巡礼を通し本当の「ホスピタリティ」を学ぶ。「国際理解とキャリア形成」の授業でサンティアゴ巡礼を通じた国際交流の特別講演が行われました。
共通教育科目「国際理解とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、5月20日に元株式会社資生堂の社員だった片山琢美氏、杉山祐一氏をお呼びしての特別講演が行われました。サンティアゴ巡礼の経験を通して感じたことを、写真を交え語られた二人。学生たちは国際的なつながりやホスピタリティについて考える貴重な機会となりました。

1ヶ月間歩いて自分と向き合う
最初に登壇したのは片山氏。
1975年に資生堂に入社し41年間勤め上げました。物流に関する仕事に携わり、海外での業務経験も豊富。
退職後サンティアゴ巡礼の旅に魅せられて、現在までに3回踏破しています。サンティアゴ巡礼とは、スペイン北西部にあるサンティアゴ大聖堂までの道を、ヨーロッパ各地から自分の足で歩く旅のこと。パリから出発した場合、サンティアゴまでの道のりは1500キロで、2か月間歩き続ける過酷な旅となります。今日では、あらゆる宗教を乗り越えて、世界で180ヵ国以上(*1)の人々がサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指して歩いており、2024年には50万人が歩いたと言います。 (*1)サンティアゴ巡礼事務所2024 年度統計情報)

片山氏もキリスト教徒というわけではなく、「歩くのと写真を撮るのが好き」と言います。特に高校生のときに見たゴッホの描いたヨーロッパの田園風景に強い憧れを抱いていました。
フランスの麦畑を自転車で走ってみたいと、少年の頃からの夢を実現するために、自転車旅をしたのが巡礼の始まりだと語りました。
一期一会でみんながファミリー
片山氏は巡礼路で出会った人々との写真を見せつつ、たくさんのエピソードを語ってくださいました。

①遠いスペインの地で偶然出会った日本人。彼の姉は、僕と同じ広島の高校だった。世界は広いようで狭いと感じた。
②自転車で喘ぎながら坂を上っていた時、急に背中が浮いた。足を引きずりながら僕の前を歩いていたオランダの青年が背中をぐぃっと押してくれていた。そのやさしさに涙が溢れた。
➂大切なエピソードとして「巡礼路ではみんなファミリー」という言葉を紹介。巡礼宿で誤って骨折したカナダの女性を、オーストラリアの女性が気遣って病院へのタクシーを手配した時、僕に話してくれた言葉。それは、巡礼者同士の助け合い、共同性の精神だった。
④朝ごはん食べませんかと、オーストラリアの青年が声を掛けてくれた。あっという間に8ヵ国の人々が車座になった。
⑤ブルゴスで出会った自転車旅のスソさん。「スペインの陽気な青年でゴールのサンティアゴまでお供してくれ、とても助かりました。彼とは、今でも交流があります。」
「巡礼路を歩く人々は、ほとんどがもう一生会えない人たち。まさに一期一会です」と片山氏。
「出会いは一度限りだからこそ、いま自分に出来ることを尽くし、心を込めてもてなすというホスピタリティを実感した」と感慨深く語りました。
新しい自分に生まれ変わる旅
後半は杉山氏にバトンタッチ。
杉山氏は片山氏の資生堂時代の先輩ですが「仕事での絡みは少なかった」と話します。「サンティアゴ巡礼を通して盟友になりました」と語る杉山氏は、2012年から2018年にかけて計6回巡礼路を踏破。距離はなんとのべ3,000kmになると言います。
杉山氏は絵を描くのが好きで巡礼に魅せられたと語り、コロナ禍にはこれまで書き溜めた巡礼路の風景のスケッチをまとめた本も出版されました。
杉山氏もさまざまな経験を語り、サンティアゴ巡礼でかけがえのない体験をしたことを学生たちに伝えられました。
一番ドラマチックなのはなんといっても到達の瞬間だと語ります。サンティアゴ大聖堂のオブラドイロ広場では、たくさんの巡礼者がハグをしたり石畳に大の字になったりと全身で喜びを表します。
「巡礼者たちの多くは、新しい自分に変わりたいと思って巡礼の旅を始めます」と杉山氏。まだ見ぬ自分と出会うことができるのか、迷いや不安のなか歩き続けるのです。
そして到達のとき、長かった道のりを思い返し、静かな意志のある表情に変わっていくと言います。「それぞれが新たな目標を決め、これから頑張ろう、と思うようになるんです」と、自分自身を乗り越える旅であることを語りました。

ホスピタリティにより生まれる利他の心

そしてサンティアゴ巡礼で欠かせないのが、「ホスピタリティ」です。杉山氏は「ホスピタリティとサービスの違いはなんだか分かりますか?」と学生たちに問いかけました。サービスはマニュアルがあり、画一的なもの。
対してホスピタリティは一対一の関係性で成り立つものだと語ります。「お世話をした人、された人どちらも満足してこそホスピタリティ。行われる手助けはそれぞれオリジナリティがあり、相手の期待を上回るものです」と話しました。
「片山さんも言っていましたが、巡礼者はお互い助け合うゆるやかな共同性の中で過ごします。皆さんも例えば文化祭などの企画で、大学外の人たちと共同作業を行うこともあるでしょう。違うコミュニティの人たちが集まり、お互いの立場を尊重しながら同じ目的に向かっていく連帯感からホスピタリティは生まれます」と杉山氏。
このホスピタリティと、歩くことで自身と向き合う内省の時間が化学反応を起こし、人の役に立ちたいという「利他の心」が生まれると話しました。
何度も巡礼をする魅力とは?
講演の後は質疑応答の時間。学生が次々に手を挙げました。
「大変な旅だと思いますが不安はなかったですか」という質問に、杉山氏は「不安はあります。言葉が特に。言葉はスペイン語の他に世界各国の人が来るので英語力も必要ですね」と回答。
片山氏は「行くときは毎回不安です。でも終わると達成感に包まれるんです」と答えました。
「巡礼について初めて知りましたが自分もやってみたいと思いました」という学生も。
「巡礼を終えて心境の変化はありましたか」という質問に、杉山氏は「あるがまま、ということを実感できるようになりました」と話します。
片山氏は「前向きになり、いろいろなことにチャレンジできるようになりました。皆さんも、これだと思ったことは積極的にやってほしいと思います」と語りました。

めったにない体験を伺い、学生たちにも刺激になった講演となりました。
担当教員からのメッセージ
私が資生堂勤務時代にお世話になった片山さんと杉山さんをお迎えしてのスペイン特別セッションが今年も行われました。今年は、前半のセルヒオさんのご講演を含めて2回シリーズとなりました。この授業のタイトルでもある「国際理解」の本質につながる様々な経験をされている片山さんや杉山さんのお話しから、学生は貴重な時間を過ごさせていただいたと感じています。
サンティアゴ巡礼という特別な経験の中からお二人がお話しされた「人と人との出会いの大切さ」まさに「一期一会」の大切さを改めてそして深く教えていただきました。
片山さんは、この講座の後、再びスペインに出かけられました。
片山さん、杉山さん、そしてセルヒオさんに、厚く御礼申し上げます。
