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2023年10月27日

「国文学マーケティングプロジェクト」の授業で資生堂企業資料館の館長による「本物」の美意識を知る講演が行われました。

9月28日に国文学科「国文学マーケティングプロジェクト」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、資生堂企業資料館の館長・大木敏行氏による特別講義が行われました。講義後には登場した戦前の化粧品現物を見る貴重な機会も。学生たちは株式会社資生堂(以下、資生堂)の歴史を通じ、本物へのこだわりや誠実さ、変革力と自立などの精神を学びました。

歴史にはそれを動かしてきた人のドラマがあります

館長の大木氏は1980年に資生堂に入社されました。深澤教授と同期です。
主に医薬品・ヘルスケア事業部で勤務し、2013年から資生堂企業資料館に携わっています。

資料館は静岡県掛川市にあります。この日も新幹線で久しぶりに上京されての講義となりました。
資料館は1992年に開設。今年創業151年を迎える資生堂の長い歴史の中で生み出された、貴重な商品や宣伝製作物などを一元的に収集・保存し、その一部を一般公開しています。

大木氏は、資生堂を一言で表すならば
「変わらないために変わり続けてきた会社」だと言います。
いつの時代も本物をお客様に届けたいという想いを持ち、変化を恐れず挑戦を続けてきました。
「歴史にはそれを動かしてきた人のドラマがあります。自分自身に置き換えて思いを巡らせながら聞いてください」と大木氏は話を始められました。

今も受け継がれる「本物」へのこだわり

資生堂は1872年に薬局として誕生しました。
1888年には日本初の練り歯磨きを発売。それまで流通していた粉歯磨きの10倍近い価格と非常に高価なものでしたが、大ヒットしました。その当時の最先端の科学に加え、陶器に入った高級感、原料の厳選など、本物志向が人々に受け入れられたのです。品質、パッケージともに最新の技術や材料、美的感覚全てにわたり最高なものを作り上げること。
この「本物」へのこだわりが資生堂のエッセンスとなりました。

初代社長は「ものごとはすべてリッチでなければならない」という哲学を持っていました。リッチなものは心を豊かにする、という美意識に基づき、資生堂は次々と商品を開発します。
1897年発売の化粧水「オイデルミン」は「資生堂の赤い水」と今も親しまれていました。1917年には当時おしろいと言えば白が主流の時代に七色のおしろいを発売。
また香水を芸術品まで高めることを目標に、日本的な美意識の詰まった香水も発売しました。目指したのは「美しい生活文化の創造」です。
「美」でこの世界をよりよくしたい、という想いは今も「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」というミッションとして掲げられています。

世界で活躍する女性像へ

大木氏は1960年代から表れた「反資生堂スタイル」について説明されました。
それまでの資生堂のポスターなどは繊細で優美なイメージの女性が多く採用されていました。そこに1966年キャンペーンディレクターとなった石岡瑛子氏は違和感を覚えます。その時発表したのが太陽のもと小麦色に焼けた肌で健康美を訴求した女性のポスター。従来の静かにたたずむ女性とは真逆な、画期的なデザインでした。

ポスターはたちまち話題となり大人気に。これは単に伝統と反対のことをしたのではなく、時代に応える最善を尽くし自分の感覚を信じ、もがいた結果だと大木氏は言います。
「大切なのはいつの時代も伝統の上に挑戦と革新をしていくこと」、「データに基づく発想はもちろん重要ですが、世の中の動きを正確にキャッチし自分の直観力を合わせることが新たなイノベーションを生み出すことにつながる」と話しました。

さらに資生堂を代表する女性として永嶋久子氏が紹介されました。
1962年から、美容部員として世界各国で活躍した人物です。

ハワイのパイナップル畑で働く女性に美容講習会を行い、生まれて初めて肌をお手入れしてもらった現地女性は感動し「あなたから買いたかった」とすぐに商品を買いに来た話など、さまざまなエピソードが紹介されました。
日本人に対し今よりも偏見や差別が大きかった時代に、「肌に触れ、心に触れる」を信条に国や文化の違いを越えてお客様に向き合い続けた姿勢は、まさに資生堂の美意識を体現された人でした。

目の前のことを自分事として真摯に対応する

「資生堂は、変わらないために、時代や社会に合わせ様々な変化に挑んできた歴史があります」と大木氏。「そしてそれは皆さんにも言えることです」と語りました。
いつも真摯に行動し、現状に満足することなく失敗を恐れずチャレンジする精神。
「大事なことはやりっぱなしにせず、責任を持ち自分事として捉えることです」と話しました。

講演の終わりには、資料館からお持ちいただいた貴重な品々を間近で見る機会があり、ガラス瓶や陶器の繊細なデザインに、学生たちも見入っていました。

授業の最後に学生たちが一人ずつ感想を述べました。
「七色のおしろいが印象的で、当時から個人の悩みに向き合っていたんだなと感じました」と商品へのこだわりを感じた学生や、「企業として利益だけでなく社会に寄り添う理念に触れ、自分もそのような信念を持って働きたいと思った」と美意識に共感した学生も。

特に永嶋氏のエピソードは多くの学生の印象に残ったようでした。
「永嶋さんの目の前の人に真剣に向き合う姿に感動しました」というものや
「今より外国で女性が働くことが難しい時代の、貴重なお話を聞けてよかった」といった感想がありました。
資生堂のカウンターで化粧品を買ったことのある学生は「いつも美容部員さんの対応が気持ち良く、その根本が分かった」と話しました。

大木氏も「永嶋さんの話に伝わるものがあったようで良かった。最後は人間力が社会を変えるんです」と話され、
最後は学生たちとともに笑顔で写真撮影に臨まれました。

担当教員からのメッセージ

資生堂の大木さんには、この授業が始まって以来、毎年、ご講演をいただいています。大木さんとは、会社時代の同期であり、大変ありがたいご縁をいただいています。その間、資生堂は150周年を迎えましたが、大木さんはまさに生き字引と言える社員であり、毎年、素晴らしいお話しをいただいています。日本文化や、言葉など、一つ一つにこだわりを持つ資生堂ならではのエピソードも沢山ご披露いただきました。この場を借りて心から感謝申し上げます。

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