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2024年9月25日

「スポーツ栄養学a」の授業で元朝日新聞記者によるスポーツとメディアの関係について特別講義が行われました。

7月2日に「スポーツ栄養学a」(担当:生活科学部食生活科学科 奈良典子准教授)の授業で、元株式会社朝日新聞社の記者の安藤嘉浩氏による特別講義が行われました。スポーツ記者として長く取材をしてきた経験から、スポーツとメディアの関係を詳しく紹介。学生たちにとって、これからのメディアの在り方や新しい気付きが多い講演でした

元球児が高校野球を取材

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安藤氏は朝日新聞で記者をやって33年。朝日新聞時代から主に野球を担当されており、高校野球を中心に取材。球児だった安藤氏にとって憧れの地であった甲子園に記者として関わることができ、「夢が叶った」と語りました。

その後、柔道も担当するようになり、2004年にはアテネ五輪の取材も行いました。「そのときに奈良先生とご一緒したんです」と、当時管理栄養士として選手団に参加していた奈良准教授との出会いを説明。自身のダイエットの助言ももらったと笑いを交えて話されました。

メディアとともに発展したスポーツ

「さて皆さん、ニュースって何でチェックされますか」と安藤氏は問いかけました。学生のほとんどはインターネットと回答。テレビや新聞に手を挙げた学生は少数でした。インターネットも新聞社のサイトなどではなく、yahooなどでチェックする人が多数でした。安藤氏は「それでも、大学生のなかでも信頼感という意味ではNHKの次に新聞という調査結果が出ています」と新聞は高い信頼を持っている情報源であることを確認しました。

安藤氏はメディアとスポーツの発達を並行して説明。新聞は印刷技術が発達して明治初期に誕生したメディアです。時を同じくして近代スポーツも日本に伝来してきました。1915年にはストックホルム五輪に日本初参加し、前後する時期にラジオが普及。戦後テレビが放送開始し、1964年の東京五輪では初の衛星放送が導入され、世界どこにいてもリアルタイムに見られるようになりました。そしてカラーテレビから時代はインターネット配信が主流になっています。「去年はネット配信で高校野球が地方予選からすべて中継を見られるようになった」と話されました。

新聞社が主催して高校野球は始まった

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話は高校野球の話題へ。高校野球は1915年に初開催されました。「実は朝日新聞が主催です」と安藤氏。当時野球人気は高まっていたものの、地方予選を開催したくとも競技団体が存在せず、まとまって大会を行うことが出来ずにいました。そこで全国に通信網がある新聞社がハブになることで開催が実現。新聞にはたくさんの記事が書かれ宣伝となり広まっていったのです。

「これには関係者たちの思惑があります」と安藤氏。野球の発展を目指す野球経験者を始め、沿線の開発を目指す阪急電鉄や、販路拡大したいスポーツ用品企業などが朝日新聞に主催を依頼したのです。朝日新聞自身も部数競争に勝つために大会主催を決断しました。それまで新聞は戦争の報道を知るためのメディアとして主に利用されていました。戦後になり、次に人気があるニュースがスポーツでした。スポーツを伝えることは新聞社にもメリットが大きいのです。Jリーグや2021年に開催された東京五輪なども多くの新聞社が支援しています。

ただ、メディアには大きな影響力があり、スポーツのルールを変えてしまうことも。バレーボールのラリーポイント制や、バスケットのクォーター制はテレビ中継の都合と言われており、「それがはたして正しいのか。スポーツの発展に寄与していればいいがそうとも言い切れないところもある」と安藤氏は語りました。さらに注目の大会の放映権料は年々高騰を続けています。2022年に開催されたサッカーワールドカップでは200億円とも。日本ではネット配信企業が放映権を取得しましたが、契約者しか見ることが出来ず、安藤氏は「見たい人しか見られなくなっているのも良いのかどうか、今後の課題です」と話されました。

新聞記者は「歴史を残す」仕事

安藤氏は「新聞記者は歴史を残す仕事」と先輩記者に言われたことを紹介。「昔の書物を見ることで、昔のことが分かります。歴史を残すと思って記事を書いている」と話し、同時に「報道は公平でなくてはいけない。はたしてちゃんと報道できているのは懸念があるまま今に至っている。僕らも注意しながら記事を書いています」と話しました。

とはいえ、うまく伝わらないことも。高校野球部の女子マネージャーを取材した際、毎日部員におにぎりを作るため進学コースを一般コースに変更したことを美談として取り上げたとき、それは正しい在り方なのかと「今でいう炎上」したと話しました。「いろんなことを理解し、勉強して記事を書かなくてはいけない」と真剣に語りました。

様々な一流アスリートを取材した経験から学んだことは、何事にも努力する姿勢やいつも前向きであることなど。そして、彼らに話を聞くときには食事に誘うのが定番だったと言い、「栄養や食事に関することは人々を豊かにすること。勉強したことを活かして頑張っていただきたいと思います」と、食生活科学科の学生たちにエールを送りました。

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2024年8月25日

自律的人材になるために!「実践キャリアプランニング」の授業でホリプロ取締役による特別講義が行われました。 

大学共通教育科目「実践キャリアプランニング」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、株式会社ホリプロ・グループ・ホールディングス取締役である鈴木基之氏が特別講義を行いました。日本の芸能・エンタメ業界の最前線にいる鈴木氏から、華やかな世界の舞台裏の話がたくさん飛び出し学生たちは興味津々。世界で求められる人材になるヒントも多くいただきました。

エンタメを産業へ!

この日は7月12日。鈴木氏は「今日は何の日か知っていますか」と問いかけました。7月12日はマララデー。10年前に、16歳だったマララさんが国連で「すべての子どもたちに、すべての女性に教育を」と訴えた日です。鈴木氏は「まさに女子教育の先駆者である下田歌子先生が創設された実践女子大学で、今日、話が出来ることは運命だと思います」と語りました。そして「芸能エンターテイメント業界を生き抜く心の糧」と題し儒学者の言葉を引きながら、熱量高く話を始められました。

「皆さんにエンタメ業界に興味を持っていただきたい」と鈴木氏。
それは単に俳優などに興味を持つということではなく、「産業」として注目してもらいたいということ。
「IT業界や自動車業界などは産業と呼ばれますが、悲しいかなエンタメは産業と呼ばれていないんです」と話します。
しかし、鈴木氏はエンタメが単なる娯楽ではなく、強い産業として世界的に拡大していることを説明。国もようやくエンタメ・コンテンツを産業として伸ばすことを目指し始めています。
「日本経済をけん引する一つの成長分野として期待されている」と話しました。

芸能プロダクションの仕事とは?

ホリプロには現在約450名のタレントや俳優が所属しています。
文化人やスポーツ選手、音楽グループも多く在籍しています。
「ひとりのタレントが売れてくると、楽曲を制作する部署(音楽制作部)、コンサートをする部署が出来、コマーシャル、ドラマ、映画や舞台出演の依頼が増えて来るようになると、自らの所でCMやテレビ番組、映画制作をする部署(映像制作部)、そして舞台制作をする部署が・・・と様々な事業部が生まれてきました。これが基本的な芸能プロダクションの成り立ちです」と鈴木氏。
CMや映画、ドラマ製作部などは自社所属のタレント以外も多くキャスティングし、製作されています。
「自社のタレントを出すことが目的ではない。あくまでビジネスとして多くのお客さんに観てもらうことが大事」と芸能プロの方針を説明しました。

鈴木氏はホリプロに入って45年。ほとんどのエンタメ事業に関わって来られました。
入社当初はアイドルが苦手だったと言います。
しかし多くのファンレターを読み、考えが変わります。学校で友人関係に悩んでいたけれどアイドルの曲を聞いて頑張ろうと思った学生などを筆頭に、多くのエピソードがありました。
「アイドルが人の生き方まで変えることを知った」と言います。
音楽の力、タレントのすごさを身に染みて知ったと話しました。

先を見て長所を伸ばす

マネージャー時代には失敗もあったと語ったのは、タレントの方向性や戦略について。
「いまでは誰もが知る国民的女優も、最初から人気があったわけではないんです」と、当時目指していた方向性が間違っていたエピソードを披露くださいました。
「マネージャーは1年先、3年先を見据えて仕事を選んでいかなくてはなりません。さまざまな個性を持つタレントがいるなか、先を見据えてこの原石をどう磨いていくか」と長期的な目線を持つことが大事であると話されました。

鈴木氏は儒学者・佐藤一斎の「着眼高ければ則ち理を見て岐せず」の言葉を引きます。
先を見据えて戦略を立てる大切さを教える言葉です。
また「我は当に人の長所を視るべし」の言葉を引き、「ホリプロは長所を伸ばしていきます。欠点は自分でも分かっている。本人が見えていない長所を見て伸ばしてあげるのがマネージャーの役割」と隠れた、しかし重要な視点についても話されました。

人間力を鍛え自律的人材へ

ホリプロはグローバル戦略にも力を入れています。これからの芸能人に求められるものは、一芸だけではダメだと話します。
鈴木氏は「これまでは日本の中で売れていればよかったけれど、日本一になることがかっこいいことではなくなっている」と話しました。そしてそれは、芸能人に限りません。これからは「自律的人材が大事」だと語ります。

他の情報を信じすぎず、自分で信じること。指示がなくても自ら能動的に動き、問題解決に向かう力。
これは下田歌子が育てようと目指した人物像でもあると鈴木氏は言います。一人で行おうとせず、周りを巻き込む「人間力」を持つ人材です。「一人でも多くの人に下田歌子先生のようになってもらいたいと思っています」と講演を結びました。

熱量を持って作品を作る

授業の最後には学生からの質問を募集し、鈴木氏が回答くださる時間も。
「女性マネージャーに必要な力はなんですか」という質問には、
「幅広い知識を常に求め続けて、何にでも好奇心を持って取り組めること、そして、今はSNSをうまく扱えることが求められています。」と回答されました。
「映画化はどうやって決まるのでしょうか」という質問には
「プロデューサーの熱量が一番です。ホリプロには小説や漫画など、ホリプロでこの作品を作りたいという強い思いで入ってくる人が多い。映画化までいくつもの壁がありますがこだわりを持って作れる人間が、作品のファンからも受け入れられるものを作れる」と回答されました。

芸能界の裏側や経済効果など、知らなかった世界に触れることが出来、学生たちは多くの刺激を受けた講義となりました。

担当教員のメッセージ

昨年からご講演をいただいているホリプロ様からは、今年は役員であり、恵那市ともご縁の深い鈴木基之様にお越しいただきました。ホリプロ様の事業内容、そしてエンタメ業界のグローバル化の現状など、とても幅広い内容をお話しいただきました。
また、それぞれのお話しと本学創立者下田歌子先生の言葉を結び付けていただくなど、学生にとって、大変貴重な時間となりました。
この場を借りて鈴木様をはじめ、ホリプロの皆さまに心より感謝申し上げます。

2024年8月7日

柔道五輪で7大会に帯同した木村昌彦横浜国立大学副学長が、日野キャンパスで特別授業!示唆に富んだ言葉に学生が熱心に聞き入る

 「栄養学」はスポーツの分野でも大きな役割を果たしているー。そんな新しい視点も学んでもらおうと、世界トップクラスの柔道選手の育成に携わった横浜国立大学の木村昌彦副学長の特別授業が7月10日(水)、日野キャンパスで行われました。「常識を疑え」などと訴え、学生の意識改革を促した木村副学長。目から鱗の話に出席した約50人の学生は、メモを取るなど真剣な表情で聞き入っていました。

五輪で栄養指導した奈良准教授の要請に快諾して実現

 木村副学長は、92年のバルセロナから16年のリオデジャネイロまで7大会のオリンピックに、全日本女子柔道のコーチなどとして選手に帯同しました。また、アトランタ・シドニー・アテネ・北京オリンピック大会をはじめ多数の海外遠征に帯同し女子柔道の栄養指導を担当してきたキャリアを持つ食生活科学科の奈良典子准教授とは、競技のパフォーマンス向上のため体調管理の一環としての栄養の大切さを柔道の日本選手団に根付かせるため、苦楽を共にした間柄です。奈良准教授から「学生に他の領域での学びの機会を与えたいスポーツ指導論を通して是非お願いしたい」との要望を受け、木村副学長が快諾、「スポーツと健康科学a」の科目を履修する学生のための特別授業が実現しました。

パフォーマンスに影響する栄養の重要性

 木村副学長によると、柔道は他の競技より先駆的に「スポーツ科学」を導入。その中でもいち早く取り入れたのが適切な栄養指導や海外遠征での食事提供だったといいます。選手がパフォーマンスを十分に発揮するためには、運動能力に加え、あがりなどの心理的状態が大きく結果を左右すると強調。「心技体の中でも心はプラスとマイナスの振れ幅が大きい。心が萎えるとできるものもできなくなります」と指摘しました。意外だったのが、栄養と心の関係です。「栄養は心の問題に大きく関わり、海外でも日常と同様の食事ができると選手の落ち着きにつながります」と話しました。

「常識を疑え」

 また、木村副学長が野球部に所属していた中学時代は、運動中の水の摂取は禁止だったこと、漫画「巨人の星」で、主人公の星飛雄馬が着用した運動器具の「大リーグ養成ギブス」も、筋肉を付けるためには効果がないことを挙げ、「常識を疑い、思い込みを捨てることが大事」と力説しました。五輪選手がインタビューを受ける際にしっかりした言葉で受け答えをしていることについては、「自分の言葉で話すことが大切です。自分を変える時には言葉にすることが必要です。マイナスに解釈すると挫折だが、ポジティブに解釈すると次へのステップに変わることもあります。第三者に論理的に話していくとは自分が変わることにもつながります」と言葉の重要性も説きました。

日本柔道復活の立役者、井上元監督の指導法とは

 話は、木村副学長だから知っているオリンピックの裏側にも及びました。柔道男子日本代表が52年ぶりに全階級でメダル獲得という快挙を成し遂げたリオ五輪の時には、木村副学長は、柔道日本代表チームのチームリーダーを務め、立役者となった当時の井上康生監督の指導法を間近に見ていたといいます。井上元監督は「コーチングよりもマネジメントを重視し、期待しているのではなく、選手を信じている」とのスタンスだったといいます。決して、勝利至上主義ではなかったといい、「高い目標に向かっていく過程が大事。それが次につながるのです」とも。さらに、スポーツ選手が本番に臨む際に良く使う「(試合を)楽しむ」という言葉についても、うんちくを披露。「『楽しむ』と『楽(らく)する』は違う。楽しむは、自分が決めた高い目標に向かっていくために試行錯誤すること。ここが充実しているのが楽しいことなのです」と示唆に富んだ言葉を学生にかけました。

真剣だと知恵がでる

 最後に、試合中に膝に大けがをした柔道女子の新谷翠選手がその後、世界選手権で金メダルを獲得したエピソードを紹介し、「絶望からの脱出だった」と振り返りました。「モチベーションを高めるのに大事なことはビジョン、ミッション、パッション、そして、アクションです」と語り、今後の人生において、学生にも奮起を促しました。

 そして、授業の最後に、「真剣だと知恵が出る 中途半端だと愚痴が出る いい加減だと言い訳ばかり」という言葉を送りました。戦国武将の武田信玄が残した木村副学長の「一番好きな言葉」だそうです。

奈良典子准教授の話

 「スポーツと健康科学」の科目は、健康運動実践指導者の資格を目指す授業科目ですが、資格を取るための知識習得にとどまらず、スポーツ指導論を通して広い視野で物事を見てほしいと思い、木村副学長の特別授業を開催しました。学生には受け身ではなく、自分の考えで行動できる人になってほしい。知識を習得してわかっただけでなく、1回やってみて、さらにいろんなシーンで使えるような、「わかる」、「できる」、「使える」人になってほしい。学生生活にも慣れてくる2年以降は、入学当初よりもモチベーションを維持するのが難しい学生も散見されます。そんな時期だからこそ、スポーツ現場の指導経験もあり、さまざまな角度から問いかけてくださる木村副学長の講話は、間違いなく学生の気持ちを高揚させてくださると思っていました。今回はスケジュールの関係で2年生を中心としましたが、学生らの真剣な受講姿勢に、より多くの学生らに刺激を与えていければと改めて感じました。木村副学長には感謝の気持ちでいっぱいです。心より感謝申し上げます。

2024年5月28日

「女性とキャリア形成」の授業で味の素社長による「志」を持って働くことについての特別講義が行われました。

4月18日に共通教育科目「女性とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で味の素株式会社(以下、味の素)社長による特別講義が行われました。学生たちにとっても調味料やレトルト食品など、身近な製品を販売している企業です。学生たちは自分の「志」を問いかけられた刺激的な機会でした。

社会課題を解決するために創設された企業

この授業では進行を教授ではなく学生が行います。
担当のグループの学生から、本日の特別講師が紹介されました。
藤江太郎氏は味の素の代表執行役社長、最高経営責任者です。日本を代表する会社の社長として第一線で活躍される藤江氏。
ご多忙の中「今日を大変楽しみにしてきた」と本学に駆けつけてくださいました。

藤江氏は最初に「味の素の商品を知っていますか」と学生たちに問いかけました。
「冷凍餃子」と答えた学生に対し「嬉しいですね。あの商品は餃子がうまく焼けないというお客様相談センターに入った声がきっかけで改良したんですよ」と全国の家庭からフライパンを送ってもらい、使い古されたフライパンでも美味しく焼けるよう研究されたというエピソードを話されました。

味の素は1909年に東京大学の教授と神奈川県の企業社長が始めた、産学共同で作られた会社です。
「当時は日本人の栄養状態が悪かったのでおいしく栄養を取れる食品を作ろうと、社会課題を解決することを目的に創設されたんです」と藤江氏。

現在は130カ国以上の国と地域で事業を展開している味の素。大きな柱のひとつはもちろん食品事業です。
「もうひとつはあまり知らないと思いますが、アミノ酸を利用した医薬品や製品開発です」と藤江氏。
半導体の基板に使われる絶縁フィルムもアミノ酸製造から派生した技術が生かされていて、そのフィルムのシェアも高いのだと話されました。

学びの多かった2つの挫折

藤江氏は「小学校の頃はコックさんになりたいと思っていました」と語ります。
小さい頃から料理番組を見ては自分で作り、家族などに振舞っていたと言います。なぜ自分は料理が好きなのかと考えた時、料理を振舞うと友人や家族が喜んでくれるからだと気付いたと話しました。
「自分が幸せを差し上げれば差し上げるほど自分も幸せになる」と語りました。

高校時代は牧場経営に憧れ、北海道の牧場に修行へ。しかし多額の費用が掛かることを知り挫折。
大学時代にはウィンドサーフィンに打ち込み五輪出場を目指すまでになりましたが、上には上がいることを知ったと言います。
2つの挫折の経験から、藤江氏は熱意だけではダメなことがあると学んだと話しました。

対話をして社員の「志」を大切に

2022年に社長に就任した時、意識したのはASV経営だと言います。
ASVとは「Ajinomoto Group Creating Shared Value」の略で、事業を通じて社会課題を解決することを重視した経営法です。「企業が成長する原動力は資産です。その中でも人材、技術、顧客、組織といった無形資産が大切」と藤江氏。
そこで、藤江氏が重視したのが社員との対話です。社員一人ひとりがリーダーや経営陣に意見を伝えられる環境を作りました。
その中でよく聞いているのが社員の「志」だと言います。
社員の人生の志と、味の素の人・社会・地球のwell-beingに貢献するという志の重なる部分はどこか、小さくても良いので見つけて欲しいと話している、と言います。

藤江氏は「働き続けたい、選んでもらえる会社になっていきたい」と言います。
特にジェンダーの壁をなくすことをあげ「味の素の女性社員の比率は3割なのですが、女性管理職は12%のため、その点は課題」としました。
藤江氏自身も、無意識の偏見をなくしていく「アンコンシャスバイアス」の研修にも参加していると話しました。

「みなさんの志はなんでしょうか。書き出してみましょう」と藤江氏。「私の人生の志は『幸せの素』で世界をWell beingで満たすことです」と言います。
「あなたの人生の志と、例えば地球の問題や社会課題、実践女子大学の志と重なるところはどこか、見つけていってはいかがでしょうか。志を明確にし、楽しみながら自発的にそれぞれの個性にあった挑戦をすることで、明るい未来を作っていって欲しいと思います」と語りました。

リーダーであるために大事にしていることは?

学生たちはグループごとに感想や意見を交換。
その後、藤江氏と質疑応答の時間が設けられました。
「社長というリーダーの立場にあたり大切にしていることは?」という学生の質問には「リーダーにもいろんなタイプがいます。私は率先して引っ張っていくより、チームをまとめたり後押ししたりすることができると思っている。サポートするリーダーでありたい」と回答し、「自分はどういうタイプか考えるといい」とアドバイスしました。

「対話をする際に重視していることはなんですか」という質問には「双方向、マルチ方向を重視しています。それぞれの人に意見があるので言ってもらう。一方通行にならないように」と回答した上で、「あなたはどういうことを注意していますか」と質問した学生へ逆質問。
学生が「全員が意見を出せるように促し、否定せず耳を傾けています」と答えると、藤江氏は大きく頷き「皆が話しやすくなるリーダーシップですね」と同意されました。

その他にも質問は多く出て、藤江氏は「いい質問ですね」とそれぞれに真摯に回答くださいました。
最後に、受講学生を代表して学生から「経営者と社員の距離が近く、対話を大事にしているのが印象的で学びが多かった」と感想を伝え、藤江氏に大きな拍手が送られました。
学生たち一人ひとりが自分の「志」を考えるきっかけとなる講義となりました。

担当教員からのメッセージ

4年目を迎えるキャリア教育科目「女性とキャリア形成」には6人のゲストをお招きします。2024年度のトップバッターは、味の素の藤江社長です。藤江社長とは、お互い企業時代に知り合った仲間であり、当時から人を大切に思うお気持ちが極めて強かったという思い出があります。本日のお話しも、一人ひとりの学生に語り掛けて下さるお姿に、藤江社長のリーダーシップの形を感じました。とりわけ“志”というお話しは、大変印象的であり、先行き不透明な社会を生き抜く学生にとって、とても大切な考え方をお示しいただいたものと思います。藤江社長には、この場を借りて、改めて心から感謝申し上げる次第です。

2024年4月3日

障がいのある方たちが活躍するには?「福祉社会学」の授業でアイエスエフネット社長によるダイバーイン雇用についての講演が行われました。

11月9日に「福祉社会学」(担当:人間社会学科 山根純佳教授)の授業で、株式会社アイエスエフネット(以下、アイエスエフネット)代表取締役の渡邉幸義氏による「ダイバーイン雇用」についての特別講義が行われました。多様化する社会において、すべての人が働けるとはどういうことか、実際の取組紹介などを通して学ぶ貴重な機会となりました。

20歳の時に起業を決意

アイエスエフネットは2000年に創設。
クラウドサービスやネットワークを整備するITインフラ企業です。渡邉氏は「20歳のときに2000年に起業するぞと決めました」と言います。そこから逆算して計画を立て、宣言通りに起業したのです。
「自分は何もできないと考えている人がいるかもしれませんが、一歩踏み出さないと何も起こりません」と行動することの大切さを、まず学生たちに伝えました。

渡邉氏は「『タイパ(タイムパフォーマンス)』と言う言葉が流行っていますが、考えていただきたい言葉です」と言います。
なぜなら、時間で管理していると効率が優先されてしまうのでダイバーイン雇用の推進が進まないのではないか、と講演が始まりました。

マイノリティは本当に少ない?

日本の障がい者の割合は7.6%。およそ15人に1人が何らかの障がいを有している計算です。
そして「その障がい者には親や家族がいます」と渡邉氏。
単純計算で全人口の5人に1人は障がいと共に生活している人たちなのです。
またセクシュアリティマイノリティを意味する「LGBTQIA」の当事者層は9.7%。ここ数年でセクシュアリティマイノリティの存在は急速に認知されていますが、企業では依然男性・女性の考えしかなく、知らずに相手を傷つけてしまうことも多くあります。

こういったマイノリティの人々と共に働くというひとつの形が、アイエスエフネットでの「ダイバーイン雇用」です。
ダイバーインとは、多様性を意味するダイバーシティと、受け入れるという意味のインクルージョンを掛け合わせた造語とのこと。多様な個性を受け入れることを目指した言葉です。

なぜダイバーイン雇用をするの?

ダイバーイン雇用を始めたきっかけは、会社を立ち上げたときに「無知識・未経験者の採用から始めたこと」と言います。
IT知識がなくても応募できるため、多くの応募があり人柄で選ぶことが出来たと話します。
しかし、採用した社員が決まった時間通りに出勤をしなかったり、勤務中にずっと寝ていたり…人柄は真面目で良い人ばかりなのに何故だろう、と渡邉氏は不思議に思い、根気強くヒアリングをしたり病院に通うよう促したそうです。
すると問題行動のあった人たちの9割に病気など何らかの原因が判明したと言います。
その人自身の意識の問題ではなかったのです。

障がいのある人たちに配慮し、働きやすい環境を整えることは簡単ではありません。
しかし「そういった方々は環境を整えたら、上手くパフォーマンスを発揮することができる」と渡邉氏は言います。
「人材」から「人財」へ変わったのです。
現在では、場合によっては専門医師と協力し、原因を突き止める体制が取られていることを紹介されました。

さらにアイエスエフネットでは、多くの女性社員も活躍しており幹部クラスもたくさんいます。
女性は、家庭と仕事の両立が難しく、出産や介護などのライフイベントにより仕事を辞めパートになる方が多いです。
「(学生たちに)就活をするにあたって、育休制度などは必ず確認してください」と渡邉氏は言います。
一定の基準を満たした子育てサポートに取り組んでいる企業に対して、国が認定した「くるみん」マークがあるかなどを調べたり、採用担当の人事に聞いてみるのもよいとコツを伝えました。「給料の良い企業に入社しても、辞めてしまっては意味がない」と生涯年収を考えることの大切さを伝えました。

渡邉氏は「根気強く傾聴し相手を知れば、どんな方でも問題なく仕事ができます」と力強く言い、「皆さんがこれから社会人として経験される中で、マイノリティとマジョリティという壁を取っ払って色んな方に目を向けていくことが大事です」と学生たちに語り掛けました。

学生たちによる質疑応答

講演後には、質疑応答の時間があり、学生たちから手が挙がりました。
「会社の施設で合理的配慮をしている例を教えてください」という問いには、渡邉氏が「群馬県沼津市では身体障害者用の車を3台購入し、トイレをバリアフリーにしました。東京では配慮されているところも多いですが、地方ではまだであることが多いです」と回答されました。
マイノリティとマジョリティ、障がいがある方との付き合い方など学生たちにも気付きの多い講演となりました。

2024年3月14日

三女子大学連携:『生活の木』と考える「アロマ・ハーブ市場の現状分析と商品PR」の最終報告会を開催!

実践女子大学と大妻女子大学、跡見学園女子大学の三女子大学の3年生による「産学連携プロジェクト」の最終発表会が、1月31日に本学にて行われました。本学からは大川知子教授(生活科学部 生活環境学科)の研究室の学生7名が参加。大学間を越えてチームを作り、株式会社生活の木(以下、『生活の木』)からの出された課題に挑戦しました。

2024年3月27日付 繊研新聞掲載
 3女子大が問題解決型産学プロジェクト
 「40、50代中心の生活の木のアロマ製品
  20代へどう売るかを提案」

本学と大妻女子大学、跡見学園女子大学の3校が
生活の木と行ったプロジェクトの最終発表会について
繊研新聞で紹介されました。

繊研新聞社WEBサイトリンクhttps://senken.co.jp/

20代女性に『生活の木』の商品を使ってもらうには?

 日本におけるハーブやアロマのパイオニアである『生活の木』との初めてのプロジェクトは、「20代女性が捉えるアロマ・ハーブ市場の現状分析と商品PR」をテーマに12月にスタート。学生22名は、4つのグループに分かれて課題に取り組み、実際に店舗に足を運ぶなど、互いに協力し合って、オンラインも活用しながらディスカッションを重ね、発表に臨みました。この日は、同社のマーケティング本部の重永氏、河野氏、望月氏から講評いただきました。

大学生活に新たな発見と安らぎを

 早速、グループ1から発表開始。類似した他ブランドも含めた店舗視察から、「大学生活に新たな発見と心の安らぎを」をテーマに、以下の3つの提案を行いました。

①「香りのときめきボックス」として、アロマディフューザーを手頃なサイズにして、店舗と各大学にガチャガチャとして
 設置

②「ほっとするひと時」を提供することを目的に、ハーブティーをおみくじボックスに入れて、各大学の食堂のお茶のサー
 バーの横に設置

③インスタグラマーの登用として、同社のイメージと親和性も高く、YouTube登録者数が数十万おり、ファンクラブもある
 方との協業

 講評では、「ガチャガチャやおみくじというのは、社内では生まれづらいアイディアで面白い」(重永氏)、「このネーミングは学生のみなさんでないと出て来ない」(望月氏)と発想に感嘆。「若い皆さんとの接点づくりとしては、すごく良い案だと思う」(河野氏)とコメントされ、「アロマに触れた学生が、さらに店舗に足を運ぶようにするには?」と質問。学生は「『生活の木』らしい木目調の容器を使い、企業コラボをアピールする」や「ガチャガチャにクーポンを入れ、来店を促す」と回答しました。

「アロマ試供品」で認知向上

 次のグループ2は、たまに付ける人も含め、20代の約9割が香水をつけることに着目。調査に行った学生自身が、店頭の商品を実際に試して購入した経験から、各女子大学のお手洗いなどに試供品を置くことを提案。商品は、外出するときに持ち運びやすく、低価格帯のロールオンフレグランスを選択。1階にシトラス、2階にピーチといったように各階に異なる香りを設置し、香りをイメージしやすい言葉で訴求したポスターを貼り、『生活の木』の認知向上を目指します。

 「かなりしっかり現状分析をされている」(重永氏)と感心され、「香水とアロマのイメージの違いは?」と質問。学生は「香水は百貨店でブランドを選んで買うもので、アロマは室内というイメージ。持ち運べるものがあることを、今回初めて知ったため、ロールオンタイプの認知を広めるのは良いと思った」と答えました。「香りを文字にした際にどのように伝えるかは、我々も商品名を考える時に悩む部分だが、20代には分かりやすさも大切だということが参考になった」(望月氏)とのコメントをいただきました。

アロマ・ハーブをもっと身近に

 グループ3は店頭視察で、アロマはテスターが多いものの、ハーブティーは試飲ができず効用が分かりにくい点を挙げました。学生たちの多くにはハーブについての知識がなく、手間のかかるイメージがあるため、手軽さが必要だと分析。そこで、コンビニのレジ横でのハーブティーの販売や、身近に感じ易いインスタライブなどで、アロマ講習会などを行うことを提案。また、学生のサブスクリプションの利用状況も調査した上で、提案を行いました。

 「素敵な提案。特に、コンビニは実現したら素晴らしい」(河野氏)とコメント。「みなさんの世代には、まだまだインスタグラムが機能していることが分かり、参考になった。その際、SNS広告に抵抗はあるか?」(望月氏)と質問され、学生は「明らかに広告だと分かるものは飛ばす」「ビジュアルが良く、気になるものについては、タップして詳しく見ることがある」と答えていました。

approach to life

 最後のグループ4は、20代の情報収集や商品との出会いのきっかけはSNSであることが多いと分析。『生活の木』の複数のSNSアカウントでは、アカウント名やロゴがバラバラであることを指摘。他社ブランドとの違いも比較し、『生活の木』の魅力を活かすパッケージの統一や、もっと本来のロゴを活用することを提案。さらに予算別のサブスクリプションサービスを設定することでリピーター獲得につながると発表しました。

 「他社分析も、我々も課題だと感じている点をストレートに指摘いただいた」(重永氏)、「とてもいいポイントを突いている。マーケティングに携わる自分達でも、正に思っていた内容で感心した」(望月氏)とお褒めの言葉もいただきました。

大学の壁を超えた貴重な経験

 全ての発表が終わり、重永氏から総評をいただきました。「12月から2ヶ月、テスト期間などもあり、忙しい時期だったと思うが、よくまとめてくれた」とねぎらいの言葉が。「みなさんの客観的な目線から検討いただき、『そういう発想があるんだ!』とか、『そういう見え方をしているんだ』ということが、我々としても大きな気づきになった。提案いただいた施策は、何れも実行出来たらいいと思う内容だったり、「そういうことをやりたい」と社内でも話が出ていたような内容であったり、是非、今回をきっかけに、我々も何か実現出来るように動いていきたい」と今後についても前向きなコメントもいただきました。

 今回、実践的な課題に挑戦し、学生たちは市場分析やブランドのポジショニング、そして、プレゼンテーションスキルを学ぶ貴重な経験となりました。また、大学間を超えチームを組んだことで、多様な意見や価値観に触れ、人間的な成長と学びを得たプロジェクトでした。

主な学生のコメント

 ・他大学の学生と協力して、一つの課題に取り組むという経験を通して、他の人たちの考えを知ることが出来、充実していた。また、今まで触れたことの無かったアロマ・ハーブについても
  知るきっかけにもなった。

 ・毎週のミーティングを重ねる度に出て来る課題を、それぞれ考えて、意見を出し合っては検討して…、を繰り返すことで完成度の高い商品PRを提案することが出来、このプロジェクトに
  ついて考えることが多かった為、充実した時間だった。

 ・新しい発想でアプローチ出来ることを、みんなで探して提案出来、充実していた。

 ・店舗視察に行って現状分析を行い、案を出す為に、メンバーそれぞれが自主的に行動していたことが良い経験だった。

大川先生からのメッセージ

 今年度、ファッションビジネス研究室の「産学プロジェクト」は、前期に一つ、後期に二つ挑戦しました。特に、後期の三女子大学連携は、普段から気心の知れたメンバーではない人たちと、どのようにタッグを組んでシナジー効果を出して行くのか、正に、学生のみなさんが実社会に出てから問われるスキルを身に付けることの出来る内容です。

 現状では、学生のみなさんにとって少し遠い存在であるアロマやハーブを、どうしたら身近に感じることが出来るのか、限られた期間で実施したとは到底思えない素晴らしいアウトプットが出来、実際、『生活の木』の皆様が良い内容だったと感動して下さったことが、学生達の自信にも繋がります。総評でコメントを頂戴しましたように、今回の学生のみなさんの提案の内、何か一つでも実践出来ることを期待しています。

  <『生活の木』について>

    【公式HP】      https://www.treeoflife.co.jp/
    【企業概要】    https://corp.treeoflife.co.jp/
    【公式Instagram】 https://www.instagram.com/treeoflife_official/

   ☆『生活の木』のサイトでも、本プロジェクトについて取り上げていただきました。→ 三女子大学×生活の木 産学連携プロジェクトについて
    

  <今年度のその他のプロジェクト>
   (前期)3研究室合同プロジェクト/ホットマン・ジャノメ

    生活環境学科 アパレル・ファッション分野の3研究室が合同でアップサイクル・ドレスを制作! | 実践女子大学/実践女子大学短期大学部 (jissen.ac.jp)

   (後期)三女子大学連携/第一弾:藤巻百貨店

    他大学連携:『藤巻百貨店』とクリスマス商戦を考える「産学プロジェクト」を実施! – 社会連携プログラム (jissen.ac.jp)

2024年2月19日

自販機で社会貢献!「経営学概論」の授業でダイドードリンコとの特別コラボが行われました。 

12月6日、人間社会学部1年生の必修科目の一つである「経営学概論」(担当:人間社会学部現代社会学科 篠﨑香織教授)の授業で、ダイドードリンコ株式会社(以下、ダイドードリンコ)の特別講義が行われました。学生は『自販機でできる社会貢献』という事前課題について考えて授業に参加しており、指名された学生はその発表もしました。企業の経営戦略を直接学ぶ貴重な講義であったと同時に、学生たちのアイディアを企業に評価していただく交流の機会となりました。

自販機は一番顧客に近い!

最初に自販機営業企画部の松本英康氏からご挨拶があったのち、人事総務部の真野祐子氏からダイドードリンコの説明がありました。
ダイドードリンコは、1950年代に栄養剤を販売したことからスタートした大同薬品工業を起源とし、ダイドーグループホールディングスの中の清涼飲料事業を担っています。グループ会社はこの他に、医薬品、医療品事業やゼリーなどの食品事業があります。

本社は大阪府にあり「今回のメンバーは、全員大阪から来ています」と真野氏。
ダイドードリンコの事業は、自動販売機での販売が約8割を占めるのが特徴。競合他社の同事業は約3割のため大きな違いです。また自動販売機に並ぶ商品に占める50%がコーヒー飲料で、主な購買層は男性だそうです。
なぜ自販機での販売がメインなのかと言えば、店舗販売よりも利益率が高いことや、顧客により近い距離で販売できるといったメリットがあるからです。

ダイドードリンコの飲料事業のもうひとつの特徴はファブレス経営であること。
ファブレス経営とは、自社で工場を持たず100%製造委託しているビジネスモデルです。工場にかかる大きなコストを削減できるのがメリットです。

優秀な人材に入社してもらうには

「当社の経営戦略として、優秀な人材を確保することに重きを置いています」と真野氏。
経営戦略を考える上で、持続的な競争優位を確立することが非常に大切です。そのためには優秀な人材を採用し、定着してもらうことを重視しているそうです。
優秀な人材にダイドードリンコに興味を持ってもらうために行っている施策として、フルリモートワークや副業可能、充実した福利厚生制度などが紹介されました。

特に働く女性にとって好評なのが、コアタイムのないスーパーフレックス制度やリモートワーク、法定よりも長い期間利用できる時短勤務制度です。
こういった取組みを行うことで、社員がプライベートと仕事の両立がしやすくなり、直近3年間ではライフイベントを理由にした退職者はなしという成果に繋がっているそうです。
真野氏は「企業の、ヒトに対するアプローチということに焦点を当てて見てみると、商品だけからは見えなかったことが見えてくる」と就活の際に企業サイトなどをよく見てみることを勧めていました。

自販機で女性を助けたい

次にダイバーシティ推進グループの井阪愛歩氏、大植あかね氏、奥川美優氏から、ダイドードリンコが取り組んでいる女性の社会進出についてのお話がありました。
まず「日本のジェンダーギャップ指数の順位を知っていますか?」という質問があり、選択肢の中の一つである「100位以下」に多くの学生の手が挙がりました。
井阪氏の「皆さんさすが知ってらっしゃいますね」との言葉通り、日本の順位は2023年時点で125位。特に女性役員の数が少ないことは国も課題としており、2030年までに女性役員の割合を30%まで上げることを目標としています。

ダイドードリンコでも2023年から自販機営業企画部内にダイバーシティ推進グループを発足。女性の自販機利用を増やそうと女性発案の企画で新たなコンテンツを開発しています。
例えば女性が誰もが経験し、悩みのタネである生理。アンケートで特に多い悩みである「急な生理への対応」として生理用ナプキンを購入できる自販機を開発しました。
誰もが使える自販機で生理用品を販売することで社会の理解促進も図ります。

この他にも赤ちゃんのおむつやお菓子の販売など、さまざまなモノを自販機で販売することに精力的にチャレンジしています。本学の渋谷キャンパス9Fにもダイドードリンコの自販機があり、オープンキャンパスのときに「赤本缶(https://www.jissen.ac.jp/learning/human_sociology/interview/shinozaki.html)」を搬出しました。
「世の中の潜在的な課題を見つけて自販機で解決するお手伝いをすることが私たちの仕事」と奥川氏は語りました。

社会貢献できる自販機って?

事前に学生たちには「自販機でできる社会貢献」を考える課題が出ており、授業の最後にダイドードリンコのメンバーが指名した学生が自分のアイディアを発表しました。
募金をしたら写真が撮れてSNSに投稿できる仕組みを提案した学生のアイディアには、松本氏は「募金ができる自販機は既にあるが、写真が撮れるアイディアは斬新」と高く評価していました。
省エネに着目した学生は、照明を消し、常温の飲料専用の自販機を提案しました。
「常温飲料のニーズがあることが分かりました。省エネの観点から常温の発想になったのもすごい」と着眼点の良さが評価されました。

野菜など無人販売所の役割のある自販機を提案した学生もおり、特産品などの地産地消にもつながるアイディアが出ました。
「モノを売る自販機はあるので、地域と協力すれば可能性がありそう」と松本氏はほかの主体との連携の必要性に言及していました。
他にも秀逸なアイディアが次々飛び出し、企業の皆様から感嘆の声が上がりました。

学生たちは企業がどんな経営戦略を取っているか、また社会貢献活動にどう取り組んでいるかを知る機会となった講義でした。

担当教員からのメッセージ

ダイドードリンコ社とは、赤本缶を自動販売機から搬出する企画を立てたのを機にご縁を得ました。
飲料事業を持つ企業の中でも差別化が際立っていることや、女性の社会進出を後押ししている企業というイメージが強いことから、「経営戦略」の回にぜひお越しいただきたいとお声がけしました。

 当日は、入社3年目、子育て中、転職の経験ありなど、学生にとって数年先から20年ぐらい後までのロールモデルになる社員の方たちからお話を伺う機会になり、「働きたいように働く」ことのイメージが少し掴めたのではないかと期待しています。実際、「ダイドードリンコ社で働いてみたい」という履修者の声が複数ありました。また、「社会貢献につながる自動販売機」の学生のアイディアについて、松本氏より一つひとつ丁寧にコメントをいただき、アイディアの面白さと実現可能性の両立の難しさを実感する機会になりました。

 早朝より大阪からお越しくださいまして、また有意義な授業の実現にご協力いただきまして、本当にありがとうございました。

2024年2月9日

スポーツを通じたウェルビーイングとは?JWP研究会がパラ卓球選手をお迎えし、イベントを開催しました。 

2023年度のJWP(実践ウェルビーイング・プロジェクト)活動(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の第ニ弾として、12月9日(土)に、2024年にパリで開催されるパラリンピック出場を目指している卓球の舟山真弘選手をお迎えして、スポーツを通じたウェルビーイングについて、みんなで考えました。

今回のテーマは、「スポーツを通じたウェルビーイング」。舟山選手より対談形式でお話を伺い、スポーツと健康や、幸せについて考える機会となりました。

ゲスト:舟山 真弘(ふなやま まひろ)氏

現在、大学1年生。埼玉県さいたま市出身。 4歳で小児がんの一種である「右上腕骨 骨肉腫」に罹患。1年2か月間入院し、手術と抗がん剤治療を受けました。手術では、利き手であった右腕の肩関節と上腕骨を切除し、足の細い骨を移植しました。右腕は上がらなくなり、細い骨の骨折に細心の注意が必要となりました。

 今回、舟山選手は早稲田大学1年ということで、同世代の大学生をゲストに招きイベントを行うという珍しい機会でした。
イベント前半では、舟山選手ご自身についてのお話を聞かせて頂きました。現在、早稲田大学で卓球部に所属している舟山選手。実は幼少期から卓球をしていたわけではなく、家族と行った熱海旅行で初めて卓球と出会い、小学5、6年生から本格的に卓球を始めパラリンピック出場を目指しています。小学生から大学生まで卓球を続けていますが、今でも試合前はとても緊張すると言います。試合の前半は足や身体全体を動かし、後半は頭を動かすといった様々な工夫されています。相手に点を取られてしまってもぼーっとすると危険、取り敢えず何かを考えよう、「何かを考えようっていうことを考えよう」と頭をフル回転させ試合に挑んでいる舟山選手。
そんな舟山選手について、卓球についてだけでなく、気になる私生活についてもイベント参加者の方々から沢山質問して頂き丁寧に答えてくださいました。

◆当日の質問より

Q、強いメンタルを保つ方法は?

A、今は、モチベーションを変わらずに維持することが出来ています。次に出場する試合があるとそこに向けて頑張ることが出来るため、維持出来ます。しかしコロナの時期は、試合数が少なくモチベーションを保つことが難しかったです。今年は試合が多くあり、保つことが出来ています。

Q、1番思い出に残っている国は?

A、中国がとても良かった印象です。卓球が国技であるため、演出が豪華で観客が多かったです。敵国でしたが会場の盛り上がりがあると、自分も盛り上がることが出来ます。

Q、時間の管理の仕方で工夫していることは?

A、中学生の頃は、勉学とスポーツを両立していました。定期テストの期間はスパッと卓球をやめ、勉強に専念していました。高校、大学では卓球が中心の生活をしています。大学生になると勉強する分野が絞られるため、卓球の時間を多く取ることが出来ています。

Q、今までで1番辛かったこと、それを乗り越えた方法は?

個人戦のため孤独を感じることが多くあります。勝っている時は心が満たされますが、負けが続くと寂しさに襲われます。しかし、必ず次の目標があるため、負けても取り敢えず考えないようにして次に向けて行動しています。

Q、大学生活で楽しみたいことは?

今までは勉学と卓球中心の生活でしたが、大学生になってからは様々なことに挑戦するようになりました。特に服をよく見るようになりました。最近では、パーマをかけてみたり、スキンケア用品に興味を持ち始めたりと美容に対して意識するようになりました。他には、アニメを見ることや本を読むことが好きです。いつか、お洒落なカフェに行ってみたいです。

これらのようにNGの質問はなしで卓球のことから、自分自身のこと、大学生活のことなど、1問1問丁寧に答えてくださいました。

次に舟山選手には卓球の魅力について教えて頂きました。

卓球は体格に左右されるスポーツではなく(背が高いとか低いとか関係ない)、その人その人という個人に対してフォーカスされることが1番の魅力です。実際に自分自身は、右手が使えず、右足の力が少し弱いですが、自分なりに考え右足を中心にトレーニングしています。卓球選手にはその人その人に生い立ちがあり、〜があったから今〜の考え方を持っているのだろうなどの目線で観客の皆さんには見て欲しいです。

イベントの後半では、舟山選手に意気込みを聞いてみました。

一つ一つの試合を大切にし、目の前の課題をクリアし、最高の成績を収められるように頑張りたいです。そして、パリパラリンピックの出場権を獲得し、金メダルを取りたいです。欲を言えばそれ以上上に行きたいです。と目標を教えて頂きました。

最後に、舟山選手にとってのウェルビーイングについて、そしてご自身にとっての幸せでいる条件をお話しして頂きました。

ウェルビーイングについては、大学生になってから考えるようになりました。プロの卓球選手の道を歩んでいきたいと考えていますが、競技に集中するということはプライベートを犠牲にするということです。

いずれか引退の時は来ますが、卓球だけをやっていて何が残るのかは自分でも分かっていないため、大学生のうちに様々なことを体験しておきたいです。例えば、部活後のメンバーとだらだら話す時間は、コーチから「早く帰るように」と注意されてしまいますが、無駄ではないと思います。逆にそれこそが大切なのではないかと思います。日常が送れていることが幸せなのだと考えています。

学生たちは、1日1日を大切に生きることの重要さ、自分自身の生き方に関して向き合うきっかけになったイベントでした。

参加学生の声

・今回、自分と同い年で、世界で活躍している方の話を聞けるという貴重な経験をすることができ、とても学びのある時間にすることが出来ました。スポーツを通したウェルビーイングということで、精神だけではなく、心や体に実際に選手に深く関わっていることを学ぶことが出来ました。どんな質問に対しても丁寧に答えてくださり、同い年にも関わらず選手と自分の生き方の差に驚きました。このイベントを通して、何事にも一生懸命頑張ろうと思いました。

・私も選手と同じくスポーツ中心の生活を送っているため、日々のモチベーションの保ち方や時間の使い方を直接知ることが出来て、とても勉強になりました。自分に何か弱い部分があっても、決してそれを言い訳にせず、弱い部分を補うようにオリジナルの練習方法を考えるなどスポーツに対しての熱い気持ちを生で体感することが出来ました。選手の日々はとても多忙とお聞きしましたが、その中でもウェルビーイングについて日々を当たり前に送れていることが幸せだと答えていたのがとても印象的でした。多忙の日々の中でも当たり前の大切さを重要視しているところが選手としての強みなのではないかと感じました。

深澤先生からのお話

今年3年目を迎えたJWP(実践ウェルビーイングプロジェクト)の活動の一環として、
「アスリートと考えるウェルビーイング」と題し、舟山選手にお越しいただきました。

全ての企画をプロジェクトメンバーの有志が行い、和気あいあいとした雰囲気の中で行われたイベントは、とても印象に残る内容となりました。常に世界と戦わなくてはならない厳しい世界でご自身を鍛え続けている舟山選手ですが、当日は大学生の日常らしい面も随所に見せていただき、本学学生と交流されている姿に、思わず感動していました。 2024パリパラリンピックの卓球日本代表として活躍される事を心からお祈りし、また、この企画を成功に導いてくれた幹事の皆さんに感謝いたします。

2024年2月2日

耕作放棄地をどう活用する?英文学科の授業でどろんこ会の課題に対するプレゼンテーションが行われました。 

12月8日に文学部英文学科対象の「実践キャリアプランニング」(担当:髙橋裕樹特任教授)の授業で、社会福祉法人どろんこ会(以下、どろんこ会)との特別授業が行われました。この日は、どろんこ会代表の高堀雄一郎氏の前で、前回の授業で出されていた「耕作放棄地が年々増えている現状に対してどのように対応するべきか考える」という課題について、学生たちは緊張の面持ちで発表に臨みました。
 ~前回の授業はこちら~

 ※耕作放棄地とは:「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地」と定義されています。

農地バンクやキャンプ場などで活用

最初の発表はグループ6から。
耕作放棄地を農地バンクとソーラーシェアで活用する案を出しました。
農地バンクとは、耕作放棄地を登録し農地のレンタルを支援する制度。並行して農地に太陽光パネルを設置するソーラーシェアを行うことで、災害時に非常用電源にもなると発表しました。

発表後は高堀氏から講評をいただき「話題になっている解決法でよく調べていると思いました」とコメントされました。

次のグループ4は、農業を行いながらできる、少人数でコストがかからないことを条件として案を考え、人気のあるバレルサウナとキャンプ場の経営を提案しました。
人件費など経費も計算し、初期費用が回収できる期間の目安も伝え、実現可能性を伝えました。
またSNSで広告を展開し、宣伝することも計画することを伝えました。

高堀氏は「経費や販売価格などもきちんとよく調べているし、ただ案と考えるだけでなく宣伝するところまでも考えていた」と感嘆のコメントを述べました。

後継者を育てるには?

グループ3は、農業の後継者の確保を課題に定め、耕作放棄地を農業高校や大学の農学部の実習地とすることを提案。
海外での農業トレーニングの取組や、新潟の農業高校で行われている農業キャンパスツアーなどを例に出し、実習の時間を多くとることで、若者が農業により関心を持つとしました。

高堀氏は「農家出身の方がいるのかと思ったくらい、実感がありました」とプレゼンに感心。
「高校生に限らず農業に携わりたい人が学べる場があった方が良いということにハッとしました」と着眼点の良さを褒められました。

続いてグループ7は、近くにコテージを立てリゾートとして貸し出すレンタル菜園や、農場が併設されている福祉施設ケアファームに活用することを提案しました。
また修学旅行に農業体験を取り入れることで、若者に農業に触れてもらう機会を増やすことも提言しました。

高堀氏は「山間部の放棄地は、上下水道や電気などの設備を整えることを考えると現実には難しいかも」と懸念点もあることを伝えました。

提案のデメリットも考えてみよう

グループ9は、若い層に農業の魅力を伝える行事が必要と提案。
若者も楽しめる観光、体験農園を作ることを伝えました。

高堀氏は「観光面では常に人が来るかどうかは難しい」と実際にはハードルが高いことを伝えました。

次のグループ8は、管理の手間が少なく、初期費用も抑えられるトランクルーム経営をプレゼン。
また、今後の目標としては耕作放棄地の現状を広めることが必要と伝えました。

高堀氏は「トランクルームは都市部では人気があるが、地方では土地があるためなかなか需要がない」とデメリットも伝えました。

グループ5は、義務教育の「総合」の授業で農業を取り入れ、都内近郊の耕作放棄地を授業で利用することを提案しました。
山間部の耕作放棄地は大型農具を練習する教習所として活用すること、コンバインなどは練習する場所がないため農業初心者が利用できるようにします。
また、殺処分前の競争馬を引き取り、乗馬教室も併設することで収益も考えました。

高堀氏からは「馬というアイデアは斬新。エコにも配慮されていて、ヤギや馬の活用は大まじめに考えられる方法。プレゼンがうまかった」と褒められました。

どうやって利益を上げるか

グループ2はどろんこ会の取組を考慮し、高齢者介護施設を併設し農業を活用することを提案しました。
高齢者の認知症予防や運動にも利用できるとしました。

高堀氏も「障がい者や高齢者施設との組み合わせはどろんこ会としてもやっていきたいと感じました」と共感しました。

最後のグループ1は、農地バンクなどの複雑なシステムに抵抗感を感じてしまうことが問題と定義。
施設を作るなどの案ではなくまずは若者に耕作放棄地の問題を伝え、農業を身近に感じられるよう魅力を伝えることが大事としました。

高堀氏は「農業で収入をどうやってあげるかが大事。そのポイントをもっと深堀出来ていればさらに良かった」と着眼点の良さを感心されました。

ITや営業力も農業には大切

全グループの発表が終わり、どろんこ会の皆様が各グループを採点。
高堀氏から優秀なアイデアだったグループが発表され、グループ4が選ばれました。
グループ4の発表は「経費や販売価格などもきちんとよく調べていて、うちの事業部にきてほしいと思ったくらい。提案も話題になりそうな内容だった」と絶賛されました。
最優秀賞を受賞したグループ4のメンバーには減農薬の南魚沼産コシヒカリがプレゼントされます。

授業の最後に、高堀氏から「皆さんお疲れさまでした」とねぎらいの言葉がかけられました。
「耕作放棄地に関しては、正解の答えがあるものではない。どろんこ会もやっていることが本当に正しいのかわからないが手探りでやっています」と話され、法人化などをして組織力を向上することの大切さを伝えました。
「そのためには実地で農業する人だけでなく、広報力、営業力、IT技術も必要。そういった分野の人にどんどん農業に参画してもらうことも大事です」と農業を広めるための課題を、学生たちにも共有しました。

学生からのコメント

課題解決型の授業を経験したことがなかったため、現状分析から具体策を提案するまでの工程がいかに大変なものか、深く理解するきっかけへと繋がった。
当日までに満足のいく状態まで準備をすることができたと考えるが、チームで協力をして行うことの難しさを強く実感した。
他の授業でのグループディスカッションやプレゼンテーションにおいても非協力的な人はいるが、全員で協力をすることによってより多種多様な意見が生まれると考える。
したがって今回のプレゼンテーションにおいて、グループメンバーにさらに働きかけることが必要であったと考え、少し反省をした。当然ながら意見を求めることはしたが、新たな意見が出なかったり、担当を申し出てくれる人がいなかったり、今回のプレゼンテーションを通して、私自身のグループをまとめる力や意見を引き出す力がないことが明確になり、少し悲しさを覚えた。
しかし、自分自身で最後までやり遂げられたことで自信が得られ、またグループのリーダーを務めることに今まで以上に抵抗がなくなったため、1位を取ることができなくても得られたものは大きく、良い経験となった。今後は働きかける力を養い、自分の意見も主張しながら、協力をしてプレゼンテーションやディスカッションを遂行していきたい。

担当教員からのメッセージ (大学教育研究センター 特任教授 髙橋裕樹)


後期の英文学科の企業連携プログラムには、全国に子育て支援施設約160カ所運営されているどろんこ会グループの高堀雄一郎様にお越しいただき、「インクルーシブ教育を阻む教育課題」や「耕作放棄地」という社会課題について問題提起していただき、グループに分かれ課題解決プレゼンテーションを実施し、最優秀グループに表彰と賞品をいただきました。
お忙しい中、ご参加いただき感謝申し上げます。

2024年2月2日

保育園のインクルーシブ教育って?英文学科の授業でどろんこ会とのコラボが行われました。 

11月17日に文学部英文学科対象の「実践キャリアプランニング」(担当:髙橋裕樹特任教授)の授業で、社会福祉法人どろんこ会(以下、どろんこ会)との特別コラボが始まりました。代表の高堀雄一郎氏が登壇され、インクルーシブ教育や「福祉×農業で地域や日本をよくするための挑戦」についてお話下さいました。授業の最後には地域、農業について考える課題が出され、学生たちは12月にプレゼンテーションに挑みます。

子どもの成長を高める保育園を

どろんこ会は、3つの法人は保育園運営、2つの法人は農業に関わる法人からなるグループです。
きっかけは高堀氏が大学生の頃に始めた学習塾でした。小中学生を対象に英語や数学を教えていたと言います。中には障害を持った子や不登校の子も。
様々な子に触れ合う中で「偏差値の良い学校に行くことよりも、その子なりに努力し、成長することが素晴らしいのだと気付いた」と言います。
自分自身も成長したいと思い大学を卒業後、塾は後輩に託し高堀氏は就活する道を選びました。

高堀氏は結婚後、子どもを認可外保育園に預け共働きをしていました。
しかし預けられる時間が限られていたり、外で遊ばせてもらえなかったりなど保育園の制度に疑問を抱きます。
子ども・保護者・保育者・地域の4者とも満足度の高い保育園が必要と感じた高堀氏は、25年前に夫妻で認可外保育園を始めたのです。

生きる力を育む保育園

どろんこ会の信条は「本物の体験を通じ生きる力を育む」。
園庭を広く取り、鶏を飼い田んぼもあり日々の生活の中で、子どもたちが多くのことに触れ合えるようにしています。
遊具はなく、子どもたち同士で遊びを作っていくスタイルです。

認可と認可外の大きな違いは補助金が出ること。そのため認可外は経営が厳しいのが現状です。高堀氏も休みなく体を張った運営を行いました。初年度は休日3日。それでも自然と触れ合う教育方針は評判を呼び、定員は徐々に満員に。さらに転機になったのは、待機児童が問題になっていた埼玉県朝霞市から、認可を取って社会福祉法人としてやっていかないかとの打診でした。それが「どろんこ会」誕生のキッカケです。

インクルーシブで子どもを預かる

どろんこ会の大きな特徴が「インクルーシブ教育」です。
障害のある子は別の保育室に分ける分離教育が一般的な中、子どもたちを障害の有無で分離せず 一緒に保育をしています。子どもたちは個性がばらばら。
「子どもたち同士がコミュニケーションを取ることで生きる力が育まれると気付いた」と高堀氏。
自然な触れ合いの中で、発達支援も行っています。

ただ、完全に一緒に運営していくにはいくつも壁がありました。
認可保育園のため、役所から教室を分けるように指導があったのです。最初の施設はやむを得ず分離しましたが、徐々に入り口や事務所を共用にする工夫をしてきたと言います。
高堀氏は、大切なのは「理想実現のため粘り強く戦えるか」と話します。
役所に代わり内閣府規制改革推進室や議員と意見交換を行い、課題を訴えたと話しました。

高堀氏は「子育て保育領域に優秀人財の流入が大事」と語りました。
今まで保育園に勤める人は子どもが好きという人がなるものでした。
ただ、子どもたちは5、6年保育園で過ごします。
高堀氏は子どもが保育園でどう過ごすかで人格形成に大きな影響を与えると考え、「この間に生きる力を育めるかで日本の未来が変わる」と語りました。
そのためには「優秀な人材が参画することで収入も得られる業界であり、循環にしなくてはいけない」という目標も話されました。

農業における課題

どろんこ会では農業経営も行っており、新潟県南魚沼市で農薬をほぼ使わず米の生産を行い、保育園の給食に使われています。
子どもたちに田んぼに触れ合う経験を持たせたい、それも年に1回の収穫だけでなく日常的に関わらせたいという思いから、23年前に農家に直談判したことがきっかけです。
そこから縁が出来て、株式会社南魚沼生産組合の設立に至りました。

ここで学生たちに課題が出されました。
テーマは「農作放棄地が年々増えている現状に対してどのように対応するべきか」。
南魚沼市では、中山間地で耕作放棄地が増加しています。中山間地とは山の斜面のことで平地よりも農業がしづらい地域です。
ただ、手入れされていないと雨水などによる洪水や土砂崩れの危険性も出てきます。
また、最近ではイノシシなど鳥獣被害も。

しかしコメ作りは肥料、燃料、人件費など様々なお金がかかり、時間もかかりますが収入は多いとは言えません。
そのためなり手不足が深刻となっています。耕作放棄地は、売買したり建物を建てたりすることが難しいということもあります。
この課題をどう解決するかを学生たちが考えます。
日本でどこも行なっていなさそうな新規性、仕組み化できる継続性、実現性があるかが評価基準です。

失敗を失敗のままにしない

授業の最後には質疑応答の時間が取られました。
学生たちは掲示板機能で質問を行い、高堀氏に回答いただきました。
「保育園の現状の課題は?」という質問には「インクルーシブを推進しているところが少ない。そのため職員の認知が進まない。どう全国に広めるかが課題」と話しました。
「今まで辛かったことは?」という質問には「サラリーマン時代に頑張りが評価されなかったことは辛かったが、自分でやりはじめたことは、いくら休みが取れなくても辛いと思ったことはない」と話されました。

学生たちはこれまであまり触れることのなかった、インクルーシブ教育や農業について知る貴重な機会となりました。

~12月に行われた、学生のプレゼンの様子はこちら~