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2022年10月19日

生活文化学科の取り組みとして発達障害のある子ども向けに臨床美術の体験プログラムが行われました。

9月30日(金)に日野キャンパスで、生活文化学科 井口 眞美准教授および長崎勤教授のゼミと印刷博物館の提携により、発達障害のある子ども向けに臨床美術の体験プログラムが行われました。幼児教育・障害児発達支援の一環として臨床美術を活用できないかを探る、最初のトライアルとなりました。

印刷博物館 中西様
凸版印刷 肥田野様
芸術造形研究所 高橋様

発達障害のある子どもと一緒に「おえかき」

臨床美術の取り組みは、長崎教授の「発達支援プログラム」のひとつとして今回取り入れられました。発達支援プログラムとは、発達障害のある子どもの発達を促すためのプログラムです。子どもの発達にどのような効果をもたらすのか分析・検討し修正を繰り返し研究成果として発表する予定です。

この日はプログラムに協力してくださる7歳の自閉スペクトラム症のお子さん(T君)に向け実施されました。プログラムはまず、ゲームやお店屋さんごっこ、おやつの時間などを通し、認知・言語コミュニケーションの発達支援が行われました。その後「おえかき」の時間として30分間の臨床美術プログラムが行われました。

画用紙に不定形の紙を貼り付け触感を変えた紙とパステルをT君に渡します。そこに好きな色でまず線を引いてもらいます。パステルの色や持ち方、力の入れ方を変え何本も線を増やしていきます。直線や曲線など線のバリエーションを増やし変化を付け、お子さんもその変化を楽しんでいました。次に色が重なったところを指の腹でこすって色を広げたり、混ぜたりとさまざまな色の表情を作っていきます。線で囲まれた形に色を塗りつぶしていき、全体的に色を載せます。そこに、割りばしを鉛筆のように先をとがらせたものが登場。それを使って絵をひっかきます。ひっかいた線は削れて白い線が出て、絵の上からさらに絵を描いて楽しみます。最後は吸着する粉を絵に掛け、指で磨くと表面がつるつるに。「この絵はどちらを上にしますか?」と先生に聞かれ、縦横を反転させたりして作品を完成させました。

このプログラムは先生の他、学生たちも両隣でお手本のように同じ手順で絵を描きお手伝いしていました。最後は学生たちの絵も並べて鑑賞会を行いました。T君は、他の人の作品のどこがいいかを聞かれ、考えながら「なんか、、色が、、いい。なんか、色が(たくさん)ぬってるから」など感想を言っていました。

T君は、初めて出会った先生のモデルをよく注視し、先生の言う順番に沿って線や色を塗っていきましたが、時々、注意がそれ、他のことをしだしてしまう場面もありました。先生の指示が難しいと「手伝って」ということもありました。絵が完成すると「パパ見て」「おうちでもやってみる」ととても楽しかった様子で家族に報告していました。

臨床美術とは?印刷博物館との連携により実現した

今回のプログラムは大学と印刷博物館の包括連携の一環で実現しました。ただ、今年はまだ初年度。お互い何ができてどんなニーズがあるのかを考えていた際に、印刷博物館の親会社・凸版印刷株式会社の子会社である芸術造形研究所との連携が案として浮上しました。芸術造形研究所では臨床美術の研究を行っており、臨床美術が、実践女子大学の幼児教育の授業に利用できるのではというところからスタートしました。

臨床美術とは、美術家や医師などによって開発されたアートプログラム・メソッドです。絵を描いたりオブジェを作ったりする創作体験を通し五感を刺激することが目的です。高齢者から幼児まで色んな現場で行われており、美術体験、コミュニケーション体験を通じ、気持ちを開放したり他人を受容したりという効果が期待されます。アートプログラムは600近くあり、さまざまなアプローチがあります。今回選ばれたプログラムは、7月頃に学生たちに体験してもらい、幼児向けへの改善点を踏まえてこの日に臨みました。

ただ、初めての試みであるため今回のプログラムが楽しんでもらえるかは未知数でした。今回をトライアルとして反応を見つつ、今後違うプログラムを試してみるなどアプローチを継続的に続けていく予定です。また、キャンパスのある日野市は多くの幼稚園、保育園があります。障害のある子どもに限らず、今後は広く幼児教育の一環として、臨床美術を実践女子の学生たちが利用させていただくことも検討されています。「やはり包括連携の目的として、実践女子の学生さんたちにどうお手伝いできるかを考えていきたい」印刷博物館の中西様も仰っていました。

プログラムでは10人ほどの学生たちが記録を取ったりお子さんとコミュニケーションを取ったりと、しっかりサポートしていました。今回の体験は障害児発達支援を直接学べる良い機会になりました。今後も引き続き凸版印刷さんと連携し、活動を継続していきます。

2022年9月29日

実践プロジェクトb「人と社会の活性化を促すアート・デザイン」学生達が練り上げた企画の数々が発表されました

実践女子大学と長岡造形大学の2大学が連携し、産学協同で社会をよりよい方向へ進めるアート・デザインを探求する「実践プロジェクトb」。K.UNOさんとリクルートさんにご協力を頂き、「新しい時代のブライダルジュエリー」を考える授業も、いよいよ最終発表を迎えました。学生達はブライダルジュエリーを取り巻く課題を様々な角度から考え、魅力的な企画にまとめあげました。

長岡造形大学では、パッケージなどの実物を制作して持参する学生も

最終発表はこれまでの授業と同様に両大学をリモートでつないで行われ、離れていてもオンライン上で共通のテーマについて考え、一緒に歩んできた仲間達が集合しました。発表を前に学生達が緊張した表情を浮かべる中、K.UNOの青木氏、リクルートの米田氏の「みなさんの発表を楽しみにしていました」というあたたかい言葉で始まりました。

プレゼンテーションの口火を切ったのは、長岡造形大学です。約10分の持ち時間で、全14のチームが順番に壇上へ。8枚の花びらをリフォームしなくともパートナーや子と分けて絆を受け継ぐことができるジュエリーや、結婚記念日を食べられるパンで祝うリングパンなど、次々と個性的な企画が発表されました。家族から譲り受けたパールのネックレスをリメイクするジュエリーは、夫婦だけでなく親子の絆も大切にする視点が盛り込まれていました。

中には企画のパッケージや絵本、ウェルカムボードなどを、実際に造って持参した学生も。画面越しに実物をみた学生達から、歓声が上りました。ブランド名やロゴ、スライドに添えられたイラストなども細部までしっかりデザインされ、完成度の高さを感じさせました。

実践女子大学では、課題の解決にフォーカスした様々な切り口の企画を発表

続いて登場したのは、実践女子大学の5チームです。インテリアチームからは、ジュエリーBOXをインテリアと組み合わせる画期的な企画が発表されました。リビング、ダイニング、ベッドルームそれぞれで、夫婦の絆の象徴であるブライダルジュエリーを活かす新しいインテリアが印象的でした。ツアーチームは夫婦旅行とジュエリーを組み合わせた企画を発表。夫婦で採取した砂金でつくるブライダルジュエリーなど、結婚数年後に設定した旅行を夫婦の絆につなげる工夫が各所に詰め込まれていました。

このほかにも夫婦の記念日の星座が天井に映し出される「ジュエリープラネタリウム」、シングルでも推しと結婚できる「ヲタ活ジュエリー」、指輪をつけられない人でも夫婦が過ごした時間を可視化するインテリアアイテム「シャドウラグストーン」、ブライダルジュエリーを中心に「夫婦のエピソードを描いた絵本」など、次々と魅力的な企画が披露されました。

いずれのチームも企業が直面する課題をどう捉え、その解決には何が必要かというロジックをグラフなどの図表をまじえてしっかり説明し、企画の説得力を強化していたのが印象的でした。

今回の取り組みをどう

すべての発表が終了し、最後にご協力いただいた2つの企業からコメントをいただきました。今回の取り組みを仕事に活かすヒントも合わせて紹介されました。

青木氏:「近年『モノからコトへ』と価値の転換が謳われますが、私たちのオーダーメイドジュエリーの世界では、コト(想い)をモノに込めて表現することが一般的です。ところが今日はそういった観点だけではない、ブライダルジュエリーの幅や可能性を広げる企画が多く、みなさんの発表を通してたくさんの気づきがありました。結婚やブライダルジュエリーに初めて触れる学生ならではの、新鮮な視点を感じることができました。

みなさんの企画に『幸せの時間をより長く楽しむ』、結婚を点ではなく線でとらえる発想が多かった点もその一つです。今日プレゼンテーションいただいた提案や考え方を、今後の商品開発にうまく活かしていきたいと考えています」

米田氏:「今日ここで発表していただいた企画を、みなさんが社会人になった時、自分はどう実現するか改めて考えていただけたらうれしいです。そこに学生のときには気づかなかった、新たな学びが生まれることでしょう。
ビジネスの企画には、再現性・汎用性・新規性という3つの要素が必要です。また魅力ある企画にするためには、①対象を変える、②付加価値をつける、③価値を変えずに伝えることを変えるという視点が役に立ちます。ぜひ会社で企画の仕事をする際は、ぜひ思い出してみてください。
現代の日本では、結婚式や披露宴も減っています。婚姻届けを出したご夫婦の40%しか結婚式を挙げないという調査データもあります。ブライダルジュエリーや結婚式は『夫婦が立ち戻れる場所』という価値を持っています。ゼクシイに携わる者として、できれば多くの人にその価値を再確認してほしいと思います」

4月からスタートし、約半年間に渡ってまとめあげた企画は、どれもブライダルジュエリーの本質を探究した姿勢が現れていました。今回の取り組みは、学生達にとってビジネスの課題を解決する企画の在り方を、深く考えるきっかけになったことでしょう。

2022年9月29日

実践女子大学の渋谷キャンパスで「学びのフェス」が開催され学生も子どもたちと交流しました!

夏休み期間中である8月23日(火)に、実践女子大学渋谷キャンパスで毎日新聞社主催の「学びのフェス」が開催されました。小学生たちが訪れ、さまざまな企業や団体の出張授業を体験するイベントです。実践女子大学からも出張授業やコーナーが出て、学生たちも授業の手伝いや子どもたちとの交流を行いました。

学びのフェスとはどんなイベント?

「学びのフェス」とは毎日新聞社等が主催する、さまざまな企業やNPOの小学生向けの出前授業を一堂に集めたイベントです。このイベントは2014年から毎年夏休みと春休みに行われています。環境や食、労働などをテーマに各企業や団体が趣向を凝らした授業を用意し、小学生たちが社会学習できる貴重な体験イベント。今回は実践女子大学の渋谷キャンパスを会場に行われました。普段は女子大生だけの空間に、子どもたちの楽しそうな声が響きました。

これはゲーム?アート?デザインのひみつを知ろう!

実践女子大学の研究室も小学生たちを相手に出張授業を行いました。文学部・美学美術史学科の下山肇教授による授業は、デザインについての授業です。始まったのは、色の話。色には2種類あることを学びます。絵の具のような「色の三原色」青緑(C:シアン)、赤紫(M:マゼンタ)、黄(Y:イエロー)と、パソコンのモニターなどの「光の三原色」赤(R:レッド)・緑(G:グリーン)・青(B:ブルー)です。

この三原色を使ったボードゲームを遊んでいきます。隣の人と順番に、マスに色のコマをはめて、オセロの要領で並べていきます。シアンとイエローでコマを挟むと、挟まれたコマは2つを混ぜた色である黄緑に変化。そうして色のピースを並べていきます。16コマ全部埋まったボードを見てみると、いつの間にか「アート」のパーツが出来上がっていました。みんなで遊んだボードは組み合わせて、大学の玄関の柱に貼り付けられ、お客様をおもてなしする壁面アートとして展示されます。一人で作ったものは小さくとも、全員で少しずつ協力しひとつの作品を作る「共創」。これからの時代を生きる上で大事な考えを学びました。

カルタで遊んで楽しく学ぼう

現代生活学科の須賀ゼミの学生が開いていたのはカルタのワークショップ。学生たちが、中学校の家庭科教科書を元に作成した「くらしいろはカルタ」を使います。カルタは、百人一首のように上の句と下の句に分かれ、それぞれ同じイラストが描かれています。子どもたちは、それを神経衰弱のように絵柄を合わせて札を取っていきます。

札は「リデュースすれば」「ゴミが減る」や「にんじん、トマト」「皮膚を守るカロテン」など54ペアあり、SDGsや栄養、生活文化などについて遊びながら楽しく学べます。中には「カードには便利と危険」「2つの顔を持っている」など現代の消費生活に合わせた知識も。子どもたちは真剣な表情で札を覚え、取れると「やったー」と拍手して喜んでいました。

遊んだあとはSDGsの目標である2030年にどのような街にしたいか、オリジナルのカルタ作り体験も。須賀ゼミでは「多世代交流かるた」を制作しており、高齢者や子どもたちとの交流を通して素直な思いをそのままカルタにする取り組みを行っています。学生たちは6月頃から就活の合間を縫い、このイベントに向け準備していました。学生の一人は「対面で子どもたちとカルタをするのは初めて。真剣にやってくれてとても嬉しいです。カルタを通じてSDGsや良いくらしを伝えていけたら」と話しました。

実践女子学園中学・高校ってどんなところ?

ラウンジには、実践女子学園の中学校・高等学校から来た有志「JJブロッサム」の生徒たちによる、小学生との交流コーナーも。「小学校と中学校はどんな風に違いますか」などといった質問に答えていました。

実践女子学園の良いところは?と聞くと、都会の中心である渋谷にありつつ、静かで落ち着いているところが真っ先に上がりました。また、中学と高校の垣根も低く、色んな考えや価値観の人と交流ができ視野が広がるという意見も。そして何より制服の可愛さ。レトロなセーラー服に惹かれて入学した生徒もいました。伝統と歴史がありつつ革新的な学園に、皆誇りに思っているようでした。

小学生たちとの交流を通して学生たちも学ぶフェス

「学びのフェス」はさまざまな有名企業や団体が参加しており、子どもたちは普段はできない体験をすることができます。実践女子大学の学生たちも、それぞれの授業の手伝いを通し、子どもたちと交流しました。イベントでは自分で考え、自発的に動き仲間たちと助け合って進行します。学生たちにとっても、良い体験となったイベントでした。

2022年7月26日

美学美術史学科の学生が「かわさきSDGsランド」でSDGsを楽しんで学べるブースを出展しました

文学部美学美術史学科「デザイン実習d(企画デザイン)」(担当:文学部美学美術史学科 下山肇教授)の学生たちが、6月18日(土)に川崎フロンターレのイベント「かわさきSDGsランド」に参加しました。相田化学工業株式会社と協同し「純銀アクセサリー作り」のブースを出展し、お客様と一緒にSDGsを楽しく学べるワークショップを行いました。

かわさきSDGsランドとはどんな取り組み?

そもそも「かわさきSDGsランド」とはどんなイベントかというと、楽しくSDGsを知れる・学べる・体験できる大規模イベントです。主催は川崎フロンターレ、富士通川崎工場、川崎市公園緑地協会、川崎市で、この4者はもともと「CC(カーボン・チャレンジ)等々力」という取り組みを行っていました。CC等々力では、等々力陸上競技場でフロンターレのホームゲームが行われる際に「エコ暮らしこフェア」という環境に配慮した生活を遊んで楽しみながら学べる環境イベントを、2011年から行っていました。

今年は「エコ暮らしこフェア」の発展版として「かわさきSDGsランド」を開催。脱炭素を筆頭とした環境問題だけでなく、経済や社会も含めたSDGsを川崎市内全域で推進する目的で行われました。40を越えるブースが出展し、エコ気球やキックターゲットなどさまざまなワークショップを楽しみながらSDGsを学べるイベントです。飲食店もたくさんの出店がならび、使用される容器にはリユース食器を導入しました。リユース食器を利用することで、場内のごみを減らしCO2削減に貢献しています。

銀アクセサリー作りはSDGs!

今回、学生たちは相田化学工業株式会社と協同ブースを出展しました。出展名は「純銀アクセサリー作り」です。相田化学工業ではスクラップから貴金属を回収・精製し、新たな資源としてリサイクルしています。そのリサイクルされた純銀を材料にした、「アートクレイシルバー」を使ったアクセサリー作りの体験ワークショップです。銀粘土を型にはめ込み、焼成したものを磨くときれいなシルバーアクセサリーが出来上がります。フロンターレの公式マスコットふろん太くんの顔の型もあり、オリジナルアクセサリーが作れるとあって多くのお客様がブースを訪れていました。

学生たちで「楽しくSDGsを体験できる」コンテンツを作成

学生たちに任されたのは、主に銀の焼き上がりを待つ時間。その時間を使って、身近なものを通して楽しくSDGsを考えるきっかけを作るコンテンツ作りを行いました。SDGsの大切さを伝える「ストーリー」と「名画」、不要になったものを再利用する「しおり」と「折り紙」の4班に分かれ、この日に向けて準備をしてきました。

名画班は「モナ・リザ」や「落穂拾い」など、世界的名画を使ってSDGsを分かりやすく解説したシートを作成。作業台に貼り、手元をみたときや時間の空いたときに読んでもらえるようにしました。ストーリー班は、資源がなくなってしまった星からやってきた宇宙人のおはなしを、イラストボードを使って作業と作業の合間に披露。しおり班は食べ終わったお菓子の箱を切り抜き、ラミネートしてしおりにするワークショップを行いました。折り紙班は終了した美術展のチラシをシャツの形に折り、銀アクセサリーの台紙になるように、お客様と一緒に作成していました。学生たちはそれぞれの班のコンテンツをお互い体験しており、お客様への説明なども他の班の学生もできるよう準備していました。

 自分で考えて動くことで自分の力が分かる

これまでも実践女子大学では、相田化学工業と、SDGs啓蒙のため小学生向けのコンテンツを考えるなどの授業を行ってきました。しかしコロナウイルス感染症の影響で、実際に学生たちがお客様の前で行うのは初めての試みです。

そのため4月からこの日に向けて準備をしてきたものの、緊張もあり、進行が少しぎこちなくなってしまった部分もありました。ただ下山教授は「個人で考えて、自発的に動くことが大事」と言います。「言われたことをやるだけではなく、問題が起きたときにどう動くかが大切。問題はデザインすれば解決する。そのことを今回の経験を通し学んでもらえたら」と話していました。その言葉通り、学生たちは思い通りにいかないなかでも全員で助け合って進行していました。

学生たちも「この日を目標に楽しんで準備してきたので、今日お披露目できて嬉しい」「お客様の前でやるのは緊張するけど楽しいです」と、イベントを楽しんでいるようでした。

2022年4月13日

実践プロジェクトb「人と社会の活性化を促すアート・デザイン」がスタート!

さまざまな課題をテーマに、社会をよりよい方向へ進めることを「アート・デザイン」の観点から探求する、産学協同プログラムの「実践プロジェクトb」。今期は実践女子大学と長岡造形大学の2大学が連携するという、新しい取り組みでスタートしました。普段はなかなか接点のないさまざまな学科の学生が参加する場で、どのような学びが生まれていくのでしょうか。

デザインを手段に、社会課題を解決する手法を学ぶ

冒頭では、下山教授が授業の全体像を紹介しました。デザインというと「絵を描く」「手でモノをつくる」というイメージを浮かべる人が多いですが、社会においてさまざまな企画を実現することもデザインであるという教授の言葉は、そこにいた学生に新鮮な印象を与えていました。実践プロジェクトbでは、デザインを手段に課題を解決する手法を学びます。

今回テーマとなる課題は、コロナ禍で大きく変化したブライダルジュエリー。お迎えした企業のお二人から、いまどんな社会問題に直面しているのか、プレゼンテーションがありました。

Project map代表 米田氏「コロナ禍で大きな変化を迎えた、ブライダルイベントの現状と課題」

Project map代表であり、ブライダル関連での業務経験の長い米田氏は、豊富なスライドを使いながら、ブライダルジュエリーを取り巻く現状を分析。2019年から続くコロナ禍で、結婚式、婚約指輪や結婚指輪の購入といった、結婚につきもののイベントがどう変化しているのかを説明しました。

米田氏によれば、近年結婚式を挙げる人が減少しつつあり、成婚したカップルの中で式を挙げる人は約50%。2020年はコロナ禍がそこにさらに追い打ちをかけました。とはいえ「人との接触を減らす感染対策の中でも、結婚式は挙げたい」というニーズもあり、これまでの二人の幸せな姿を披露する場から、周囲の人に感謝を伝える場に変えつつあるようです。また昔は「男性の給料3か月分」と言われていた婚約指輪のプレゼントは、65%に減少しましたが、結婚指輪は98%と依然高水準。プレゼンの中では、結婚したカップルを対象に実施した調査をもとに、婚約指輪と結婚指輪の購入についての心理や、購入に至る過程もわかりやすく図解されました。

株式会社ケイ・ウノ 久野氏「ブライダルジュエリーは必要ですか?」

続いてオーダーメイドジュエリーブランドとして知られる株式会社ケイ・ウノの久野氏より、店舗ではいまどんな婚約指輪や結婚指輪が求められているのか、そのリアルな実情が紹介されました。

「ジュエリーは本当に必要ですか?」という意外な問いかけから始まったプレゼンに、参加した学生はさらに集中。お店を訪れる多くのお客様が、ブライダルジュエリーには「キュービックジルコニアではなくダイヤ」「金やプラチナ」という本物を選ぶ理由は何なのか。そこにビジネスチャンスを見出している企業姿勢を語りました。

1981年に創業したケイ・ウノのモットーは、「お客様にNoと言わない」。想いをかたちにするジュエリーを生み出すために多くの職人を抱え、日本人ならではの技術力の高さでお客様のニーズにオーダーメイドで応え続けてきました。オーダーメイドが世の中をよくしていくという信念のもと、順調に事業を拡大。SDGsの観点から大量生産や大量消費に疑問が呈される中で、現在は60億円を誇る企業に成長しています。

誰にでも備わっている創造性を拓き、そこから社会問題解決に役立つデザインを具体化する力を引き出す

下山教授は、この授業を通して、学生の創造性を拓くことを目指しています。

「美術を専攻していない学生は、アート・デザインは目に見える絵やモノをつくることだと思い込み、苦手意識を感じていることが多いんです。でも本来、創造性は私たち全員に備わっているもの。小さい頃、自由にお絵描きや折り紙をした経験って誰にでもありますよね。そのときのワクワクする気持ちを思い出し、この授業を通して改めてアート・デザインのおもしろさを感じてほしいと考えています。

今回初めての企画となる授業なので、最終的にどういうアウトプットが出てくるのか、まだわかりません。授業は学生の自主性を重んじ、ゴールに自由度を持たせながら進めていく予定です。目に見えるモノではない社会課題解決のヒントとなるデザインとはどういうものなのか、それをつくり上げる行動力や問題解決能力を身に付けることを狙っています」

クラスには様々な学科の学生が集まっていますが、それによる相乗効果も下山教授は意識しています。

「社会人になる前に実社会に慣れておきたいという気持ちから、社会とつながる授業を求めている学生は多いんです。その貴重な場で行う共同作業では、誰1人欠けても実現できなかったデザインが生まれてほしいですね。リーダーだけが頑張るのではなく、各自が必要なところでリーダシップを発揮し、全員が全員をフォローするような授業の進行を目指しています」

長岡造形大学とはLINEのnoteなどを活用しながら、学生同士の連携を深めていく予定とのこと。新しい試みの数々は、企業だけでなく他大学とのつながりも新たな学びを発掘していく授業になりそうです。