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2023年11月28日

女性が前向きに生きる秘策とは?「社会学概論」の授業でサニーサイドアップグループ社長の次原悦子氏による特別講演が行われました。

10月11日に、1年生対象の「社会学概論」(担当:人間社会学科 原田謙教授)の授業で、株式会社サニーサイドアップグループ(以下、サニーサイドアップ)の代表取締役社長の次原悦子氏による特別講義が行われました。さまざまなモノやヒトをPRして「たのしいさわぎ」を起こしてきた会社を起業した経緯や、女性が前向きに世の中を生きていくための秘策を明るく話されました。

17歳で起業!

学生たちは予習としてサニーサイドアップグループの企業サイトを見てくる課題が出ていました。
講演の前に原田教授から「サイトを見てどのような会社だと思ったか一言で表現してみよう」とアンケートが。集まったワードは明るい、楽しそう、おしゃれ、自由などポジティブな言葉が並びました。わちゃわちゃ、元気などの表現もあり、学生たちもすでにパワーを感じ取っている様子です。

登壇された次原氏も「今日皆さんに会えるのを楽しみにしてきました。
少しでも役に立てる話が出来たらいいなと思っています」と講演を始められました。

サニーサイドアップは、1985年に次原氏が若干17歳のときに創業されたPR会社です。
当初は朝から晩まで働き詰めでしたが、「自分が社会に参画できることがとても楽しかった」と言います。

マンションの一室で始まった会社は少しずつ大きくなっていき、1995年当時まだ無名だった中田英寿元サッカー選手らトップアスリートと契約。2005年には世界的ムーブメントとなったホワイトバンドプロジェクトを手掛け、最近では商業施設やさまざまな商品・サービスのPRを手掛けています。

   ※「黒子に徹する」という次原悦子氏本人の方針により、顔にめだまやきを載せております。

PR・ブランドコミュニケーションってどういう仕事?

次原氏は「PR・ブランドコミュニケーションという仕事は、世の中にまだ知らないモノやヒトを、付加価値を付けて知らせて話題にしてもらい、最終的には行動してもらう仕事です」と話しました。
伝達するだけでなく、その先の購買などのアクションに繋げてもらうことが目的です。

例えば、今は専門店もたくさんあるパンケーキもその1つ。
ハリウッド俳優が映画撮影の合間に食べにくる小さなカフェに目を付け、「世界一の朝食」と大々的に打ち出しました。

このキャッチコピーは「誰も言っていなかったのですがPRでは言える技です」と次原氏。
それまでパンケーキと言えば、日本では家庭でお母さんが焼くおやつだったものを「カフェのテラスで食べるおしゃれな朝食」というイメージを浸透させました。「PRは日陰の仕事ですが、今では皆が知っていることを仕掛けていたんです」と話しました。

女性が活躍する社会のための企業の在り方

「PRはメディアやニュースを使いますが、その手法を使って社会課題の解決にも取り組んでいます」と次原氏。
話題は女性活躍へ。
日本はまだまだ女性の社会進出が遅れていることが課題です。
ただ次原氏は「女性が活躍することで経済が動きます」と話します。女性が購買を決定する割合は7割と言われています。圧倒的に女性が買うものを決めているのです。
しかし、その売るものを決めるプロセスに女性がいないのはおかしいのでは、と次原氏は訴えました。

日本も2030年には役員に占める女性比率を30%以上にすることを目指しています。
現在は9.1%と、ハードルの高い目標ですが少しずつ頑張っています。
その中でサニーサイドアップは女性が社長であり、グループ全体で取締役の50%が女性とのこと。
全従業員でみても6割が女性と、女性が活躍している企業の筆頭なのです。

世の中をしぶとく生きるために

その中で次原氏は「女性が世の中をしぶとく生きていくための秘策」を12個、教えてくださいました。

1つ目は「自分にできないことを知る」。自分よりもできる人を見つけて頼ることが大切と話します。次の秘策は「忘れよう」で、「自分で思っているほど他人は気にしていません」と、くよくよ思い悩まないことも大事と話しました。
その他にも、「ご縁を作ってくれた人のことを忘れない」や「情報を効率よく入れよう」、「解釈を変えるだけで過去も変えられる」など、人生を前向きに生きていく秘策を惜しげもなく披露してくださいました。

目の前のことを一生懸命やる

講演後は質疑応答が行われました。
スマートフォンを使用した無記名のアンケート形式で「ちょっと直接聞きづらい質問」も募集。たくさんの質問が集まりました。
「ワークライフバランスはどちらを重視していますか」という質問に「どちらがどちらと考えていません。それぞれが必要なことで相互に影響しています」と答えられました。

「なかなか売上が成長しなかったときのターニングポイントは?」という質問には、「当時無名だったアスリートたちが活躍してくれたこと。でもそのアスリートたちへの繋がりも、そこまでに培った人間関係が作ったと思っています」と話されました。

就職に対する質問も。
「どんなスキルを持っていたら採用してもらえる?」には「リーダーシップが大事。小さなことでも自分からアクションできることがこれからの企業に必要」と回答。

「どんな行動をして未来を変えましたか」という質問には「起業した当時は未来の夢や目標はなかった。目の前のことに没頭し一生懸命にやっていたら、だんだん自分の道ができていました」と話しました。

第一線で活躍する女性の貴重な話を聞くことができ、学生たちも未来を考える力になった講演でした。

担当教員からのメッセージ

人間社会学部には、ジェンダー、SDGs、広告・PRにかんする授業がたくさんあります。こうした分野の最前線で活動されている次原さんは、未来をみすえた企業が実際にどのように「行動」に移しているのかについて、とても具体的に説明してくださいました。
また、17歳で起業した次原さんのライフコースから紡ぎだされた「女性が世の中をしぶとく生きていくためのTips」は、これからの学生たちのキャリアデザインにとって参考になるものばかりでした。授業終了後の学生のコメントをみても、とてもポジティブな表現に溢れていました。
ご多忙の中ご講演頂いた次原さん、本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

2023年9月5日

自己分析して自分で選ぶ!「実践キャリアプランニング」の授業でホリプロとのコラボによる働くとは何かを考える講演が行われました。

共通教育科目「実践キャリアプランニング」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で7月14日に株式会社ホリプロ(以下、ホリプロ)による特別講座が行われました。池橋敬雄氏と和田瑞希氏のお2人がそれぞれユーモラスな語り口で、「働くこととは」「仕事とは」についてお話くださり、学生たちも楽しみながらキャリアについて考える機会になりました。

ホリプロは芸能プロダクションじゃない!

始めは和田氏からホリプロとはどんな会社か、紹介がありました。
「みなさんホリプロと言えば芸能プロダクションのイメージがあると思いますが、総合エンターテインメント企業です」
と和田氏。

人々に楽しみや感動する瞬間を作ることで世の中を良くしていくというミッションのもと、エンターテイメント製作を手掛けています。

「ホリプロは作品と人をプロデュースする会社」
と言い、ドラマやバラエティーにとどまらず、舞台やお笑いライブ、楽曲製作など幅広いエンターテイメントを製作していると話しました。

ただ、ホリプロとしての看板であるのはやはりマネージメント事業。
日本を代表する俳優や女優のほか、バラエティータレントや芸人、アスリートや演出家、アナウンサーにVチューバー、歌手、声優…とさまざまなジャンルのタレントが所属しています。

社員の方の大きな仕事の一つとしてマネージャーとしての業務がありますが、「皆さんにはマネージャーという仕事をきちんとイメージしてもらいたいです」と和田氏。

マネージャーと言えば車での送迎、荷物運びなど身の回りの世話がイメージされがちですが、
「マネージャーとはタレントのプロデュースが仕事です」
と言います。ホリプロではマネージャーの車でタレントの送迎は禁止。付き人ではないと話しました。

自己分析をして自分にフィットする会社を探そう

和田氏は2005年にホリプロへ入社。
入社の動機は「可愛い女の子や流行が好きだった」と話し、自分が好きなものを広めていく仕事がしたいと思ったと語りました。

ただ、学生のときには
「自己分析なんて必要かなと思っていて、なあなあにしてしまった」
と話しました。

現在人事部で新卒採用にも関わっている立場から、
自己分析は「自分にフィットする仕事や会社との出会いのために必要」であると言います。

和田氏の考える「働く」とは「自分の時間や能力を使って社会に(誰かに)貢献する。それによって対価を得ること」と話します。

対価とは仕事を通じて得られるもの。何のために働くか、と問いかけた和田氏は「正直なんでもいいと思います」と語りました。お金、夢、人脈、やりがい…働くことを通じて何を得たいかはそれぞれですが「自分自身が本当に望んでいるものでないと幸せになれない」と強調しました。

仕事の選び方のポイントは「仕事を通じてどんな生き方をしたいか、何を手に入れたいのか」を自己分析することからはじめ、自分の得意なこと(能力)を使ってそれらを実現できる仕事を探すことだと伝えました。

自分で選ぶことの大切さ

続いての登壇はホリプロ・グループ・ホールディングスの取締役で経営管理本部長の池橋氏。
経理や人事を束ねる立場の池橋氏は
「自分がキャリアを語るようになるなんて思ってもみなかった」
と言います。

若いうちにキャリアを考えることは必要ですが、今決めたゴールにひたすら向かっていくのではなく都度考えて行動することの大切さを話されました。

池橋氏はドラマで見た東京に憧れ、大学入学時に上京。就活のときに中国は自転車やバイク社会であることを知り、中国に路面電車を引きたいと強く思います。
企業の情報を得るにも苦労する時代でしたが、車両製造業や商社など手当たり次第にアピール。そこで鉄鋼会社に縁があり就職します。渋谷の再開発事業に関わり、「街を作る」ということに面白さを感じていたところ、工場立ち上げのため中国に赴任。そこで現地の人員と信頼関係を築き、より良く働けるルールを作ることにより、仕事の成果が上がったことで人に関わる仕事がしたいと思うように。

その後ホリプロに入社した理由は「人の価値を極大化するビジネスを行っていると思った」からと話しました。

「仕事は3つに分類できると思っています」と池橋氏。
それは、やらなきゃいけない仕事、やれる仕事、やりたい仕事。やりたいことをやるためにはやらなきゃいけない仕事に一生懸命取り組み、やれることを増やしていくことが大切だと語りました。

そして「今までの転職などもすべて自分で決断してきた」と話し、自分で選んだから今があると思えるように、自身で選択することの重要さを語りました。

自分の能力を見つけるには?

講演後、学生たちはグループで感想を話し合いました。
そして質問をリアルタイムで掲示板に投稿。
深澤教授が読み上げる形で質疑応答が行われました。

「自分の能力を見つけるために、学生のうちにやった方がいいことは?」
という質問には和田氏は
「自分が面白そうと思ったことに首を突っ込む、いろんな人に会いに行く」と話し、

池橋氏は
「興味がないことをあえてやるのもいい。意外と面白いこともある」
と回答しました。

たくさんの質問の中には、池橋氏に対して
「まだ中国に路面電車を引きたい?」というものもあり池橋氏は
「引きたい」と力強く答え、学生たちも笑顔に。
「ただ今では、あの時の気持ちは、自分が役に立ちたいという思いだったと気付きました」と誰かの人生に影響を与えたい一端だったと回答されました。

学生たちは楽しみながら「働くとはどういうことか」を考える知超な機会になりました。

担当教員からのメッセージ

今年初めてお迎えしたホリプロ様、お二人のお話しは、リアルな体験談をふんだんに盛り込んでいただいたこともあり、学生はあっという間に引き込まれてしまいました。お二人に共通する点は、やはりご自身の軸をしっかりと築かれ、変化を恐れずに行動を積み重ねてこられたキャリアデザイン、思うようにいかなくても、決して諦めることなくチャレンジを続けることでした。一見する華やかに見えるエンターテインメントの世界も、それを支える方のご苦労は大変大きいものがあると、改めて感じました。貴重なご講演をいただけたことに心から感謝申し上げます。

2023年5月18日

美学美術史学科の学生が日本紙通商(株)(日本製紙グループ)との協働プロジェクトで防水ダンボールの新商品のプレゼンを行いました。

3月23日(木)に美学美術史学科の学生たちが、日本紙通商㈱(日本製紙グループ)の皆さまの前で防水ダンボールの商品のプレゼンを行いました。3月13日に御茶ノ水にある本社にお邪魔して、アイデア出しをした中から選定しブラッシュアップを重ねました。学生たちは直前まで資料を作りなおし、新たな防水ダンボールの可能性をプレゼンしました。

防水ダンボールを子ども向け商品に

最初の発表は子どもの歯固め「もっしゃー」。歯が生えてくるむずがゆさを解消し噛む練習になるアイテムです。口のなかに入れるものなので衛生面が第一。そのため汚れたらすぐに捨てられるダンボールを使い、外出用など洗わずにすむものを提案。商品名は、学生たちが実際にかじってみた触感から名付けました。
発表後は、企業の皆さまからコメントをいただきました。「防水ダンボールそのものは口に入れられないのですが、食品用のボール紙で作ったら面白いのでは」と感想がありました。

次も子ども向けの商品の提案。「あめるんるん」は子ども用のレインコートです。キリンやウシの動物の模様が印刷されたケープ型レインコートで、動きやすく付け外しも簡単。着ぐるみ的要素もあるため、雨の日も子どもも楽しんで着られます。子どもは成長が早いためすぐサイズが合わなくなり新調する必要がありますが、ダンボールならコストも抑えられます。発表後には「思いつかなかった案で面白い。動物園とのコラボもできるかも」と着眼点に感心されていました。

3番目の「ぱずさりー」は小学生をターゲットにした知育玩具です。形をきりぬいて、ひもでつなげたりシールを貼ったり、ものづくりができるアイテムです。名前はパズルとアクセサリーの造語で、遊び終わったらパズルのようにはめ込んで片付けられるところから。実際に試作品を作ってプレゼンしました。
企業の方からは「商品化できるかも」「レベルアップしたものをつくれば大人用も作れる」などの意見も出ました。

大人の癒しに防水ダンボールを

次の発表は「カプセルトイ」という斬新な案。カプセルトイ市場は拡大しており、植物を育てるキットなども販売されていることに注目。ダンボール製カプセルがそのまま鉢になり、ハーブや雑草を育てるというものです。大きなサイズでは野菜や木の苗を育てられるものを提案しました。
発表後「似たような商品は実は既にあるが、中身をアップデートするのは良い案」とコメントをいただきました。

次の「段ルーム」は簡易サウナになるダンボールハウスです。従来品は大きく保管に場所を取り、高価なことが難点でした。防水ダンボールであれば自宅で手軽にサウナに入れ、リーズナブル。持ち運びも簡単なのでキャンプにも最適です。サウナは睡眠の質を改善するデータを提示し、市場も拡大しているとアピールしました。
コメントでは「防水ダンボールと相性がいいと思う、実現可能性が高い」「サウナに興味があるけれど迷っている人も気軽にできそう」と好感触の感想をいただきました。

「段ルーム」はもう1案あり、子ども向けの秘密基地も提案されました。子どもが自分で組み立てられ、絵を描いたり塗ったりオリジナルでデザインできます。防水ダンボールは丈夫で水にも強いので、子どもが遊んでも安全です。
コメントでは「犬小屋などもいいかも」などの意見が出ました。

既存のものを防水ダンボールで作ると?

次の発表は御茶ノ水本社でのアイデア出しのときも話題となった「棺」です。名前はダンボールに「安らぎ」を加えた「Danboarest」。最初に現在葬儀にかける費用が減少傾向にあることがデータで示されました。防水ダンボールの棺であればエコに配慮し経費も削減できます。また、棺の形をカスタマイズしたり、色やデコレーションパーツで彩ったりも可能です。親族や本人、アーティストのデザインや「推し」を全面に出した「痛棺」も提案されました。用途も人に限らず、ペットやぬいぐるみなど大切なもののお焚き上げという提案もありました。「とても興味深かったです、お焚き上げの案も面白い」とコメントもいただきました。

次は「アイシャドウパレット」。プラスチック製では落としたとき壊れやすいですが、ダンボールでは破損を防ぎます。類似品は海外製ではありましたが、パッケージがシンプル。紙パッケージのものは日本製でもあり、デザイン性や種類も豊富でした。今回はダンボールらしさを追求した、「みかん箱」や「りんご箱」を模したデザインを提案。10~20代がパケ買いしたくなる可愛らしさや面白さをプレゼンしました。「素晴らしい練り具合。コスメ会社も環境配慮に敏感のため実現性がある」と、感嘆の感想もありました。

最後は「花型絵具セット」です。筆洗器のフタにパレットをつけ、持ち運びが簡単なお絵描きセットです。旅行やアウトドアで気軽に絵を描け、思い出作りにも最適です。発表後には「複雑な形状だと水がもれないようにするのが難しいかもしれないが、紙コップなどを転用すればできるかも」といった意見がありました。

春休みの特別プロジェクト

全員の発表が終わり、最後に水田氏から講評をいただきました。「皆さん本当にお疲れさまでした。ここまで短い時間だったのに、想像以上の出来でした。我々も勉強になり刺激になりました」と学生たちの頑張りをねぎらいました。また、「せっかく良い案がたくさん出たので、今後引き続き一緒にやっていけたらと思います」と言葉もいただきました。

授業外の有志の社会連携プロジェクト。学生たちは春休みの時間を使い、アイデア出しから選定、企画を作成しました。市場調査や資料作りも限られた時間のなかで、ぎりぎりまで作成しました。プレゼンは初めての1年生もおり、実際の企業の方に見ていただき意見をいただく貴重な経験となりました。

2023年5月18日

美学美術史学科の学生が日本紙通商(株)(日本製紙グループ)との協働プロジェクトで防水ダンボールの新しいアイデアの創出を行いました。

2023年3月に美学美術史学科の下山肇教授のもと、日本紙通商㈱(日本製紙グループ)協同プロジェクトが行われました。「防水ダンボールの新しい使用方法をデザインする」ため学生たちは、女子大生ならではの考えや感性を活かしてアイデア出しを行いました。3月13日(月)は、なんと本社に伺い、社員の方々にアイデアの卵を見ていただく貴重な機会になりました。今回人気のあったアイデアをまとめ、後日最終プレゼンテーションに臨みます。

アイデアの出発点は自分の好きなもの

場所は御茶ノ水にある、日本紙通商㈱(日本製紙グループ)の本社内。
学生たちは少し緊張しつつも、初めて実際の企業のなかに入る貴重な経験になりました。

まずは下山教授から今までの概要が説明されました。先日、日本紙通商㈱(日本製紙グループ)の皆さまが大学を訪れ、学生たちは防水ダンボールを実際に見せていただきました。
そこで感じたことを活かし、新たなアイデア創出するためこれまでに6回話し合いを行ってきました。
女子大生ならではのアイデアを活かすため、出発点としたのは
①今自分にとってホットなもの、こと ②今ほしいもの ③(防水ダンボールから発想して)水と言えば何?の3つ。

まずは防水ダンボールそのものからは離れ、自分の好きなものなどを挙げていきました。
タコ焼き機、コスメ、ゲームやアニメ、映画、サウナ、一人旅、アウトドア、編み物、ランドセル…。
さまざまなものが提示されました。

③では水彩絵具、お風呂、ペットボトル飲料、洗濯やトイレといった素直な連想から、水害や水ようかんといったものまで。
「そうして抽出したものに、一見かけはなれた印象の防水ダンボールをくっつけたときに、いったいどういうことが考えられるだろうかということをみんなで話し合い、たくさんアイデアを出してきました」
 アイデア出しには3つのポイントが。
 ・発想は中途半端なところで終わらせず、とことん突き詰めること。
 ・一つの価値観を裏返して反対の意味をくっつけたらどうなるか考えてみること。
 ・遠い属性と思われるものをくっつけてみること。
この3つのやり方で、「質より量」とアイデアをとにかくたくさん出しました。

面白いアイデアに投票しよう!

「今までの社会連携のやり方ですと、最後まで提案の検討が終わったあとに連携先企業へプレゼンテーションを行い、その結果に対して企業の方が評価をしてくださることが多かったのですが、今回は案が固まる前にアイデアに対していっしょにディスカッションを行いたく、時間を取っていただきました」と下山教授が今回の意図を説明すると、アイデアが部屋いっぱいに並べられました。机だけでは足りず、床にも所狭しと並べられます。その数は80個以上。こんなものがあったらいいな、面白いなという発想からスタートしたまだ柔らかいアイデアの数々です。

例えば「雨×防水ダンボール」というアイデアでは、「リサイクルできる傘」として、安価でビニール傘の代替品になる「ダンブレラ」が考案されていました。また「楽器×防水ダンボール」ではダンボールを組み立てて作るドラムセットという、面白いアイデアです。

企業の方も含め、学生たちにはシールが配られました。この日行うことは、全てのアイデアを見てそのなかから自分が良いと思ったものにシールを貼ってアイデアを絞り込む作業です。シールの色は3種類。ピンクは「最も成功する可能性が高そうなアイデア」、緑は「最もユーザーを喜ばせると思えるアイデア」、青が「最も画期的なアイデア」にそれぞれ貼っていきます。シールは色ごとに4枚まで貼ることができます。

アイデアはひとつひとつどれも新鮮で興味深く、企業の方々も「どれにしようか本当に悩む」「決めるのが難しい」とうなり、学生たちの発想力に感心していらっしゃいました。

人気を集めたアイデアは?

全員がシールを貼り終えると、シールの数が多いアイデアが発表されました。「衛生的に使える使い捨てまな板」や「子どもに人気なアニメのアイテムを模したしゃぼん玉機」、「自転車のかごカバー」や「子ども向けダンボールハウス」などが挙げられました。「アイシャドウパレット」には、軽くて持ち運びやすく、落としても割れないパッケージという利点あり、多くのシールが貼られていました。

「筋トレできるダンボール」を考案した学生は「成長×ダンボール」から発想。箱型のダンボールを棒の端に2つ付け、水を入れてウェイトトレーニングできる器具を発案しました。「汗をかいてもすぐにお風呂に入れる」などのメリットを挙げていました。

特に人気を集めたアイデアが「棺」。アイデアを出した学生は「自分が参列したお葬式で、棺はシンプルな木製のものしかなく、地味に感じた」といいます。「ダンボールなら印刷もできるし、自分が死んだときに自分の手で描いたものも良いなと思いました」と自分の体験から発想したことを語りました。発展して「ペット用の棺があればいいなと思った」という意見も出ていました。

本当に商品化できる?最終プレゼンへ!

最後に企業の皆さまから感想や気になったアイデアを伺いました。アウトドアがお好きだという方からは「カヌー」案が推されました。「アイシャドウパレット」を推した方は、「実は今、アイシャドウのチップを紙ストローで試作しているんです」と、併せて進められそうと実現可能性を感じていらっしゃいました。

全員が投票し、絞られたアイデアは20個ほど。ここからさらに何案かを選び出し、ブラッシュアップして3月23日(木)の最終プレゼンテーションに臨みます。

2023年2月14日

頭で考えるより手で考える!「グローバルキャリアデザイン」の授業でレゴ®︎シリアスプレイ®︎の体験が行われました。

全学部対象科目「グローバルキャリアデザイン」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、1月17日(火)に「レゴ®︎シリアスプレイ®︎の技法と教材を活用したワークショップ」(以下、LSP)を体験する特別講義が行われました。今回の授業は3・4限の時間を続けてじっくり行われました。蓮沼孝氏をファシリテーターに、学生たちは実際にブロックで手を動かして作品を作り、視点を変えてみることの大切さを学びました。

おもちゃで戦略を考える?LSPとは

「なんで子どものおもちゃを使っているんだと思う人もいるので」と蓮沼氏は自己紹介を始めました。
蓮沼氏は商社の出身。経営人材の育成・ヘッドハントに携わり経営者の育成プログラムの開発をしてきました。コミュニケーション方法や関与の仕方を模索していた際に「LSP」に出会います。

LSPとは、デンマーク発祥のおもちゃブロックを使って行われる人材育成の手法のひとつです。2001年に教育理論に基づいて確立され、2003年にはNASAが導入したことで有名になりました。LSPは「全員が参加できる会議を作る」目的で作られました。
一般的な会議では2割の参加者が場を取り仕切り、8割の人が聞いているだけと言われます。
「でも残りの8割の人たちもちゃんとアイデアも持っており、その場に貢献したいと思っています」と蓮沼氏。その人たちも参加できる会議を行うための手法として、キャリアプランやアイデア創出の場でLSPが使われます。
LSPはファシリテーターの誘導によってレゴブロックを使うことで、人種も性別も年齢、地位も様々な人が関係なく一緒に行える特徴があります。

頭を使うより手を使う!

「今回のワークショップの目的は、視点を変えるということです」と蓮沼氏は話します。
自分を客観的に見たり他の人のことや全体を俯瞰してみたりすること。
同じ作品を見ていても、人はそれぞれ違う点に注目しています。他人が自分の作品を見た感想を聞くことで、新たな自分に気付くことも大切です。

基本の流れは、作品を作り、作品に意味を与え、他者へ語り、聞く。大切なのは「頭で考えず手で考える」ことです。
頭で考えて設計せず、触ったブロックを使って作り始めることが大事なのです。
作品が出来たら対話を行いますが、ここでも大事なことが。「その作品を通して語り、作品を通して問う」ことです。人の反応を見るのではなく、自分の感じたことを素直に伝えることが重要です。

ブロックで作品を作ってみよう

いよいよ演習が始まります。
学生たちに配られたケースのなかには50個のブロックが。
蓮沼氏から「このブロックを使って高いタワーを作ってください」とお題が出ました。

目の高さ、頭の高さを目指して、ブロックをつなげます。ブロックを縦にしたり横につなげたり。5分後には様々な形のタワーが出来上がりました。班でできたタワーを見て、作った人がこだわりを語り他の人が感想を言います。
安定を目指した人、最初に先端を作った人、色にこだわった人、作り方もさまざまです。
感想も「高くてすごい」「かわいい」などが飛び交っていました。

次はブロックを10個選びました。
周りの人と自分の選んだブロックを比べると「みんな違うものを選んでいますよね、これが個性なんです」と蓮沼氏は語りました。
そして、次のお題は選んだブロックで「ふしぎな生物作り」。
ブロックを組み合わせているときは、学生は皆真剣です。
作品ができたらまた班で対話します。
ケンタウルスみたいな神話の生き物、移動する植物などなど。
「どうやって動く?」「これは手?」など質問も活発です。「真ん中が黒いのは腹黒いってこと?」「そうかも」なんてやりとりも。

すると蓮沼氏から
「これは実は皆さんの3年後の自分なんです」と衝撃のお題が。
作った生き物を通じて、自分の将来について語ることに挑戦しました。
「皆に幸せを振りまく存在」「花を咲かせて世界平和を広める」など、不思議な生き物のプラスイメージを取り出し、なりたい自分を投影していました。

続いて蓮沼氏は
「ヒュッゲって知っていますか?」と5枚の写真を見せました。
ヒュッゲとは、レゴ発祥のデンマークの言葉。ハートマーク、暖かそうな部屋、笑顔の家族などが写されました。
「これらは全部、ヒュッゲです。皆さんがつかんだイメージを元に作品にしてください」と、蓮沼氏はヒュッゲとはなにかあえて説明しません。
学生たちが作った作品は「日常の何気ないしあわせ」「居心地の良い部屋」「花が咲いていて安らげるところ」など、ポジティブなイメージのものが多く出来ました。「あったかいイメージから連想して、太陽に近づけるタワー」を作った学生も。自分の思うヒュッゲが1つの班に4つできました。

「その4つのヒュッゲを1つのストーリーにしてください」と蓮沼氏。
異なる視点で作られたものを集合するとどうなるかを体験します。全員が参加し自分の思いや意見も反映されることが大切です。成長の物語や、癒しや尊さに気付くストーリーが作られました。

ウェルビーイングに貢献する事業とは

次はいよいよ大きな課題に挑みます。
テーマは「都心(恵比寿・渋谷・新宿)で生きる人々のウェルビーイングに貢献する新しい事業を作る」。
より充実した生き方ができるような事業を作品にします。ブロックは教室の真ん中に大量に広げられたものをすきなだけ使ってOK。時間は10分です。ブロック選びも頭を使わずに、手元にあるものから作っていきます。

出来た作品は多彩です。具体的なもの、抽象的なもの、大きいもの小さいもの、カラフルなものとさまざま。
「知らない人同士でも悩みを共有できるカフェ」「心に抱える意見を吸い上げられるタワー」などいろいろな作品がありました。
発表が終わると蓮沼氏は「他のメンバーの作品のなかで、あなたは何をしてみたいですか?」と問いかけます。
学生たちはこの人の作品のなから私はこういうことができる、もしくは自分のアイデアと組み合わせたら面白い、ということを話しあいました。

視点を変えることの大切さ

最後に、各班で今日の気付きを話し合い、発表しました。
「当たり前かもしれないけれど、同じパーツを使っても違うものが出来上がった」という気付きや、
「作品はそれぞれ違うけれど、公共性や多様性を大切にしたい思いは共通していた」という感想などが出るなか、
「自分は何がしたいのかを改めて考えるきっかけになりました」や
「就活で不安ななか、やりたいことを話し合える有意義な時間だった」という感想もありました。

蓮沼氏は「自分が持っているアイデアだけでなく、複数の意見を知ることは話し合いだけでは難しい。今まで皆さんが考えていたキャリアというものの見方が、今回で変わっていたらと思います」と語りました。
学生たちは視点を変えることや他者の意見を聞くことの大切さを学び、楽しい授業は終了しました。

深澤教授の話

グローバルキャリアデザインにおいて恒例となった「レゴ®︎シリアスプレイ®︎の技法と教材を活用したワークショップ」この授業のスタートで案内した時、学生の反応の多くは、ブロックを使ってのキャリアの授業が全くイメージ出来ないものでありました。
しかし、実際に講座がスタートすると、その表情が一変します。なかなか可視化出来なかった、これからのキャリアの道が見えてきたり、自分自身の興味関心がを改めて浮き彫りになったり、そしてグループの仲間からのメッセージで自分自身の強みが明確になったりと、このワークショップの深さに驚くことになります。
毎年、多くのサポーターのご配慮をはじめ、格別なるご尽力をいただいている蓮沼孝様に、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

2022年10月28日

幼児保育専攻と健康栄養専攻の学生が学科を超えてコラボレーション!保育園の子どもたちに向けて食育の教材を作成し披露しました。

 本学園と日野市は2017年に「子育て支援に関する連携協定」を締結しています。本協定に基づき神明キャンパスの一部を日野市に無償貸与し、2019年5月に「わらべ日野市役所東保育園」が開園しました。今回、この「わらべ日野市役所東保育園」において教育的連携の一環として、幼児保育専攻と健康栄養専攻の学生2名が、それぞれの専門性を活かし、食育に関する活動を行いました。夏野菜に関するパネルシアターを作成し、実際に保育園で園児たちの前で披露しました。活動した学生に今回の活動についてお話を伺いました。二人は経緯を記録に残し、「保育園の食育における保育士と栄養士の連携」といったテーマの卒業論文として仕上げる予定です。

保育園の子どもたちに夏野菜を好きになってもらうには?

活動するのは、生活文化学科・幼児保育専攻4年の鹿目茉那さん(井口ゼミ)と、食生活科学科・健康栄養専攻4年の伊藤楓華さん(辛島ゼミ)の2名。

鹿目さんは「もともと栄養学に興味があり専攻したかったのですが、自分は文系。栄養学は理系の分野なので断念し保育に進みました。そのため食育に興味があり、保育の面でも栄養は大事だと思い研究テーマに選びました」と言います。伊藤さんも「大学3年のときに保育園に実習に行き、子どもって可愛いと思ったんです。子どもたちを栄養の面で支えるのは素敵だと思った」と研究テーマを選んだ理由を語ってくれました。

まずは保育園の食育や給食に携わっている管理栄養士・栄養士の先生方に、子どもたちの食の実態や食育活動におけるニーズを伺いました。そこではコロナ禍で食育活動がほとんどストップしてしまっている現状が。食事中は黙食を徹底しているため食に関する話もしづらいといいます。そこで、「この園では夏野菜が苦手な子がいるため、夏野菜に関心が向くような教材があるとよい」とのお話をいただき、製作へ取り組みが始まりました。

お披露目は8月上旬。実際に保育園に訪問し、5歳の子どもたちの前でパネルシアターを披露しました。子どもたちは、最初野菜を見たときは「きらいなものの話だ」という反応もありました。しかし、栄養素が出てくると「名前が可愛い」と興味を持ち、名前を呼んだり感想を言ったり、最後まで楽しく聞いてくれたと言います。

お互いの分野を勉強!

二人は3年生の終わりに知り合いました。研究テーマが近い学生がいるよ、という先生の紹介でした。学科の違う二人は全くの初対面のところから、案を出し合い協力して製作してきました。

二人の活動はお互いの分野を勉強し合うところから始まりました。「食育」という共通点はあっても、幼児保育専攻と健康栄養専攻は全く違う分野です。伊藤さんは「保育園の実習も含め一週間で知識を詰め込みました」と話します。鹿目さんも専門的な栄養の勉強を基礎から習ったと言います。「栄養に関してはまったく知らず、まさに子どもレベル。勉強は大変でしたが、今の自分が分かれば子どもたちにも伝わるなと思って、実感をヒントにして製作していった」と鹿目さん。そうしてどの部分を抽出するかを二人で考えていきました。

子どもたちに伝える方法はパネルシアターを選びました。パネルシアターはボードにパネル布を貼り、紙で人形などを作り、布に貼り付けながらおはなしを展開する保育教材の一つです。ザラザラした布にひっかかりやすい紙を使うことで、マグネットやテープなどを使わずにおはなしできます。野菜に親近感を持ってもらうために、顔や体をかわいく描いたり、野菜の人形にポケットを作り、栄養素が出たり入ったりできるようにしたり。子どもたちに分かりやすく伝えるための工夫を重ねます。「時間も20分と長いので、飽きずに楽しく見続けられる仕掛けを作るのが大変でした」と鹿目さん。試行錯誤を積み重ね、先生方にアドバイスをもらい、改善し工夫を足して完成度を高めていきました。

伊藤さんは「栄養を覚えてもらうというより、野菜に親近感を持ってもらうことにフォーカスした」と言います。例えばピーマンに興味を持ってもらうために「ピーマンが苦いのはピラジンっていう苦み成分のお友達がいるからだよ」と苦いのには理由があるんだとシンプルに伝えます。また、最初に白いトマトを出し、リコピンを足すと赤くなるなど視覚的にも分かりやすいよう工夫しました。給食でいくらおいしそうなメニューを考えても、嫌いな食材は食べてもらえません。「実習で給食を食べるところを見ていましたが、先生が見ているから我慢して食べる子が多かった」と鹿目さん。無理して食べるのではなく、自分から進んで食べてもらうためには親しみを持ってもらうことが大事と思ったと言います。

苦労の結果、子どもたちの反応はとても良かったそう。特に嬉しかったのは、ピーマンが苦手だという子が、苦み成分「ピラジン」に親近感がわき「ピーマン食べてみようかな」と言ってくれたこと。実際に夏野菜に興味を持ってくれたことを実感できたと言います。

食育には学科を超えたコラボが大事

今回の共同制作はお互いにとても良い刺激を与えました。伊藤さんは「自分で作ってもただ栄養の説明になってしまうんです。堅苦しくて面白くない。紹介だけで終わってしまって。でも鹿目さんがアイデアをたくさん出してくれて、キャラクターの造形や仕掛けができていくのがとても楽しかったです」と語りました。鹿目さんも「栄養に触れられたことが嬉しかったですし、もともと作るのも好きなのですが、パネルシアターを作るのは規模が大きいので避けてきたんです。一人ではできなかった。協力したからこそ作ることができました」と嬉しそうに話してくれました。

今回の経験を通し、後輩たちにも活動が広まったらいいと考えています。「毎年食育をテーマにする学生はいると先生から聞いたんです。自分たちは先輩の話や活動は参考にできなかったけれど、食育は保育、栄養という両方の学問を学ぶことが大事。今回一緒に製作することで、それぞれの考えも違うことに気付いたので、今後食育をやりたいという学生がいればぜひ協力してやってほしい」と鹿目さん。

今後は、キノコなど他にも子どもが苦手な食べ物について教材を作っていきたいと抱負を語ってくれました。また「子どもが食べるものは大人が作っているので、親御さんにも食育だよりなどでアプローチしていきたい」と言います。就職してからも今回の経験を活かして、活動を続けていくつもりです。

2022年10月17日

「スマドリバー」の認知度を上げる施策を考える!電通デジタルの皆様からデジタルマーケティングの手法を学ぶ講義が行われました。

9月26日(月)に人間社会学科・原田謙教授と現代社会学科・井上綾野准教授の授業で、「スマドリバーの認知度を上げる施策を考える」ため、デジタルマーケティングの体験授業が行われました。株式会社電通デジタルから山能貴輝氏、荒木真衣氏、水藤彩佳氏が講義を行って下さいました。学生たちはデジタルマーケティングの手法を使い施策を考え、10月末にプレゼンテーションに望みます。

「スマドリ」ってなに?―飲み方にも、多様性を―

「スマドリ」とは「スマートドリンキング」の略で、お酒を飲む人・飲まない人、飲みたい時・飲めない時、あえて飲まない時など、自分の体質や気分に合わせて「飲み方」の選択肢を広げることで、多様性を受容できる社会を実現するために商品やサービスの開発、環境づくりを推進していくことです。コロナ禍をきっかけに日々の生活の多様化は加速しました。お酒との付き合い方もその一つです。大勢での飲み会が減り、自分のペースで楽しむ人たちが増えてきました。そこでアサヒビール株式会社と株式会社電通デジタルが「スマートドリンキング」を推進するために合弁会社として「スマドリ株式会社」を設立。

今年6月にはスマドリ株式会社と一般社団法人渋谷未来デザインが主催となり「渋谷スマートドリンキングプロジェクト」を発足。大学生を含む渋谷の若者を中心に飲酒の適量や飲み方などの啓発活動が始まっています。

山能氏による講義も「お酒ってなに?」「酔うってどういうこと?」というところからスタートしました。国が推奨する一日あたりのアルコール適正量は男性20g、女性10gとされています。アルコール度数5%のビール500mlでアルコール量は20g。つまり、実はビール1本で適正量に届いてしまうのです。飲みすぎると脳や身体に影響を与え、健康を損なったり事故につながったりしてしまう可能性があることが示されました。

また、お酒を飲める人・飲めない人の違いについても学びます。アルコール代謝の時に出る「アセトアルデヒド」を分解する酵素の活性が強いか弱いかは遺伝で決まります。日本人はお酒に弱い人が全体の約44%とされ、約2人に1人が弱い体質なのです。また女性は一般的に体格やホルモンの関係から男性よりも酔いやすいことが説明されました。

スマドリでは、「飲めない自分のままでいい-飲めても飲めなくても、みんな飲みトモ-」をコンセプトに、スマドリの世界を体験できる「SUMADORI-BAR SHIBUYA」を渋谷センター街に今年6月~展開。お酒が飲める人も飲めない人も、Alc.0%/0.5%/3%の自分に合ったアルコール度数と好きな味を楽しめます。飲めない人にとってのバーという非日常な空間と、カフェのようで入りやすい安心感を両立する場です。

デジタルマーケティングを体験!

続いては荒木氏によるマーケティングの説明が始まりました。そもそもマーケティングとは、商品やサービスが売れる仕組み作りのことで、データを活用したマーケティングのことをデジタルマーケティングと言います。
人々が商品にどう反応したのかデータを蓄積し分析。顧客に商品を届けるためにニーズを知り、デザインや宣伝方法等を考えるのです。

データとは、デジタルコンテンツを使った履歴や位置情報、検索履歴など多岐に渡ります。また、その人の職業や年齢、行動パターンなどもデータになります。

ペルソナを決めてカスタマージャーニーマップを作成しよう

最後に水藤氏から「カスタマージャーニーマップ」の説明が始まりました。カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品を購入するまでのプロセスを旅に例えて、行動や心理を可視化するものです。

マップを作成することで、顧客の行動や心理を「線」で考えられるようになります。ライフスタイルの一環としてスマドリを広げていくためには、日常のさまざまなところでスマドリの考えを知り興味を持ってもらうことが大切です。そのためには、ターゲットがどのような行動や心理をたどるのかを考えることが必要になります。

マップを作成する際に大事なのがターゲットの人物像。仮想の人物「ペルソナ」を設定し、今回はその人物がどのように「SUMADORI-BAR SHIBUYA」を知り、興味を持ち利用するまでを考えます。

今回は大学生でお酒が飲めないペルソナを設定。時間が与えられ、班に分かれてペルソナシートを埋めていきます。「どんなことに興味があって何を使って検索するのかなど、具体的に固める方が施策を考えるときに手掛かりになります」と山能氏。バイトは何をしている?テレビ番組は何を見る?どこに住んでる?趣味は?相談して人物像を固めていきます。

人物像が決まったらマップの作成です。
まず考えるのは「利用前」の状態。ペルソナが「SUMADORI-BAR SHIBUYA」をどこで知り興味を持つのか。インスタグラム、友達の誘い、口コミなど、ペルソナの性格や行動に沿って考えます。

学生たちは「街で見かけてもすぐには入らないよね」「友達はどういう繋がりだったら興味持つかな」と細かく考えていました。

選ばれた案はSIWで発表!

この日の講義ではここまで。利用中・利用後のマップの作成と、「SUMADORI-BAR SHIBUYA」の認知度を上げる具体的な施策案を考えることが次回までの課題となりました。「例えばSNSのキャンペーンを行うという案の場合、利用するSNSはTwitterかinstagramか、キャンペーンの参加方法やどんな賞品があるのかなど細かく考えてください」と水藤氏。「そのためにはペルソナをしっかり固めることが大切です」とアドバイスしました。

考えた案は10月末の講義でプレゼンします。中から選ばれたアイデアは、アイデアと出会う6日間と題した都市フェス「SOCIAL INNOVATION WEEK 2022」の中の、渋谷アイデア会議で実際にプレゼンし、スマドリ社社員他参加者からのフィードバックやディスカッションの場が与えられます。良い案はその後実施されるかも!実際の企業に案を出せる機会はそうありません。学生たちもやる気に満ちて講義を終えました。

2022年10月4日

実践女子学園高等学校で印刷博物館の資料から現代の課題を考える特別授業「JJスコレー」が行われました

夏休み期間中の8月22日(月)、23日(火)、24日(水)の3日間、実践女子学園高等学校で「JJスコレー」が行われました。有志の生徒たちが参加し、印刷博物館を見学して、持続可能な社会につながる課題を見つけるという特別授業です。3日目には校長先生や印刷博物館の学芸員の方を前に、見つけた課題と解決策について発表を行いました。

「JJスコレー」とはどんな取り組み?

「JJスコレー」とは、普段の授業では学べない体験を通して有志の生徒が課題にチャレンジする特別セッションプログラムです。3回目となる今回のテーマは「印刷博物館の所蔵品からSDGsについて考えよう!」です。課題は2つで、1つは「むかしの教科書から現代社会の課題を考えてみよう」、もう1つが「100年後まで残したい印刷博物館所蔵資料は?」です。

初日は印刷博物館へ。実際の博物館の取り組みや所蔵品を見学し、印刷の歴史や日本文化を学びます。グーテンベルクの活版印刷機、江戸時代中期の医学書『解体新書』や、マルチン・ルターによる『ドイツ語訳聖書』など貴重な現物を見学。学芸員の方による展示案内を聞き、印刷が歴史にどうインパクトを与えたかを学びます。その他、貴重な博物館の裏側も見せていただき知見を深めました。

明治の教科書から浮かび上がる現代の課題とは?

2日目は学校でリサーチ。2班に分かれ、明治時代の教科書『修身教本』(現代の小学校の教科書に当たる)に書かれた考えの中から、現代につながる課題やSDGsのゴールに紐づけて考えます。現代の教科書や道徳との違いや、同じところを比較し、未来をどう作っていきたいかを考えていきます。

課題を考える上で気を付けたいのが、当時と現代で目指す理想像の違いです。明治新政府はなってほしい「日本国民」像であり、現代はグローバルで持続可能な「地球市民」像という違いを意識しなくてはいけません。視点を変えて考えることが必要になります。3日目は印刷博物館の方々を前にプレゼンテーション。直前まで資料作りをし、パワーポイントで発表を行いました。

紙に対する問題意識の違い

1つめのチームは「紙」に対する意識の違いに着目しました。修身3年生の教本に、紙を大切にするようにという記述があります。現在も紙を大事にする考えは根付いていますが、当時は物を大事にするべきという道徳的観点からの記述でした。現代は地球温暖化から資源を守るという点が重視されている違いがあります。

紙の問題は、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」につながり、違法な伐採や過剰包装などの課題が挙げられます。これらを解決するには、適切な紙の量を使い電子化を推進したり、廃棄される食材から紙を作るフードロスペーパーを利用したりするなど様々な観点から取り組む必要があるとまとめました。

教育の観点から平等な社会の実現を目指す

2番目のチームは、教育が日本においてどう広まっていったかを調べ、SDGsの目標4番「質の高い教育をみんなに」を考えました。明治時代の小学校の就学率は、男性は約80%、女性は約30%でした。また、高校への進学率は現在の半分以下、大学へは1%しかいませんでした。明治の就業割合は林業や農業が多く高学歴は不要と考えられ、優秀かつ裕福な家庭の子しか学べませんでした。また、女性も学業よりも家業を助けることが重視されていました。

就学率は現代日本では改善されていますが、別の教育の課題として「ヤングケアラー」があります。一人親家庭が増加し頼れる身内がおらず、睡眠時間の低下や学習時間の減少している子どもが増えています。相談窓口も分かりづらく、支援を受けづらい現実があります。1988年からケアラーズセンターを設立し、ヤングケアラーの支援をしているイギリスを例にとり、相談窓口の普及や各家庭の状況把握に努めるべきであると結びました。

学芸員の方も感嘆

発表後に印刷博物館の学芸員・部長の中西保仁氏と学芸員の式洋子氏から講評をいただきました。中西氏は「短い時間でこんなに調べてくれたことに驚きました」と感心されました。紙の問題について「印刷会社としてとても意識するところです」と受け止め、「紙を大事にするという常識は変わっていませんが、しなければいけない理由が変化したことに注目したことが素晴らしい」と続けました。

式氏も教育問題の発表に対し「グラフや数字で表していて、説得力が増していた」と感嘆しました。ヤングケアラー支援の先駆者がイギリスであったことを初めて知ったと「皆が知らない問題や事実に注目し伝えようとすることが素晴らしい」との言葉をいただきました。湯浅茂雄校長も、「大学生でも難しい課題に臨み、現代と比べてなにが違うか、今にどうつながるかを考えた経験は皆さんにも財産になったのでは」と結びました。

100年後まで残したい印刷博物館の資料は?

最後に生徒それぞれの印象に残った資料や、後世に残したい資料を発表しました。レンズを覗くことで立体的に見える、江戸時代のVR「眼鏡絵」や、豪華な挿絵の嵯峨本『伊勢物語』、当時の地震観が分かる「鯰絵」などが挙げられました。葛飾北斎の浮世絵を上げた生徒は、「北斎だけでなく大勢の摺師や彫師が力を尽くしたことを実感できた」と言います。式氏は生徒たちが選んだ資料や理由について「資料の重要さだけでなく、当時の人々の労力や熱量を重視しているのだなと感じました」と述べました。

これからの社会を考える力を養う「スコレー」

最後に渡辺大輔教諭から、「スコレー(skhole)」とは、ギリシャ語で「余暇」という意味であるという話が出ました。中世では余暇に「学び浸れる」時間があることが一番の贅沢であり、そこから「スクール」の語源となったと言います。「スコレー」は正解がないことを扱い、考える力をつける貴重な機会です。生徒たちはこれからの時代を生きるための良い学びと経験を得ることができました。

2022年9月5日

共立メンテナンスのビジネスホテル「ドーミーイン」の認知度を上げる施策についてプレゼンする特別授業が行われました。

高橋裕樹特任教授による「株式会社共立メンテナンス」とのコラボ授業が6月24日に渋谷キャンパスにて行われました。1か月前に課題が出され、この日は最終プレゼンテーションに臨みます。課題は「共立メンテナンスが運営するビジネスホテル「ドーミーイン」の女子大生の認知度を上げる施策を考える」。全18班のなかから選ばれた5班が全員の前で発表を行いました。プレゼンの時間は10分です。共立メンテナンスの橋本氏と船木氏も丁寧にFBしてくださいました。

ストーリーズ広告を利用して女子大生にもアピール

一番手の班は、ドーミーインはビジネスマンからは人気が高いが学生が利用するには SNS映えしない点に注目しました。インスタグラムでは「#ドーミーイン」の投稿が少なく、20代はドーミーインには泊まっていないことが分かります。そこで、インスタグラムのストーリーズ広告を利用する案を提案。インフルエンサーにドーミーインを利用してもらい、その様子をストーリーズで流します。ドーミーインに来店しその「インスタを見た」と言うと特典がもらえるという作戦です。また、学生は電車での移動が多いため、駅構内で広告を展開することで、学生の目にもつきやすいのではないかと提案しました。

共立メンテナンスのお二人からのFBは「実例を入れていて説得力があった」と誉め言葉が。「ドーミーインとインスタの親和性についてもう少し言及があれば」という意見もありました。

口コミの投稿を増やす工夫を

2番目の班は20代女性の半数がビジネスホテルを使うという調査結果と、女子大生はSNSの投稿や口コミから情報を得るので、多くの人に利用してもらい口コミしてもらうことを目的に据えました。Z世代はオタク活動など宿泊以外の目的でホテルを利用することが多いことに注目。20代が多く利用する民泊サービスの「エアビー」などを比較することで、ホテル選びの基準は「安く安全でかわいい」ことが重要であるとしました。そこでビジネスマンに人気の夜鳴きそばではなく夜パフェなどのスイーツを出したり、浴衣やアメニティを充実させたり、女性専用フロアを作るなどを提案。様子をインスタグラムに投稿すると特典を付けることで口コミ効果を狙いました。

「現状分析をしっかりしている」という感心の言葉とともに、「フロアや部屋のレイアウトを変えることはすぐには難しい。実現可能性は少し薄い」というFBもありました。

女子大生のブームに乗れ!サウナで認知度アップ

次の班は女子大生にも人気のサウナに焦点を当てました。ドーミーインはビジネスマンの間で、温浴設備が整っているブランドという認識があり、サウナも評判が良いです。そこで注目したのが、女性も月数回サウナに行く人が最近増えていること。女子大生の80%以上がサウナに行った経験があります。ドーミーイン公式のSNSでサウナの魅力をアピールし、サウナ女子会「サ活」に利用してもらうという作戦です。

FBではサウナへの着眼点とコンセプトがしっかりしていることへの褒め言葉が。「インパクトがあるので、提案の仕方をもう少し工夫したらさらに良かったですね」と助言がありました。

SNSを使ってまずは知ってもらうことから

「認知度を上げる」課題ということで、泊まることにこだわらない提案をする班もありました。認知度を上げるにはやはりSNSを活用します。知ってもらう策としてTwitterで自分の周りにあるドーミーインの写真を投稿してもらい、「#私の街のドーミーイン」というハッシュタグをつけてもらいます。どこにある、というのを広げてもらうのです。また「助けてください」という自虐的なアピール方法で大学生に面白く思ってもらう作戦です。公式アカウントをフォローし投稿してくれた人の中から1か月に5人ほど宿泊券などのプレゼントを行います。キャンペーンは継続的に行い、大学構内のポスターなどで宣伝することも提案しました。

共立メンテナンスのお二人からは知ってもらう対策に特化していることや、公式アカウントのフォローのハードルを下げる施策も考えられていることについて感心の言葉が聞かれました。

「住むホテル」で思い出作りを

最後の班はドーミーインのイメージを変える戦略を提案しました。ビジネスマン向けの短期滞在ホテルというイメージをなくし、女子大生でも泊まりやすくするために考えたのが、長期宿泊です。女子大生の友達と共同生活してみたいという願望に狙いを定め、安価で長期宿泊プランを設定。朝食プランやアメニティを充実させ自分の家のように使えるようにします。観光目的にも利用でき、「住むホテル」として友達との思い出作りの場にしてもらうという提案です。

お二人からは「とても説得力のあるプレゼンでした」と評価が。ただ「プランを利用したくなるところまでもう一歩踏み込んでほしかった」という言葉もありました。

それぞれの考えやリサーチ力が光ったプレゼンテーション

5組の発表を終え、最後に総評がありました。「一次資料提出の時から、方向性が大きくグループに分けられました。プランを作る、広報に力を入れる、施策に着目する、の3つです」。それぞれのグループの中から優れていた班などに最終プレゼンに臨んでもらったということでした。最後に優秀班の発表が。「どの班もよく調べていて優劣は本当に僅差でした」と選ばれたのはサウナの魅力をアピールした3番目の班でした。優秀班にはドーミーインの無料宿泊券がプレゼントされました。

学生たちからも「今まで知らなかったが、ドーミーインの魅力を知れた」「短い期間だったがいい発表ができてよかった」という感想が聞かれました。

高橋特任教授からのメッセージ

 今回の授業は実際に企業様(株式会社共立メンテナンス)のご協力をいただき、グループで議論し、中間報告から最終的に企業様にプレゼンテーションを実施する課題解決型の授業を行いました。
共立メンテナンス様からのお題は「ドーミーインの女子大学生の認知度を上げる施策を考えよ!」でした。

今回の授業では全国にビジネスホテルを展開する「ドーミーイン」の認知度を上げることができるのか?同時に共立メンテナンス様の事業内容の理解、ビジネスホテルの理解、女子学生の消費者行動などの現状分析を行い、解決に向けて自分たちができることを考え、企業、業界理解、マーケティング的思考を深める事ができました。ビジネスホテルの特徴や、なぜ女子学生の認知度が低いのかなどグループで議論し課題を発見し、新しい宿泊サービスを企画提案できた事は学生にとって貴重な体験となりました。この授業をきっかけに学生自身も社会人として必要なスキルや取組姿勢など多くの学びがあったと思います。共立メンテナンス様、船木様、橋本様、本当にありがとうございました。

2022年7月28日

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を総括!五輪メダリストの有森さんが本学で特別講義を行いました。

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会からもうすぐ1年となる7月5日(火)、五輪女子マラソンメダリストの有森裕子さんが本学渋谷キャンパスを訪れ、特別講義を行いました。有森さんは、新型コロナウイルス感染症拡大により原則無観客で行われた前例のない大会を振り返り、「五輪は選手だけでなく見る人、支える人、すべての人々が主役の祭典。国と国の対抗戦でもない」と、五輪憲章に立ち返りその意義を見直す必要があると語り、「未来の五輪を変えていけるのは、大会運営当事者ではなく皆さんの声だけ。人ごとと考えずに自分の声で五輪を変えていく楽しみを見いだしてほしい」と呼び掛けました。

「自分で自分をほめたい」、あの名言から26年。東京五輪のレガシーとは

2、3年生が対象のキャリア教育科目「国際理解とキャリア形成」の一環として行われたこの特別講義。2020年、2021年に続き、五輪女子マラソンメダリストの有森裕子さんとスポーツニッポン新聞社の藤山健二編集委員との対談が実現しました。指導教授は文学部国文学科の深澤晶久教授(キャリア教育)です。

冒頭は、1996年のアトランタ五輪の女子マラソンに出場した有森さんが、見事銅メダルを獲得した直後のインタビュー映像を視聴するところからスタートしました。1996年の新語・流行語大賞にも選ばれた「自分で自分をほめたい」というあの名言が生まれたのは、まさにこの時です。あれから26年――、コロナ禍で1年延期、原則無観客という異例の状況下で開催された東京五輪から間もなく1年がたとうとしています。有森さんは大会開催当時を振り返り、「本来、東京五輪が開催されるはずだった2020年からすでに2年以上たっているが、なんともスッキリしない」と話します。「東京五輪の余韻はあっさりしていて、どこか冷めた感がある。オリンピアンの一人として五輪の基本に立ち返らなければいけないと思うようになった」。

一方で、東京五輪での日本人選手の活躍には目覚ましいものがありました。有森さんが2度目のメダルを手にしたアトランタ五輪での日本人のメダル獲得数は、金3個、銀6個、銅5個の計14個。それに対し昨年の東京五輪では、金27個、銀14個、銅17個の計58個と、日本人選手の競技力は確実に向上しています。それでも有森さんは「東京五輪には振り返る内容が乏しい」といいます。「コロナ禍での異例の開催となったことで、大会開催前に想定していたレガシー創出は実現できなかった。これは仕方のない結果だが、今もなお東京五輪のレガシーは何だったのか問い続けている状況にある」。

とはいえ、ソーシャルインクルージョンの実現には東京五輪の開催がプラスに働いたと続けます。「選手だけでなく、観客や運営サイド、さまざまな人たちのことをあらゆる角度から考える機会となったことには意義があった。大会後はパラリンピアンからの発信が増え、彼らを支えるスポンサーも当然のように増えた。障害は決して特別なものではなく、自分たちもいつでも障害者になり得る。すべての人たちが社会に参画する機会を持ち、共に生きていくことについて考える頻度が高まったことは喜ばしい」。

今こそ五輪憲章の基本に立ち返るとき

「五輪の主役は選手だけではない。観客も、運営スタッフも、ボランティアも、すべての人が主役」と話す有森さん。だからこそ、原則無観客での東京五輪は異様な大会だったと指摘します。「選手は参加したという満足度を得られたかもしれないが、観客という大きな主役を欠いての開催は異常だったと言わざるを得ない」。その言葉を受けて「選手の声だけが響く会場の様子を記事にするのには苦労した」と回顧した藤山氏は、ロシアの軍事侵攻が五輪休戦決議違反だと非難されている点に話を移しました。「五輪開幕の7日前からパラリンピック閉幕の7日後までを休戦とする」という五輪休戦決議は193のすべての国連加盟国によって採択されましたが、ロシアは北京五輪閉幕後間もなくウクライナへの侵攻を開始。ロシアおよび同盟国であるベラルーシの選手たちは、北京パラリンピックの出場を禁止され、その後も国際大会から締め出されています。この現状に対し有森さんは、「そもそもオリンピックは選手個人、もしくは団体による競技大会であり、国と国との対抗戦ではない」と述べた上で「国として選手をひとくくりにして排除しても平和的解決にはつながらない。五輪憲章を掲げているのだから、もう少し丁寧に判断してほしかった。このままでは排除された選手たちが国際大会の場に復帰する道のりは険しい」と、ロシアやベラルーシの選手の立場に寄り添いました。

そこで藤山氏は、「オリンピック競技大会は、個人種目もしくは団体種目での競技者間の競争であり、国家間の競争ではない」という五輪憲章の一文をあらためて掲示。有森さんは、「選手の中には国旗を掲げてメダルを取ることを目標に戦っている人もいる。それでも五輪憲章の根本原則を軸にしないと、本来の五輪のあるべき姿が崩れていく恐れがある」と警鐘を鳴らします。「五輪は国と国との対抗戦ではないし、世界選手権のようなチャンピオンシップでもない。標準記録はあるものの、それに満たなくても各国から1人は参加していいというルールがある。あくまでも『平和の祭典』であり、メダルの数を数えたり、国別の順位を決めたりすることには矛盾があることに疑問を持ってほしい」と学生たちに投げ掛けました。

さらに有森さんは、「メダルを逃して謝罪する日本人選手の姿をよく見るが、メダルが取れなかったことで自分を卑下する必要はない。自分をたたえることが支えてくれた人たちへの感謝になるはず」と続け、五輪は個人もしくは団体が競い合う中で、自身を高め、互いを認めることこそ重要だと強調。「競技前の記者会見で『本調子ではないけれど頑張ります』とコメントする選手がいるが、これは応援している人に対しても、一緒に戦う選手たちに対しても失礼」とスポーツマンシップの在り方についても疑問を呈しました。

そんな有森さんにとって、東京五輪からの新種目、スケードボードの選手たちの姿は印象深いものだったといいます。「スケードボードの選手たちは、互いの健闘をたたえ合っていた。メダルが取れた、取れなかったに関わらず、仲間の勇気を称賛し合うその姿は、順位や国を過剰に意識し競い合うほかの競技の選手たちの異様さを浮き彫りにした」。

男女平等な五輪とは

藤山氏は、2024年に開催されるパリ五輪では、長い歴史で初めて男子と女子の参加選手数が同じになる点を取り上げ、何を持って男女平等の五輪とするのか、その問題の複雑さについても有森さんに見解を求めました。「女子マラソンは1984年のロサンゼルス五輪で初めて採用された種目。当時は女性の体力的な問題が懸念されていたが、昨今では女子マラソンへの見方は変わってきた」と有森さん。陸上競技においては男女平等を声高にうたう場面に遭遇しなかったものの、「男性、女性という性別だけではくくれない世の中になってきていると感じる」と話します。「たとえば、生まれながらにして男性ホルモン値の高い女子選手の女子種目への出場を制限するような規定もある。ホルモン値をコントロールし、本来の自分の体を変えないと出場できないというのは、その人の基本的な人権を脅かすことにもなりかねない」とし、「一般社会のジェンダー問題がスポーツ界の問題にもなってきている。これを契機に、皆さんも男女平等について考えてみてほしい」と呼び掛けました。

順風満帆ではなかった有森さんの競技人生

対談の終盤は、有森さんの競技人生について話が及びました。中学、高校と、大きな大会で成績を残したことがなく、大学4年生の時は体育の教員になるつもりだったという有森さん。教育実習先の学校で「体育の先生って頭良くないんでしょ?」と生徒から思いも寄らぬ言葉を投げられ、スポーツ選手としてこのイメージを覆すことに興味を持ち、競技生活を続けることにしたといいます。「大学4年生の夏に、実業団に挑戦したいと両親を説得。予備知識を持たないまま、リクルート陸上部の門を叩いた。そこで初めてマラソンの名指導者、小出義雄監督にお会いし、1時間かけて陸上に懸ける思いを熱弁。『君の根拠のないやる気に興味がある』と監督に言わしめるに至り、入社させてもらえることになった」とのこと。当時は練習メニューをこなすだけで精いっぱいだった有森さんに対し、小出監督は決して「早く走れ」とは言わず、「何時間かかってもいいから、メニューはこなそう」と説いていたそうです。その言葉に従いながら、1日に30~40km、月に1,000kmと走り続けているうちに、有森さんはめきめきと実力をつけていくことになります。

そして、そんな血のにじむような努力の結果、ようやく手に入れたバルセロナ五輪の切符。しかし、有森さんは手放しで喜べなかったといいます。「女子マラソンの代表枠は3人。すでに2人は内定していて、残る1枠を松野明美選手と争うかたちに。当時は明確なオリンピックの代表選考基準がなかったこともあり、最終的に代表に決まった私を批判する人も少なくなかった」。そんなプレッシャーの中、有森さんはバルセロナ五輪で見事銀メダルを獲得して凱旋帰国します。「飛行機を降りて通路に出て無数のカメラのフラッシュを浴びた瞬間、メダルが取れて本当に良かったと思った。この時、メダルがまるで防弾チョッキのように感じられた」。

その後のアトランタ五輪までの4年の間も大変な道のりだったという有森さん。足底筋膜炎の手術を乗り越え、再びオリンピックの舞台に立ちます。「よくぞここに戻ってこられたと思った。そして、続く自分の人生の武器として、どうしてもメダルが欲しかった。誰かに自分の言葉を聞いてもらうためにはメダルが必要だった」。そして、見事銅メダル獲得を果たした有森さんは、目標にたどり着くまでの過程で悔いなくやり切った自分をたたえ「自分で自分をほめたい」、そう口にしたのでした。

未来のオリンピックは皆さんの手で

2つ目のメダルを手にした有森さんは、その後自らプロを宣言。今では当たり前となった選手の肖像権の自己管理やCM出演など、後進に新たな道を開きました。そんな有森さんは、五輪の未来について「スポーツを通した平和の祭典という基本を崩してほしくない。世界にまたがる祭典なので、さまざまなメッセージや社会の気付きを表現し、人間社会に寄与できる場であってほしい。世界中のすべての人たちをつなげる架け橋となり、大きな平和の象徴となる祭典であってほしい」と展望を語りました。「未来の五輪を変えていけるのは、大会運営当事者ではなく皆さんの声だけ。人ごとと考えずに自分の声でオリンピックを変えていく楽しみも見いだしてほしい」と呼び掛け、「五輪は選手のためだけのものではない。選手ファーストは競技当日だけで、基本は社会ファースト。さまざまな人々が共存する中で育んでいくのが五輪。ぜひ皆さんの手で未来の五輪を育ててほしい」と結びました。

グループワークでオリンピックの将来像を考える

 有森さんと藤山氏の対談の後、学生たちは「実践女子大生が考える五輪の将来像」というテーマで行うプレゼンテーションに向け、グループに分かれてブレストを行いました。開催規模、開催時期、開催地はどこがいいか、参加国、参加者(男女)はどうするか等々、作戦を立てるにあたり、有森さんに直接質問しに行く学生の姿も見られました。

 今回の特別講義から拾い上げたヒントを盛り込みながら、学生たちはどのようなオリンピックの将来像を考えるのか。プレゼンテーションは、今後の「国際理解とキャリア形成」の授業の中で行われる予定です。

深澤教授の話

スポーツニッポン新聞社様とのコラボ講座は、今年で5回目を数えました。
「東京2020」について、共に考え、共に参加することを楽しみに進めてまいりましたが、延期、そして無観客開催と、想定外の変化の中で行われた大会から1年、大切なのはしっかりと振り返ること、まさにレガシーを考えることに意義があると考え、本年も継続して実施いたしました。
そして、今年も有森裕子さんと藤山健二記者にお越しいただきました。
オリンピアンの立場から、また現場での長い取材経験からの視点は、とても興味深い内容でありました。とりわけ、オリンピックパラリンピックは、国別対抗ではなく、個人と個人が競い合い高めあうことであるというお話しは、今後のオリンピックパラリンピックを考える上で大変貴重なお話しでした。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

2022年7月27日 スポーツニッポン新聞に掲載

©スポーツニッポン新聞社

今回の取り組みが7月27日(水)のスポーツニッポン新聞にて掲載されました。また、オリンピック・パラリンピック1周年記念セレモニーにも本学が参加しており、その取り組みも記載されています。