイプの時代」から)
例えばフロア用掃除道具として人気の高い「クイックルワイパー」は、掃除機が重くてかけられない妊婦や障がい者にとって「意味がある」製品。
ターゲットとなる層は狭くても、「意味が有る」必要とされているものを作ることで企業としての価値を高めています。

ガラパゴス化しないために行動しよう!

これから就職活動をする学生に向け、小泉氏は企業のパーパスを見て自分に合ったところを探すことを勧めました。
また、もうひとつ「相手の意見を聞く」ことも大事なこととして伝えます。
「10年後には皆さん海外の仕事に携わるのがふつうのことになります」と小泉氏。直接海外に行かずとも、取引をしたり一緒に仕事をしたりという機会は必ずあると話します。そのために「自分をガラパゴス化させないように行動しましょう」と話しました。
「海外旅行やショートステイなど、文化的な背景が違う人と出会い、現地の人と少しでも触れ合ってほしい。何か違うなと感じることがグローバルマーケットの最初だと思います」と語り掛けました。

授業後のアンケートには学生たちからの質問がたくさん寄せられました。
これから就活を迎える学生たちにとって、企業の見方を学ぶ貴重な講演となりました。

担当教員からのメッセージ

人間社会学部の1年生には、社会学・心理学からビジネス、そして社会デザイン/イノベーションをめぐる基礎を幅広く学んでもらいます。「社会学概論」の授業では、家族や仕事にかんするライフスタイルの変化について学習してきました。
今回の特別講義は、洗剤やスキンケア、そして化粧品といった学生にとっても非常に身近な花王ブランドの具体的なトピックから、ESG経営、イノベーションを起こす大切さまで、とても充実した内容でした。学生にとって、まさに「人を知り、社会を知り、ビジネスを学んで、よりよい未来をデザインする」とても良い機会になりました。
ご多忙の中ご講演頂いた小泉様、本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

2023年11月28日

女性が前向きに生きる秘策とは?「社会学概論」の授業でサニーサイドアップグループ社長の次原悦子氏による特別講演が行われました。

10月11日に、1年生対象の「社会学概論」(担当:人間社会学科 原田謙教授)の授業で、株式会社サニーサイドアップグループ(以下、サニーサイドアップ)の代表取締役社長の次原悦子氏による特別講義が行われました。さまざまなモノやヒトをPRして「たのしいさわぎ」を起こしてきた会社を起業した経緯や、女性が前向きに世の中を生きていくための秘策を明るく話されました。

17歳で起業!

学生たちは予習としてサニーサイドアップグループの企業サイトを見てくる課題が出ていました。
講演の前に原田教授から「サイトを見てどのような会社だと思ったか一言で表現してみよう」とアンケートが。集まったワードは明るい、楽しそう、おしゃれ、自由などポジティブな言葉が並びました。わちゃわちゃ、元気などの表現もあり、学生たちもすでにパワーを感じ取っている様子です。

登壇された次原氏も「今日皆さんに会えるのを楽しみにしてきました。
少しでも役に立てる話が出来たらいいなと思っています」と講演を始められました。

サニーサイドアップは、1985年に次原氏が若干17歳のときに創業されたPR会社です。
当初は朝から晩まで働き詰めでしたが、「自分が社会に参画できることがとても楽しかった」と言います。

マンションの一室で始まった会社は少しずつ大きくなっていき、1995年当時まだ無名だった中田英寿元サッカー選手らトップアスリートと契約。2005年には世界的ムーブメントとなったホワイトバンドプロジェクトを手掛け、最近では商業施設やさまざまな商品・サービスのPRを手掛けています。

   ※「黒子に徹する」という次原悦子氏本人の方針により、顔にめだまやきを載せております。

PR・ブランドコミュニケーションってどういう仕事?

次原氏は「PR・ブランドコミュニケーションという仕事は、世の中にまだ知らないモノやヒトを、付加価値を付けて知らせて話題にしてもらい、最終的には行動してもらう仕事です」と話しました。
伝達するだけでなく、その先の購買などのアクションに繋げてもらうことが目的です。

例えば、今は専門店もたくさんあるパンケーキもその1つ。
ハリウッド俳優が映画撮影の合間に食べにくる小さなカフェに目を付け、「世界一の朝食」と大々的に打ち出しました。

このキャッチコピーは「誰も言っていなかったのですがPRでは言える技です」と次原氏。
それまでパンケーキと言えば、日本では家庭でお母さんが焼くおやつだったものを「カフェのテラスで食べるおしゃれな朝食」というイメージを浸透させました。「PRは日陰の仕事ですが、今では皆が知っていることを仕掛けていたんです」と話しました。

女性が活躍する社会のための企業の在り方

「PRはメディアやニュースを使いますが、その手法を使って社会課題の解決にも取り組んでいます」と次原氏。
話題は女性活躍へ。
日本はまだまだ女性の社会進出が遅れていることが課題です。
ただ次原氏は「女性が活躍することで経済が動きます」と話します。女性が購買を決定する割合は7割と言われています。圧倒的に女性が買うものを決めているのです。
しかし、その売るものを決めるプロセスに女性がいないのはおかしいのでは、と次原氏は訴えました。

日本も2030年には役員に占める女性比率を30%以上にすることを目指しています。
現在は9.1%と、ハードルの高い目標ですが少しずつ頑張っています。
その中でサニーサイドアップは女性が社長であり、グループ全体で取締役の50%が女性とのこと。
全従業員でみても6割が女性と、女性が活躍している企業の筆頭なのです。

世の中をしぶとく生きるために

その中で次原氏は「女性が世の中をしぶとく生きていくための秘策」を12個、教えてくださいました。

1つ目は「自分にできないことを知る」。自分よりもできる人を見つけて頼ることが大切と話します。次の秘策は「忘れよう」で、「自分で思っているほど他人は気にしていません」と、くよくよ思い悩まないことも大事と話しました。
その他にも、「ご縁を作ってくれた人のことを忘れない」や「情報を効率よく入れよう」、「解釈を変えるだけで過去も変えられる」など、人生を前向きに生きていく秘策を惜しげもなく披露してくださいました。

目の前のことを一生懸命やる

講演後は質疑応答が行われました。
スマートフォンを使用した無記名のアンケート形式で「ちょっと直接聞きづらい質問」も募集。たくさんの質問が集まりました。
「ワークライフバランスはどちらを重視していますか」という質問に「どちらがどちらと考えていません。それぞれが必要なことで相互に影響しています」と答えられました。

「なかなか売上が成長しなかったときのターニングポイントは?」という質問には、「当時無名だったアスリートたちが活躍してくれたこと。でもそのアスリートたちへの繋がりも、そこまでに培った人間関係が作ったと思っています」と話されました。

就職に対する質問も。
「どんなスキルを持っていたら採用してもらえる?」には「リーダーシップが大事。小さなことでも自分からアクションできることがこれからの企業に必要」と回答。

「どんな行動をして未来を変えましたか」という質問には「起業した当時は未来の夢や目標はなかった。目の前のことに没頭し一生懸命にやっていたら、だんだん自分の道ができていました」と話しました。

第一線で活躍する女性の貴重な話を聞くことができ、学生たちも未来を考える力になった講演でした。

担当教員からのメッセージ

人間社会学部には、ジェンダー、SDGs、広告・PRにかんする授業がたくさんあります。こうした分野の最前線で活動されている次原さんは、未来をみすえた企業が実際にどのように「行動」に移しているのかについて、とても具体的に説明してくださいました。
また、17歳で起業した次原さんのライフコースから紡ぎだされた「女性が世の中をしぶとく生きていくためのTips」は、これからの学生たちのキャリアデザインにとって参考になるものばかりでした。授業終了後の学生のコメントをみても、とてもポジティブな表現に溢れていました。
ご多忙の中ご講演頂いた次原さん、本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。