共通教育科目「女性とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、5月22日にSBI金融経済研究所株式会社の取締役理事長である政井貴子氏をお迎えしての、特別講演が行われました。女性が社会に出ていく前に知っておくべき心構えなど、実体験やデータに基づいた貴重なお話をお伺いしました。

なぜ女性が活躍することが重要なの?
この授業は進行も学生が行います。キューブと呼ばれる担当の班の学生が「つねに前向きに学びを深めながら、華麗な転身をしてこられた」と紹介し政井氏が登壇されました。
この授業に出演されるのは4年目です。「毎年気付きがあるのでそのたびにブラッシュアップしています」と話します。
「今回はそもそもなぜ『女性とキャリア形成』という授業があり、女性活躍推進が重要なのかしらという背景の共有をできればと思います」と講演を始められました。
まず政井氏は「男女雇用機会均等法」について説明。性別にとらわれずに自由に働けるための制度です。
逆に言うと、制度がないと女性は自由に生きていけなかった過去があります。
「皆さんは小学校の家庭科の授業は男子も一緒だったと思いますが、私のときは女子だけ。男子は技術という工作の授業を別々に受けていた」と話します。
第二次世界大戦を経て国連が成立した際、あらゆる差別を撤廃するべきだという動きが世界中で盛り上がりました。
そのなかには女性への差別も含まれ、1985年に女子差別撤廃条約に日本も批准。男女共同参画社会基本法を制定し、1999年に男女雇用機会均等法が制定されました。
「こういった流れのひとつとして、皆さんの雇用を後押しする一つとしてこの授業もある」と政井氏は話しました。

男性の意識はどうか
しかし、格差がまったくなくなったわけではありません。
世界のジェンダーギャップの解消には100年以上かかるという試算が。特に政治経済格差はなかなか縮まらないと言われており、それは日本も同様です。

では具体的にどういうことが課題となっているかと言えば、ひとつは家事の分担です。
政井氏は、家事を男女のどちらが担うべきか、男性に取ったアンケート結果を示しました。39歳以下の7-8割は、半々で負担するべきと回答。
しかし年齢が上がるにつれ割合は少なくなり、60歳以上になると半分以上の人がパートナーに任せたいと回答しています。
「女性は家庭に入るべきだと思っている人はまだまだいるということ。社会に出れば、年上とも仕事します。特に60歳くらいの人は偉いポジションも多い」と政井氏。
年上の男性と接する際は、口には出さずとも女性は家庭に入るべきという考えをもっている可能性も想定した方がいいと忠告されました。
ジェンダーギャップはこれからもある
政井氏は続けて「若い世代は大丈夫では、と思うかもしれませんがそうでしょうか」と次のアンケート結果を表示。
「営業職は男性の仕事だ、職場では女性は男性のサポートにまわるべきといった質問に、若い男性もそう思うと回答する人も2割ほどいる。10人いれば2人くらいは内心そう思っている人がいるんだと知っておくべきです」と語りました。
そして「皆さんは、そういうのも含めて会社を見て就活をしましょう」と話しました。
「出したデータは平均値なので業態や会社ごとにばらつきがあります。特定の業種や会社に偏っている可能性もある。受け入れ側の体制がどうなっているか、変わって行きそうかをみるのも大事ですよ」と語り掛けました。
また、賃金格差も依然としてあることを指摘。
政井氏は「私も役員をやってきましたが、世代的にも安く使われていると思います」と告白しました。
「昔は今よりも男女格差が大きかったので、役職に就けるだけで信頼されていると思っていた」と話します。
現在は男女差が出ないようポストに対して報酬制度が決まっているところもあります。「稼いでいくことが目的ではないですが、生涯賃金を考えるのも大事」と話されました。

女子校でリーダーシップを養われる!

「私が学生の頃はキャリアを考える授業もなく、自分もここまで長く仕事をするとは思っていなかった」と政井氏。
英語を使える仕事が良いと外資系金融業へ就職し、周囲は全員外国人のなか、人の数だけいろんな考えや価値観があることを知ったと言います。
日本の会社でも仕事したいと、現SBI新生銀行へ転職。
その後長年金融業界で働いた実務能力を買われ、日本銀行の審議委員へ就任されました。
「経済を学んだことのない私が専門家と混ざって意見交換する立場になるなんて」と話しましたが「20年もやっていると専門家として認めてもらえることもある」と誇らしげに語りました。
「女子校卒は不利ですか、と質問を受けることがあるのですが、そんなことはない」と本学の卒業生でもある政井氏は力強く話します。
「男性がいない中で女性がリーダーシップを取ることが求められる。人の前に立って行動することを経験できることはとても貴重です」と言います。
「皆さんの人生はまだまだ長い。振り返ってみて悔いの残らない充実した時間になると良いなと思います」と政井氏は講演を締められました。
キャリアを積み重ねるには
講演のあとは質疑応答の時間。学生から次々に手が上がりました。
「女子校でリーダーシップが養われることは実感がある」という学生からは、「男性のいる場で女性がリーダーシップを発揮できますか」という質問が。
政井氏は「なかなか自分にチャンスが回ってくることは少なかった」自身の経験を回答。
「一緒に仕事する人によって環境にばらつきがある世の中。自分に何が必要なのか考え、足らないことを実践してみる人がキャリアを積み重ねられると思います」と答えました。
さまざまな仕事をされている政井氏に「新しい仕事で環境が変わるとメンタルも影響出ると思いますが、どうやって前向きでいたのか」と質問した学生には「重要な視点ですね」と感心した様子も。
不安なときは友人に相談していたと話し、「大事なことを相談できる友達の存在が大切かも。そういう存在が学生のうちにできるといいですね」と回答。
「どうしても納得が出来なかったら辞めて、充電できたらまた仕切り直せばいい。手放すのも選択肢のひとつです」と伝えました。
学生たちにとってこの上ないロールモデルとして、貴重なお話を伺えるひとときとなりました。

担当教員からのメッセージ
政井様は、この授業には初回からご登壇いただいています。本学の卒業生ということもあり、学生の姿も真剣です。政井様のキャリアは特筆すべきものがあり、金融業界で、中央銀行、国内系、外資系とあらゆる組織でキャリアを積み重ねられた価値は、なかなか存在しないと思われます。今までは比較的遠い存在であった金融のフィールドでしたが、今の学生が社会を牽引するこれからの世の中を考えた時、一人ひとりがみずから資産設計することが求められることになります。政井様には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
