近畿日本ツーリストの社員となって、「地域に通う若者の新たな旅のスタイル」を考えて企画提案する授業が、4月22日(金)に渋谷キャンパスにて行われました。同社と本校の社会連携授業として実施され、同社の地域ビジネスを担当する橘清志氏が講師として登壇されました。企画の最終発表は6月3日。橘氏は「想像力をフル活用して面白い企画を作ってください」と語り、学生たちの企画に期待を寄せました。
近畿日本ツーリストは修学旅行分野のパイオニア
株式会社近畿日本ツーリストは「感動・学び・出会いを総合プロデュースする」をテーマに、企業法人向けサービスを行っている旅行会社です。個人旅行も手掛けていますが、団体旅行に強みがあるのが特徴です。理由は前身の日本ツーリスト時代、修学旅行分野でパイオニアとなったことにあります。卒業旅行や慰安旅行など、節目節目に「旅」を入れていこうというと考えを広め、1948年に5名からスタートした会社は、現在では、KNT-CTホールディングスとして5500名ほどの従業員を抱える大企業へと発展しました。
いまでは当たり前になっている夜行バスでのツアーなどを考案するなど、新しいことに挑戦してきた近畿日本ツーリスト。現在は環境に優しいサービスを提供するハイクラスブランド「ブループラネット」にも力をいれています。
旅に「トラブル」はつきもの!?
講師の橘氏は近畿日本ツーリストの営業部に入社し、当初は企業の団体旅行の企画を担当されていました。その後国内旅行部署などを経て、現在は地域共創事業部で、地域ビジネスやBPO事業を担当されています。
自己紹介のなかで「旅(travel)の語源はトラブル(trouble)である」という話から、営業部時代のエピソードを披露されました。マカオに旅行の下見に行った際、帰国前日に航空会社が経営難で倒産し帰国できず、そのまま海外に置き去りになった経験でした。想像するだけでも大変さが伝わるエピソードですが、しかし「そのときは本当に大変だったけれど後々笑って話せる」と冗談を交えて話されていました。
コロナ禍の観光ビジネスの現状…地域活性に繋げるためには
橘氏の話はアインシュタインの名言を引用し、想像力の大切さを意識するところから始まりました。それには旅行者の「旅行+α」の自覚していない欲求を想像することが大事だから。提案や交渉、コミュニケーションにも想像力が必要であることを強調されていました。
観光ビジネスとは、旅行会社だけではなく、宿泊業、交通、テーマパークなど複数の事業が複雑に関わるビジネス形態です。また、文化の保全や環境の保護、経済成長の観点からも必要不可欠です。経済面で言えばGDPの10%を占め、全人口の1/10の雇用に関わっていると言われています。
そのため日本でも近年観光ビジネスに力を入れ、特にインバウンド需要を見込んでいましたが、コロナ禍により大打撃を受けました。インバウンドが回復するまで時間がかかる現在、国内観光需要の掘り起こしが必要なのです。
橘氏は観光ということを考えるときには「地域」「住民」「産業」の3つの循環が大事と言います。観光地を核として好循環を創出することで、地域活性化に繋がります。そのためには1回行って終わりではなく、何度も行きたくなる、その地に「帰る」旅が必要である、と観光業界は考えています。その企画立案に学生たちが挑戦します。
想像力を使って「若者が何度も通いたくなる旅」を考えよう!
学生たちに出された課題は「若者が、何度も通う旅・帰る旅の企画造成」。まずは現在の若者のニーズや、どの地域を選定するか調査します。その上で滞在や移動の環境も含め、オリジナルアイデアを加えて、何度も行きたくなる仕掛けを考えます。
学生からは「若者に来てもらうことと地域の課題解決のどちらを優先して企画を考えるべきか」という質問があり、橘氏からも「素晴らしい質問」との言葉が飛び出しました。この2つの問題は複雑に絡んでおり、どちらを優先するかは難しい問題ですが、「地域の課題を解決するために若者に来てもらうには?」という観点で考えることを助言されました。
新たな旅のスタイルの背景には何が求められているのか
ヒントとして、現在の旅行顧客のニーズは、コロナ禍を経て変容してきていることが紹介されました。近場への観光やアウトドアブーム、ワーケーションなどの滞在型やロングステイの広がりなどが挙げられます。コロナ禍により密を避け、自然環境に触れられることが求められているのです。また、グリーンツーリズムや里山での二拠点居住など「ふるさと」を持ちたいという需要が増えていると言います。生き方が多様化し、新たな生活を模索するひとつに「旅」という選択肢が増えているのです。
社員として行う本格的なプレゼンテーション
学生たちはグループワークを経て新しい旅のかたちを考えていきます。今回の授業は、良い企画があれば近畿日本ツーリストで採用される可能性もある、とても本格的なものです。5月13日に最初のプレゼンテーション、6月3日には最終プレゼンテーションに臨みます。プレゼンテーションは役割分担をして聞き手に分かりやすくまとめる必要があります。橘氏からは視点を増やし、想像力を鍛えることが最後助言され「皆さんの企画を楽しみにしています」と激励。その言葉通り、今後の進展が楽しみな授業となりました。
深澤教授の話
今年もスタートしました。“大学での学び方を学ぶ”をコンセプトにした「実践プロジェクトa」
昨年度一昨年度の2倍となる30名の1年生が履修してくれています。
主体性溢れる精鋭たちとともに前半は近畿日本ツーリスト様、後半はサントリーホールディングス様の課題に挑戦していきます。
いずれもハードルの高い課題が提示されますが、「授業を終えた時の達成感、そして学生一人ひとりの成長の姿」を味わえることを期待して授業を進めてまいります。
(文学部国文学科 深澤晶久)