夏休み期間中の8月22日(月)、23日(火)、24日(水)の3日間、実践女子学園高等学校で「JJスコレー」が行われました。有志の生徒たちが参加し、印刷博物館を見学して、持続可能な社会につながる課題を見つけるという特別授業です。3日目には校長先生や印刷博物館の学芸員の方を前に、見つけた課題と解決策について発表を行いました。
「JJスコレー」とはどんな取り組み?
「JJスコレー」とは、普段の授業では学べない体験を通して有志の生徒が課題にチャレンジする特別セッションプログラムです。3回目となる今回のテーマは「印刷博物館の所蔵品からSDGsについて考えよう!」です。課題は2つで、1つは「むかしの教科書から現代社会の課題を考えてみよう」、もう1つが「100年後まで残したい印刷博物館所蔵資料は?」です。
初日は印刷博物館へ。実際の博物館の取り組みや所蔵品を見学し、印刷の歴史や日本文化を学びます。グーテンベルクの活版印刷機、江戸時代中期の医学書『解体新書』や、マルチン・ルターによる『ドイツ語訳聖書』など貴重な現物を見学。学芸員の方による展示案内を聞き、印刷が歴史にどうインパクトを与えたかを学びます。その他、貴重な博物館の裏側も見せていただき知見を深めました。
明治の教科書から浮かび上がる現代の課題とは?
2日目は学校でリサーチ。2班に分かれ、明治時代の教科書『修身教本』(現代の小学校の教科書に当たる)に書かれた考えの中から、現代につながる課題やSDGsのゴールに紐づけて考えます。現代の教科書や道徳との違いや、同じところを比較し、未来をどう作っていきたいかを考えていきます。
課題を考える上で気を付けたいのが、当時と現代で目指す理想像の違いです。明治新政府はなってほしい「日本国民」像であり、現代はグローバルで持続可能な「地球市民」像という違いを意識しなくてはいけません。視点を変えて考えることが必要になります。3日目は印刷博物館の方々を前にプレゼンテーション。直前まで資料作りをし、パワーポイントで発表を行いました。
紙に対する問題意識の違い
1つめのチームは「紙」に対する意識の違いに着目しました。修身3年生の教本に、紙を大切にするようにという記述があります。現在も紙を大事にする考えは根付いていますが、当時は物を大事にするべきという道徳的観点からの記述でした。現代は地球温暖化から資源を守るという点が重視されている違いがあります。
紙の問題は、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」につながり、違法な伐採や過剰包装などの課題が挙げられます。これらを解決するには、適切な紙の量を使い電子化を推進したり、廃棄される食材から紙を作るフードロスペーパーを利用したりするなど様々な観点から取り組む必要があるとまとめました。
教育の観点から平等な社会の実現を目指す
2番目のチームは、教育が日本においてどう広まっていったかを調べ、SDGsの目標4番「質の高い教育をみんなに」を考えました。明治時代の小学校の就学率は、男性は約80%、女性は約30%でした。また、高校への進学率は現在の半分以下、大学へは1%しかいませんでした。明治の就業割合は林業や農業が多く高学歴は不要と考えられ、優秀かつ裕福な家庭の子しか学べませんでした。また、女性も学業よりも家業を助けることが重視されていました。
就学率は現代日本では改善されていますが、別の教育の課題として「ヤングケアラー」があります。一人親家庭が増加し頼れる身内がおらず、睡眠時間の低下や学習時間の減少している子どもが増えています。相談窓口も分かりづらく、支援を受けづらい現実があります。1988年からケアラーズセンターを設立し、ヤングケアラーの支援をしているイギリスを例にとり、相談窓口の普及や各家庭の状況把握に努めるべきであると結びました。
学芸員の方も感嘆
発表後に印刷博物館の学芸員・部長の中西保仁氏と学芸員の式洋子氏から講評をいただきました。中西氏は「短い時間でこんなに調べてくれたことに驚きました」と感心されました。紙の問題について「印刷会社としてとても意識するところです」と受け止め、「紙を大事にするという常識は変わっていませんが、しなければいけない理由が変化したことに注目したことが素晴らしい」と続けました。
式氏も教育問題の発表に対し「グラフや数字で表していて、説得力が増していた」と感嘆しました。ヤングケアラー支援の先駆者がイギリスであったことを初めて知ったと「皆が知らない問題や事実に注目し伝えようとすることが素晴らしい」との言葉をいただきました。湯浅茂雄校長も、「大学生でも難しい課題に臨み、現代と比べてなにが違うか、今にどうつながるかを考えた経験は皆さんにも財産になったのでは」と結びました。
100年後まで残したい印刷博物館の資料は?
最後に生徒それぞれの印象に残った資料や、後世に残したい資料を発表しました。レンズを覗くことで立体的に見える、江戸時代のVR「眼鏡絵」や、豪華な挿絵の嵯峨本『伊勢物語』、当時の地震観が分かる「鯰絵」などが挙げられました。葛飾北斎の浮世絵を上げた生徒は、「北斎だけでなく大勢の摺師や彫師が力を尽くしたことを実感できた」と言います。式氏は生徒たちが選んだ資料や理由について「資料の重要さだけでなく、当時の人々の労力や熱量を重視しているのだなと感じました」と述べました。
これからの社会を考える力を養う「スコレー」
最後に渡辺大輔教諭から、「スコレー(skhole)」とは、ギリシャ語で「余暇」という意味であるという話が出ました。中世では余暇に「学び浸れる」時間があることが一番の贅沢であり、そこから「スクール」の語源となったと言います。「スコレー」は正解がないことを扱い、考える力をつける貴重な機会です。生徒たちはこれからの時代を生きるための良い学びと経験を得ることができました。