様々な分野で活躍し、輝かしいキャリアを築いてきた講師の方をお招きするリレー講座の第四回はSBI金融経済研究所取締役理事長の政井さんです。卒業生である政井さんは、今年の4月に客員教授に就任したばかり。
「人生100年時代」といわれる今、社会人として活躍できる期間はより長くなっていると政井さんは語ります。「マラソンのように続く社会人生活の中で、みなさんが目の前の課題を乗り越えるときに参考になれば嬉しいです」という言葉とともに、女性の活躍につながる様々なエピソードを紹介してくださいました。
世界で女性活躍推進の流れが始まったのは、1975年のメキシコシティから
今は当然のこととして、世界が取り組んでいる女性活躍。その始まりは、1975年にメキシコシティで開催された第1回国際婦人世界会議でした。ここで「国連婦人の10年」が採択され、各国が社会における女性の活躍を考えるようになりました。1979年には第34回国連総会において「女子差別撤廃条約」が採択され、あらゆる場面における男女の平等が約束されました。
こうした世界の動きを受け、日本では少し遅れて1985年に「女子差別撤廃条約」を批准した後、「男女雇用機会均等法」が施行されました。政井さんが就職した1987年の頃は、まだ職場における男女平等の制度が浸透する黎明期にあったそうで、法律が施行されたことは、ニュースとして扱われていました。2015年には「女性活躍推進法」や企業の女性活躍を数値で測るコーポレート・ガバナンス・コードが制定され、より具体的な実現に向けて日本社会がさらに動き出しています。
「女性活躍推進といったダイバーシティの流れが弱まることはありません。今は一部の世界的な企業だけの取り組みのように見えることも、やがては様々な企業へ広がっていき、日本全体の流れとなっていきます。ダイバーシティが推奨される背景には、いろいろな人の意見を聞くことで、組織がより良くなるという考えがあるからですが、見方を変えれば、その一員である自分がしっかりとした意見を持ち、それを伝えていくことが重要です。」
改めて、世界各国のジェンダーギャップ指数を見てみると、我が国は、ヨーロッパや北米に比べ出遅れています。教育や健康といった項目では上位国との差はあまりないものの、政治や経済といった社会に出てからの指標には、世界でも課題が残る中、我が国ではその中でも大きなジェンダーギャップが残っています。
「ここまで過ごしてきた皆さんの人生では、大きなジェンダーギャップをあまり感じることはなかったかもしれません。しかしながら、こうした統計を見ると一歩社会に踏み出せば、これまでとは違うことが多く待ち受けていることがうかがわれます。それを少し頭の片隅に置いておいてほしい。もちろん、先ほど申し上げたように、ダイバーシティの流れは弱まることはありませんが、ご自身が置かれている状況を理解しておくことも大切だと思います。また、少し話がそれますが、今日ご紹介したように、自分たちの身の回りで起こっていることを少しばかり統計や制度等で確認することで、物事への理解が深まり、知識が増えます。是非、意識してみてください。」
写真と共に振り返る、政井さんのキャリア
続く講義では、一人っ子で可愛がられたという政井さんの写真と共に、時代がどう変わってきたのかを振り返りました。政井さんが小さかった1970年代の日本の経済規模は73兆円で、現在の約8分の1しかありませんでした。
実践女子大学の英文科で学んでいた政井さんは、「仕事をするなら、英語を使った仕事をしたい」という気持ちから外資の金融機関に就職し、20年間勤めました。宗教や慣習が異なる20か国を超える仲間と共に取り組んだ為替を扱う仕事は、「国が変われば当たり前も違う」「異なる背景を持つ人達とゴールを目指す」ことを学んだ、貴重な経験になったと言います。
また、この間、仕事の合間をぬって、これまで仕事で得た知識を体系的に整理する機会を作りたいと、夜間大学院へ。
その後、部長として新生銀行へ転職。日本の金融機関ならではの文化などを通じて、「日本をよく知らなかった自分」に気づくことができたと当時を語りました。
執行役員となった頃には、学会発表等の機会を通じ、専門性を高めていきます。2016年には日本銀行の政策委員会審議委員に就任しました。任期満了に伴う退任後、現在は社外取締役などの責任ある立場として活躍しています
私の座右の銘のひとつは、『とりあえずやってみよう』。20代の頃、初めてのミッションでJAPAN DESKを設置するため、NY出張したのですが、さすがに緊張していました。そんな時、たまたま頼んだ中華のデリバリーにおまけのフォーチュンクッキーがあって、その中に、ウィリアム・コベットこの言葉“You never know what you can do till you try.”が入っていたのです。これを見て、なんだか気が楽になりました。
もうひとつは、『愛されたいなら、愛されるに相応しい人になれ』。これは古代ローマの詩人オウィディウスの代表作のひとつ「恋愛指南」にある言葉ですが、仕事の上でも必要な視点だと感じています。例えば、自分に任せてもらいたい仕事が任せてもらえないと感じたら、それはひょっとすると周りの目からみれば、仕事を未だ任せられる自分になっていないのかもしれません。自分の足りないものに気づき、それを埋める努力をするという視点も大切だと感じています。」
女子大には、女性がイニシアティブをとれる貴重な環境がある
「今はキャリアの総集編」と講義を締めくくった政井さんに、学生からたくさんの質問が寄せられました。「外資系金融で外国人と働く中で、困ったことは?」という質問には、「察する文化に慣れた日本人は、身体が大きくて押しの強い外国人の要求をのんでしまいがち。でも後からやりたくない、できないというのは卑怯だとされる。自分の意志は最初にはっきり伝えることが重要」と答えました。
また「英語を使う外資系企業に就職するために、今からやっておくことは?」という問いには、「相手に『この人は喋れる』という印象を持ってもらうことが大事です。何か、自分の興味があることを、英語で滔々と語ることができるよう練習しておくこともいいと思います。また、何でも興味を持つことは大事です。というのも、語れるものを持っていなければ、英語でも伝えられるものがありませんから。」と回答しました。
「女子大で良かったと思うことは?」という質問には、「男女共学の大学にあるジェンダーギャップが、女子大にはありません。みな女性がやる環境では、企画やリーダーなどに挑戦できる可能性が高くなり、イニシアティブをとった経験は社会で役立ちます。何事も視点を変えれば、違ったものが見えてきます。弱点と感じることを、利点に変える視点が大切ですね」
学生の挙手が止まない中、あっという間に講義時間が終了を迎えました。終始生き生きとユーモアたっぷりに学生に語る政井さんの言葉は、社会で活躍する学生達をこれからも勇気づけていくことでしょう。
深澤教授の話
昨年に引き続き、本授業にご登壇いただいた政井貴子様は、本学出身の先輩。外資系の金融機関での長年のご経験に加え、日本銀行でのご活躍は、現役の学生にとって決して近い存在ではないはずです。しかし、政井様が、目の前の仕事に、一つひとつ懸命に取り組まれたことの具体的なエピソード、そして実践女子大学での学びが、社会で十分に通用することなどをお話し下さり、学生たちの政井様との距離があっという間に近づいたことを感じました。やはり卒業生のお話しにはとても説得力があることを改めて感じました。この場を借りて政井貴子先輩に心から感謝申し上げます。