グローバル・キャリアデザインでは、各分野から多彩な講師をお迎えし、キャリアや働くことの本質を探ります。第10回では、千葉県でテーマパークを運営する株式会社オリエンタルランドで執行役員を務めた永嶋さんがご登壇。2年前に退職した永嶋さんは、現在草津に拠点を移し、東京都競馬株式会社の社外取締役として精力的に活動中。最初は1人のキャストだったという永嶋さんのキャリアを通して、日本で初めてのテーマパークが世界に評価されるまでの貴重なストーリーを語っていただきました。
開園時のキャストとして
永嶋さんが株式会社オリエンタルランドに正社員として入社したのは、1982年。千葉県にテーマパークがオープンする1年前になります。
米国以外では初のテーマパークだったため、開演までの1年間は米国からやってきたキャストからトレーニングを受けました。まだ日本=敗戦国というイメージがあったためか、当初米国キャストは「日本人に何ができる」と日本人を馬鹿にしていましたが、教わったことをきっちりこなす日本人を目の当たりにし、1~2カ月後には「お前達、すごいな」と称賛のまなざしを向けるようになったそうです。
シアタータイプのアトラクションでコスチュームを着るキャストの1人だった永嶋さんは、9年間にわたり、施設責任者を務められました。
「20代は習い事や友人と遊ぶ時間がとれないほど忙しかったんですが、仕事は本当に楽しく、毎日充実していました。実は3回ほど救急車で運ばれたことがあります。倒れて初めて、自分の不調に気づくタイプでした(笑)」
管理職試験に合格後は様々な部署を経て、入社25年目に執行役員に就任
1990年代になると、修学旅行や卒業旅行でテーマパークを訪れる学生が増え、ここは楽しい思い出の象徴となっていきました。管理職試験に合格した永嶋さんは、営業部の課長代理として全国でセールス活動へ。
教育委員会や文化庁とつながり、社外の世界を知る貴重な機会となったそうです。
2000年代のテーマパークは、TVCMで「夢が叶う場所」を謳い、学生だけでなく大人も楽しめる場所に変化していきました。
コールセンターマネージャーとCS推進部部長を経た永嶋さんは、2007年にエンターテイメント本部長として執行役員に就任。2019年に理事に就任するまで、執行役員として様々な役割を果たしました。
2010年代に入ると、ゲストだけでなく夢を届ける側のキャストも楽しめる場所を目指します。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、千葉県にあるテーマパークも大きな影響を受けましたが、苦難を乗り越えキャストや会社が大きく成長できたと永嶋さんは当時を振り返ります。
「会社は休園中も社員に給与を保証していたんです。社員は待機中の時間を活用し、ゲストを快適にお迎えするトレーニングを重ね、役に立つ情報をみんなで共有しながら、再開に備えていました」
世界一といわれるキャストのホスピタリティに、マニュアルはない
千葉県にあるテーマパークのホスピタリティは世界一と称されますが、その背景にあるのはキャストの人間力だと永嶋さんは語ります。
「キャストが目指すべきゴールは、ゲストにハピネスをお届けすること。キャストの教育はここからスタートします。みなさん驚くかもしれませんが、そこにはマニュアルはないんです。ゲストに楽しんでもらうために必要なことをキャスト1人ひとりが考え、先輩や仲間と話し合って行動することで、あのホスピタリティが生み出されています。キャストが手を振るとゲストが喜んでくれた。背景にはこうしたフィードバックの共有と積み重ねがあるんです」
大きな責任感の中でも、仲間と仕事を心から楽しめた
終了後、学生から「なぜ倒れるまで仕事をしたんでしょうか」という問いに、「恥ずかしいことですが、私がいないとダメなんだと勝手に思い込んでいました」と答える永嶋さん。
最大400人ほどのキャストを束ねる立場は、大きな責任があったことでしょう。
責任感に押しつぶされることなく、なんでも話し合えて喧嘩もできる仲間と日々挑戦しながら仕事を楽しむことができた、当時の貴重な体験を語ってくださいました。
そこを訪れるゲストだけでなく、夢の世界を運営するキャストの心にもハピネスを届けることを目指す、株式会社オリエンタルランド。
永嶋さんと20年近いお付き合いになるという深澤教授は、
「ぜひ貴社に入社する学生が増えてほしいですね」
と締めくくりました。
深澤教授の話
永嶋様と初めてお会いしてから、やがて四半世紀になります。いつもアクティブで前向きな永嶋様から色々なことを学ばせていただきました。とりわけメンバー一人ひとりのことに気を配りながら、先頭に立って組織を牽引されるリーダーシップについては、私の目標でもありました。今回も、会社生活の中で経験された多くのエピソードから、働くことの楽しさもそして厳しさも教えて下さいました。学生にとっては、極めて貴重な時間になったと思います。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。