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2025年12月5日

特集レポート!住友生命役員との対話セッションで、学生が“ウェルビーイングの未来”を語り合いました。

2025年11月10日(月)に、住友生命保険相互会社(以下住友生命)東京本社にて、企業の役員と学生がウェルビーイングに関するディスカッションを行いました。実践女子大学からは実践ウェルビーイング・プロジェクト(以下JWP)の学生6名が参加し、世代を超えたウェルビーイングに関する意見交換が行われました。

JWPについて

JWPは企業と共にウェルビーイングに関する考えを深めていく課外活動のプロジェクトです。キャリア科目担当の深澤晶久教授が担当教員となり、毎年後期の期間中、有志の学生たちが企業訪問や講演、交流イベントを通じてウェルビーイングについて主体的に学んでいます。JWP参加学生が企画・運営を行うイベントも毎年開催されている他、今年度は企業とコラボしグッズの開発を行うなど、多様な活動を行っています。

今年度の活動の記事はこちら
【サンリオコラボグッズ開発プロジェクト参加学生にインタビューしました!】https://socialcooperation.jissen.ac.jp/topics/9484/

控室の学生たち

住友生命とウェルビーイングについて

住友生命は企業のパーパス(存在意義)を「社会公共の福祉に貢献する」と定めており、一人一人のウェルビーイングに貢献する「なくてはならない保険会社グループ」を企業の将来像として掲げています。ウェルビーイングに関する社内イベントの開催のほか、ウェルビーイングの支援を目的としたスマートフォン向けアプリ〈シアフル〉のリリースなど、ウェルビーイングに関する多様な取り組みを行っています。
シアフルアプリ 紹介ページ https://www.sumitomolife.co.jp/about/wellbeing/waas/waasapp/index.html

学生控室で挨拶をする住友生命 高田社長

その取り組みの一環として、住友生命では将来世代と企業が積極的に対話し、ウェルビーイングな社会の実現を目指す「FR(Future Generations Relations)」活動を実施しています。今回、学生が参加したプロジェクトもその活動の一部であり、一日かけて行われる役員ミーティングの午後の部で実施されました。

住友生命HP FR(将来世代と共に育つ取組み)https://www.sumitomolife.co.jp/about/wellbeing/fr/

プロジェクトの概要

このプロジェクトは、「現在の日本の中核を担う世代」と「将来の日本の中核を担う世代」が、少し先の未来について議論することをコンセプトに、
ウェルビーイングな未来に関するディスカッションを行うイベントです。

「将来の日本を担う世代」のウェルビーイングを主体的に学ぶ学生として、実践女子大学からはJWP所属の学生、東京大学の鈴木寛教授の大学横断型ゼミナールの「すずかんゼミ」の学生、世界初のウェルビーイングを専攻する学部である武蔵野大学ウェルビーイング学部長の前野隆司教授のもとで学ぶ学生が参加しました。

会場は住友生命東京本社の会議室です。47名の役員と24名の学生が参加し、12班に分かれてディスカッションを実施しました。向かい合わせの机には役員4名、学生2名が着席。学生にとって、役員の方々と直接話し合いながらウェルビーイングへの視点を深める貴重な機会となりました。

作家の中尾仁士氏によるグラフィックレコーディング

全体の進行にあわせてグラフィックレコーディングも行われました。
グラフィックレコーディングとは、会議内容をイラストでリアルタイムに可視化する手法で、議論の活性化や要点の振り返りを助けるものです。

壁に貼られた白紙が次々とイラストで埋まっていく様子に、学生たちは興味津々。
休憩時間には描かれた絵の前に集まり、ライブで制作される様子を見守る姿も見られました。
また、同じように様子を眺めていた他校の学生や役員の方々との間に自然と会話が生まれ、イラストを介した交流が広がりました。

ディスカッションに先立って

今回のプロジェクトの司会から、ディスカッションに必要な9つの所作が共有されました。
配布された用紙にアイディアを「書き出す」こと、視線を「あげる」ことで気持ちや考え方も持ち上がっていくことなどが紹介され、特に「アイディアをみんなで『重ねていくこと』を意識してみてください」と声がけがありました。

その後、このグループワーク中に呼んでもらうニックネームを各自で決め、ニックネームの由来や自分がどんな人か、普段何をしているのか自己紹介を行いました。グループではネームプレートを見せ合いながら発表し、お互いに顔を見たり微笑んでうなずき合ったりするうちに、会場全体は緊張した硬い雰囲気から、なごやかで生き生きとした雰囲気へとあっという間に変わっていきました。

司会から「役員の方はぜひ、ジャケットも脱いでいただいて」という一言があり、会場にはさらにあたたかく活発なやりとりが生まれていきました。
生き生きとした空気に包まれた中、いよいよディスカッションのテーマが発表されます。

ディスカッション①「2050年に向けてつくっていきたいWell-beingな未来とは?」

冒頭で司会より『皆さんが抱えているモヤモヤを解消した社会の姿を思い描いてみてください』という説明があり、
そのうえで、まずは個人で意見を紙に書き出し、続いてグループ内で共有する流れで進行しました。

あるグループでは、実践女子大学の学生が“Well-beingな未来”の要素として『縦社会を教えなくていい社会』を挙げました。これに対し役員から『縦社会とはどういうものを指しているのか』という質問があり、学生は『上の立場の人の様子をうかがいながら生活すること。立場の違う人同士が相互にリスペクトしあうことが大切で、一方的に下の立場の人だけが委縮する環境は望ましくない』と説明しました。ただし、縦社会のすべてを否定するのではなく、学ぶべき点もあるとしたうえで、“下の立場にいる人が不安なく過ごせる社会”こそ重要だと述べていました。

別のグループでは、役員から実践女子大学の学生に「ウェルビーイングについて全く知らない人に『ウェルビーイングとは何か』を教えてください」との問いかけがありました。学生は「自分を知ること。自分の価値観ややりたいことを見つけることができると目標を立てることができ、目標を立てるとそこへ向かって行動できるようになる。行動すること自体が自己肯定感にもつながり、ウェルビーイングにつながる」と説明しました。また、「周囲の人を知ることで、自分を知るきっかけにもなる。違いは比べてみないと分からないからこそ、自分以外を知ることも大切だと思います」と続けました。これに対して役員は、「他者と比較しつつ一歩引いて自分を見るという点は、メタ認知(自分を客観的にみること)につながる発想ですね」と感想を述べていました。

ディスカッション①全体共有

グループでの話し合いが終わると、全体での共有が行われ、指名された班から学生と役員が一人ずつ班で話し合ったことを発表しました。

最初の班の他大学の学生は、ディスカッションの結論として「やりたいことができることがウェルビーイングにつながる」と述べました。
苦しいと感じる行動も、結果としてウェルビーイングにつながる場合があることや、能動的に行動するだけでなく「やりたくない」「なにもしない」といった選択ができることも重要だという意見を共有。それを許容できる社会が理想であると話しました。
続いて役員は、「やりたいことに向かう過程でストレスを感じても、やり抜くことで自分がウェルビーイングになれる。そして、自分と関わった人たちもウェルビーイングとなり、その関係性が広がることで社会全体もウェルビーイングになっていく」と語りました。

次に発表した班の他大学の学生は、グループ内で価値観のすり合わせを行ったことや、特に家族に関する話題が盛り上がったことを紹介しました。学生たちは、「老後に必要な」「子ども一人に必要な」など、数多くの数字を日常的に目にしており、それらがリスクとして認識されやすいと話しました。また、前の世代の人たちは、今ほどコストに対する危機感を抱いていなかったのではないかと感じたことを共有しました。これを受けて役員は、「価値観の違いに本当に衝撃を受けた。特に『なんとかなる、という気持ちにならない』という言葉が印象的だった。自分の若いころは“なんとかなる”と考えていたが、『ワンミスワンアウト、一度の失敗ですべて終わってしまう』という感覚を持っていることに驚いた」と述べました。

学生の価値観に強い関心を寄せる役員の姿も印象的でした。学生の説明に思わずうなり声を上げたり、背もたれに深く体を預けながら大きくうなずいたりする様子が随所に見られ、真剣に耳を傾けていることが伝わってきました。
新たな視点に触れ、世代を超えて相互に学び合う場となったことを感じさせる、密度の高いディスカッションとなりました。

ディスカッション②「Well-being な未来のために企業ができること/企業にしてほしいこと」

まず司会から、住友生命がこれまで実施してきた具体的な施策と、それに伴う価値観の変化についていくつかの事例が紹介されました。
そのうえで「グループの皆さんで意見を重ね合い、ぜひ具体的なアイディアにしていただければと思います」と案内があり、
①と同様に、参加者はまず個人で意見を紙に書き出し、その後グループ内で共有していきました。

あるグループでは、役員から実践女子大学の学生に対して「給料以外の部分、たとえば福利厚生において会社にしてほしいことはありますか?」という質問が投げかけられました。学生は「漠然とした話にはなるが、自分のことを応援してくれる会社がいい」と回答。役員から「応援とは、具体的にどういうことですか?」と質問が続くと、学生は「自分のやりたいことを肯定的に受け止め、その実現に向けて過程を一緒に考えてくれること」と説明しました。役員は軽く笑いながら「寄り添ってくれるということは、面談が多い会社になりますね」と返しました。学生は確かにといった表情でうなずき、和やかな雰囲気のまま次の話題へと進んでいきました。

ディスカッション②全体共有

ディスカッション②のグループワーク後は、①と同様に全体共有が行われました。リアルタイム共有システムを用い、各グループで出たアイデアをプロジェクターに映し出しながら発表が進められました。全部で9つの班が発表を行い、ここではその一部を抜粋して紹介します。

ウェルビーイング予算とハイタッチ・ハグキャンペーン

他大学の学生は、まず「ウェルビーイング予算」について「個人に予算を付与し、その使い道を柔軟にすることで、一人ひとりのウェルビーイング向上につながる」と説明しました。続いて「ハイタッチ・ハグキャンペーン」については、非言語コミュニケーションの価値に着目し、「他者とつながることで、自分の存在や価値を再確認できる。『理由は説明しづらいが、触れ合うことでほっとできる』といった経験が、よりよく生きることにつながるはず」と述べました。班のメンバーが実際に手をつなぎ、掛け声に合わせて動作をそろえるデモンストレーションも行われ、会場はあたたかな笑いに包まれました。

企業主体の地域活性化

実践女子大学の学生が配置された班では日本が抱える社会課題に対して「社会全体に危機感が薄いのではないか」という問題意識が共有されたといいます。そのうえで「家族以外に関係性を広げられる地域のつながりが重要」という意見が出たことを紹介しました。学生は「バリバリ働きたい人とそうではない人がいるように、様々な人が『地域』という単位で団結していれば、子育て、高齢者、果ては災害時にも相互支援で対応することができるのではないか」と報告しました。

東京一極集中の分散と、人生における“仕事”の位置づけ

学生は自分が地方出身であることに触れながら「地元や地方で挑戦したいことはあるが、実際のチャンスは圧倒的に東京に集中している。地方分散ができれば良いのでは」という意見が出たことを説明しました。また、仕事が人生に占める割合の大きさについて議論が深まったといい、役員からは「仕事を自己実現の場として捉えている」「仕事と趣味の拠点を使い分ける二拠点生活をしている」といった実体験が共有されました。学生は「『好きなもののために働くが、働くことで好きなことができなくなる』というジレンマから、仕事から自由になりたいと考えていました。話を聞く中で、新たな価値観に気づかされました」と振り返りました。

議論の締めくくりとして、一極集中など既存の制約の強さに触れ「宇宙に支店を作り、制約がない環境で実験する」というユニークな案が紹介されました。これを提案した役員は、「現実的な枠にとらわれてしまう自分に気づき、その枠から解放された発想が『宇宙支店』だった」と意図を語りました。

日常生活の中にウェルビーイングを見つける

他大学の学生は、表計算ソフトで数字がきれいにそろった瞬間や、SNSアプリの更新音に「すっきりとした心地よさを感じる」と紹介しました。そのうえで「みなさんも業務中に同じように気持ちよさを感じる瞬間があるはず。たとえば作業後にタブを閉じるときに可愛いエフェクトが出るなど、個々に合わせた工夫ができるシステムがあれば良いのではないか」と提案しました。日常の小さな動作の中にあるウェルビーイングを見つめ直し、共有していくことの重要性も強調しました。

“人とつながる”ウェルビーイング

本学の学生が配置されたこの班では「ウェルビーイングの実現には、人と人のつながりを深めることが不可欠」という前提から議論が始まり、様々なアイディアが生まれたといいます。案の一つとして「直接的なコミュニケーションが得意でない人にも向けて、メタバース上で交流できる仕組みをつくる」という案が紹介され、「これからは『メタバースでつながる』という価値観も重要になるのでは」とまとめました。また、ウェルビーイングに関する一定の知識を持つ人を“見える化”するための『ウェルビーイングシール』というアイデアも挙がり、「資格が存在しない今だからこそ、可視化することで周囲に安心感を与えられるのでは」との提案もなされました。

ディスカッションのおわりに

前野教授は学生たちの発表を受け、「学生の突拍子もない意見を、単に“できない”と切り捨てるのではなく、
その背景にあるより抽象的な『求めているもの』を受け取ってほしいと思いました」とコメントしました。

続いて、グループワークを終えた役員の方々に感想が求められました。
役員からは「学生二人がチームを力強く引っ張ってくれた。Z世代らしい視点を感じつつ、情熱をもって提言してくれた」
「仕事観の議論では、価値観は人それぞれ異なるが、“よりよく生きたい”というウェルビーイングの方向性は共通していると感じた」といった声が聞かれました。

また、「世代的に“つながり”を重視しないのではと思っていたが、学生の発言から『つながり』という言葉が多く出てきたことが意外だった」「『他人を知ることで自分を知る』という考え方を持つ学生がいることにも刺激を受けた」といった意見も寄せられ、ディスカッションを通じて学生との交流が役員にとって大きな刺激や新たな気づきにつながったことが語られました。

武蔵野大学 前野教授

プロジェクトの最後に

全体の締めとして高田社長からご挨拶がありました。

あいさつの冒頭では、この一日ミーティングに参加した役員の方々をねぎらいながら、「会社では見ない笑顔で笑っていた」とユーモアを交えて場を和ませました。

続けて、高田社長は「普段は数字にこだわっており、できない理由・やれない理由はいくらでも出てくる。しかし、学生の発言には今だからこそ気づかされることがある」と述べ、普段関わらない学生との対話が大きな刺激になったことを語り、役員と学生がウェルビーイングという共通点で集まったこの場を三位一体(キリスト教の重要な教義で、三つの要素(父・子・精霊)をさす言葉。この場合、三つのものが一つになり、緊密に連携して、全体として大きな力を発揮することのたとえ)と表現しました。

さらに、「ウェルビーイングという思想を実践していくことは、企業としての社会的責任でもある。学生から出た意見を現実化していくのは大人の役目だと思っています」と強調。「ちょうど来年度の計画や予算を考え始めている時期。不可能と切り捨てるのではなく、取り入れられる部分はしっかり検討していきたい。今目の前にいる、将来日本の中核を担うみなさんの世代が来るまでに、今日から小さなウェルビーイングを積み重ねていきましょう」と参加者へ呼びかけました。

あいさつのあとには、学生・役員・運営スタッフ全員で記念写真の撮影も行われました。
さまざまな立場や視点が“ウェルビーイング”という軸のもとに交わった今回のプロジェクトは、学生にとって大変貴重な体験となりました。

JWPの学生と深澤教授
参加者と関係者の皆様


担当教員からのメッセージ

Well-being Initiativeへの参画企業である住友生命様が力を入れられている「FR(Future Generations Relations)活動」の一環として実施された役員ミーティング。
住友生命様の全役員の方と学生との対話の場に本学4年生6名が参加させていただきました。
当日は、47名の役員の皆さんをはじめ、大学生は24名、組織を超えて、世代を超えて、立場を超えて、行われた対話の場は、本学学生にとって極めて貴重な体験の場となりました。これからの社会がWell-beingで満たされて欲しい、そんな住友生命の皆さんのお気持ちが溢れる会場となりました。
お声がけいただきました住友生命高田社長をはじめとする関係者の皆さまに、この場を借りて心から感謝申し上げる次第です。

2024年6月5日

未来のファッションを考えよう!人間社会学部の新入生セミナーで三越伊勢丹のご協力のもと、学生によるメタバース空間での企画発表が行われました。 

4月13日に人間社会学部の授業の一環として、新入生全員が参加するイベント、「新入生セミナー」が行われました。今回は協力企業として、株式会社三越伊勢丹にご協力いただきました。実践女子大学人間社会学部では、2004年の設立当初から、入学直後の新入生に対し、4年間の学びの動機づけと新入生同士の交流を目的として「新入生セミナー」を実施しています。2017年からは企業と連携したPBL型のセミナーに方式を変更しました。高校までの授業の多くが「正解のある問題」であるのに対し、社会人になったときに対峙する問題のほとんどは「正解のない問題」です。「新入生セミナー」では、この「正解のない問題」に取り組む姿勢や思考を学ぶことができます。人間社会学部では専門知識を身につけるだけでなく、PBLも含むアクティブな学びを展開しています。また、入学直後のグループワークを通じて、学友を作る機会にもなっています。さらに、この体験を通じて、今の自分に何が足りないかを認識し、今後の学びの動機づけにもつながります。この新入生セミナーでの産学連携PBLを通して、新入生の意識変容を図り、これからの4年間の学びに対する意欲を高めています。今年度は、近い将来に重要視される仮想社会であるメタバース空間を対象とした提案を考えるために、生成AIの使い方を学び、一日を通じてメタバース空間「REV WORLDS」を使ったバーチャルファッションを考える課題にチャレンジしました。学生たちは、新しい世界への視点やきっかけを得る貴重な機会となりました。

先輩学生からのファシリテートの様子
学部長の竹内光悦教授からの挨拶

デパート販売員がメタバース空間を作る?

まず登壇された仲田朝彦氏は、仮想都市のコミュニケーションスマホアプリ「REV WORLDS」の発起人。CGのメタバース空間を一から作り上げた一人です。
しかし、入社時は伊勢丹メンズ館で服を売っていたデパートマンでした。
今回は「きっかけをインストールしよう」をテーマに、なぜ仲田氏がメタバース空間を作り上げたのか語ってくださいました。
仲田氏が入社したのは2008年。
この年に起きた出来事がリーマンショックです。同じ年、iPhoneが誕生したことも仲田氏に大きな影響を与えました。これからはデジタルで革命が起こると確信し、先行きの見えない時代、自らスキルアップすることの大切さを実感したのです。当時メタバースはまだ出てきたばかりの概念でしたが、仲田氏は「いつかネット上に伊勢丹を建てたい!」と考えるようになります。時間も空間も越えて、バーチャル空間で買い物できるようになればもっとすばらしいサービスができるようになると思ったのです。

チャレンジすることを諦めない

ただ、実際に企画が立ち上がるまで13年の時間がかかったと言います。事業計画書を書いて何度も会社に提出しましたが、なかなか企画の力を信じてもらえなかったのです。
「社会人になるとチャンスはなかなかない。売れるものを作らなきゃいけないと言われ、挑戦しづらい環境です。新しいものを受け入れてもらえないこういった環境は変えたいと思っています」と仲田氏。
なかなか企画が通らないなか、今苦しくても頑張ろうと諦めず、ずっと胸に秘め機会をうかがっていました。
そして巡ってきたのが社内起業制度の募集です。

「バーチャル空間なんていつできるのか」と社員に言われたことに一念発起し、独学でCGのモデリングを学びました。
仲田氏はCGについてはまったくの素人でしたが、必死で勉強しCGのプレゼンテーション動画を作成。
そのプレゼンテーションが認められ、「REV WORLDS」が誕生しました。

未来のデジタルファッションとは?

「REV WORLDS」は伊勢丹だけの空間ではありません。
都市型のメタバース空間で、様々な企業や施設が地続きで存在する、もうひとつの世界です。
仲田氏は「皆さん一週間のなかでお財布を開いた時間はどのくらいですか?」と問いかけました。
買い物をしている時間はそこまで長くないでしょう。
「みんなメタバース空間で買い物だけをしたいわけではない。他のアバターと遊んだりコミュニケーションを取ったりできる、世界を作りたいと考えたんです」と、メタバース空間を舞台にした映画などを例に挙げながら説明しました。

ここで学生たちに課題が出されました。
「アバターが着用するデジタルファッションを起案してください」というもの。
アバターとはメタバース空間での『もう一人の自分』です。
ただ、「人と人が関わることで起こることは現実と一緒」と仲田氏。
ファッションは自己表現のツールとして使われます。ターゲットはこれからのデジタル時代を担う、α世代(小中学生の世代)。彼らがオンラインのコミュニケーションツールとして使いたくなるファッションを考えます。
仲田氏は「メタバース空間では、今までできなかったことができるようになる。頭のなかの未来のファッションを形にしてみてください」と話しました。

生成AIを使いこなせる大学生になろう!

最後に仲田氏は生成AIの使い方を学生たちに伝授しました。
「大学1年生で生成AIを使える人は少ない」と言い、「この講演を聞けば、皆さん生成AIを使えるようになりますよ」と話し始めました。
生成AIと言われると、難しく感じるかもしれませんが仲田氏は「AIは難しかったら意味がない」と言い、作りたいイメージを言葉で指示することで具現化するコツを教えてくださいました。

ただ、生成AIは技術が先行しすぎて、現代の倫理観に当てはまらないものも出てきています。生成AIの作成したものがアートとして良い悪いかなど、これからしっかり考えていかなくてはなりません。
「メタバースはなんでもできるようになる世界だからこそ、何をするかが大事になる。AIを身に付けただけでなく、倫理観も考えられる大学生になってください」と仲田氏は語りました。

このあとグループワークでそれぞれ生成AIを使って「未来のデジタルファッション」を作成しました。
今回の課題は、新しく設置した社会デザイン学科との学びの領域と親和性があるテーマで、新入生たちは自分の感覚を最大限に活かし、創造的思考を深めながら取り組みました。また、ファシリテーターとして参加した上級生の力も借りながら、チーム内で協力し、ターゲットやコンセプトを決めながら生成AIを使いつつ、オリジナルのアイディアを具現化させました。

その後、各グループ3分間プレゼンテーションを行いました。最後に、株式会社三越伊勢丹の関係者と本学部の教員による審査が行われ、優秀な提案・発表を行った6チームに賞が授与され、全体での講評もいただきました。また学生たちは今回の体験を振り返り、それぞれが自分の得意なところや苦手なところを認識し、今後の成長の糧としました。約一日と長い活動になりましたが、学生たちにとって未来に必要な視点や技術を知る貴重なイベントとなりました。