社会連携プログラム
SOCIAL COOPERATION PROGRAM
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2022年1月29日

サントリーホールディングス株式会社執行役員 コーポレートサステナビリティ推進本部長の福本ともみ氏が本学の「女性とキャリア形成」の授業で講演しました(12/9)

与えられた「仕事」をきちんとやる人間は信頼される

その先に、「私事」や「志事」へのチャレンジがある
参加者全員の集合写真

2021年度の共通教育科目「女性とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)は、実践女子大学の卒業生を含む企業トップの生き方から学ぶリレー講座。2021年12月9日に行われた第5回の登壇者は、サントリーホールディングス株式会社執行役員 コーポレートサステナビリティ推進本部長の福本ともみ氏です。

見出し 世界の潮流となった「パーパス経営」にも通ずる
サントリー創業者の信念「利益三分主義」

「何のために働くのか」をテーマにした今回の講演。福本氏は自分の話をする前に、企業の話から講演をスタートさせました。
福本氏によれば、近年、企業の存在意義(パーパス=Purpose)に基軸を置いた「パーパス経営」が世界的に注目を集めているそうです。「パーパス経営」とは、「社会をよりよくすること」「よい環境を次の世代につなげていくこと」などに軸足を置いた経営のこと。企業ですから、もちろん利益を上げることは大切です。しかし、そうした利益至上主義が、環境破壊や過重労働などを引き起こしていることも事実です。そういうなかで、国内外を問わず、パーパス経営を実践する会社が増えてきました、と福本氏は説明します。
「この考え方は、近江商人の心得である『三方よし』の精神にもつながっています」と福本氏。ちなみに、「三方よし」とは、売り手と買い手の双方が満足し、社会に貢献できてこそよい商売であるという考え方です。そしてそれは、サントリーの創業者・鳥井信治郎氏が信念としていた「利益三分主義」(事業によって得た利益は、「事業への再投資」「得意先・取引先へのサービス」に留まらず、「社会への貢献」にも役立てたいという考え方)にも通ずるものなのです、と福本氏は話します。

創業者 鳥井氏の創業精神を語る福本氏

お酒や清涼飲料水のメーカーとして
社会福祉や文化貢献、環境経営を推進

熱心に耳を傾ける学生

福本氏によると、鳥井氏が1899年に「鳥井商店」(現・サントリーホールディングス株式会社)を設立し、最初に商品化したのはワインだったそうです。甘口葡萄酒「赤玉ポートワイン」は大ヒットしますが、間を置かずに、初の国産ウイスキーづくりに挑戦します。理由は、日本人の味覚に合った洋酒をつくり、日本の豊かな洋酒文化を切り拓きたいと考えたから。この時代は、貧しい地域での無料診療所や戦災孤児のための施設運営など、社会福祉活動に力を入れていました。戦後は、「物が豊かなだけではなく、心が豊かになるように、文化的な活動で社会に恩返しを」という考えのもと、1961年にはサントリー美術館、1986年にはサントリーホールを開館。1990年代以降は、自然の恵みに支えられている企業の責務として環境経営を推進し、2005年には、「人と自然と響きあう」という企業理念のもと、社会やお客様との約束として「水と生きる」を制定したそうです。そこには、「利益を追求するだけのグローバルプレイヤーではなく、社会に貢献し、世界中の人々から信頼される企業グループを目指したい」という思いが込められています、と福本氏は教えてくれました。

就職したら「これをやった」といえる仕事がひとつはほしかった
会社を選ぶつもりで就活に臨もう

しごとには、仕事(MUST)と私事(CAN)と志事(WILL)の3つがあります。仕事は、自分の役割として責任を果たさなければならないもの、私事は自分自身の成長につながるもの、志事は自分が志すものであり、個人のパーパス。ひと口に『しごと』と言っても、その中身はいろいろで、何のために働くかを考える時、組織のパーパスと個人のパーパスの重なりを大きくすることが大切です。」(福本氏)
そしてここから、いよいよ福本氏ご自身の話が始まります。
「就職活動を前に、何がやりたいのか分からない。そもそもやりたいことがなかった」と福本氏は苦笑します。しかも、当時は「男女雇用機会均等法」も施行されていなかったため、4年制大学を卒業した女性を雇ってくれる企業はかなり少なかったそうです。
「やりたいことも明確ではなかったのですが、ただ、せっかく就職するのだから、『これをやった』と誇れる仕事をひとつでも残したいと思っていました。ですから、女性を戦力と考えてくれる会社で働きたかった。4年制大学卒業の女性を雇ってくれる会社は、手当たり次第に会社説明会に行きました。そのなかで、サントリーだけが若い女性社員が出てきて生き生きと話をしてくれたんです。私は、この会社で働きたいな、と思いました」(福本氏)。
そんな自らの体験を通して、「会社を選ぶつもりで、就職活動に臨んでほしい。『ここで働きたい』という気持ちを、大切にしてください」と福本氏はアドバイスしてくれました。

3つの「しごと」を話す福本氏

自分ができることを一生懸命にやることの重要性と楽しさ
仕事(MUST)をしっかりやることの大切さを知った

入社当時を語る

福本氏が入社して初めて配属されたのは、人事部だったそうです。
「最初の担当は、アルバイトさんを採用する仕事。社内の各部署で必要なアルバイトさんを、必要な期間、必要な人数を集めるのが仕事でした。ところが、募集広告を出しても応募がほとんどないこともあって……。でも、このアルバイトさんがいないとあの部署の人たちは困るんだろうな、と思い、知り合いなどに声をかけて必要な人数を集めるようにしたんです。そうすると、感謝されるんですね。それが嬉しくて、やりがいも感じました」と福本氏。
入社当初は優秀な同期のなかで、いつもみんなの後ろを追いかけているのではないか、ご自分は要領があまりよくないと感じられていたそうです。でも、3、4年経つにつれて、重要な仕事を任されるようになっていった、と福本氏は言います。それである日、上司に聞いてみたそうです。  
上司の答えは、「確かに君は要領がよくない。でも、大切なのはやるかやらないかだ。『コピーとりみたいな雑用はできない』と文句を言ったり、『こんな仕事ができます』と自己アピールをする前に、与えられた仕事で実績を出すことが重要なんだよ。君は結果を出している。与えられた仕事を120%やる人間が信頼される」。
ここでいう「しごと」は、まさにMUSTの「仕事」。志をもった志事、成長できる私事をと望む前に、仕事きちんとやり遂げることが大切なのだということを、身をもって実感できた、と福本氏は話してくれました。

「相談されて嫌な人はいない」という上司の言葉に背中を押され
「チャンスに尻込みをしない」ことを覚えた

最初の転機は入社7年目のことだった、と福本氏は当時を振り返ります。
「人事部の仕事にはやりがいを感じていましたが、そろそろステップアップするためにもCANを増やさければいけないと感じていました。一方の会社も、『女性にも“留学”の門戸を開こう』と考え始めていました。そこで私は、候補試験を受けてみようと思ったんです」(福本氏) 
ただ、候補試験を受けるためには、事前にレポートを提出する必要がある。どうしていいか分からなかった福本氏が上司に相談すると、「君は何でも自分でやろうとしすぎだ。いろんな人にどんどん相談してみなさい」と言われたそうです。相手に迷惑をかけたくないという気持ちが強かった福本氏がためらっていると、上司は「相談されて嫌な人はいないよ」と福本氏の背中を押してくれました。その言葉に勇気をもらった福本氏は、いろいろな人に相談してみると、皆さん、喜んで相談にのってくれたそうです。
「この経験で私は、『チャンスに尻込みをしないこと』『情報をとることの重要性』を学びました。一人ではこのチャンスを掴むことはできなかったと、今も思っています」(福本氏)

意見を交わす学生

小さなPR会社の女性社長の言葉が
プロフェッショナルになるきっかけをくれた

プロフェッショナルになるきっかけを話す

国内留学でビジネススクールに通って勉強した福本氏は、広報部を経てサントリーホールで仕事をすることになりました。そこで福本氏は、挫折を味わうことになります。
「広報の仕事は、簡単に言えば、新聞や雑誌の記者さんやテレビのディレクターさんにサントリーの情報を伝えて記事にしていただくことです。ただ、本社の広報部は大きな組織なので、いろいろな人がサポートしてくれました。ところが、サントリーホールは小さな組織で、広報担当は私ひとり。何でも自分でやらなければなりませんでした」(福本氏)。しかも、音楽ホールのことも音楽のことも自分は知らない。音楽記者とのコミュニケーションもままならず、約1年は納得できる仕事ができなかったそうです。悶々とする日々が続いたある日、小さなPR会社の女性社長に「私たちは一生懸命に仕事をしても、成果が出なければ次の仕事はこなくなっちゃうのよ」と言われたそうです。
「ハッとしました。大きな会社だから成果が出なくてもお給料はもらえますが、自営業やフリーの方はそうはいきません。この女性社長さんの言葉で、『自分はプロフェッショナルにならなければいけない』と強く思いました」(福本氏)。その頃、上司から「敵にしたら向かい風だけれど、味方につければ追い風だよ」と言われたこともあり、以来、音楽記者とも密にコミュニケーションをとり、人間関係が良くなるように努めたそうです。

「務まるかなぁ」ではなく、就任したからには「務める!」
「音楽を通して幸せな体験をしていただく」という“志事”ができた

その後、2008年に副支配人としてサントリーホールに戻った福本氏。翌年には支配人となり、事務方のトップとして約300人のスタッフをまとめることになったといいます。しかし、自分はその役割を果たすことができるのか不安だった、と福本氏。そんなとき、元通産官僚で外務大臣も務めた経験もある川口順子氏の「政治家と官僚は違う。これまでの延長線上では務まらない。政治家になったから、私は性格を変えたのよ」という言葉を思い起こしたそうです。この言葉に、またハッとさせられた、と福本氏は言います。
「私にこの仕事が務まるかなぁ、と考えている場合ではない。就任したからには、自分を変えてでも務めなければいけないんだ、と思ったのです」(福本氏)
 スタッフをまとめ、音楽家の方たちに気持ちよく演奏していただくためにはどうすればいいかを考えた、と福本氏は言います。
「結果、お客さまにも、サントリーホールのスタッフにも、音楽家にも、音楽を通して幸せな体験をしていただくことが私の務めだと思いました。このときの経験こそが志事で、志のある仕事ができたと今も思っています」と福本氏は笑顔を見せました。

熱心に話を聞く学生

仕事をしていく上で大切なのはプロフェッショナルになること
仕事を楽しみ、努力を惜しまず、人との関係を大切にする

「プロフェッショナルとは」を語る福本氏

最後に福本氏は、“志事”を見つけ、全うする秘訣を教えてくれました。
「これまでの経験で、私は仕事をしていく上で大切なのはプロフェッショナルになることだと考えています」(福本氏)。では、プロフェッショナルとはどういう人なのでしょうか。福本氏は以下の3つを挙げてくれました。
・自分の仕事を楽しむこと〜好きこそものの上手なれ
・努力を惜しまないで熱中すること〜人並みのことをしていては人並みにしかなれない
・人との関係を大切にすること〜何をするかと同じくらい「誰と」するかも大事
 具体的で分かりやすく、示唆に富んだ言葉は、これから就活に臨み、社会人としての一歩を踏み出す学生たちに、たくさんの勇気とヒントを授けてくれたはず。講演と質疑応答が済み、教室を出て行く学生たちの顔には明るい表情が広がっていました。

深澤晶久教授の話

お話しを通して伝わるお人柄の素晴らしさを浴びながらのあっという間の1時間でした。
そして、サントリー様の理念でもある“やってみなれ”精神を随所で発揮しながら、様々な部門での経験に裏付けられた企業トップとしての矜持を感じさせていただきました。
学生たちは、福本様の、しなやかに美しく、志事を貫くその姿勢から、多くの学びをいただいたことと思います。それにしてもサントリー様の社員の会社を愛する気持ちは、今も昔も変わらないということに、改めて気づいた時間でもありました。

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