7月3日に女性とキャリア形成(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)「カタリバ」代表理事の今村久美氏による特別講義が行われました。今村氏は大学生のときに団体を設立しています。その後、なぜNPO法人という形を選んだのか、いま子どもたちにどんな支援が必要なのかを、ご自身の体験を交えて詳しく話してくださいました。

お互いに「語り合う」ことで自分を知る
まずはアイスブレイク。
今村氏は「この授業のクラスメイト同士について詳しく知っていますか?」と尋ねました。
どういう経緯でどんな選択をして本学に進学することを選んだのか、今後どんな人生を歩んでいきたいと思っているのか、3~5人のグループに分かれディスカッションを行いました。
いつも授業で顔を合わせていてもなかなか深い話はしないもの。改めてお互いを知る機会になりました。
「私のNPO法人の名前はカタリバと言います」と今村氏。
「学校生活って、教えられることはたくさんあるけどお互いのことを話すことは意外とない」と言い、「自分の現在地を知るためには、語り合うことが大事じゃないかと思って」、団体にこの名をつけたと語りました。

スタートラインの位置は公平じゃない?
今村氏は続いて学生たちの家庭環境について質問を投げました。
「自分の条件に当てはまる数を数えていってください」と8つの項目を伝えます。
離婚していない家庭である、携帯電話を止められる心配をしたことがない、家計を助けなくてはという心配をしたことがない、大学の学費の心配をしなくてもいい……。
6つ以上当てはまった人がクラスの多数を占めています。

ここで今村氏は、同じ質問を行ったアメリカの子どもたちの動画を見せました。条件に当てはまったら先に進めるルールで、どんどん進んでいく子も、一歩も進めない子もいます。
動画を見終わったあと、今村氏は「自分の回答も含め、この動画を見てどう思ったかをまたグループで話し合ってみてください」と再度ディスカッションを促しました。
ディスカッションのあと、学生たちからは「今の時代みんな学校に行けてスタートラインは同じように見えるけれど、家庭環境などでスタートラインが違うのだと実感した」「自分で選んだわけではなく、もともとその位置で決まっていたと知った」などの感想が出ました。
地元の閉塞感が設立のきっかけ
今村氏は岐阜県出身。
実家は飛騨高山で土産物屋を営んでおり、両親も親戚も大学に行ったことがない家庭だったといいます。
特に女性は高校を卒業したら就職し、結婚し子どもを産むことが良いとされ「女性が意見を持つなんていけないことのような雰囲気」があったと言います。今村氏はそんな環境に閉塞感を覚え、どうしても地元を出たいと大学進学を志します。
晴れて神奈川の私立大学に進学した今村氏は驚きました。
同級生はみんな良い服を着ています。車で通っている人も、海外留学をしたことがある人もたくさんいました。「自分が高校で常識だと思っていたことと、世の中はこんなにも違うのだと実感した」と言います。
充実した大学生活を過ごしていた今村氏は、成人式のために地元に戻ります。
すると、昔の友人にあったとたん同調圧力のようなものを感じ、大学生活が楽しいということを言えなくなってしまったのです。この差はなんなんだろう、と怒りや悔しさを感じた今村氏。
その後、大学の授業で少年法を学んだこともきっかけとなり、家庭環境などにより、スタートラインに立てない子どもの支援をしたいと「カタリバ」を設立することを決意したのです。

悩みごとは「発見のアンテナ」!

そもそもNPO法人とはなんでしょうか。学生からは「ボランティアのイメージ」との声が。
今村氏は頷いて、「寄付金を集めて、そのお金で行政の支援が届かない人たちを助ける活動を行っている」と話しました。
「ビジネスの領域や行政では解決できない、取り残された課題がNPO法人の領域です」と今村氏。
カタリバでは、シングルマザーの家庭の子たちなどに向けて、無料でご飯が食べられて勉強も見てもらえる拠点の運営などを行っています。行政と連携し、支援が必要な人に届くように活動を広げています。
「大学生活で感じたもの、地元から得たものがたくさんあります」と今村氏。地元から首都圏に出たことで、違いについて気付けたと話します。
そして「悩みごとは発見のアンテナ」と語りました。
「劣っているのではなくて、それは自分の強み。自信のある人には気付けないことに気付ける」と言い、「皆さんはこれからなんでもチャレンジしていける。これからの人生も頑張ってください」とエールを送りました。
小さな課題を「みんなの課題」にしていこう
講演後は学生たちからの質問タイム。
「NPOが取り組む課題で一番大変な問題はなんですか」という質問に、今村氏は「ニュースやテレビで報道されない課題。例えば子どもの貧困についても2016年頃からようやく取り上げられて表面化していった。それまでは家庭の問題と切り捨てられてしまう。メディアが取り上げることでみんなの課題になる」と話し、「皆さんもぜひ、皆さんの感性で捉えた小さな課題をSNSなどで知らせてください」と話しました。

最後にクラスを代表した学生がお礼の言葉を述べました。
「NPO法人の活動について初めて知りました。今後自分もどのような活動が出来るかと考える機会になりました」と感想を語り、新しい学びに繋がったことを自身の体験を交えて語りました。
学生たちにとって多くの気付きのあった授業でした。
担当教員からのメッセージ
女性とキャリア形成の最後のゲストに、カタリバの代表理事である今村久美様にお越しいただきました。
以前から存じ上げていた方ですが、直近では、東京2020オリンピックパラリンピック
競技大会組織委員会の文化教育委員会の委員としてご一緒させていただきました。
どんなことがあっても、こどもたちの居場所づくりを真っ先に考え、奔走されている姿には、
いつも感動していました。
今回、改めてご講演をお聞かせいただき、真の意味で将来の日本を考えておられる先導者であることを
改めて感じました。
大変ご多忙の中お越しいただいたことに心から感謝申し上げます。
