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2025年10月24日

共働き世帯が住みやすい住宅を作る!人間社会学科の授業で旭化成ホームズとのコラボ授業が行われました。 

9月29日に人間社会学科 原田謙教授の授業で、旭化成ホームズ株式会社の河合慎一郎氏による特別講義が行われました。社会の価値観の変化や、生活者に合わせた住宅の例を示しつつ、「LONGLIFE」な暮らしについてお話されました。学生たちには課題も提示。学生たちは11月にプレゼンテーションに臨みます。

いつまでもしあわせに暮らすためには?

旭化成ホームズは「住宅」を商品にしている会社です。
戸建て住宅商品名である「ヘーベルハウス」は学生たちも聞き覚えがある様子。住まいを通して、安心で豊かな暮らしを実現することを理念としています。
「つまり家だけではなく、最高な人生を提供したいという会社です」と河合氏が紹介されました。

河合氏は住宅設計士として旭化成ホームズに入社。
これまで約450軒のマンションや戸建ての家を設計されてきました。
現在はLONGLIFE総合研究所で、住んでいる人の価値観や時代の変化をとらえた新しい暮らしを研究されています。
「LONGLIFEとは、長持ちするという意味ですが、単に家が長持ちすることだけを目指しているのではありません。住んでいる人の暮らしが、いかにハッピーな状態で長く続くかが重要です」と河合氏。

防犯防災、環境配慮についてはもちろん、子育てや働き方、ペットの有無などによって暮らし方は変わります。
ミドルライフやシニアライフの研究も行っており、「今では浸透した二世帯住宅という言葉を作ったのは、HEBEL HAUSなんですよ」と話しました。

変わって行く社会に価値観

「今日は主に共働き世帯に注目して、価値観の変化と住宅商品開発の歩みをみていきます」と、河合氏はさまざまなグラフや表を提示しました。
日本では1980年代以前は専業主婦世帯が当たり前で共働きはほとんどいませんでした。1986年に男女雇用機会均等法が成立。1990年代ころから共働きが徐々に増えていき、2000年代頃に拮抗。
その後専業主婦世帯は急速に減少していきました。いまでは7,8割が共働き世帯です。

河合氏は30年前と現在の女性誌を比べて、価値観の変化についても話します。
「昔は主婦を応援するようなおかずの作り方などがメイン。家事や育児を上手にこなすことを求められていました。いまは仕事も子育ても両立し、自分自身が輝ける行き方を求めるようになっています」。

答えは生活者のなかにある

旭化成ホームズは世の中の変化に合わせて住宅を開発してきました。1989年には、「共働き家族研究会」を発足させ、フルタイムで働く夫婦をターゲットに家事の省力化を提案しました。
ダブルボール洗面台や買いだめ可能な収納庫などを備え付けに。今でこそ当たり前なオープンキッチンも開発しました。
しかし、当時は時代がその発想に追いついていませんでした。開放的なキッチンは、あまりにも先進的だったのです。

河合氏自身も共働き世帯。
まだ子どもが小さかった2010年代、息子を抱っこして娘の手を引いて買い物していた際の思い出を話してくださいました。レジの女性から「お父さん大変ね、大丈夫?奥さんに逃げられたの?」と聞かれたと言うのです。
当時も調査では共働き世帯は増えているデータを示していましたが、まだまだ浸透するのは難しい。それを痛感したといいます。
「いつの時代も研究開発の出発点は生活現場です。今の時代もAIや新しい技術が出ていますが、正解は生活している人の現場にしか答えはないと思っています」と話しました。

2010年代に提供していた住宅は、家事に関心はあるものの、うまく取り組めない男性層を主なターゲットとしていました。
家族全員が使いやすいキッチンはどんなものかを考え、空間の真ん中に作業台を設置。子どもも手伝いができるようにし、調理時間もシェアすることで思い出作りにもなる場所を提供しています。

これからの時代に求められる住宅とは?

ここで河合氏から改めて課題の発表がありました。
テーマは「新しい住宅のサービス・商品の企画を行う」というもの。「皆さんの思う、こんな住宅やアイデアがあったら面白いなという考えを考えて見てください」と河合氏は話します。
そして「このときに使えるのが5W1Hのフレームワークです」。5W1Hは、いつ・どこで・なにを・どうして、といった要素を考えることで課題解決や企画発案を考えるフレームワークです。

課題の発表の際にはどんな住宅の提案か、どんな人がターゲット向けか、どんな工夫があるかをポイントに考えることを伝えました。
また「この企画が世の中や使用者にどんな役に立つのかを考えましょう。自分たちが楽しいだけで終わらないものを提案してください」と話します。

「皆さんに問いたいのは、今の世の中にどういった商品、住宅を提供するのか。ユーザーはどんなことに困っている?いまはどんな社会変化があるかを考えてみてください。そのためにはターゲット層を具体的に決め、実際に話を聞いてみましょう。検索では出てこないオリジナルな情報を使ってみてください」。

4班に分かれ、学生たちはグループワークを開始。
高齢化に着目する班や、30代の独身女性をターゲットする班など着眼点もさまざま。11月のプレゼンテーションに向かって資料作成に努力していきます。

担当教員からのメッセージ

3、4年のゼミ生は「都市と地域の社会学」と「ライフスタイルの社会学」というテーマに基づいてオリジナル報告を実施してきました。今回の講義は、家庭生活や働き方の変化をふまえた企業活動のお話だったので、学生もこれまでの社会学系の講義で学んできた事柄とのつながりを理解することができたようです。11月の発表に向けて、ヘーベルハウス/へーベルメゾンの取り組みをふまえながら、学生らしい提案ができるように奮闘中です!

ご多忙の中ご講義頂いた河合様、本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

2025年10月23日

企業の美意識を知る!国文学マーケティングプロジェクトの授業で、資生堂企業資料館館長大畑昌弘氏による講演が行われました。

10月2日(月)に国文学マーケティングプロジェクト(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)にて、株式会社資生堂(以下資生堂)資生堂企業資料館館長の大畑昌弘氏をお招きし、企業の歴史と理念についてご講演をいただきました。国文学マーケティングプロジェクトは、文学部国文学科を対象に開講されている専門教育科目です。日本文学とかかわりの深い企業を主体的に調査研究することで、マーケティングと文学の関連性を意識し、学科で学ぶ意義をより深めていくことを目的としています。

講演のはじめに大畑氏は、「資生堂は『変わらないために変わり続けてきた会社』」と紹介し、「『世のためにという思い』『いつの時代も〈本物〉を造り出そうとしたこと』『創り出した〈本物〉の価値をきちんと届けること』この3つのこだわりを大切にしてきました。今回の講演で、それを感じていただけたら」と述べました。

資生堂企業資料館について

静岡県掛川市にある資生堂企業資料館。1992年に設立され、創業当時から今につたわる貴重な資料の保存・収集・展示を行っています。
設立のきっかけは、1972年に社史である「資生堂百年史」を編纂したこと。
資料収集を行う中で、統一された収集ルールと保管システムが求められ、企業資料の長期保存を目的に資料館が企画されました。

「資生堂企業資料館」公式サイト
https://corp.shiseido.com/corporate-museum/jp/

「資生堂企業資料館オンラインツアー」
https://corp.shiseido.com/jp/company/museum/

資生堂の創業

資生堂は1872年、福原有信が日本初の民間洋風調剤薬局として創業しました。1888年には、日本初の練歯磨〈福原衛生歯磨石鹸〉を発売。当時としては高価格でしたが、科学的な機能性や高級感を打ち出し、大きな成功を収めました。大畑氏はこれを「資生堂の本物志向や高品質へのこだわりが表れた商品」と紹介しました。

1897年には、資生堂初の化粧品〈オイデルミン〉を発売。赤い化粧水をガラス瓶に詰めたこの商品も高品質を追求したもので、「資生堂の赤い水」として評判を呼び、資生堂を象徴する存在となりました。

資生堂パーラーについて

資生堂のDNAである「先進性・高品質・本物志向・西洋風」を象徴する事業が、化粧品会社が飲食店を経営するというすこしかわったビジネスである、資生堂パーラーです。1900年、創業者・福原有信はパリ万博視察の帰路にアメリカを訪れ、ドラッグストアで人気を博していたソーダ水に着目。日本でも導入を決断し、機材だけでなくグラスなどの食器もすべて本場から輸入しました。本物へのこだわりが「まるでアメリカにいるよう」と評判を呼び、休日には遠方からも人が訪れる一大名物となりました。

これが発展し、1928年に薬局から独立したレストラン〈資生堂アイスクリームパーラー〉が開業。西洋料理の草分けとして人気を集め、高級志向と本物感を追求する場は文化人のサロンとしても機能しました。当時の小説に「資生堂」や「パーラー」が登場するほど文化的存在感をもち、その洗練されたイメージは資生堂全体のブランド形成に大きく寄与したと紹介されました。

「美と文化の発信者」という企業文化の確立

資生堂の美の提案意識を確立したのは、創業者の理念を継承した初代社長・福原信三でした。画家志望から家業を継ぎ、アメリカで薬学を学んだ信三は、1916年に意匠部と試験室を設立。パッケージや店舗設計、研究開発の体制を整え、現在の研究拠点の礎を築きました。また、鷹の図柄を廃し〈花椿マーク〉を考案、1927年には「資生堂書体」を制定するなど、時代に先駆け企業ブランディングを実施。資生堂のイメージの定着を図りました。

さらに、〈資生堂ギャラリー〉を開設して若手芸術家を支援し、美容科や子供服科を通じて総合的な美容文化を提案。文化情報誌〈花椿〉では、最先端の生活文化の発信と共に、時代の波によって刷新されていく新しい女性像を発信しました。大畑氏は「資生堂は単なる化粧品会社ではなく、文化を創造し生活に彩りを与えてきた」とまとめました。

資生堂の発展

二代目社長・松本昇は、震災や戦争の動乱期に資生堂の価値伝達の仕組みを経営的な側面から確立しました。大畑氏はその具体例として、「品質本位主義」など社員の精神を示す〈五大主義〉や、社員が本物の価値を届ける〈ミス・シセイドウ〉などの取り組みを紹介。

特に重要と話すのが、1923年導入の〈資生堂連鎖店(チェインストア)制度〉です。これは「お客さま・小売店・資生堂が共に栄える」という〈共存共栄主義〉の実践であり、乱売(大変安く売ること)されがちだった化粧品を契約小売店で正規価格のみ販売する仕組みでした。震災で販売網が打撃を受けた中、新しい販売経路を築く狙いもありましたが、資生堂の高級志向のブランドイメージが信頼を呼び、業界の冷笑をよそに契約は年間目標200件に対して1700件を突破。ピンチをチャンスに変え、資生堂の価値を世に広く伝える契機となりました。

時代に合わせた変化

資生堂は戦争で化粧品が奢侈品に指定され生産販売ができなくなった時代も、形を変えて存続しました。戦後では日本初となるカラーポスターを発表し人々に希望を届け、1960年代には特色ある販売キャンペーンを展開。その中で生まれた広告では「上品で清廉な資生堂スタイル」に対抗し、女性自身が求める新しい女性像を提示する「反資生堂スタイル」が登場しました(「太陽に愛されよう」ポスター)。さらに1980年代には「サクセスフルエイジング」を掲げ、老いを前向きにとらえる視点を社会に広めます。近年も、2011年の東日本大震災支援や、2020年のコロナ禍で手に優しい消毒液を開発し売上の一部を寄付するなど、社会の困難に寄り添う取り組みを実施。資生堂は災害や疫病の時代にも「できること」を模索し続け、常に時代に応じた価値を発信し続けています。

本物の価値を創造し、それらを伝えるため、時代や社会に合わせて様々な変化に挑んできた資生堂。大畑氏は「私も『今の私にできることを精一杯やろう』という気持ちで常に活動している。その中で何かしら皆さんや社会に寄与する会社でありたい」と、社員としての在り方を述べ、講演を終了しました。

鑑賞と質疑応答

講演の最後には、資料館から持参された貴重な品々を間近で鑑賞する時間が設けられました。会場では、大畑氏の解説を受けながら、1897年に販売が始まった化粧水「オイデルミン」のレプリカや、シーンに合わせたメイク方法を紹介する「ビューティーチャート」などが紹介されました。なかでも注目を集めたのは、日本で初めて女性ホルモンを配合したクリーム「ホルモリン」です。容器には、繊細な装飾と資生堂の花椿のロゴが施されており、大畑氏は学生に「率直な感想を聞きたい」と問いかけました。学生からは「小さくてかわいい」「ロゴのワンポイントが素敵」などの声があがり、大畑氏は「今の感覚を知りたかったのですが、やはり“かわいい”と感じてもらえるのですね」と満足そうに話しました。

ビューティーチャートを説明する大畑氏
オイデルミンのレプリカを撮る学生
ホルモリンを近くで鑑賞する学生たち

その後の質疑応答の時間でも活発な意見交換が行われました。

学生から「働いている人の男女比率はどのくらいですか?」という質問が出ると、大畑氏は「美容部員を含めると女性が8割。含めなくても5:5か4:6くらいで女性が多いと思います」と回答。学生たちは、その割合が予想以上だったのか、驚いた様子を見せていた。

また「館長の仕事はどのようなことをしているのですか?」という質問には、「開館日・閉館日にかかわらず、見学案内や問い合わせの対応、資料整理や資料の貸出など、資料館ならでの仕事をしています。同時に複数の業務を並行して行うことも少なくないので、メンバーやアシスタントさんたちに対応いただくタスクの優先順位を決めたり、館内における基本的な決裁も私の仕事ですね。」と説明しました。

今回の講演は、文化にも寄与する企業の意識に触れる貴重な機会となりました。

担当教員からのメッセージ

国文学の学びと企業活動を結び付けて考えることをコンセプトにした本講座も6年目を迎えました。
本講座には、資生堂と叶匠寿庵の2社にご協力をいただいて授業が進行していきます。
まずは、資生堂企業資料館の大畑館長からの講話をいただきました。150年を超える長い歴史を持つ資生堂、常に時代の先導者として、「美」へのこだわりを繋ぎ続けてきた社員たちの深い思いがあります。
そして、近代文学の中にも数多く登場する資生堂パーラーなど、国文学の学びが、企業の歴史の中に散りばめられていることを改めて学びました。大畑館長には、この場を借りて心から感謝申し上げます。

2025年10月23日

生成AIを制作パートナーに!サイバーエージェントとのコラボ授業が始まりました。

2025年10月14日(火)演習Ⅱb (担当:人間社会学部人間社会学科 粟津 俊二教授)にて、株式会社サイバーエージェント(以下サイバーエージェント)から川越寛之氏による特別授業が行われました。

授業と企業連携について

「演習Ⅱb」は、人間社会学部の2年生を対象に開講されている専門必修科目です。学科での学びをさらに深めるための基礎知識を身につけることを目的としています。粟津教授が担当するIクラスでは、「生成AIを活用し、社会連携プログラムの紹介物を製作しよう!」という課題に取り組んでいます。授業では、Web広告事業でAIを用いたクリエイティブを行っている株式会社サイバーエージェントと連携し、生成AIの活用方法を実践的に学んでいます。

今回の授業では、Geminiを使用し、さまざまな生成機能やAIのカスタマイズについて実践的な演習を行いました。

授業の初めに

川越氏はまず、サイバーエージェントについて紹介しました。
同社は東京都渋谷区に本社を置き、インターネット広告・メディア・ゲームの3事業を主軸としています。川越氏はその中の「インターネット広告事業本部 AIクリエイティブ部門」の統括を担当しており、「生成AIの進化によって、数年前と比較し数倍の業務量をこなせるようになった」と述べました。

続いて「この授業で使用するAIは、Google社のGeminiとNoteBook LMです。コンテンツ制作の過程でどうしても作業量が増える、資料の読み込みや内容の抽出、構成の決定といった工程をAIに任せていきます」と説明し、「出力された結果のうち、どれを選び、どう活かすかは皆さん自身の判断と責任によるものです」と呼びかけました。

実践!Geminiに親しもう

川越氏は8月下旬にリリースされた画像生成機能「Gemini 2.5 Flash Image(Nano Banana)」を紹介しました。「この機能では、AI画像生成において革新的な“キャラクターや被写体の同一性を保持する技術”が実装されています」と説明。続けて「人物の写真を使って“○○風アート”を生成してみましょう」と呼びかけ、ワークが始まりました。

学生たちはそれぞれ自分の画像を使い、ステッカー風の加工など、簡単な指示を入力して画像を生成・変換する体験を行いました。川越氏は「同様の技術は、ファッションECサイトなどで“モデルの写真をAIで差し替え、服だけを変更して見せる”といったかたちで実用化が進んでいます」と述べ、現場での活用例を紹介しました。

続いて、OpenAI社が2024年12月に公開した動画生成AI「Sora2」についても触れました。「動画生成AIも急速に進化しており、短く簡単なプロンプト(指示文)を入力するだけで、質の高い動画を生成できるようになっています」と説明。また、Geminiにも動画生成機能は備わっていて、日々アップデートされて精度が高まっていると補足しました。

川越氏は、「サイトとの連動予約など、昨年AIにはできなかったことが今年は可能になっています。一年で技術が大きく進化している」と語り、AI技術の成長スピードの速さを強調しました。

生成AIのしくみ

川越氏はまず、AIの技術的背景について簡単に解説しました。

AIの研究分野の一覧を示しながら、「生成AIは、機械学習の一分野であるニューラルネットワーク(人間の脳の仕組みを模した情報処理のしくみ)と、その技術を応用したディープラーニング(コンピューターが大量のデータから自動的に特徴を学習する技術)を基盤としている」と説明しました。

さらに、「AIが考えて回答しているのではなく、AIが予測した候補の中から最も適切だと思われるものを選んで出力している」と、その仕組みを紹介しました。

ハルシネーションとその対策

続いて川越氏は、生成AIがあたかも事実のような誤情報を生成する現象(ハルシネーション)と、その防止策について紹介しました。

具体的な対策として、
① 信頼できる情報源をAIに読み込ませること、
② 回答に根拠や出典の提示を求めること
③ Geminiの「Deep Research」など外部検索を活用することの3点を挙げました。

これらにより、AIが回答を生成する際の情報源を明確にすることが、より適切な生成につながると説明しました。また、Deep Research機能については、「投げかけたテーマに関する情報を、根拠を示しながらレポート形式でまとめる機能」と補足しました。

プロンプトとメタプロンプト

さらに川越氏は、「良いプロンプト」の書き方についても解説し、「誰に向けて」「何文字以内で」「どのように説明するか」を明確に指定することで、期待に近い回答を得られると紹介しました。

続けて「これを毎回行うのは大変です。そのため、このプロンプト自体をAIに作ってもらおうと思います」と述べ、AIの動作指示を定義する“根本の設計文”ともいえるメタプロンプトを紹介しました。「これから皆さんには、このメタプロンプト(=プロンプトを書くためのプロンプト)を作成する準備を行ってもらいます」と述べました。

実践!Geminiをカスタマイズ

川越氏の指導のもと、学生たちはDeep Research機能を活用して出力された結果をもとに、Gem(特定の役割・話し方・回答形式などをあらかじめ設定できる機能)を設定し、メタプロンプトを生成するための環境を作成しました。

さらに川越氏は「AIの性格を考えて、自分の好きなように設定してみましょう」と呼びかけ、やり取りのスタイルを自由にカスタマイズするよう促しました。学生たちは考えた性格を設定に読み込ませ、自分専用のGemを作成。

この設定を行うことで、「抽象的な指示から的確なプロンプトを自動で生成できるため、自分でプロンプトを考える必要がなくなる」と説明しました。

また、AIの人格形成について川越氏は「特に指示や設定を行わなくても、やり取りを重ねる中で自然に形成されていく」と述べ、「これから何度もやり取りを行うため、チャットしやすい人格を設定することが大切」と話しました。

学生たちは、今回作成した自分専用のカスタマイズ設定を用い、今後の制作に取り組んでいきます。

担当教員からのメッセージ

生成AIを制作パートナーとするこの挑戦は、人間社会学部の学生にとって、社会で通用する実践力を養う貴重な機会になります。生成AIを使いこなして、社会連携の意義を伝える魅力的なコンテンツができることを期待しています。

2025年10月22日

Z世代に刺さる商品の提案!生活環境学セミナーにて、金吾堂製菓とのコラボ授業が始まりました

10月9日(木)生活環境学セミナー(担当:環境デザイン学科 安齋 利典教授)にて、株式会社金吾堂製菓(以下金吾堂)から常務取締役 碓田憲司氏、商品企画室 小谷真理子氏、株式会社ロッケン(以下ロッケン)から小笠原真一氏をお招きし、コラボプロジェクトが行われました。

授業について

生活環境学セミナーは、環境デザイン学科の3年生を対象とした専門科目です。

意見交換や討論を通じて学生同士が学び合うゼミナール形式で実施されており、安齋先生のもと、計12名の学生がプロダクトデザイン(工業製品のデザイン)について日々学びを深めています。

連携企業の紹介~株式会社金吾堂製菓~

金吾堂について碓田氏から説明がありました。

金吾堂は、米を原材料とした菓子を製造・販売する米菓メーカーです。
50年以上にわたり愛され続けるロングセラー商品「厚焼」をはじめ、現代の食感トレンドに合わせた「ほろほろ焼」や「パリッと煎」、「おすきなひとくち」など、60品目を超えるせんべいを展開しています。

なかでも主力商品である「厚焼」は、「一日で焼き上げる厚焼を縦に積むと、富士山の約8倍の高さになる」といわれるほどの人気商品。「どこかで一度は見たことがあるはず」と話しながら、実物が紹介されました。

販売成績は好調に推移している一方で、主な購買層が50代以降に偏っているという“販売層の高齢化”が課題とされています。さらに、近年の原材料価格の高騰や米の調達難の影響を受けており、新たな購買層の開拓が必要であることが説明されました。

連携企業の紹介~株式会社ロッケン~

金吾堂のパッケージデザインを担当しているのが、ロッケンの小笠原氏。

他にも、様々なパッケージデザインやブランディング(総合的なデザインを通じて製品の価値を高める戦略設計)を手がけています。また音楽業界でインハウスデザイナー(企業専属のデザイナー)としての経歴を持つ小笠原氏は、デザイン事例としてミュージシャンのCDジャケットや映画のポスタービジュアルなども織り交ぜながら実績を紹介しました。

ブランディングの事例として、金吾堂の「おすきなひとくち」シリーズを取り上げ、「シリーズ化を戦略に入れたパッケージデザインの提案だった」と述べながら画像と実際の商品を提示。統一されたデザイン様式と、一目で味がわかるパッケージ構成について説明しました。

「中身は変えていないのに、一時的に販売休止になるほど売れた。デザインの力で購買意欲を変えることができた」と語り、パッケージデザインが持つ影響力の大きさを強調しました。

課題の発表

企業の説明が終わった後、碓田氏から、「Z世代をターゲットに、厚焼のセカンドラインとして若年層に響く商品の企画立案」という課題が発表されました。

具体的に検討すべき要素として「パッケージデザイン」「味のバリエーション」「せんべいの形」「ライフスタイルに合った商品展開」の4点が示され、それぞれに「面白くカジュアルに」「Z世代にうけそうな新たなフレーバー」などの方向性が明示されました。碓田氏は「参考として、Z世代が好む味を分析した資料を紹介します」と述べ、資料を共有。ユニークでバリエーション豊かな味付けが好まれる傾向にあることがわかりました。

さらに、小谷氏からは課題の参考として、Z世代の嗜好傾向の分析と、金吾堂が実際に行っているパッケージ戦略の紹介がありました。小谷氏は「①カラフルでモダン」「②SNS映え」「③キャラクター活用と環境配慮」の3点を挙げ、「カラフルで差別化された、思わずSNSに投稿したくなるパッケージ」や「環境配慮素材を用い、その点を明示して社会的責任にも訴求する」戦略を紹介しました。

学生はこれらの点を踏まえ、商品企画とパッケージのデザインを進めていきます。

意見交換

机を囲んで、金吾堂のせんべいを味わいながら意見交換が行われました。
学生が食べているせんべいのパッケージに関する質問では「音のなるパッケージが好みではなく、その時点で選択肢から外れる」「持ち運びにはチャック付きが便利でありがたい」「ながら食べをするので、せんべい自体が一口サイズなのはいい」と学生から素直な感想が寄せられました。

SNSのシェアに関する話題では、「パッケージをシェアすることはありますか」という質問に対し、「面白いものは共有します」との回答がありました。
さらに、「大人数とつながっているアカウントでは“映えたい”気持ちが強く、率直な感想は親しい友人だけでつながっているアカウントで投稿する。パッケージやお菓子の感想を載せるのは、ほとんどが後者です」と、リアルなSNS利用の実態にも言及しました。学生の中には、「『おすきなひとくち』の写真に『これ大好き』というコメントを添えて投稿していました」と語る、すでに金吾堂のせんべいをシェアしていた人もいました。お菓子の投稿について、学生は「友達の投稿は信頼度が高く、自分も食べてみようというきっかけになります」と話し、企業担当者の三名は興味深そうにうなずいていました。

その後も、環境意識やお菓子の食べ心地など、さまざまな話題で活発に意見交換が続きました。

学生は最終提案に向けて、準備を進めていきます。

担当教員からのメッセージ

金吾堂の常務取締役、碓田憲司様、商品企画室 小谷真理子様、ロッケンの小笠原真一様、
お忙しい中、遠いところお越しいただき誠にありがとうございます。
学生にとってのお煎餅はどのような位置づけかと思っておりましたが、ゼミ生間のSNSで金吾堂様のお煎餅が話題になっていたり、おばあちゃんの家あったであるとか、別の授業でこのコラボレーションを紹介したところ、
 「この金吾堂の厚焼煎餅は私が好きでよく食べているため、特に興味が湧いた。」
というような内容がレポート書かれたり、意外と身近な存在であることが分かりました。
つまり、学生にとっては馴染みがある、あるいは馴染みやすい存在なのかもしれません。
であれば、かなり面白いことになりそうだという気がしてまいりました。
意見交換でも、学生のスナック菓子の購買チャネルや食べ方が話題となり、その果てにはパッケージの袋の音まで話が及び、敏感かつ繊細な学生の感性に触れることもで来ました。
まさに、「Z世代に刺さる商品の提案!」に近づきつつある予感を持てたミーティングでした。

2025年10月22日

学生が動画制作にトライ!英文学科プロジェクト科目bにて、映像制作会社ピクス(P.I.C.S.)とのコラボ授業が始まりました

2025年10月7日(火)にプロジェクト科目b(担当:文学部英文学科 鹿島千穂専任講師)にて、株式会社ピクス(P.I.C.S.)(以下、P.I.C.S.)プロデュースのもと、イリエナナコ氏をお招きし、動画制作の基本について講義が行われました。

授業について

この授業は文学部英文学科の専門科目として開講されており、メディア広報活動として、英文学科の公式インスタグラムに投稿する動画の制作を行います。
アカウントはこちら→https://www.instagram.com/jissen_eibun/

動画制作のテーマは「高校生に向けた、実践女子大学英文学科のPR動画」です。制作した動画は、実際に公式アカウントに投稿され、SNS広報として発信される予定です。
学生たちは今回の講義を通して、動画制作の流れや具体的な作業内容について、制作事例の紹介やミニワークを交えながら実践的に理解を深めました。

動画制作の基本

講師を務めたのは、クリエイティブディレクターのイリエナナコ氏。学生と同じ目線で机に座り、「カジュアルにいきたいですね」と笑顔で語りかけながら講義をスタートしました。イリエ氏は早速「最近好きだった動画は?」と学生たちに質問。「K-POPアイドルの動画」「配信の切り抜き動画」など、スマートフォンを見ながら答える学生たちに対し、イリエ氏は「今挙げてもらった動画には、ショート動画もあればロング動画もあります。動画にはさまざまな種類があるんです」とコメント。そこから、動画を構成する客観的な要素や魅力について、分かりやすく解説を始めました。

動画の種類を決定づける四つの基準「①制作がプロか個人か ②公開方法 ③コンテンツ内容 ④技術や形式」について解説し、各項目の詳細を説明したうえで、「今回制作する動画は、どの分類に当たるでしょうか」と学生に問いかけます。学生たちは「公式(プロ)による発信」「SNSでの公開」「広告・ブランディング」「ショートまたはロング動画」に該当することを確認しました。

その後のミニワークでは、「この分類に近い事例を探してみましょう」と呼びかけがあり、学生たちは検索に少し時間をかけながら、「アパレルブランドのInstagramリール」や「応援しているタレントが出演する飲食店のPR動画」などを例として挙げました。イリエ氏は「普段は自然に目にしているけれど、探そうと思うと意外に難しいものです。制作するものに近い“視覚的な参考例”を見つけておくことは、とても重要な工程です」と説明。「プロも夜な夜なこうした作業をしています」と付け加え、実際の制作現場でも欠かせないプロセスであることを強調しました。

実際の制作の流れ

授業では、PR動画「東京宝島」の事例をもとに、実際の動画制作の流れが紹介されました。
制作は〈①企画を考える ②プレゼン ③撮影 ④編集 ⑤確認・修正 ⑥公開〉の6つのプロセスで進行し、この講義では特に①~③の工程について詳しく解説が行われました。

①企画を考える

企画立案では「受け手にどんな行動を起こしてほしいか、どんな印象を与えたいかを考えながら、テーマ・メッセージ・構成を練ります」と説明。「どんな人に、どんな行動をしてもらうかを考えることも企画の一部です」と紹介しました。

②プレゼン

企画書や絵コンテを用いて、動画の流れや世界観をチーム全体で共有する工程です。セリフの内容やタイミング、使用するBGMやカメラの動きなど、資料から撮影現場が想像できるほど詳細かつ具体的につくりこみ、チーム内やクライアントと「共通の完成イメージを共有すること」を目的としています。

イリエ氏は「目的に沿った内容づくりの大切さ」を強調。学生たちは、提示された条件ごとにCM出演者を考えるミニワークを実施し、「誰に何を届けるか」によってキャスティングが変わることを体感しました。

さらに「大学に入って初めて知った言葉を思い出してみてください」と問いかけ、学生からは「空きコマ」「単位」「オンデマンド」など学生生活に関する言葉が挙げられました。イリエ氏は「みなさんが高校生の時と同じように、動画のターゲットとなる高校生はこれらの言葉を知らないということです。動画はターゲットに伝わる言葉や内容で構成しなければいけませんが、それには想像力が必要です」と語りました。

続くミニワークでは、「CMのナレーションを考える」「ロケ地を選ぶ」「衣装を決める」といった課題に取り組み、選んだ理由とともに発表。イリエ氏は「実際の制作でも同じように、“理由づけ”をしながら細部を決めていきます」と述べました。

ミニワークにとりくむ学生たち

③撮影

撮影において重要な要素として「構図」「カメラの動き」「光の当たり方」の3点を紹介。イリエ氏は「撮影を完璧に行うため、事前にロケハンを行い、絵コンテと照らし合わせながら試し撮りをします」と説明しました。さらに「カメラの動かし方やキャストの視線の方向まで、すべて事前に考えたうえで撮影に臨みます。その場の判断で調整することも多いです」と、リアルな現場の様子を伝えました。

チームと役割

講義の最後には、動画制作を支える多様な役割について、イリエ氏作の「診断テスト」を交えながら紹介。企画を担うプランナー、映像を編集するエディターなど、それぞれの専門職の特徴を説明しました。イリエ氏は「現場では常にいろんな人とグループワークしているような感覚です」と話し、「これから自分がどんな役割でチームに関わっていきたいかを考えてみてください」と学生に呼びかけ、講義を締めくくりました。

担当教員からのメッセージ

本授業は、学⽣が主体となって英⽂学科のメディア広報活動を行うプロジェクト科目です。実は、過去には英文学科のInstagram動画作成が正課外活動として実施されていた時期もありましたが、今年度より正式なキャリア教育科目としてスタートしました。

SNSでのコミュニケーションが日常となった今も、効果的かつリテラシーをもって発信する知識や技術を持ち合わせていないのが現状です。学生たちは映像制作の第一線で活躍するクリエイターから撮影・編集の⼿法を習得し、チームの仲間と協働して英文学科の公式Instagram動画を完成させます。

この授業回の翌週には、チームごとにプロデューサー、ディレクター、編集者、出演者、コピーライター等の役割分担が終わり、企画立案が始まりました。どのような案が出て、それをどのように映像化していくのか、楽しみです。

2025年8月6日

これからの時代に必要な企業の存在意義とは?「社会学概論」の授業で花王の小泉篤氏による特別講義が行われました。 

7月9日に「社会学概論」(担当:人間社会学部人間社会学科 原田謙教授)の授業で、花王株式会社特命フェローの小泉篤氏による特別講義が行われました。学生たちにとっても身近な製品を数多く作っている花王。長く愛されている企業ですが、その経営戦略は時代によって変わっています。これからの時代に必要な企業の在り方を、さまざまな観点から教えていただきました。

日本人の清潔文化を作った花王

小泉氏は入社から花王一筋。
執行役員を経て、現在は社内の課題解決などを担当する特命フェローを担っています。
インドネシア駐在の経験もある小泉氏は「グローバル潮流の変化に挑むイノベーションとは」というテーマで講演を始められました。

まずは花王の歴史から。
1887年創業で、今年で138年を誇る老舗企業です。
「清潔な国民は栄える」という理念のもと石けんを販売したのが始まり。日本人の清潔文化に大きく寄与してきました。
小泉氏は「インドネシアに駐在した際、この理念を実感しました」と話します。
発展途上国の一部では、川などで洗濯したり体を洗ったりすることがふつうで、衛生状態が悪いところも。地域の清潔と国の発展はつながっていると感じたと話しました。

花王は生活者が直接使うBtoCの製品を多く製造しています。洗剤やスキンケア、ヘアケアから化粧品まで幅広く、なんと61ものブランドがあるそうです。
授業の冒頭では、花王と聞いて思い浮かべるブランドのアンケートも。
スキンケア製品の「ビオレ」や洗剤の「アタック」、生理用品の「ロリエ」などが学生たちにも広く認知されていました。

利益を求めるより企業の存在意義を考える

ここからは経営の話です。
現在、花王をはじめ多くの日本企業は「ESG経営」を行っています。
ESGとは環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)の3つの要素を重視する言葉。環境や社会に対して企業として責任ある経営を行うことです。
「日本の多くの企業はESG経営に舵を切る前は株主資本主義経営だった」と小泉氏。
「株主の利益を最大化させるために会社を運営することが最優先されていた」と話します

グローバルで転機が訪れたのは2008年。リーマンショックが起こり企業の株価は急落。
「そこで企業は株主資本主義経営に対して反省したのです」と小泉氏。
短期的な利益よりも、なぜ企業が存在するのかという長期的な会社の価値を求めるようになっていきました。
2020年にはダボス会議で「企業は収益の最大化だけでなく、社会課題の解決のために取り組むべき」とマニフェストが改訂され、世界的にESG経営の機運が高まりました。

ブランドにもパーパスはある!

花王も2019年から本格的にESG戦略を取るように。
花王の原点である清浄観から「きれいをこころに、未来に」をスローガンに、きれいな世界を作ることで社会に貢献する企業を目指しています。
こういった企業の社会的意義を表す言葉は「パーパス」と呼ばれます。「その企業は何のために存在するのかを表す言葉」と小泉氏は説明しました。
花王はパーパスにのっとり、コロナ禍では「プロテクトJAPAN」というプロジェクトを展開。消毒液の増産に対応したり、感染予防の情報やエッセンシャルワーカーの支援も行ったりしました。

「パーパスは企業ブランドの花王だけでなく製品のブランドにもある。61のブランド全部にパーパスがあります」と小泉氏。
例えば生理用品の「ロリエ」は「生理現象をとりまく環境をより良くしていく」がパーパス。生理の考え方や仕事中の女性の居心地の悪さを変えるため、職場のトイレに生理用品を無料で提供する「職場のロリエ」という活動も行っています。

イノベーションを起こすことの大切さ

「コロナ禍以降、世の中はより変化が激しくなり、想定外のことが起きるのが当たり前になってきている」と小泉氏。
またECやSNSの発達で海外市場は拡大し、カネもヒトもボーダレス化しています。
そこで必要なのが社会やビジネスに新しい価値を生み出す「イノベーション」です。

イノベーションの一つとして有効なのが「役に立つ」ものから「意味がある」ものはなにか考えること。(ライプニッツ代表山口周氏の「ニュータイプの時代」から)
例えばフロア用掃除道具として人気の高い「クイックルワイパー」は、掃除機が重くてかけられない妊婦や障がい者にとって「意味がある」製品。
ターゲットとなる層は狭くても、「意味が有る」必要とされているものを作ることで企業としての価値を高めています。

ガラパゴス化しないために行動しよう!

これから就職活動をする学生に向け、小泉氏は企業のパーパスを見て自分に合ったところを探すことを勧めました。
また、もうひとつ「相手の意見を聞く」ことも大事なこととして伝えます。
「10年後には皆さん海外の仕事に携わるのがふつうのことになります」と小泉氏。直接海外に行かずとも、取引をしたり一緒に仕事をしたりという機会は必ずあると話します。そのために「自分をガラパゴス化させないように行動しましょう」と話しました。
「海外旅行やショートステイなど、文化的な背景が違う人と出会い、現地の人と少しでも触れ合ってほしい。何か違うなと感じることがグローバルマーケットの最初だと思います」と語り掛けました。

授業後のアンケートには学生たちからの質問がたくさん寄せられました。
これから就活を迎える学生たちにとって、企業の見方を学ぶ貴重な講演となりました。

担当教員からのメッセージ

人間社会学部の1年生には、社会学・心理学からビジネス、そして社会デザイン/イノベーションをめぐる基礎を幅広く学んでもらいます。「社会学概論」の授業では、家族や仕事にかんするライフスタイルの変化について学習してきました。
今回の特別講義は、洗剤やスキンケア、そして化粧品といった学生にとっても非常に身近な花王ブランドの具体的なトピックから、ESG経営、イノベーションを起こす大切さまで、とても充実した内容でした。学生にとって、まさに「人を知り、社会を知り、ビジネスを学んで、よりよい未来をデザインする」とても良い機会になりました。
ご多忙の中ご講演頂いた小泉様、本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

2025年8月4日

 「English for Linguistic Studies I a」の授業でJALの吉村真紀氏の特別講演が行われました。 

7月1日(火)に「English for Linguistic Studies I a」(担当:文学部英文学科 柳田 亮吾 専任講師)の授業で、JALの吉村真紀氏をお招きし、日常的に海外の方と関わる航空関係の職場で行われるコミュニケーションについて、講演していただきました。この科目は英文学科の専門教育科目で、学生たちは異文化間のコミュニケーションのスタイルについて学んでいます。

吉村氏は「地球320周分、月まで往復16回分飛行機に乗っている」現役の客室乗務員。客室責任者の経験をもとに、大学などで講演を行っています。

アサーティブコミュニケーションって?

吉村氏は初めに、「アサーティブコミュニケーション」を紹介しました。アサーティブコミュニケーションは「自分の意見や気持ちを正直に素直に伝えながら、相手の立場や感情を尊重するコミュニケーションの方法」で、「多様性、心理的安全性、自分を大切にすること、信頼関係の構築につながる」ものと説明。そしてこれらはハラスメントの防止につながるといいます。

具体的な手法として「Iメッセージ」と「DESC法」を紹介しました。Iメッセージは「私を主語にして伝え、相手を攻撃せず率直に本音を伝える」方法で、例えば貸したものが返ってこないときに「あなたっていつもそうだよね」ではなく「返ってこないと私が心配になるな」と伝える例です。DESC法は、Describe(描写)、Explain(表現)、Specify(提案)、Choose(選択)の頭文字で、事実を客観的に伝え、自分の気持ちを表現し、具体的な改善案を提案し、結果を伝える方法です。

学生たちはミニワークで実践。「アルバイト先で忙しい時間帯に休憩がもらえなかったとき」という設定で、ある学生は「長い時間働いていますが休憩がとれていません。この仕事を終わらせたら休憩に行ってもいいですか?」と答え、吉村氏は「最後に『今休憩に行ったら、休憩後もっと頑張れます!』と言うとDESC法により忠実になる」とフィードバックしました。

JALの企業理念

話はJALグループについてうつります。『JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、一、お客さまに最高のサービスを提供します。一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。』という企業理念を、吉村氏は「ウェルビーイングの考え方につながるもの」と解説。

続いて、企業理念を支える二つの柱として「安全憲章」と「JALフィロソフィ」を紹介。吉村氏は安全憲章の文を読み上げ、「『安全とは命を守ること』と明確化されていることがポイントです」と説明しました。続いて、安全への取り組みとして2006年に設立された「安全啓発センター」を紹介。1985年8月12日に起きた123便ジャンボジェット墜落事故を取り上げ、「この事故を大きな重みをもって受け止め、安全の重要さを学ぶ場として開設している」と説明。「社員も年に数回必ず行って、安全に対する気持ちを新たにしている」と、安全に対する意識の高さを説明しました。

「JALフィロソフィ」は「JALグループ全員が持つべき、意識・価値観・考え方が書かれたもの」と紹介。部門や職種を超えて一つの飛行機を運航する上でどう連携できるのか、一体感を高めていくための共通言語として設定されたものだと述べました。

現場のコミュニケーション

企業理念を説明したのち、吉村氏は〈安全とサービスを伝えるコミュニケーションについて〉と題して現場の事例を紹介しました。

吉村氏は、JALの現場において最も大切にされているのが「安全第一」という企業理念であると強調しました。その上で、「安全を守るためには、個々の技術や経験だけでなく、チーム全体の対話力が欠かせない」と話します。

この“対話力”には、心理的安全性・ノンテクニカルスキル・適切な権利勾配の3つの要素が含まれるといいます。心理的安全性は自分の意見や気持ちを安心して言える状態のことで、高いほど周囲の反応に不安感を抱くことなく発言できる環境といいます。ノンテクニカルスキルは、コミュニケーション能力などモノコトをどう使うか判断する力です。適切な権利勾配とは、職場の上下関係が適切であることです。権利勾配が急すぎると上司に言い出しにくい環境が生まれ、緩すぎると大切な場面でも引き締まり切らないため、適切な関係性が必要となります。

実際、過去には、機内での冷静かつ適切なコミュニケーションによって、事故を未然に防ぐことができた事例も紹介されました。

こうした経験からも、「良好な人間関係=安全につながる」という意識が根づいており、JALでは日頃から職場内のコミュニケーションを非常に大切にしているとのこと。アサーティブコミュニケーションは、信頼関係の構築や心理的安全性の確保において、大きなヒントになると話しました。

続いて吉村氏は、「JALフィロソフィ」にふれ、現場では時代や社会の変化に応じて柔軟な対応が求められている近年において、大切な行動指針がいくつも掲載されていることを紹介。特に近年ではインバウンドの増加により、文化的背景の異なる乗客への配慮の重要性がこれまで以上に高まっているとのことで、相手を意識したコミュニケーションの取り方について説明しました。

吉村氏は、日本人に対する対応と、文化的多様性をふまえた対応との違いを、「ハイコンテクスト・コミュニケーション」と「ローコンテクスト・コミュニケーション」という言葉を用いて説明しました。日本のように、言葉にせずとも空気や文脈で察する文化では、相手の気持ちを“先回り”して読み取るハイコンテクストな対応が基本となります。一方、多様な背景を持つ乗客に対しては、あいまいな表現では伝わりづらく、明確な言葉で伝えるローコンテクストな対応が必要になります。こうした違いを理解し、状況や相手に応じた対応が求められるのです。

また、吉村氏はJALの現場でホスピタリティを高めるために、チーム全体で大切にしている5つの具体的な行動を紹介しました。

① 仲間を名前で呼ぶ(役職名で呼ばない)
② 仲間にありがとうを伝える
③ お客様を名前でお呼びする
④ お客様に自己紹介、他己紹介をする
⑤ 表情、アイコンタクトをしっかりとする

日々の行動の積み重ねが、サービスの質を支えているといいます。

以上のことからわかるように、JALでは乗客に対してだけでなく、乗員同士のコミュニケーションにも細やかな気配りを欠かしません。職場内の関係性を大切にし、適切な対話を重ねることで、チーム全体としてのサービス力が向上していく。JALの業務におけるコミュニケーションの重要性をよく理解できる紹介でした。

授業の終わりに

吉村氏は最後にミニワークを実施しました。

とある乗客の行為が、ほかの乗客に迷惑をかけている状況を想定し、その行動を改善してもらうための声かけを考えます。

吉村氏は「相手を心配しているという姿勢を、言葉でしっかり伝えることがポイント。そうすることで、話を聞いてもらうきっかけになります」と語り、さらに次のように述べました。

「理不尽な場面や、相手が感情的すぎる場合など、アサーティブ・コミュニケーションだけでは対応しきれないこともあります。そういうときは、感情に巻き込まれず冷静になること、できること・できないことをはっきり伝えること、安全や秩序を守る行動をとることが大切です」。

今回の授業は、実際に複数の言語を使ってコミュニケーションをとりながら働く現場の話を聞くことができ、学びと実践が結びつく貴重な機会となりました。

担当教員からのメッセージ

近年情報技術、情報機器の発達によって時間と空間を超えた様々なコミュニケーションが可能となり、それに伴いコミュニケーション上の問題もまた生じています。例えば、異文化間コミュニケーションにおける誤解に加え、近年社会問題化している顧客による過度な要求や不当なクレーム、いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)もその一例でしょう。
吉村さまによる特別講演は、JALという職場におけるコミュニケーションの諸相、その根底にある価値観を知ることで、グローバル化の進む現代におけるコミュニケーションについての理解を深めるための非常に貴重な機会となりました。
今後の授業でも、言語学(Linguistics)の知見を教室で深めるだけでなく、その知見をもとに実際の社会におけるコミュニケーションを考える機会を積極的に創出したいと思います。

2025年7月25日

自分の強みを伸ばしていこう!「女性とキャリア形成」の授業で元資生堂役員の関根近子氏による特別講義が行われました。 

さまざまなゲストをお迎えして貴重なお話を伺える、毎年人気の「女性とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業。6月19日には株式会社資生堂(以下、資生堂)の元執行役員常務として活躍された関根近子氏をお迎えしての特別講義が行われました。自分の強みを知り、前向きに仕事を楽しむ大切さを教えていただきました。

役員になるなんて思いもよらなかった入社時

学生たちはこの講演に向け、「自分の強みを10個書き出す」という事前課題に取り組んでいます。
進行担当の学生から紹介を受け、登壇された関根氏は「課題は難しかったですか?」と問いかけました。「なかなか自分の強みは分からないものです。この授業を通し、強みを見つけていきましょう」と講義を始められました。

関根氏は18歳で資生堂に入社し、当初は地方の美容部員として働き始めました。
「人にお化粧するのが好きだったの?と聞かれるのですが、そんなことない。生活のために入社したんです」と関根氏。ご家族が突然の事故に遭い働かざるを得ない状況になり、一番初任給が高かった資生堂を選んだのだと話します。
「当初は結婚したら辞めると思ってました。女性管理職、ましてや役員なんてなるぞと思ってなかったんです」。
しかし「私の長所は明るくて元気、そして向上心があること。今でも勉強したいことがたくさんある」と語り、チャレンジ精神をもってキャリアを積み重ねてきたのだと実感をもって語りました。

同じ仕事でもやりがいに変える方法

関根氏は入社当初のことを振り返って自身の強みをみつけたきっかけを語ってくださいました。
それは美容部員から、プロモーションチームに異動したときのこと。
百貨店の食品売り場などに特設ブースを設置し、推奨品を販売する仕事でした。推奨品には高いノルマが課され、嫌がられてもしつこく声をかける日々。
「自分の仕事は人から嫌がられる仕事なんだろうか」と悩んだ関根氏は先輩に相談にいきました。

すると先輩から「そんなに嫌なら辞めていい。でも辞めるまでは、あなたの強みをしっかり使って接客しなさい」と言われたのです。
「そうか、私の強みは美容の知識だ、私は美容のプロなんだからと気付いたんです」と関根氏。そこから一人ひとりに合わせたカウンセリングをし、美容知識をお伝えする接客方法に転換しました。
すると、徐々にファンが付き、商品も売れていくようになったのです。さらにお客様から「ありがとう」という言葉をもらった関根氏は「商品を買ってくれたお客様に言う言葉だと思っていたので、とても嬉しかった。店に立つのが楽しくなったんです」。
そして「心も折れなくなった。お客様に断られても、きれいになるチャンスを逃したわね、と思うようになった」と笑いを交えて語りました。
「同じ仕事なのに、ちょっと目線ややり方を変えただけで喜びを得るようになり、やりがいを見出すことができたんです」と話しました。

失敗を恐れずチャンスを活かす

ではどうしたら自分の「強み」が分かるのでしょうか。
関根氏は「資生堂で役員をやっているとき、一番重要視したのは自分の成長」と話します。コツは「一年前に比べてどのくらい成長したのかを知る。それを定量的に測ること」と関根氏。
例えば本が好きな人の場合、去年50冊の本を読んでいたら今年は60冊読むようにするなど、記録を取って目に見えて分かるようにすることが大事だと言います。去年より上がっているということで自信もつき、何を学んだかも具体的に伝えられるように。
「グローバル人材に必要なことは、自分の意見をきちんと言えること。強みを人前で堂々と言えるようになれば自己効力感も生まれます」と話しました。

もうひとつ大事なことはチャレンジ精神だと関根氏は語りました。
どちらかというと女性は一度居心地がいい環境に入ると外に出たくなくなる傾向にあると話します。
しかし、新しい環境に飛び込むことを躊躇しないでほしいと伝えました。異動や単身赴任、昇進や役員になるなど、仕事にはたくさんの変化がつきまといます。
「CHANCE(チャンス)がきたらCHANGE(チェンジ)することを怖がらない。自分には無理だと思わず、失敗を恐れずチャレンジしてください」と語りました。

強みを伸ばせば自分は変わる

ここで関根氏は一冊のノートを見せてくれました。
当時、義理の母との関係がうまくいかず悩んでいたと言います。
「それまでは人の悪口や義母の愚痴ばかり言っていて、自分でもいやでした」と告白されました。そのとき会社で、ポジティブ思考について講義を受け感動し、自身の考えや思いをまとめたのがこのノート。
「ポジティブ思考とは苦しい状況のなかでも希望や解決策を探すこと。ポジティブに考えることで辛い現状にどうやって付き合っていくか考えられました」と体験を話されました。

そして関根氏は「他人を変えようとしても難しい。でも、自分は変えられる」と力強く言います。
「他人と比べず、過去の自分からどう成長しているかを考えること。短所は誰にでもあります。箱で例えると長所は辺、角が短所。長所を伸ばせば器が大きくなる。だから強みを伸ばしていきましょう」と学生たちをエンパワーメントしました。

どうやって強みを見つける?

講義のあと、学生たちからの質問の時間が取られ次々に手が上がりました。
「自分の長所をみつけるコツは?」という質問には、「打ち込むことが出来る好きなことがなにか考えること。また、何か周りの人からほめられたことがないか考えてみましょう」とアドバイス。

次の学生は「自分の考えや思考を押し付けにならないように伝えるときの注意点は?」と質問しました。
「傲慢に取られないように。自分の伝えたいことを言うことよりも、相手を尊重するという気持ちを少し多く持つこと」と回答されました。

最後に代表の学生からお礼の言葉がありました。
「自分の強み、理想のキャリアはなにかを考えるきっかけになりました」という言葉通り、学生にとって学びに繋がる講演となりました。

担当教員からのメッセージ

私が資生堂の人事部に勤務していた時から色々とご指導いただいた関根さん、いつお会いしても凛とされた佇まいは、毎年その輝きが増していると感じています。関根さんとお会いすると、どんな時も、決して後ろを向かず、ポジティブに前に進むことの大切さを思い出します。
今年の事前研究では、一人ひとりの魅力を探り、強みを引き出す内容でしたが、とても盛り上がったのが印象的でした。学生にとっても、素晴らしいロールモデルとして、心に刻まれることと思います。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

2025年7月22日

子どものスタートラインは同じじゃない?「女性とキャリア形成」の授業で認定NPO法人「カタリバ」代表の今村久美氏が特別講義を行いました。 

7月3日に女性とキャリア形成(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)「カタリバ」代表理事の今村久美氏による特別講義が行われました。今村氏は大学生のときに団体を設立しています。その後、なぜNPO法人という形を選んだのか、いま子どもたちにどんな支援が必要なのかを、ご自身の体験を交えて詳しく話してくださいました。

お互いに「語り合う」ことで自分を知る

まずはアイスブレイク。
今村氏は「この授業のクラスメイト同士について詳しく知っていますか?」と尋ねました。
どういう経緯でどんな選択をして本学に進学することを選んだのか、今後どんな人生を歩んでいきたいと思っているのか、3~5人のグループに分かれディスカッションを行いました。

いつも授業で顔を合わせていてもなかなか深い話はしないもの。改めてお互いを知る機会になりました。
「私のNPO法人の名前はカタリバと言います」と今村氏。
「学校生活って、教えられることはたくさんあるけどお互いのことを話すことは意外とない」と言い、「自分の現在地を知るためには、語り合うことが大事じゃないかと思って」、団体にこの名をつけたと語りました。

スタートラインの位置は公平じゃない?

今村氏は続いて学生たちの家庭環境について質問を投げました。
「自分の条件に当てはまる数を数えていってください」と8つの項目を伝えます。
離婚していない家庭である、携帯電話を止められる心配をしたことがない、家計を助けなくてはという心配をしたことがない、大学の学費の心配をしなくてもいい……。
6つ以上当てはまった人がクラスの多数を占めています。

ここで今村氏は、同じ質問を行ったアメリカの子どもたちの動画を見せました。条件に当てはまったら先に進めるルールで、どんどん進んでいく子も、一歩も進めない子もいます。
動画を見終わったあと、今村氏は「自分の回答も含め、この動画を見てどう思ったかをまたグループで話し合ってみてください」と再度ディスカッションを促しました。
ディスカッションのあと、学生たちからは「今の時代みんな学校に行けてスタートラインは同じように見えるけれど、家庭環境などでスタートラインが違うのだと実感した」「自分で選んだわけではなく、もともとその位置で決まっていたと知った」などの感想が出ました。

地元の閉塞感が設立のきっかけ

今村氏は岐阜県出身。
実家は飛騨高山で土産物屋を営んでおり、両親も親戚も大学に行ったことがない家庭だったといいます。
特に女性は高校を卒業したら就職し、結婚し子どもを産むことが良いとされ「女性が意見を持つなんていけないことのような雰囲気」があったと言います。今村氏はそんな環境に閉塞感を覚え、どうしても地元を出たいと大学進学を志します。

晴れて神奈川の私立大学に進学した今村氏は驚きました。
同級生はみんな良い服を着ています。車で通っている人も、海外留学をしたことがある人もたくさんいました。「自分が高校で常識だと思っていたことと、世の中はこんなにも違うのだと実感した」と言います。
充実した大学生活を過ごしていた今村氏は、成人式のために地元に戻ります。
すると、昔の友人にあったとたん同調圧力のようなものを感じ、大学生活が楽しいということを言えなくなってしまったのです。この差はなんなんだろう、と怒りや悔しさを感じた今村氏。
その後、大学の授業で少年法を学んだこともきっかけとなり、家庭環境などにより、スタートラインに立てない子どもの支援をしたいと「カタリバ」を設立することを決意したのです。

悩みごとは「発見のアンテナ」!

そもそもNPO法人とはなんでしょうか。学生からは「ボランティアのイメージ」との声が。
今村氏は頷いて、「寄付金を集めて、そのお金で行政の支援が届かない人たちを助ける活動を行っている」と話しました。
「ビジネスの領域や行政では解決できない、取り残された課題がNPO法人の領域です」と今村氏。
カタリバでは、シングルマザーの家庭の子たちなどに向けて、無料でご飯が食べられて勉強も見てもらえる拠点の運営などを行っています。行政と連携し、支援が必要な人に届くように活動を広げています。

「大学生活で感じたもの、地元から得たものがたくさんあります」と今村氏。地元から首都圏に出たことで、違いについて気付けたと話します。
そして「悩みごとは発見のアンテナ」と語りました。
「劣っているのではなくて、それは自分の強み。自信のある人には気付けないことに気付ける」と言い、「皆さんはこれからなんでもチャレンジしていける。これからの人生も頑張ってください」とエールを送りました。

小さな課題を「みんなの課題」にしていこう

講演後は学生たちからの質問タイム。
「NPOが取り組む課題で一番大変な問題はなんですか」という質問に、今村氏は「ニュースやテレビで報道されない課題。例えば子どもの貧困についても2016年頃からようやく取り上げられて表面化していった。それまでは家庭の問題と切り捨てられてしまう。メディアが取り上げることでみんなの課題になる」と話し、「皆さんもぜひ、皆さんの感性で捉えた小さな課題をSNSなどで知らせてください」と話しました。

最後にクラスを代表した学生がお礼の言葉を述べました。
「NPO法人の活動について初めて知りました。今後自分もどのような活動が出来るかと考える機会になりました」と感想を語り、新しい学びに繋がったことを自身の体験を交えて語りました。
学生たちにとって多くの気付きのあった授業でした。

担当教員からのメッセージ

女性とキャリア形成の最後のゲストに、カタリバの代表理事である今村久美様にお越しいただきました。
以前から存じ上げていた方ですが、直近では、東京2020オリンピックパラリンピック
競技大会組織委員会の文化教育委員会の委員としてご一緒させていただきました。
どんなことがあっても、こどもたちの居場所づくりを真っ先に考え、奔走されている姿には、
いつも感動していました。
今回、改めてご講演をお聞かせいただき、真の意味で将来の日本を考えておられる先導者であることを
改めて感じました。
大変ご多忙の中お越しいただいたことに心から感謝申し上げます。

2025年7月22日

SNSのトラブルから身を守るには?「情報セキュリティ」の授業でデジタルアーツとの特別コラボ授業が始まりました。 

「情報セキュリティ」(担当:人間社会学部社会デザイン学科 板倉文彦教授)の授業で、6月25日にデジタルアーツ株式会社による特別講義が行われました。SNSが当たり前の現代、情報とどう付き合っていくかは学生にとっても身近な問題です。情報セキュリティの大切さを改めて学びました。

有害サイトから子どもを守る

登壇されたのは関萌緑氏。関氏は本学の卒業生です。
「今日は、”セキュリティ女子会”をしようと思います」と明るく学生たちに話しかけ、ざっくばらんに意見を出してほしいと授業が始まりました。

デジタルアーツは今年設立30周年を迎える、インターネットセキュリティ製品を製造・販売する情報セキュリティメーカーです。
ウェブはもちろん、ファイルの送信、メールなどインターネットを介して行われる情報のやりとりを守る国産のセキュリティソフトを提供しています。主な取引先は企業や役所、学校です。
「i-FILTERという製品は、みんなも使ったことがあるかもしれません」と関氏。
子どもたちが学校教育のなかでインターネットを使う際に、犯罪やアダルトなどの有害な情報に触れないよう、それらのウェブサイトをブロックする設計です。その他、インターネットの安全利用のための活動や利用の実態調査など、幅広く情報セキュリティに関する活動を行われています。

SNSのトラブルはすぐそばにある

関氏はまず「SNSやウェブ上でのトラブルってどういうものが思い浮かびますか?」と問いかけました。
「有名人へ誹謗中傷」「覚えのないメールが来る」と学生たちが回答すると、関氏も頷いて「みなさんにとっても身近な問題ですよね」と話しました。

SNSのトラブルはさまざま。いわゆるバイトテロと言われるような不適切投稿、プライベート情報の漏洩、誹謗中傷、闇バイト……。
関氏はそれぞれを詳しく解説しながら「気軽な気持ちでやってしまうと人生が大きく変わってしまいます。一度インターネット上に書いたものは消しても残ります。匿名のアカウントも特定される。マイナスの書き込みはしないようにしましょう」と注意喚起。

関氏は現在問題になっている、いわゆる闇バイトにも言及。
運転だけ、荷物を運ぶだけなど簡単な仕事で求人し犯罪に巻き込みます。実際、学生が車の送迎のリゾートバイトと思って応募したところ、闇バイトだったという例も。
関氏は「SNSでうかつな投稿は被害者にも加害者にもなる。知らなかった、悪気がなかったでは済まされない。身を守るために知識や意識、対策が必要です」と話しました。

どんな年代にもセキュリティは必要!

ここからは事前に行っていたアンケート結果をみながら進みます。
「ネガティブなことをSNSに書いたことがある」という質問の回答は29%。愚痴などを言いたくなったら親や友人に聞いてもらう学生が多数でした。なかにはchatGPTなどに書き込む学生も。
関氏は「今時ですね」と驚きつつ、「SNSを健全に使っているなという印象です」と感心されました。

「偽メールや詐欺などを自分で選別できるか」という質問には36%が「はい」と回答。約1/3の学生が自分で偽物を選別できると思っているようす。
しかし関氏は「いまの偽サイトなどは本当に精巧。セキュリティのプロでも引っ掛かることも。それぐらいいろいろな手口があります」と注意を促しました。

関氏はインターネット利用するにあたって、年代別に必要なセキュリティについての一覧を示しました。
高校生までは親が管理したり、学校側で対策をしたりなど有害情報からこどもを守るような対策が取られています。
「しかし大学生以上は誰かが守ったりしてくれない」と関氏。「脅威が多様化、巧妙化しているなか、前年代にセキュリティは必要です」と話しました。
ではどうしたら大学生から高齢者まで、大人たちにセキュリティを使ってもらえるでしょうか。

どうしたら大人たちにセキュリティを使ってもらえる?

いよいよ学生たちへの課題が発表されました。
テーマは「大人にセキュリティを使ってもらうための仕掛けを考えよう」。学生たちは、それぞれ班に分かれテーマにあった施策を考えます。
大学生・社会人・高齢者の3パターンを班ごとに企画することが課題です。

まずは現状分析として、全ての大人にセキュリティを使ってもらえていない理由を整理していきます。
そもそもセキュリティは大人にも必要だと認識していない層が一定数いるという現状があります。
セキュリティは子どもを守るもの、という認識で自分は大丈夫だと思っているひとたちが多いというのです。
また子供時代にセキュリティを入れた携帯などを使っていた記憶から、セキュリティを入れると自由度が下がったり制限されたりすると思っている人たちもいます。
こういったマイナスイメージと向き合い、幅広く付き合ってもらえるようにするためにはどうするべきか考えるのです。

1か月後にプレゼンテーション!

学生たちはさっそく班ごとにグループディスカッションを開始。
どうするべきか、今の自分たちの認識について話し合いました。
大学生向けの班では「製品について詳しくないのでセキュリティ製品を選ぶハードルが高い」という意見が。「セキュリティ製品は高いので選べない」という意見もありました。

社会人向けの班では「スマートフォンを多く使う層とパソコンを使う層では違うので、ターゲットをしぼったほうがいいかも」という観点で話し合い。
高齢者向けの施策を考える班では「高齢者に新しい知識を受け入れてもらうのは難しいのでは」と懸念を話していました。

学生たちはグループワークを通し、企画を作成。1か月後に発表を行います。
話し合いの段階で、たくさんの良い視点が出ていることに関氏や企業の皆さんは感心。発表を楽しみにしていました。

担当教員からのメッセージ

「情報セキュリティ」は基本的に座学中心の授業形態ですが、学んだ知識・スキルを生かすこととその定着を目的として、授業後半にPBLが組み込まれています。
PBLでは企業から課題が与えられ、それに対して学生達がプレゼンテーションを行うことが予定されています。
企業からのリアルな課題にいきなり取り組むことは困難ですが、今回は企業の方がファシリテーターとして学生の輪に加わっていただけたことで学生からも活発な意見が出ていました。
学生達の真剣な取り組み姿勢を見て、今から発表が楽しみです。
学生の皆さんには、授業で学んだ基礎的な知識・スキルが、実際の製品・サービスに転用されていくプロセスを実感することを期待しています。