5月17日に「実践キャリアプランニング」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、日本労働組合総連合会(以下、連合)のジェンダー平等・多様性推進局長である菅村裕子氏による講演が行われました。社会で女性として活躍する上で知っておくべき法律やルールについて分かりやすく解説され、学生たちにとって学びの多い授業となりました。
法律で女性の地位向上を
菅村氏は神戸大学の大学院へ進学。
卒業前の就職活動において、とある企業の面接で「女性が大学院に行ってなにがいいの?」と言われたと話します。
女性というだけで、学びの機会を得ることを否定されるのかと憤った経験を話されました。
法的トラブルに対する支援を行う法テラスを経て、女性の地位向上の仕事がしたいと青年海外協力隊に参加し、シリアなどに派遣。活動に尽力されました。
中東における女性の人権問題はよくニュースになりますが、「日本の女性も本当に大変」と菅村氏。現在は連合に勤務しています。
連合とは各企業・業界の労働組合が加盟しているナショナルセンター(中央組織)です。労働者は労働基準法を含む労働関係法令で守られてはいますが、「法律で守られている部分は必要最低限」と菅村氏。
連合は労働者の権利を守るために活動しています。
法律だけでは男女平等には不十分?
労働条件の最低基準を定める労働基準法は1947年に制定され、第4条において「男女同一賃金の原則」が明記されました。女性であることを理由として賃金の差別的取扱いはしてはいけないというこの条文は一見男女平等のように思えます。
「しかし、募集や採用、配置、教育訓練、昇進や定年等における、男女の差別的取り扱いは禁止されませんでした。」と菅村氏は指摘しました。
性別による差別をなくすことが必要と、1986年に「男女雇用機会均等法」が制定。
2007年改正により、女性だけでなく男女双方に適用される法律となりました。
しかし、長時間労働の慣行が引き続き残った結果、均等法には、男性と同様に長時間働けることを前提とした「男性並み平等」の課題があります。家事や育児などの家族的責任と男性並み平等との葛藤による仕事と家事・育児・介護の両立の困難から、少なくない女性がパートや有期、派遣雇用という形で雇用形態を変えて働いてきました。こうした労働者を保護するため、派遣法やパートタイム・有期雇用労働法が制定されています。
少しずつ改善していますが、完全な平等を実現するにはまだ課題も残っています。
育休は労組が勝ち取った!
菅村氏は育児休暇についても言及。
育児休暇も労組の取組から始まりました。当時は、女性が結婚したり子どもを産んだりしたら退職を迫られることが横行していました。電電公社の組合が働きたい女性たちからの要望を会社に要求。育児休暇が導入されたのです。
今では浸透してきた「育休」ですが、それでも男性の取得率はなかなか上がらない現実があります。休暇を取りたくても言い出せない人はまだ多くいます。
さらに、育休を取得できたとしても数か月の空白期間や、時短勤務はキャリアに響き昇進が叶わない女性も多くいます。結果として、男女間の賃金の差異は大きくなっています。
「これでは子どもを持つ人が少なくなっているのは、当たり前のことです」とさみしそうな口調で菅村氏は付け加えました。
もちろん国や企業も性別の格差をなくし、育休取得率を上げようと取組をしています。「女性の活躍推進企業データベース」では、女性の活躍認定「えるぼし」や子育てサポート認定「くるみん」などを取得している企業を確認することができます。
菅村氏はただ認定があるかを調べるだけではなく、その企業の賃金格差の内訳や、差異を是正するために取り組んでいるかをきちんと確認することが重要と伝えました。
「まだ格差がある中で、どうやって縮めていこうとしているのか、その企業の姿勢を確認できます。しっかり見て自分の働き方に合うかを知りましょう」
立ち止まらず少しずつ良くしていこう
講演の終わりに、学生はグループごとで話し合い、意見や感想をリアルタイムで掲示板に投稿。
深澤教授が読み上げる形で質疑応答が行われました。
「日本の賃金の男女格差を減らすには?」という質問には、菅村氏は「日本の企業では休みに対するネガティブな考えがある。性別関係なく、同じように休めるように変えていくべき」と回答されました。
「男女格差は根深い問題だと知りました。法律を改正しても変わらないのでは?」と危惧する質問には、「結婚退職、女性の定年は35歳という時代から比べると、先輩たちの頑張りによって、特にこの10年ほどで女性の正規雇用率は上がり、良くなっている。自分たちも頑張って次に続けていきたい」と菅村氏。
そして、「北欧では男女の賃金格差が少ないと言われますが、女性の多くは保育士などの公務員。ドイツもジェンダーギャップが少ない国ですが、女性に偏った短時間勤務など、性別により働き方に違いがあると聞いており、日本だけではない問題です。しかし難しいことだと思考停止にならず、少しずつよくしていきたいと思います」と力強く話され、授業を締めくくりました。
知っておくべき法律や少しずつ変わっている現状を学び、女性として社会に出ていく上で厳しい現実を知り学生たちには指針となる授業となりました。