4月13日に人間社会学部の授業の一環として、新入生全員が参加するイベント、「新入生セミナー」が行われました。今回は協力企業として、株式会社三越伊勢丹にご協力いただきました。実践女子大学人間社会学部では、2004年の設立当初から、入学直後の新入生に対し、4年間の学びの動機づけと新入生同士の交流を目的として「新入生セミナー」を実施しています。2017年からは企業と連携したPBL型のセミナーに方式を変更しました。高校までの授業の多くが「正解のある問題」であるのに対し、社会人になったときに対峙する問題のほとんどは「正解のない問題」です。「新入生セミナー」では、この「正解のない問題」に取り組む姿勢や思考を学ぶことができます。人間社会学部では専門知識を身につけるだけでなく、PBLも含むアクティブな学びを展開しています。また、入学直後のグループワークを通じて、学友を作る機会にもなっています。さらに、この体験を通じて、今の自分に何が足りないかを認識し、今後の学びの動機づけにもつながります。この新入生セミナーでの産学連携PBLを通して、新入生の意識変容を図り、これからの4年間の学びに対する意欲を高めています。今年度は、近い将来に重要視される仮想社会であるメタバース空間を対象とした提案を考えるために、生成AIの使い方を学び、一日を通じてメタバース空間「REV WORLDS」を使ったバーチャルファッションを考える課題にチャレンジしました。学生たちは、新しい世界への視点やきっかけを得る貴重な機会となりました。
デパート販売員がメタバース空間を作る?
まず登壇された仲田朝彦氏は、仮想都市のコミュニケーションスマホアプリ「REV WORLDS」の発起人。CGのメタバース空間を一から作り上げた一人です。
しかし、入社時は伊勢丹メンズ館で服を売っていたデパートマンでした。
今回は「きっかけをインストールしよう」をテーマに、なぜ仲田氏がメタバース空間を作り上げたのか語ってくださいました。
仲田氏が入社したのは2008年。
この年に起きた出来事がリーマンショックです。同じ年、iPhoneが誕生したことも仲田氏に大きな影響を与えました。これからはデジタルで革命が起こると確信し、先行きの見えない時代、自らスキルアップすることの大切さを実感したのです。当時メタバースはまだ出てきたばかりの概念でしたが、仲田氏は「いつかネット上に伊勢丹を建てたい!」と考えるようになります。時間も空間も越えて、バーチャル空間で買い物できるようになればもっとすばらしいサービスができるようになると思ったのです。
チャレンジすることを諦めない
ただ、実際に企画が立ち上がるまで13年の時間がかかったと言います。事業計画書を書いて何度も会社に提出しましたが、なかなか企画の力を信じてもらえなかったのです。
「社会人になるとチャンスはなかなかない。売れるものを作らなきゃいけないと言われ、挑戦しづらい環境です。新しいものを受け入れてもらえないこういった環境は変えたいと思っています」と仲田氏。
なかなか企画が通らないなか、今苦しくても頑張ろうと諦めず、ずっと胸に秘め機会をうかがっていました。
そして巡ってきたのが社内起業制度の募集です。
「バーチャル空間なんていつできるのか」と社員に言われたことに一念発起し、独学でCGのモデリングを学びました。
仲田氏はCGについてはまったくの素人でしたが、必死で勉強しCGのプレゼンテーション動画を作成。
そのプレゼンテーションが認められ、「REV WORLDS」が誕生しました。
未来のデジタルファッションとは?
「REV WORLDS」は伊勢丹だけの空間ではありません。
都市型のメタバース空間で、様々な企業や施設が地続きで存在する、もうひとつの世界です。
仲田氏は「皆さん一週間のなかでお財布を開いた時間はどのくらいですか?」と問いかけました。
買い物をしている時間はそこまで長くないでしょう。
「みんなメタバース空間で買い物だけをしたいわけではない。他のアバターと遊んだりコミュニケーションを取ったりできる、世界を作りたいと考えたんです」と、メタバース空間を舞台にした映画などを例に挙げながら説明しました。
ここで学生たちに課題が出されました。
「アバターが着用するデジタルファッションを起案してください」というもの。
アバターとはメタバース空間での『もう一人の自分』です。
ただ、「人と人が関わることで起こることは現実と一緒」と仲田氏。
ファッションは自己表現のツールとして使われます。ターゲットはこれからのデジタル時代を担う、α世代(小中学生の世代)。彼らがオンラインのコミュニケーションツールとして使いたくなるファッションを考えます。
仲田氏は「メタバース空間では、今までできなかったことができるようになる。頭のなかの未来のファッションを形にしてみてください」と話しました。
生成AIを使いこなせる大学生になろう!
最後に仲田氏は生成AIの使い方を学生たちに伝授しました。
「大学1年生で生成AIを使える人は少ない」と言い、「この講演を聞けば、皆さん生成AIを使えるようになりますよ」と話し始めました。
生成AIと言われると、難しく感じるかもしれませんが仲田氏は「AIは難しかったら意味がない」と言い、作りたいイメージを言葉で指示することで具現化するコツを教えてくださいました。
ただ、生成AIは技術が先行しすぎて、現代の倫理観に当てはまらないものも出てきています。生成AIの作成したものがアートとして良い悪いかなど、これからしっかり考えていかなくてはなりません。
「メタバースはなんでもできるようになる世界だからこそ、何をするかが大事になる。AIを身に付けただけでなく、倫理観も考えられる大学生になってください」と仲田氏は語りました。
このあとグループワークでそれぞれ生成AIを使って「未来のデジタルファッション」を作成しました。
今回の課題は、新しく設置した社会デザイン学科との学びの領域と親和性があるテーマで、新入生たちは自分の感覚を最大限に活かし、創造的思考を深めながら取り組みました。また、ファシリテーターとして参加した上級生の力も借りながら、チーム内で協力し、ターゲットやコンセプトを決めながら生成AIを使いつつ、オリジナルのアイディアを具現化させました。
その後、各グループ3分間プレゼンテーションを行いました。最後に、株式会社三越伊勢丹の関係者と本学部の教員による審査が行われ、優秀な提案・発表を行った6チームに賞が授与され、全体での講評もいただきました。また学生たちは今回の体験を振り返り、それぞれが自分の得意なところや苦手なところを認識し、今後の成長の糧としました。約一日と長い活動になりましたが、学生たちにとって未来に必要な視点や技術を知る貴重なイベントとなりました。