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2025年7月18日

巡礼を通し本当の「ホスピタリティ」を学ぶ。「国際理解とキャリア形成」の授業でサンティアゴ巡礼を通じた国際交流の特別講演が行われました。

共通教育科目「国際理解とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、5月20日に元株式会社資生堂の社員だった片山琢美氏、杉山祐一氏をお呼びしての特別講演が行われました。サンティアゴ巡礼の経験を通して感じたことを、写真を交え語られた二人。学生たちは国際的なつながりやホスピタリティについて考える貴重な機会となりました。

1ヶ月間歩いて自分と向き合う

最初に登壇したのは片山氏。

1975年に資生堂に入社し41年間勤め上げました。物流に関する仕事に携わり、海外での業務経験も豊富。

退職後サンティアゴ巡礼の旅に魅せられて、現在までに3回踏破しています。サンティアゴ巡礼とは、スペイン北西部にあるサンティアゴ大聖堂までの道を、ヨーロッパ各地から自分の足で歩く旅のこと。パリから出発した場合、サンティアゴまでの道のりは1500キロで、2か月間歩き続ける過酷な旅となります。今日では、あらゆる宗教を乗り越えて、世界で180ヵ国以上(*1)の人々がサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指して歩いており、2024年には50万人が歩いたと言います。 (*1)サンティアゴ巡礼事務所2024 年度統計情報)

片山氏もキリスト教徒というわけではなく、「歩くのと写真を撮るのが好き」と言います。特に高校生のときに見たゴッホの描いたヨーロッパの田園風景に強い憧れを抱いていました。

フランスの麦畑を自転車で走ってみたいと、少年の頃からの夢を実現するために、自転車旅をしたのが巡礼の始まりだと語りました。

一期一会でみんながファミリー

片山氏は巡礼路で出会った人々との写真を見せつつ、たくさんのエピソードを語ってくださいました。

①遠いスペインの地で偶然出会った日本人。彼の姉は、僕と同じ広島の高校だった。世界は広いようで狭いと感じた。
②自転車で喘ぎながら坂を上っていた時、急に背中が浮いた。足を引きずりながら僕の前を歩いていたオランダの青年が背中をぐぃっと押してくれていた。そのやさしさに涙が溢れた。
➂大切なエピソードとして「巡礼路ではみんなファミリー」という言葉を紹介。巡礼宿で誤って骨折したカナダの女性を、オーストラリアの女性が気遣って病院へのタクシーを手配した時、僕に話してくれた言葉。それは、巡礼者同士の助け合い、共同性の精神だった。
④朝ごはん食べませんかと、オーストラリアの青年が声を掛けてくれた。あっという間に8ヵ国の人々が車座になった。
⑤ブルゴスで出会った自転車旅のスソさん。「スペインの陽気な青年でゴールのサンティアゴまでお供してくれ、とても助かりました。彼とは、今でも交流があります。」

「巡礼路を歩く人々は、ほとんどがもう一生会えない人たち。まさに一期一会です」と片山氏。

「出会いは一度限りだからこそ、いま自分に出来ることを尽くし、心を込めてもてなすというホスピタリティを実感した」と感慨深く語りました。 

新しい自分に生まれ変わる旅

後半は杉山氏にバトンタッチ。
杉山氏は片山氏の資生堂時代の先輩ですが「仕事での絡みは少なかった」と話します。「サンティアゴ巡礼を通して盟友になりました」と語る杉山氏は、2012年から2018年にかけて計6回巡礼路を踏破。距離はなんとのべ3,000kmになると言います。
杉山氏は絵を描くのが好きで巡礼に魅せられたと語り、コロナ禍にはこれまで書き溜めた巡礼路の風景のスケッチをまとめた本も出版されました。

杉山氏もさまざまな経験を語り、サンティアゴ巡礼でかけがえのない体験をしたことを学生たちに伝えられました。
一番ドラマチックなのはなんといっても到達の瞬間だと語ります。サンティアゴ大聖堂のオブラドイロ広場では、たくさんの巡礼者がハグをしたり石畳に大の字になったりと全身で喜びを表します。
「巡礼者たちの多くは、新しい自分に変わりたいと思って巡礼の旅を始めます」と杉山氏。まだ見ぬ自分と出会うことができるのか、迷いや不安のなか歩き続けるのです。
そして到達のとき、長かった道のりを思い返し、静かな意志のある表情に変わっていくと言います。「それぞれが新たな目標を決め、これから頑張ろう、と思うようになるんです」と、自分自身を乗り越える旅であることを語りました。

ホスピタリティにより生まれる利他の心

そしてサンティアゴ巡礼で欠かせないのが、「ホスピタリティ」です。杉山氏は「ホスピタリティとサービスの違いはなんだか分かりますか?」と学生たちに問いかけました。サービスはマニュアルがあり、画一的なもの。
対してホスピタリティは一対一の関係性で成り立つものだと語ります。「お世話をした人、された人どちらも満足してこそホスピタリティ。行われる手助けはそれぞれオリジナリティがあり、相手の期待を上回るものです」と話しました。

「片山さんも言っていましたが、巡礼者はお互い助け合うゆるやかな共同性の中で過ごします。皆さんも例えば文化祭などの企画で、大学外の人たちと共同作業を行うこともあるでしょう。違うコミュニティの人たちが集まり、お互いの立場を尊重しながら同じ目的に向かっていく連帯感からホスピタリティは生まれます」と杉山氏。
このホスピタリティと、歩くことで自身と向き合う内省の時間が化学反応を起こし、人の役に立ちたいという「利他の心」が生まれると話しました。

何度も巡礼をする魅力とは?

講演の後は質疑応答の時間。学生が次々に手を挙げました。
「大変な旅だと思いますが不安はなかったですか」という質問に、杉山氏は「不安はあります。言葉が特に。言葉はスペイン語の他に世界各国の人が来るので英語力も必要ですね」と回答。
片山氏は「行くときは毎回不安です。でも終わると達成感に包まれるんです」と答えました。

「巡礼について初めて知りましたが自分もやってみたいと思いました」という学生も。
「巡礼を終えて心境の変化はありましたか」という質問に、杉山氏は「あるがまま、ということを実感できるようになりました」と話します。
片山氏は「前向きになり、いろいろなことにチャレンジできるようになりました。皆さんも、これだと思ったことは積極的にやってほしいと思います」と語りました。

めったにない体験を伺い、学生たちにも刺激になった講演となりました。

担当教員からのメッセージ

私が資生堂勤務時代にお世話になった片山さんと杉山さんをお迎えしてのスペイン特別セッションが今年も行われました。今年は、前半のセルヒオさんのご講演を含めて2回シリーズとなりました。この授業のタイトルでもある「国際理解」の本質につながる様々な経験をされている片山さんや杉山さんのお話しから、学生は貴重な時間を過ごさせていただいたと感じています。
サンティアゴ巡礼という特別な経験の中からお二人がお話しされた「人と人との出会いの大切さ」まさに「一期一会」の大切さを改めてそして深く教えていただきました。
片山さんは、この講座の後、再びスペインに出かけられました。
片山さん、杉山さん、そしてセルヒオさんに、厚く御礼申し上げます。

2025年6月5日

スペインと日本のつながりの歴史とは?「国際理解とキャリア形成」の授業でスペインを知る特別講義が行われました。 

共通科目「国際理解とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)の授業で、5月13日にスペイン人留学生であるセルヒオ・マテオ・アランダ氏による特別講演が行われました。日本で長年住むなかで体験した、文化の違いで驚いたことや新しい発見などを楽しく語って下さいました。学生たちにとっても、国際的な目線から日本を客観的に知ることができる機会でした。

子どもの頃から親しんだ日本文化

セルヒオ氏は現在、埼玉大学の大学院の博士課程に在籍中で、日本語がとても流暢です。「スペイン人は明るいので冗談好き。面白かったら笑ってね」と、なごやかな雰囲気で講演が始まりました。彼はスペインのアンダルシア地方マラガ市の出身です。スペイン南部、地中海沿岸の温暖な地方に住んでいました。子どもの頃から両親の影響で、アジア文化に興味を持つようになりました。最初は三国志、そこから日本のアニメーションなどに触れるようになったと話してくれました。

小学生の時から授業を、スペイン語と英語で受けており「言語を学ぶことは楽しかった」と話してくれました。 マラガ大学在学中に、埼玉大学に一回目の留学を果たし、日本の観光についての論文を書きました。卒業当初は、エンジニアを目指していましたが、「言語を勉強することへの情熱が芽生え、まだ見ぬ自分を発見した」と語ってくれました。
そして一念発起し、アジアと日本の文化交流を調査するために、2023年から二回目の留学で、埼玉大学の大学院に在籍しています。

スペインと日本、文化の違い

次にセルヒオ氏はさまざまなスペインの写真を見せながら、学生たちにスペインのイメージについて話しました。 スペインは明るく晴れた日が多いので、レストランにはテラス席が多くあるけど、「日本では外のテーブルが少ないですね」 と話してくれました。この違いは、スペインの乾燥した気候と、日本の温暖湿潤の違いによるものです。
また、パエリアやトルティージャ、アヒージョなどスペイン名物の料理を紹介し、日本で同じ名前で食べられているものと、本場のものは少し違うと形状を比較し、その面白さについて語ってくれました。

「スペインはパン派でしょうか、米派でしょうか」という質問がありました。当然パンが多いのですが、パエリアをはじめお米の料理も多数あり、お米もよく食べる国民だと話してくれました。

また、スペインでは大晦日にマスカットを12粒食べると話してくれました。それは、翌年の12か月間が幸せに過ごせるようにとの願いが込められているそうです。「日本では年越し蕎麦を食べるが、スペインでも同じような伝統がある」と話しました。

セルヒオ氏が、最初に日本に来たのは2016年で、さまざまなカルチャーショックがあったと言います。些細なことで言えば、自転車通勤のサラリーマンのこと。スペインでは通勤と言えば自動車なので、自転車通勤の人が多いことにびっくりしたとか。また、困ったのはやはり漢字でした。「言葉はわかるけれど限界がある」と言い、市役所の手続きなどが大変だったと話してくれました。

古くからつながりのあった両国

セルヒオ氏は、フラメンコのダンサーが扇子を持った写真を見せてくれました。「日本でも扇子がありますね。遠い遠い国なのに、なぜ同じものがあるのでしょう」とセルヒオ氏が話しました。「不思議に思って調べてみると、私たちの国のつながりの歴史が分かりました」と語りました。

それは17世紀に、伊達政宗の臣下だった支倉常長が、バチカンに手紙を運ぶ使節団を結成し、その途中、地中海を通った彼らのうちの数十人がスペインに移住。その地で、日本の文化が定着したと話されました。

「南スペイン出身のスペイン人のなかには、苗字にJAPON (ハポン)と名乗っている人たちがいまも住んでいます。彼らの子孫ですね」と長い歴史のなかで、いまも繋がりがあることを話してくれました。

もうひとつ、スペインと日本で似ているものが「巡礼路」。スペインのサンティアゴ巡礼と日本の熊野古道の巡礼路は、どちらも世界遺産に認定されています。 どちらも長い歴史があり、巡礼路としての発祥時期が9世紀頃であったこと、また、殊に女性にとっての巡礼は子宝や安産祈願などが関わっていたことなどの共通点も。加えて、熊野古道の温泉郷(湯の峰温泉)やサンティアゴ近郊のオウレンセ市の露天温泉などの共通点もあり、「双方が温泉や観光にもいい場所ですよ」と紹介されました。

海外で生活するためには運も必要

講演の最後には、質疑応答の時間が設けられました。
「日本にきて驚いたことはなんですか」という質問には、セルヒオ氏は「自分より高齢者が元気なこと」と、笑いを交えながら回答されました。「異文化として、温泉にみんなが裸で入ること。ヨーロッパでは水着を着て入るので、 裸は恥ずかしかった」と話されました。

「話を聞いていて、日本でとても楽しそうに過ごしているなと感じました。モチベーションはなんですか」という質問もありました。セルヒオ氏は頷いて「確かに、日本の生活は楽しいです」と答えてくれました。

「ただ、海外で生活するには運もある。大変なこともありますが七転び八起きです。今は、日本で住み続けられるよう、翻訳家を目指して頑張っています」と目標を話されました。

日本に住む外国籍の方のお話を直接聞く機会はなかなかありません。学生たちにとって国際的な目線を得られる貴重な機会となりました。

担当教員からのメッセージ

元資生堂の片山様にお越しいただいて3年目を迎えます。片山さんに加え、杉山さんにも加わっていただき、今年は、スペイン人留学生のセルヒオさんも駆けつけて下さいました。日本に関心を持ち、現在も、日本の大学で留学生として学ぶセルヒオさんのお話しは、スペインから見た日本、スペイン人から見た日本人について、とても興味深いお話しをいだたきました。日本語も流暢で、かつ、とてもユーモアのある内容に、思わず聞き入ってしまう、大変興味深いご講演でした。次週は、片山さんと杉山さんからスペイン巡礼の道についてお話しいただきます。今年は2週にわたるスペインの旅です。セルヒオさんに心から感謝申し上げます。