新型コロナウイルスの感染拡大(コロナ禍)に伴い、大学生活も例年とは様変わりしました。緊急事態宣言こそ5月25日に解除されたものの、今年4月に入学した新入生の中にはまだ一度もキャンパスに足を運んだことのない一年生もいます。こうした苦境が続く中、教職員は対面に見劣りしない質の高いメディア(遠隔)授業の実現に工夫を凝らしています。文学部国文学科の深澤晶久教授(キャリア教育)が指導する「国際理解とキャリア形成」授業もその講義の一つです。スポーツニッポン新聞社と産学連携で行う「スポニチ紙面の模擬一面づくり」に挑戦する異色の授業で、5月26日(火)に渋谷キャンパスで行われたリモート授業を紹介します。
同授業は、大学2年生の共通科目として行われ、他のマスコミから取材を受けることもある人気授業です。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催を見据えて、「オリンピックイヤーのとある日のスポニチ新聞一面を学生がつくる」をコンセプトに、今年度は23人が受講しています。
渋谷キャンパス503号室。3時限目のその授業は午後1時15分すぎに始まりました。
「過去のオリンピックで都道府県別金メダル累計獲得数の第三位は東京都の8個です。では第一位は?」(答え:北海道と愛知県の9個)
「パラリンピックが始まったのは、どの大会から?」(答え:1964年の東京大会から)
スポーツニッポン新聞社の藤山健二編集委員がマイクに向かい、紙面作成に必要なオリンピック・パラリンピックの基礎知識についてパワーポイントを使いよどみなく説明していきました。藤山編集委員は、記者として過去のオリンピック取材の経験も豊富で、また、本授業を担当して今年で3年目となる、いわばベテラン。一点を除いては、昨年や一昨年と変わらぬ授業風景が繰り返されました。
その一点とは…。教室に学生の姿がありません。
この日、深澤教授や藤山編集委員がマイクで話し掛けていたのは、ビデオ会議「ZOOM」で映し出された画面上の学生たちでした。ほとんどが自宅におり、講師が時折、講義のマイクから目線を上げて503教室のどこを見渡しても、本来そこにいるべき講義に熱心に聴き入る学生たちの姿はありません。
慣れぬ遠隔授業が時折、予期せぬトラブルを引き起こしては授業の進行を妨げます。この日も突然、マイクのハウリング音が503教室に響き渡りました。授業はしばし中断。「音が反響してしまって、よく聞こえないです」という学生の声が解消されるまで、音量調整や代替マイクの使用など舞台裏の対処も、今までとは質が異なります。事前に90分間の遠隔授業のシミュレーションを重ねたとはいえ、やはり対面授業とは勝手が違います。
遠隔授業に戸惑いながらも、リモート授業を対面授業に近づけようという工夫が凝らされました。「ブレークアウトセッション」というZOOM機能の活用もその一つです。
ブレークアウトセッションは、ZOOMのオンライン会議で使える便利な機能の一つで、参加者同士を小グループに分けて個別にグループワークを行うことができます。もともと同授業では、受講者の関心のある国をアンケートで集めたものをベースにチーム別に「アジア」や「アメリカ」、「ヨーロッパ」などの小グループに分けて、スポニチ新聞の模擬紙面の出来栄えをチーム間で競い合ってきました。参加者がどこかに場所を確保して対面で行うミーティングを、ブレークアウトセッションというウェブ上で実現したというわけです。
この日、藤山編集委員からスポニチ新聞一面紙面づくりに関して、具体的な課題が学生に示されました。コロナ禍で1年延びた2020東京オリンピック・パラリンピックを受け、「2021年7月23日開幕日のスポニチ一面紙面を制作せよ」というミッションです。最低でも、リード(前文)10字×20行と本文10字×100行に加えて、10×20行の雑感1~2本の記事が必要となります。本職の運動部記者でも取材や執筆に骨の折れる分量です。
締め切りとプレゼンテーション日は、それぞれ6月30日と7月14日。学生たちの多角的な視点と紙面のアイデアが試されています。