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未来の自分を想像する!〈データ時代の女性キャリア開発〉の授業にて、株式会社マクロミルの特別講演が開催
11月18日(火)人間社会学部の学生を対象とした授業〈データ時代の女性キャリア開発〉にて、株式会社マクロミル(以下マクロミル)人事本部の井出美南氏をお招きし、特別講演が行われました。 授業と企業連携について 〈データ時代の女性キャリア開発〉は、人間社会学部の学生を対象に開講されている専門教育科目です。この授業では、データを扱う企業で働く女性をゲスト講師としてお招きし、業務内容やキャリアについてご講演いただき、学生は、データサイエンスに限らず、データを活用した現代日本におけると女性のキャリアについて理解を深めていきます。 今回の授業では、マクロミル人事本部の井出美南氏をお招きし、データを活用したマーケティングの工程についてご講演いただきました。講演では、実際の仕事に近いミニワークも行われ、学生たちはデータを使ったリサーチ業務を体験的に学びました。今回の授業は学生にとって、情報を活用する仕事に対してより深く考える貴重な機会となりました。 講演に先立ち、竹内教授からは「実際に自分が調査担当となった気持ちで取り組んでみましょう」と声がけがありました。 講演の初めに 井出氏はまず、自身について「2019年に新卒でマクロミルへ入社し、現在は7年目になります」と紹介。現在の採用業務を担当する前は、日用品の対面調査や生体データの分析など、データ収集と解析の現場で経験を積んできたことを説明しました。 また、マクロミルがBtoB(企業間取引)の企業であり、BtoC(企業対一般消費者)ではないため、表に出る機会は少ないと前置きしつつ、この時間を通じてマーケティングリサーチの企業がどのような仕事をしているのかを理解してほしいと語りました。 マクロミルの業務内容に見るデータと仕事 井出氏は、マクロミルの業務内容を「あらゆる生活者データを収集・分析し、ビジネスの成功を支援するマーケティングパートナー」と紹介し、マーケティングリサーチを通じて企業の課題解決を支えることが主な業務であると述べました。 また、マーケティングリサーチについては「消費者の実態を解き明かし、企業のマーケティング課題を解決すること」と説明しました。具体的には、企業から寄せられる「より良い製品やサービスを提供したい」という課題に対し、消費者へのリサーチを実施し、その結果をレポートとしてまとめて納品するという流れであると紹介しました。さらに、多様な調査手法を用いてデータを収集し、集まった情報を分析する仕事であると補足しました。 データとマーケティング 井出氏は、マーケティングリサーチの実際をイメージしてもらうために、会社で扱った代表的な事例として、有名飲料メーカーのビールシリーズの新商品開発を紹介しました。コロナ禍で外食が減少し、「宅飲みの拡大によって若者のビール離れが進んでいる」という課題に対し、性別を問わず若者をターゲットに商品開発が進められたと説明します。まずアンケートによる定量調査を行い、新商品の手がかりとなる意見を収集。その後、小規模な定性調査でアイデアの受容性を検証していく、という一連の流れが紹介されました。 定性調査の結果、ポジティブな評価が集まったことで前例のない発想が商品化へと結びついたと紹介し、名称やパッケージ、缶の塗料など、発売に至るまでのさまざまな検討が行われたことにも触れました。井出氏は、こうしたプロセスを例に挙げながら、身近な商品の裏側にも多くの調査が存在する点を強調し、「この商品はどんな人をターゲットにしているのか」と視点を持ってみることの面白さを学生に伝えました。 さらに井出氏は、自社のデータ活用の幅広さを示す別の事例として、ホラーゲームのマーケティングリサーチも紹介しました。企業から「より確実に選ばれるゲームにしたい」という依頼を受けたこのプロジェクトでは、テストプレイ後に面白さや恐怖を感じた場面をアンケートで把握する調査手法が用いられたと説明します。また、ユーザーの深層心理をとらえるために生体データの調査も行われ、プレイヤーにセンサーを装着して心拍数や手汗の変化を測定し、興奮や警戒が高まるタイミングを特定したことを紹介しました。こうしたデータを基に、音や驚かせる演出の調整が行われた経緯も説明しました。 実践!ミニワーク 井出氏は「皆さんも実際にリサーチのプロセスを体験してみましょう」と述べ、ミニワークの内容を説明しました。テーマは、「人気キャラクターを好む人はどのような特徴や行動特性を持っているのか」をリサーチするというもの。まず、井出氏から学生に対して膨大なアンケートデータが共有されました。 井出氏は、「まず『このキャラクターを好きな人はどんな人か』という仮説を立ててください。その仮説を裏付けるデータをアンケートから探して引用してみましょう」と話し、「データから読み取れる事実を紙に書き出してまとめてください」とワークの手順を丁寧に説明しました。 また、「このデータは、私たちが実際の業務で扱っているものと全く同じです」と述べ、現場で用いられる“リアルなデータ”であることも紹介しました。学生たちは2〜3人のグループに分かれ、約30分かけてワークに取り組み、終了後には数名の学生が結果を発表しました。 ミニワークの最後には、井出氏から模範例として、実際に企業へ納品する形式でまとめられた〈プロファイルサマリー〉の資料が紹介されました。学生たちは提示された資料を自分の解析結果と見比べながら、井出氏の明瞭な解説に真剣に聞き入っていました。 質疑応答 講演の最後に質疑応答の時間が設けられました。 学生が仕事のやりがいについて尋ねると、井出氏はこう答えました。「試飲調査やパッケージ調査の結果など、自分が携わったデータが実際の商品開発に生かされ、スーパーなどで店頭に並び、ターゲット層の方々に手に取ってもらえるのを見たときに、大きなやりがいを感じます。」 続いて、新卒でマーケティング業界を選んだ理由について質問がありました。「就職活動の軸に“商品開発に携わりたい”という思いがあり、さらに『1年目からマーケティングに関わりたい』という強い気持ちもありました。メーカーの場合、多くは営業経験を積んだ後に商品開発部へ異動します。私は早くから携わりたかったため、マーケティング業界を選びました。」 さらに、学生が印象に残った業務について尋ねると、井出氏はアイトラッキングを用いた視線調査を挙げました。「新商品開発を支援するため、コンビニやスーパーの陳列棚を会場内に再現し、消費者の方に普段と同じように商品を取って購入していただく対面調査を行いました。そこで、視線がパッケージのどこに集まるのか、手に取ったときどの部分を最初に見るのかを計測し、デザイン改善に役立てました。」 今回の授業は、学科での学びが社会でどのように生かされるのかを知り、将来のイメージを具体的に持つことができる貴重な時間となりました。 担当教員からのメッセージ 今年度から始まったこの授業では、毎回、企業で活躍されている方々をお招きし、各業界におけるデータの活用や、女性がどのようにキャリアを築いているのかについて、ご自身の経験を交えながら「リアル」なお話をしていただいています。 学生にとっては、教科書だけでは知ることのできない企業の実際の取り組みや、普段は意識することの少ない仕事の裏側に触れる機会となっており、毎回興味深く授業に参加しています。 これからの社会では、DX やデータの活用は、理系・文系を問わず、ほとんどの仕事に関わってきます。「得意でないから」「よく分からないから」と不安になる前に、まずは知ること、触れてみることが大切です。 この授業を通じて、将来の進路がまだ決まっていない人でも、「自分にもできることがある」と感じ、一歩踏み出すきっかけになってほしいと考えています。
ドコモとタッグを組んで企業の課題解決!「リーダーシップ開発a」の授業でNTTドコモとの特別連携授業が行われました。
「リーダーシップ開発a」(担当:人間社会学部社会デザイン学科・児玉充教授)の授業で、11月26日に株式会社NTTドコモ(以下ドコモ)との特別連携授業が始まりました。スマートフォンでおなじみの企業ですが、事業はその領域に留まりません。今回は、ドコモの強みである「量と質」の顧客情報を活かした課題提案に、学生たちが挑みます。 「スマホの会社」だけじゃない! 登壇したのは入社4年目の寺町沙紀氏。入社時は顧客や加盟店の課題解決を担うカスタマーサクセス部に所属し、今回の学生への課題もこの部署が中心となります。現在は人事部。「ドコモは自ら手を挙げて異動できる制度があり、自分で人事を選びました。ドコモは幅広い事業を展開しているのでいろんな仕事に関われますし、自分でやりたい仕事を選択できるのも魅力です」と語りました。 「みなさん、ドコモは何をしている会社だと思いますか?」という問いに、多くの学生が「スマートフォンを販売する企業」と回答。「実はそれだけではない、ということを知ってほしいです」と講義が始まりました。 ドコモは一般消費者に向けたコンシューマー事業のほか、法人事業も大きな事業の柱にしています。提携する企業は金融、医療から林業や漁業などの産業、自治体などさまざま。それぞれの企業のDX推進やAIの導入を手助けしたり、通信システムを整備したり。通信に関わることだけではなく、それぞれの企業の課題解決をドコモが担っているのです。 dポイントを活用し一気通貫でサービスを提供 今回学生に出された課題はマーケティングです。そもそもマーケティングとはなんでしょうか。寺町氏はマーケティングを「顧客に買ってもらえる仕組みづくり」と説明しました。今の時代、良い商品なら必ず売れるわけではありません。欲しい人に届くよう、どう伝えるかを設計することが基本です。 その軸として重要なのが「dポイント」。ドコモ独自のポイントで、会員数はなんと1億人超。スマホ料金などで貯まり、街中の店舗で使える利便性があります。加盟店は現在607社。企業側もdポイントに加盟することで購買単価や来店頻度の向上が期待できるのです。 さらに大きな強みが「情報」です。「ドコモの強みは量と質」と寺町氏。dポイントの決済履歴や広告閲覧履歴、アカウント登録時に入力した属性など膨大なデータが蓄積され、購買行動を細かく把握できます。従来のTVCMでは分からなかった効果も、ドコモのデータを活用することで精密な分析やターゲットを絞ったプロモーションが可能になると語りました。 ドコモが誇る情報を使って新しいサービスを考えよう! ドコモの持つ膨大な情報は、提携企業にも大きなメリットがあります。たとえばメーカーは、商品を作っても実際に誰が買っているか分からないことが多いですが、ドコモと組むことで商品の流れや購買行動を把握できます。自治体も人流データを活用し、観光振興や地域イベントづくりに役立てています。 そこで、いよいよ課題の発表です。学生は企業や自治体を想定し、その抱える課題をドコモのサービスを生かしてどう解決するかを提案します。また、誰に向けた施策なのか、ターゲットとなる顧客層を明確にすることも求められました。 「こうだったらいいな」の思いがビジネスの始まり 寺町氏は最後に「ビジネスの基本」について説明しました。ビジネスとは顧客ニーズをつかみ、解決策を考えて商品やサービスに落とし込むこと。物を作れば売れた時代から、社会的価値や自己表現など多様な価値が重視されるようになり、購買にも体験や意味が求められるようになりました。そのために重要なのが「ペルソナ」、つまり顧客像です。ペルソナを立てることで課題の仮説が作れます。 さらに競合や既存サービスにはない新しい価値を加える必要があります。「既にあるビジネスなら、新たにやる必要はないですよね」と寺町氏。顧客が本当に望み、代替できず、自社の強みが活かせるものを探すことが重要です。 「今回の課題はインターンの学生たちに出すような難しいものです」と寺町氏。「ただ、難しく考えず、あなたが何をどう提案したいかが一番大事。こうなったら良いな、いうものを自由に考えてください」と学生たちの企画に期待を寄せました。 企業をどこにするか、課題は何か、ドコモと組む理由、活かす強み、ターゲットは誰か。考えることは多くあります。学生たちはグループワークで企画を練り、12月のプレゼンテーションに臨みます。 担当教員からのメッセージ 本授業は少人数のグループワークを通じて、自分なりのシェアード・リーダーシップの発揮方法を体感し、人間社会学部で自律的に学習していくための専門知識やスキルの必要性を学ぶことを目的としています。近年、スマートフォンの普及に伴いデジタルマーケティングソリューションのビジネス領域が重要となっています。学生たちは新規ビジネスを考える上での各種フレームワークを学習し、dポイントデジタルマーケティングに関する課題に取り組みます。そして各チームでコラボしアイデアをまとめ、同社にプレゼンしご評価いただく予定です。独創的なアイデアからなるソリューションの発表を期待しています。
特集レポート!住友生命役員との対話セッションで、学生が“ウェルビーイングの未来”を語り合いました。
2025年11月10日(月)に、住友生命保険相互会社(以下住友生命)東京本社にて、企業の役員と学生がウェルビーイングに関するディスカッションを行いました。実践女子大学からは実践ウェルビーイング・プロジェクト(以下JWP)の学生6名が参加し、世代を超えたウェルビーイングに関する意見交換が行われました。 JWPについて JWPは企業と共にウェルビーイングに関する考えを深めていく課外活動のプロジェクトです。キャリア科目担当の深澤晶久教授が担当教員となり、毎年後期の期間中、有志の学生たちが企業訪問や講演、交流イベントを通じてウェルビーイングについて主体的に学んでいます。JWP参加学生が企画・運営を行うイベントも毎年開催されている他、今年度は企業とコラボしグッズの開発を行うなど、多様な活動を行っています。 今年度の活動の記事はこちら【サンリオコラボグッズ開発プロジェクト参加学生にインタビューしました!】https://socialcooperation.jissen.ac.jp/topics/9484/ 住友生命とウェルビーイングについて 住友生命は企業のパーパス(存在意義)を「社会公共の福祉に貢献する」と定めており、一人一人のウェルビーイングに貢献する「なくてはならない保険会社グループ」を企業の将来像として掲げています。ウェルビーイングに関する社内イベントの開催のほか、ウェルビーイングの支援を目的としたスマートフォン向けアプリ〈シアフル〉のリリースなど、ウェルビーイングに関する多様な取り組みを行っています。シアフルアプリ 紹介ページ https://www.sumitomolife.co.jp/about/wellbeing/waas/waasapp/index.html その取り組みの一環として、住友生命では将来世代と企業が積極的に対話し、ウェルビーイングな社会の実現を目指す「FR(Future Generations Relations)」活動を実施しています。今回、学生が参加したプロジェクトもその活動の一部であり、一日かけて行われる役員ミーティングの午後の部で実施されました。 住友生命HP FR(将来世代と共に育つ取組み)https://www.sumitomolife.co.jp/about/wellbeing/fr/ プロジェクトの概要 このプロジェクトは、「現在の日本の中核を担う世代」と「将来の日本の中核を担う世代」が、少し先の未来について議論することをコンセプトに、ウェルビーイングな未来に関するディスカッションを行うイベントです。 「将来の日本を担う世代」のウェルビーイングを主体的に学ぶ学生として、実践女子大学からはJWP所属の学生、東京大学の鈴木寛教授の大学横断型ゼミナールの「すずかんゼミ」の学生、世界初のウェルビーイングを専攻する学部である武蔵野大学ウェルビーイング学部長の前野隆司教授のもとで学ぶ学生が参加しました。 会場は住友生命東京本社の会議室です。47名の役員と24名の学生が参加し、12班に分かれてディスカッションを実施しました。向かい合わせの机には役員4名、学生2名が着席。学生にとって、役員の方々と直接話し合いながらウェルビーイングへの視点を深める貴重な機会となりました。 全体の進行にあわせてグラフィックレコーディングも行われました。グラフィックレコーディングとは、会議内容をイラストでリアルタイムに可視化する手法で、議論の活性化や要点の振り返りを助けるものです。 壁に貼られた白紙が次々とイラストで埋まっていく様子に、学生たちは興味津々。休憩時間には描かれた絵の前に集まり、ライブで制作される様子を見守る姿も見られました。また、同じように様子を眺めていた他校の学生や役員の方々との間に自然と会話が生まれ、イラストを介した交流が広がりました。 ディスカッションに先立って 今回のプロジェクトの司会から、ディスカッションに必要な9つの所作が共有されました。配布された用紙にアイディアを「書き出す」こと、視線を「あげる」ことで気持ちや考え方も持ち上がっていくことなどが紹介され、特に「アイディアをみんなで『重ねていくこと』を意識してみてください」と声がけがありました。 その後、このグループワーク中に呼んでもらうニックネームを各自で決め、ニックネームの由来や自分がどんな人か、普段何をしているのか自己紹介を行いました。グループではネームプレートを見せ合いながら発表し、お互いに顔を見たり微笑んでうなずき合ったりするうちに、会場全体は緊張した硬い雰囲気から、なごやかで生き生きとした雰囲気へとあっという間に変わっていきました。 司会から「役員の方はぜひ、ジャケットも脱いでいただいて」という一言があり、会場にはさらにあたたかく活発なやりとりが生まれていきました。生き生きとした空気に包まれた中、いよいよディスカッションのテーマが発表されます。 ディスカッション①「2050年に向けてつくっていきたいWell-beingな未来とは?」 冒頭で司会より『皆さんが抱えているモヤモヤを解消した社会の姿を思い描いてみてください』という説明があり、そのうえで、まずは個人で意見を紙に書き出し、続いてグループ内で共有する流れで進行しました。 あるグループでは、実践女子大学の学生が“Well-beingな未来”の要素として『縦社会を教えなくていい社会』を挙げました。これに対し役員から『縦社会とはどういうものを指しているのか』という質問があり、学生は『上の立場の人の様子をうかがいながら生活すること。立場の違う人同士が相互にリスペクトしあうことが大切で、一方的に下の立場の人だけが委縮する環境は望ましくない』と説明しました。ただし、縦社会のすべてを否定するのではなく、学ぶべき点もあるとしたうえで、“下の立場にいる人が不安なく過ごせる社会”こそ重要だと述べていました。 別のグループでは、役員から実践女子大学の学生に「ウェルビーイングについて全く知らない人に『ウェルビーイングとは何か』を教えてください」との問いかけがありました。学生は「自分を知ること。自分の価値観ややりたいことを見つけることができると目標を立てることができ、目標を立てるとそこへ向かって行動できるようになる。行動すること自体が自己肯定感にもつながり、ウェルビーイングにつながる」と説明しました。また、「周囲の人を知ることで、自分を知るきっかけにもなる。違いは比べてみないと分からないからこそ、自分以外を知ることも大切だと思います」と続けました。これに対して役員は、「他者と比較しつつ一歩引いて自分を見るという点は、メタ認知(自分を客観的にみること)につながる発想ですね」と感想を述べていました。 ディスカッション①全体共有 グループでの話し合いが終わると、全体での共有が行われ、指名された班から学生と役員が一人ずつ班で話し合ったことを発表しました。 最初の班の他大学の学生は、ディスカッションの結論として「やりたいことができることがウェルビーイングにつながる」と述べました。苦しいと感じる行動も、結果としてウェルビーイングにつながる場合があることや、能動的に行動するだけでなく「やりたくない」「なにもしない」といった選択ができることも重要だという意見を共有。それを許容できる社会が理想であると話しました。続いて役員は、「やりたいことに向かう過程でストレスを感じても、やり抜くことで自分がウェルビーイングになれる。そして、自分と関わった人たちもウェルビーイングとなり、その関係性が広がることで社会全体もウェルビーイングになっていく」と語りました。 次に発表した班の他大学の学生は、グループ内で価値観のすり合わせを行ったことや、特に家族に関する話題が盛り上がったことを紹介しました。学生たちは、「老後に必要な」「子ども一人に必要な」など、数多くの数字を日常的に目にしており、それらがリスクとして認識されやすいと話しました。また、前の世代の人たちは、今ほどコストに対する危機感を抱いていなかったのではないかと感じたことを共有しました。これを受けて役員は、「価値観の違いに本当に衝撃を受けた。特に『なんとかなる、という気持ちにならない』という言葉が印象的だった。自分の若いころは“なんとかなる”と考えていたが、『ワンミスワンアウト、一度の失敗ですべて終わってしまう』という感覚を持っていることに驚いた」と述べました。 学生の価値観に強い関心を寄せる役員の姿も印象的でした。学生の説明に思わずうなり声を上げたり、背もたれに深く体を預けながら大きくうなずいたりする様子が随所に見られ、真剣に耳を傾けていることが伝わってきました。新たな視点に触れ、世代を超えて相互に学び合う場となったことを感じさせる、密度の高いディスカッションとなりました。 ディスカッション②「Well-being な未来のために企業ができること/企業にしてほしいこと」 まず司会から、住友生命がこれまで実施してきた具体的な施策と、それに伴う価値観の変化についていくつかの事例が紹介されました。そのうえで「グループの皆さんで意見を重ね合い、ぜひ具体的なアイディアにしていただければと思います」と案内があり、①と同様に、参加者はまず個人で意見を紙に書き出し、その後グループ内で共有していきました。 あるグループでは、役員から実践女子大学の学生に対して「給料以外の部分、たとえば福利厚生において会社にしてほしいことはありますか?」という質問が投げかけられました。学生は「漠然とした話にはなるが、自分のことを応援してくれる会社がいい」と回答。役員から「応援とは、具体的にどういうことですか?」と質問が続くと、学生は「自分のやりたいことを肯定的に受け止め、その実現に向けて過程を一緒に考えてくれること」と説明しました。役員は軽く笑いながら「寄り添ってくれるということは、面談が多い会社になりますね」と返しました。学生は確かにといった表情でうなずき、和やかな雰囲気のまま次の話題へと進んでいきました。 ディスカッション②全体共有 ディスカッション②のグループワーク後は、①と同様に全体共有が行われました。リアルタイム共有システムを用い、各グループで出たアイデアをプロジェクターに映し出しながら発表が進められました。全部で9つの班が発表を行い、ここではその一部を抜粋して紹介します。 ウェルビーイング予算とハイタッチ・ハグキャンペーン 他大学の学生は、まず「ウェルビーイング予算」について「個人に予算を付与し、その使い道を柔軟にすることで、一人ひとりのウェルビーイング向上につながる」と説明しました。続いて「ハイタッチ・ハグキャンペーン」については、非言語コミュニケーションの価値に着目し、「他者とつながることで、自分の存在や価値を再確認できる。『理由は説明しづらいが、触れ合うことでほっとできる』といった経験が、よりよく生きることにつながるはず」と述べました。班のメンバーが実際に手をつなぎ、掛け声に合わせて動作をそろえるデモンストレーションも行われ、会場はあたたかな笑いに包まれました。 企業主体の地域活性化 実践女子大学の学生が配置された班では日本が抱える社会課題に対して「社会全体に危機感が薄いのではないか」という問題意識が共有されたといいます。そのうえで「家族以外に関係性を広げられる地域のつながりが重要」という意見が出たことを紹介しました。学生は「バリバリ働きたい人とそうではない人がいるように、様々な人が『地域』という単位で団結していれば、子育て、高齢者、果ては災害時にも相互支援で対応することができるのではないか」と報告しました。 東京一極集中の分散と、人生における“仕事”の位置づけ 学生は自分が地方出身であることに触れながら「地元や地方で挑戦したいことはあるが、実際のチャンスは圧倒的に東京に集中している。地方分散ができれば良いのでは」という意見が出たことを説明しました。また、仕事が人生に占める割合の大きさについて議論が深まったといい、役員からは「仕事を自己実現の場として捉えている」「仕事と趣味の拠点を使い分ける二拠点生活をしている」といった実体験が共有されました。学生は「『好きなもののために働くが、働くことで好きなことができなくなる』というジレンマから、仕事から自由になりたいと考えていました。話を聞く中で、新たな価値観に気づかされました」と振り返りました。 議論の締めくくりとして、一極集中など既存の制約の強さに触れ「宇宙に支店を作り、制約がない環境で実験する」というユニークな案が紹介されました。これを提案した役員は、「現実的な枠にとらわれてしまう自分に気づき、その枠から解放された発想が『宇宙支店』だった」と意図を語りました。 日常生活の中にウェルビーイングを見つける 他大学の学生は、表計算ソフトで数字がきれいにそろった瞬間や、SNSアプリの更新音に「すっきりとした心地よさを感じる」と紹介しました。そのうえで「みなさんも業務中に同じように気持ちよさを感じる瞬間があるはず。たとえば作業後にタブを閉じるときに可愛いエフェクトが出るなど、個々に合わせた工夫ができるシステムがあれば良いのではないか」と提案しました。日常の小さな動作の中にあるウェルビーイングを見つめ直し、共有していくことの重要性も強調しました。 “人とつながる”ウェルビーイング 本学の学生が配置されたこの班では「ウェルビーイングの実現には、人と人のつながりを深めることが不可欠」という前提から議論が始まり、様々なアイディアが生まれたといいます。案の一つとして「直接的なコミュニケーションが得意でない人にも向けて、メタバース上で交流できる仕組みをつくる」という案が紹介され、「これからは『メタバースでつながる』という価値観も重要になるのでは」とまとめました。また、ウェルビーイングに関する一定の知識を持つ人を“見える化”するための『ウェルビーイングシール』というアイデアも挙がり、「資格が存在しない今だからこそ、可視化することで周囲に安心感を与えられるのでは」との提案もなされました。 ディスカッションのおわりに 前野教授は学生たちの発表を受け、「学生の突拍子もない意見を、単に“できない”と切り捨てるのではなく、その背景にあるより抽象的な『求めているもの』を受け取ってほしいと思いました」とコメントしました。 続いて、グループワークを終えた役員の方々に感想が求められました。役員からは「学生二人がチームを力強く引っ張ってくれた。Z世代らしい視点を感じつつ、情熱をもって提言してくれた」「仕事観の議論では、価値観は人それぞれ異なるが、“よりよく生きたい”というウェルビーイングの方向性は共通していると感じた」といった声が聞かれました。 また、「世代的に“つながり”を重視しないのではと思っていたが、学生の発言から『つながり』という言葉が多く出てきたことが意外だった」「『他人を知ることで自分を知る』という考え方を持つ学生がいることにも刺激を受けた」といった意見も寄せられ、ディスカッションを通じて学生との交流が役員にとって大きな刺激や新たな気づきにつながったことが語られました。 プロジェクトの最後に 全体の締めとして高田社長からご挨拶がありました。 あいさつの冒頭では、この一日ミーティングに参加した役員の方々をねぎらいながら、「会社では見ない笑顔で笑っていた」とユーモアを交えて場を和ませました。 続けて、高田社長は「普段は数字にこだわっており、できない理由・やれない理由はいくらでも出てくる。しかし、学生の発言には今だからこそ気づかされることがある」と述べ、普段関わらない学生との対話が大きな刺激になったことを語り、役員と学生がウェルビーイングという共通点で集まったこの場を三位一体(キリスト教の重要な教義で、三つの要素(父・子・精霊)をさす言葉。この場合、三つのものが一つになり、緊密に連携して、全体として大きな力を発揮することのたとえ)と表現しました。 さらに、「ウェルビーイングという思想を実践していくことは、企業としての社会的責任でもある。学生から出た意見を現実化していくのは大人の役目だと思っています」と強調。「ちょうど来年度の計画や予算を考え始めている時期。不可能と切り捨てるのではなく、取り入れられる部分はしっかり検討していきたい。今目の前にいる、将来日本の中核を担うみなさんの世代が来るまでに、今日から小さなウェルビーイングを積み重ねていきましょう」と参加者へ呼びかけました。 あいさつのあとには、学生・役員・運営スタッフ全員で記念写真の撮影も行われました。さまざまな立場や視点が“ウェルビーイング”という軸のもとに交わった今回のプロジェクトは、学生にとって大変貴重な体験となりました。 担当教員からのメッセージ Well-being Initiativeへの参画企業である住友生命様が力を入れられている「FR(Future Generations Relations)活動」の一環として実施された役員ミーティング。住友生命様の全役員の方と学生との対話の場に本学4年生6名が参加させていただきました。当日は、47名の役員の皆さんをはじめ、大学生は24名、組織を超えて、世代を超えて、立場を超えて、行われた対話の場は、本学学生にとって極めて貴重な体験の場となりました。これからの社会がWell-beingで満たされて欲しい、そんな住友生命の皆さんのお気持ちが溢れる会場となりました。お声がけいただきました住友生命高田社長をはじめとする関係者の皆さまに、この場を借りて心から感謝申し上げる次第です。
コーヒー豆の麻袋がエプロンやポーチに!アップサイクルの商品作りについて、滝澤ゼミの学生にインタビューしました。
滝澤愛准教授のゼミでは、昨年に引き続きアップサイクル活動が行われています。多摩都市モノレール株式会社(以下多摩都市モノレール)や株式会社コバヤシ(以下コバヤシ)などのご協力のもと、廃棄予定の作業着やコーヒー豆の麻袋などの素材提供をいただき、かわいいエプロンやポーチに生まれ変わらせました。制作について学生たちにインタビューを行いました。 廃棄予定の素材を使ってアップサイクル 滝澤ゼミでは以前からアップサイクルの商品企画・販売に取り組んでいます。素材提供には、瀧定名古屋株式会社、ひの市民リサイクルショップ回転市場 万願寺店のご協力に加え、名古屋市身体障害者施設の就労継続支援B型の利用者の方々が縫製を担当したエシカル商品を制作しています。昨年からは多摩都市モノレール(廃棄処分となる使用済みの制服の提供)、今年からは、プラスチック製品の開発から製造・販売を行うプラスチックの総合企業であるコバヤシ(コーヒーの麻袋の提供)も加わりました。 布だけではなく廃棄予定の制服・作業着、使用済みの麻袋などさまざまな素材を使い、学生たちが新しい商品に生まれ変わらせます。今回新たに販売するアップサイクル商品の種類は3つ。エプロン、ポーチ、バッグです。それぞれのチームに分かれ、アイデアやデザインを出し合い制作しました。制作した商品は、日野キャンパスの常磐祭や多摩モノまつりでの実店舗販売と、コバヤシの楽天ECサイト「cococica」にて販売予定です。 株式会社コバヤシ 楽天ECサイト cococica https://www.rakuten.co.jp/cococica/ 「全体をみて、みんなで協力」 ゼミ長へのインタビュー ―進路に実践女子大学を選んだ理由はなんですか? また滝澤ゼミに入ったきっかけは? 「高校生の頃から家庭科の教員になりたいと思い、教育学部を含めさまざまな大学を見ていました。その中で実践女子大学は、教育だけでなく家庭科の専門的な知識や技術までしっかり学べると知り、進学を決めました。滝澤ゼミを選んだのも同じ理由で、制作を通して自分の技術を高められる環境に魅力を感じたからです。来年からは家庭科の教員として働きます。大学での学びを生かし、生徒から信頼される先生を目指していきたいと思います」 ―アップサイクル活動に取り組んでみた感想は?「それまでアップサイクルというものを知らなかったのですが、活動に関わるにつれ、自分でもやってみようと思うようになりました。実際にあまった生地をもらって、自分でも家でナップザックを作ったりしたりしています」 ―今年からコバヤシ様の協力も始まりました。去年と比べて変化を教えてください。「一番大きな変化は、販売の場や機会が広がったことです。これまでは対面での直接販売が中心でしたが、今年からはコバヤシ様のECサイトでも取り扱っていただき、ネット通販という新しい選択肢が加わりました。顔の見えないお客さまに商品が届くことを意識し、これまで以上に仕上がりの丁寧さやクオリティに気を配るようになったと感じています」 ―ゼミ長として大変だったことや楽しかったことを教えてください。「制作を進める中で、自分には難しい作業も、チームの誰かが得意だったりします。私はエプロンチームですが、逆に自分が力になれる場面もあり、お互いに補い合いながら進められることに大きな楽しさを感じました。ゼミ長として特に意識したのは、全体を見渡すことです。人数が多いため、作業によっては手が余ってしまったり、何をすればよいか迷う場面もあります。そんなときは一人ひとりの様子を見ながら声をかけ、自分も手を動かしつつ全体がスムーズに進むよう心がけました」 それぞれのチームにインタビュー! 協力して作り上げた作品たち Q1.昨年との違いや印象は?Q2.苦労した点、学びになった点を教えてください。 ・バッグを制作したチーム「昨年は作業着や布が中心でしたが、今年は麻袋など、まったく異なる素材の提供もありました。それぞれの素材を組み合わせて使うことで、デザインの幅が広がり、商品の選択肢もより豊かになったと感じています」「縫製が難しく、商品になるクオリティにする難易度が高かったですが、自分が企画したデザインが実現して買ってもらえるのはとても嬉しいです。学生のうちにこのような経験をさせていただける機会は貴重で、アップサイクルの考え方も自然と身についたと感じています」 ・エプロンを制作したチーム「昨年は一人一品作っていて大変だったのですが、今年はチームで取り組んで複数商品を作る形に。協力できるとその分の負担が減りますし、相談しながら決めていけたのは良かったです。エプロンの丈や、どうしたら売れるかなどたくさん考えることが出来ました」「麻袋はサイズがとても大きく、どんな商品がつくれるのかワクワクしました。一方で、縫製には扱いづらい部分もあり、うまく形にできるか少し不安もありました。それでも、完成したものはとても可愛く仕上がり、達成感がありました。ニットの切れ端など、ほかの素材と組み合わせて制作する工程も楽しく、素材の魅力を生かすことの面白さを実感しました」 ・ポーチを制作したチーム「昨年より制作を早めに取り掛かることができ、慣れもあったので順調に進められたと思います。また昨年は物販が実店舗のみでしたが、今年はコバヤシ様のECサイトで販売もしてもらえるので心強いです」「サンプルづくりが一番難しかったです。正方形の形にしたかったのですが、麻の厚みが影響して試作品はうまく成形できませんでした。そこで、生地の薄い部分を選んだり、裏地に工夫をしたりと、素材にこだわりながらイメージ通りの形に近づけていきました。チームでは、デザインが得意な人、制作が得意な人など、それぞれの強みを生かして役割分担しながら制作を進めています。はじめは「アップサイクル」という言葉の意味も分からなかったのですが、取り組む中で強く興味がわき、SDGsにも意識を向けるようになりました」 また本アップサイクル商品は、「ソーシャルプロダクツ展」(2025年11月5日(水)〜11日(火)、6階会場)のPOPUPストアとして大丸東京店にて展示・販売されました。滝澤研究室による産学福祉連携から生まれたバッグや雑貨が多数並び、多くのお客さまに手に取っていただく貴重な機会となりました 担当教員からのメッセージ 学生には大学の中だけ、教科書だけの机上の学びだけではなく、社会の中の様々な企業や障害者施設の方々などとの関係、活動を通じて、得難い経験と成長をしてもらえたらと考えています。
「アート・プロジェクト実践」の最終授業と学びのフェス2025夏にて、前期の授業成果の実践が行われました。
7月23日(水)に「アート・プロジェクト実践」(担当:文学部美学美術史学科 下山肇教授)の授業で、協力企業とゼミ卒業生をお招きし、開発内容の実践が行われました。また、8月6日(水)に実践女子大学渋谷キャンパスを会場に開催された、毎日新聞社主催「学びのフェス2025夏」にて来場した小学生を対象にプロジェクトを実践しました。 授業について 「アート・プロジェクト実践」は美学美術史学科の学生を対象に開講されている学科専門科目です。 「創造力開発系アートワークショップ」のオリジナルプログラムを開発する内容で、ワークショップの開発と実践を通じて、自己の協働力の向上と、地方創生に寄与することが目的となっています。授業で開発されたワークショッププログラムは、8月21日(木)~23日(金)にかけて開講される同学科集中講義科目「アートと社会連携」にて、福島県相馬市で実践されました。福島県と関連したワークショップ開発プロジェクトは今年で三年目の開催となります。→福島で行われたプロジェクトのプレスリリースはこちら(https://www.u-presscenter.jp/article/post-57048.html) 本授業は、福島で行われるワークショップの実践において、企画運営を株式会社織絵、ワークショップ内で使用するAR技術の提供を株式会社palanの2社と協働して行っています。 今年度の授業内容と経緯 今年は「福島県相馬市の小学生」を対象としたワークショッププロジェクトの開発が行われました。初回授業では、創造力開発を目的としたアートワークショップの詳細が説明され、このプロジェクトが地域創生を目的としていること、また「ワークショップで制作した成果物をAR化すること」が前提であることが共有されました。さらに、ワークショップで扱うモチーフは、かつて相馬市に存在した「中村城」であることが発表されました。学生たちはワークショップで城を制作し、その成果物をAR化。現地の風景に重ね合わせることで、新しい視点の提供と、現在の風景の魅力を再発見することを目指しました。 学生はまず「城」の構成要素を分析し、成果物に必要な要素(キーワード)を抽出。その要素を表現したラピッドプロトタイプ(アイデアを簡易的に形にしたもの)を制作しました。制作がある程度まで進んだ段階で、各自のプロトタイプを全員で共有し、「良かった点」や「改善点」などを発表し合い、意見交換を行いました。その後、出された意見をもとに互いのアイデアを組み合わせたり取り入れたりしながら、作品を発展させていきました。14回にわたる授業で制作と共有を繰り返し、最終的に方向性と具体的な制作物を決定。学生たちは制作手順を整理し、実践に向けた準備を進めました。 最終授業にて 7月23日(水)の最終授業では、株式会社織絵から代表取締役の作山雄彦氏ほか3名、株式会社palanから代表取締役の齋藤瑛史氏、デザインゼミ卒業生の牛島明日香さんをお招きし、現地で実践するプロジェクトを体験してもらい、フィードバックと感想をいただきました。学生はプロジェクトの手順や説明の改善策について、熱心にメモをとって聞いていました。 実践の様子 8月6日(水)に本学を会場として開催された、毎日新聞社主催「学びのフェス2025夏」にて、小学生を対象に、開発したワークショップの実践が行われました。大学生のほか、実践女子学園 中学校高等学校からボランティアの生徒が参加。小学生の制作のサポートを行いました。 福島での実践 開発されたプログラムは、8月21日(木)~23日(金)にかけて開講された美学美術史学科集中講義科目「アートと社会連携」にて、福島県相馬市で実践されました。実践の様子は、福島民報、福島民友に掲載されました。 担当教員のコメント 作品づくりのプログラムをゼロから開発するのは難しいことだと思われがちですが、まず必要なのは頭の中で成果を「想像」することではありません。自分の手を動かし、その場で現れたモノやコトの中にどのような良さがあるのかを自ら発見することから始まります。さらに自身では気づかなかった部分を仲間からの意見で認識しそれを取り入れたり、他者のアイデアと組み合わせていくことで、自分たち自身も驚くような思いもよらない作品が「創造」されるのです。私たちはこのプロセスを「手で考える」と呼んでいます。また我々の行うアートワークショッププログラムの実践では、アーティストや専門家が行うものとは異なる独自の魅力があります。大学生や中高生が開発し実践するプログラムは、アートに苦手意識を持つ方々にとっても親しみやすく、「創造」へのハードルを下げる効果が期待できます。こうした体験を通じて、身近なアートを手がかりに日常に隠された価値を「再発見」し、地域の創生や活性化や豊かな生活へとつながっていけばと願っています。
文化と共に歩みつづける!日本文化論bの授業にて、株式会社叶匠寿庵の特別講演が行われました
2025年10月30日(木)に日本文化論b(担当:国際学部国際学科 コルネーエヴァ スヴェトラーナ准教授)にて、株式会社叶匠壽庵(以下叶匠壽庵)人事部部長の角田徹氏をお招きし、特別講演が行われました。 授業と企業連携について 「日本文化論b」は国際学部国際学科の専門教育科目です。この授業では、日本人の行動様式や様々な慣習について、住まいや冠婚葬祭などをテーマに学んでいます。授業を通して日本の文化への理解を深め、自国の文化を出発点に、世界を多角的にとらえる国際的な視野を養うことが目的となっています。 今回の授業のテーマは「和菓子」。叶匠壽庵(かのう しょうじゅあん)から人事部長 角田徹氏をお招きし、日本文化の一つである和菓子作りのために、一貫した理念で行っている多様な取り組みを特別にご講演いただきました。 叶匠壽庵について 叶匠壽庵は、1958年に創業した和菓子の製造・販売を行う企業です。角田氏は、「京都の老舗和菓子店には、創業から1000年を超える店もある。それと比べると当社はまだ若い企業です」と紹介しました。 また、「和菓子という概念は、西洋から伝わった洋菓子と区別するために生まれた言葉であること」についても説明がありました。角田氏は、日本文化の特徴として「海外から入ってきた文化を、日本人が感性や好みに合わせて編集し、独自のものへと変化させていく傾向がある」と述べ、和菓子の世界においても同様に、「砂糖の輸入が和菓子に大きな影響を与えた」と紹介しました。 企業が大切にしている理念 菓子作りの原点は農業であるという考えから、「農工一つの和菓子作り」を掲げています。本社兼製造工場である『寿長生(すない)の郷』では、一部の原材料となる農産物を自社で栽培するなど、ものづくりの源流から関わる姿勢が息づいています。 この姿勢は多様な形で商品に表れており、その事例の一つとしてパッケージなどのデザインについて説明しました。角田氏は「パッケージのデザインについて、以前は他社に依頼していましたが、それでは会社の学びにならないという想いから社内にデザインを行う部署を設立しました。以降はすべて自社で行っています」と学生の手元に配布されたリーフレットをさしながら述べ、「皆さんのお手元にある和菓子のパッケージも社員がデザインしました」と紹介されました。 寿長生の郷について 寿長生の郷は、滋賀県大津市にある本社兼製造工場で、自然と人が共存する里山です。1985年に、「五感で四季を感じ、和菓子で表現する最良の地」として里山を開墾し、街の中心部から移転。角田氏は、「季節を表す和菓子を、四季を感じられる場所で、自分たちが収穫した素材でつくる。農工一つの和菓子作りの理念を体現している場所」だと紹介しました。 この理念を象徴する商品が、〈標野(しめの)〉という和菓子です。〈標野〉は、かつて近江(現在の滋賀県)で額田王が詠んだ和歌 「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」 を テーマとしたものです。夕日を思わせる穏やかな赤色のゼリーで、梅を使用した爽やかで芳醇な味わいが特徴です。 角田氏は、「〈標野〉に使う梅は、寿長生の郷で収穫されたものです。梅の木は移転時に植えた約1000本の苗木が成長したもので、剪定や受粉など、年間を通じて管理しています」と説明しました。収穫した梅はすぐ使用せず、一年間熟成させてから〈標野〉に加工されます。さらに、「以前は着色料を使っていましたが、すべて梅で再現したいという思いから、赤い梅の品種『露茜』の栽培を新たに始め、現在は素材の色だけで表現しています」と述べました。 叶匠壽庵HP 商品一覧「標野(しめの)」https://kanou.com/gnaviplus/item/shimeno/ 和菓子作りのこだわり 角田氏は、和菓子作りの中で大切にしている点として、「あんこを毎朝職人の手で炊くこと」を紹介しました。小豆の収穫は年に一度であること、また収穫後は品質が日々変化していくことに触れ、「一日ごとに変わる原材料の状態を見極め、その日ごとに最高の状態へ仕上げるため、炊く作業は職人さんに任せています」と話しました。 続いて、あんこを使用した叶匠寿庵の看板商品〈あも〉について紹介がありました。「〈あも〉は、あんこと餅でつくられた細長い和菓子です。『あも』とは宮中に仕える女房言葉で、『餅』を意味します」と説明しました。好調な売れ行きの一方で、「一口サイズがほしい」という声もよく寄せられていると紹介。しかし、「小分けにすると〈あも〉ではなくなる」と述べ、「新しい食べ方の提案をして親しんでもらおうと、商品を開発しました」と、最中に百人一首をプリントした〈あも歌留多〉を紹介しました。 角田氏は〈あも歌留多〉の図版を、本社と同じく滋賀に所在し『かるたの聖地』である近江神宮所蔵のものから引用していること、滋賀に訪れた皇室関係者に夕食後のデザートとしてふるまわれたエピソードも共有され、地域に根差し地域を代表する和菓子作りを行っていることを紹介されました。 叶匠壽庵HP 商品一覧「あも歌留多」https://kanou.com/gnaviplus/item/amokaruta/ 寿長生の郷の持続可能性 寿長生の郷は、環境省が指定する「自然共生サイト」(民間の取り組みによって生物多様性の保全が図られている区域)に認定されています。和菓子製造で排出される生ごみや伐採木の破片を活用した堆肥づくり、絶滅危惧種の保護活動、工場排水の浄化など、自然豊かな里山の環境を維持するため、多様な取り組みが行われていることが紹介されました。 木々は、樹木医の資格を持つ社員によって計画的に管理されており、角田氏は、「担当の社員が、100年後の寿長生の郷の風景を私たちにプレゼンしてくれるんです」と話しました。続けて、「認定を目指して環境整備をしたのではなく、できることに取り組み続けた結果、認定をいただけた、という感覚です」と述べ、自給自足を大切にする企業方針が、環境面でも高く評価されていることを紹介しました。 質疑応答 リアルタイムアンケート機能を使用し、学生からの質問に角田氏が回答する時間が設けられました。画面にずらりと表示された質問からピックアップして回答していき、採用された学生には角田氏から叶匠壽庵の和菓子がプレゼントされました。 最初の質問は、「和菓子界で今、一番困っていることは何ですか?」です。 角田氏は「原材料である米の調達」と答えました。全国的なコメ不足という背景を挙げ、「米農家が、もち米の生産リソースをうるち米へ回してしまっている」と説明しました。さらに、日本の食料自給率が約40%にとどまっている状況を踏まえ、「つくれるものは自分たちでつくる意識を持っています」と述べ、企業として持続可能な体制を追求している姿勢を示しました。 学生から一番多かった質問が「一番好きな商品は何ですか?」という質問です。角田氏は「〈紅白薯蕷(じょうよう)饅頭〉の白い方が一番好きです。予約限定商品なので手軽に手に入るわけではないのですが、食べたら違いがわかります」と紹介しました。叶匠壽庵HP 商品一覧「紅白薯蕷饅頭」https://kanou.com/gnaviplus/item/kouhakujouyomanjyu/ 講演中に紹介された銘菓〈あも〉について、「一口大にすると食感が変わると言っていたが、具体的にどう変わるのか」という質問が挙がり、角田氏は「〈あも〉はもちをあんで包んだ細長い和菓子ですが、あの長さがあるからこそ、もちとあんこの水分バランスが保たれ、独特の食感が生まれます。短くするとそのバランスが崩れ、食感も変わってしまう。つくり手からすると、それはもう〈あも〉とは呼べないんです」と説明しました。叶匠壽庵HP 商品一覧「あも」https://kanou.com/gnaviplus/item/amo/ 「和菓子づくりで一番大切なことは何ですか」という質問に対し、角田氏は「ストーリーです」と回答しました。続けて具体例として〈匠寿庵大石最中〉を紹介。本社のある滋賀県大石は、赤穂浪士で知られる大石内蔵助の祖先ゆかりの地であり、その歴史になぞらえて商品化されたと説明しました。最中に刻まれた山と川の模様は、討ち入りの際の集合の合言葉に由来するものだと補足し、「なぜこの和菓子なのか。土地と結びついたストーリーを持たせることが重要です」と強調しました。叶匠壽庵HP 商品一覧「匠寿庵大石最中」https://kanou.com/gnaviplus/item/ooisimonaka/ 講演の最後に 授業の最後に、三笠宮家当主 彬子女王が雑誌に寄稿した文章を引用しながら「日本の将来を担う若い世代や子供たちが、生け花や畳、床の間など、日本文化を『いいものだね』と親しんでもらわなければ、文化は過去の遺物になってしまう」ことを伝え、講演を締めました。 担当教員からのメッセージ 今回のご講演では、和菓子づくりに込められた叶匠壽庵の理念や地域文化とのつながりだけでなく、企業として大切にしている姿勢についても多くの示唆をいただきました。特に、人事採用の場で重視される「基本的な姿勢」や「挨拶の重要性」についてのお話は、これから社会へ踏み出す学生にとって大きな学びとなったはずです。専門知識だけでなく、相手を敬い、自ら成長しようとする姿勢が評価の基盤であるという実践的なご助言は、学生にとって特に心に残る示唆となり、たいへん有り難く感じています。和菓子づくりにおける一貫した理念や地域への深い理解、素材に向き合う誠実さは、そのまま社会人として求められる姿勢にも通じます。今回のご講演を、文化への理解を深めるだけでなく、自らの行動や将来像を見つめ直す貴重な機会として、生かして欲しいと願っています。
まつ育ファン化計画!実践キャリアプランニングの授業にて、アンファー株式会社とコラボした課題の発表が行われました。
2025年10月24日(金)実践キャリアプランニング(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)にて、アンファー株式会社(以下アンファー)から中溝幸生氏、堀川瑞希氏をお招きし、課題の発表が行われました。アンファーはスカルプDで広く知られている化粧品・健康食品メーカーです。 授業と企業連携について 「実践キャリアプランニング」は、1年生を対象とした必修の共通教育科目です。学生は、企業からのゲスト講師や在学生の先輩によるキャリア講演、企業と連携したPBL型課題などを通して、社会人基礎力を養い、多様化する女性のキャリアへの理解を深めていきます。 国文学科クラスでは、企業から提示される課題に学生がグループワークで取り組み、解決策を導き出す「課題解決型授業」として、アンファーとの連携を行っています。 当日はゲストとして、元アンファー株式会社常務取締役であり、現在もアンファー系列会社で相談役を務める中溝幸生氏と、アンファーグループグループ経営統括局 人事部の堀川瑞希氏が登壇しました。講演に先立ち、堀川氏は「学生の皆さんが将来の就職活動の際に、アンファーグループを選択肢の一つとして考えてもらえたら嬉しい。また、今日の課題にはぜひ一生懸命取り組んでほしい」とエールを送りました。 スピーカーの紹介 今回ご講演いただいたのは、中溝幸生氏です。中溝氏は元資生堂勤務で、深澤教授からは「私の先輩で、一緒に働いていました。机が隣だった時期もあるんですよ」との紹介がありました。 中溝氏のキャリアは営業職からスタート。「新卒で入社後、初めての配属先は、九州の長崎市でした。その5年の在籍期間中のうち、2年間は五島列島福江市に住みながら営業活動を行いました。」と振り返りました。その後、東京本社へ異動し、長くマーケティング業務に携わります。特に男性化粧品のマーケティングや商品企画を担当し、当時の企画書の写真を交えながら具体的な取り組みを紹介しました。赤字だった子会社の業績を大幅な黒字へと転換した事例についても触れ、「このときは社内表彰で社長賞をいただきました」と語りました。 また、上海駐在時の経験として、2010年の上海万博で協賛企業となるための企画提案に尽力したことを紹介。国際的なビジネスの現場で活躍された経験も語られました。 資生堂退社後はアンファーに入社し、これまでの経験を活かして商品開発や海外販路拡大などの業務に携わってきました。人事部に在籍していた際には、「役職敬称の撤廃(社長を“社長”ではなく“◯◯さん”と呼ぶ)」や「服装規定の見直し」など、組織改革にも取り組まれました。 商品企画や販売促進の施策立案、企画提案など、学生たちがこれから取り組む「課題に対する解決策の提案」と通じる業務を数多く経験してきた中溝氏。講演は、アンファーという企業の紹介へと続きました。 アンファーについて 中溝氏は「アンファーは、医学を中心に“美と健康”の領域で包括的なソリューションを提供するメディカルヘルスケアカンパニーです」と紹介しました。〈スカルプD〉をはじめ、スカルプケア・スキンケア商品の展開に加え、男性、女性の薄毛治療専門のクリニック、睡眠サポート、オンライン診療など、健康に寄与する多様な事業を展開しています。 アンファーは企業理念として「自分をより『美しく』『健やかに』することを通じ、人生をより『愉しく』したい人を増やすこと」を掲げており、中溝氏は「“愉しむ”という言葉が含まれているのがアンファーらしいところです」と語りました。さらに企業ミッションとして「医学に基づく、最適なソリューションの提供」を掲げ、医療機関との連携体制を強化している点も大きな特徴だと説明しました。医師や専門家の監修のもと、医療知見に基づいた商品開発や診療事業を行っています。 また、アンファーグループ内の企業構成についても詳しく説明があり、「皆さんがドラッグストアで目にする〈スカルプD〉や<まつげ美容液>の販売を行う企業と、クリニック事業の両輪で活動しています。」と紹介。「お客さんの悩みの深さに対応して、日常的の使う商品提供や治療を行う自由診療クリニックを運営し、すべてのお客様に満足いただける企業を目指しています」と述べました。 課題の発表 今回、学生が取り組む課題は「〈スカルプDまつ毛美容液〉のリピート対策の提案」です。中溝氏はシリーズの中でも〈スカルプDまつ毛美容液プレミアム〉を取り上げ、全15班に商品のサンプルを配布しました。 〈スカルプDまつ毛美容液〉シリーズは、2012年に誕生し、「毎日の目元ケアでご機嫌なわたしへ」というメッセージを発信する国内売上NO1のまつげ美容液ブランドです。まつ毛美容液のほか、マスカラやアイライナーなど、目元に特化したメイクアップ商品も展開しています。ブランド誕生のきっかけは「お客様の声」であり、アンファーが頭髪研究で培った知見をもとに、気軽で安心して使えるまつ毛美容液が開発されました。 中溝氏は課題設定の背景として、「美容液は、効果を実感するまでに少し時間がかかる商品」と説明。そのため、継続して使いたくなる工夫がないとリピートにはつながりにくいとし、サポートメールの配信や定期購入者に特典を付与するなどの対策を取り入れていることを紹介しました。さらに、企画提案の条件として「具体的なアプローチの背景を明確に説明すること」や「文字・図表・音声など表現方法は自由であること」を提示。「特に背景の部分をしっかり考えてほしい」と学生に呼びかけました。 講演の最後に中溝氏は「競合商品と比較しながら考えを深めてもらえたら」とライバル商品を紹介しながら助言し、学生の分析と提案に期待を寄せました。 授業の終わりに 中溝氏の講演に続いて、深澤教授から今後のスケジュールと具体的な取り組み方について説明があり、「皆さんにとって初めてのキャリア科目であり、初めての企業連携提案です。協働力と計画力を高めるプロセスを経験し、成長の一つの機会にしてほしい」と学生にエールを送りました。 学生は講義の残りの時間を使って早速グループワークに取り組みました。今後、2回のグループワークを通して企画をまとめ、その成果をアンファーの皆様に向けて発表する予定です。 担当教員からのメッセージ 今から約30年前、私が企業でマーケティングの業務に携わっていた頃に大変お世話になったのが、今回、ゲストでお越しいただいた中溝様です。こうして再び出会えるご縁の深さを感じています。今回は、学生にも身近な化粧品のマーケティングに関するお題をいただきました。学生たちの柔軟な発想から、どういった提案がなされるか、とても楽しみです。この場を借りて、中溝様には心から感謝申し上げます。
共働き世帯が住みやすい住宅を作る!人間社会学科の授業で旭化成ホームズとのコラボ授業が行われました。
9月29日に人間社会学科 原田謙教授の授業で、旭化成ホームズ株式会社の河合慎一郎氏による特別講義が行われました。社会の価値観の変化や、生活者に合わせた住宅の例を示しつつ、「LONGLIFE」な暮らしについてお話されました。学生たちには課題も提示。学生たちは11月にプレゼンテーションに臨みます。 いつまでもしあわせに暮らすためには? 旭化成ホームズは「住宅」を商品にしている会社です。戸建て住宅商品名である「ヘーベルハウス」は学生たちも聞き覚えがある様子。住まいを通して、安心で豊かな暮らしを実現することを理念としています。「つまり家だけではなく、最高な人生を提供したいという会社です」と河合氏が紹介されました。 河合氏は住宅設計士として旭化成ホームズに入社。これまで約450軒のマンションや戸建ての家を設計されてきました。現在はLONGLIFE総合研究所で、住んでいる人の価値観や時代の変化をとらえた新しい暮らしを研究されています。「LONGLIFEとは、長持ちするという意味ですが、単に家が長持ちすることだけを目指しているのではありません。住んでいる人の暮らしが、いかにハッピーな状態で長く続くかが重要です」と河合氏。 防犯防災、環境配慮についてはもちろん、子育てや働き方、ペットの有無などによって暮らし方は変わります。ミドルライフやシニアライフの研究も行っており、「今では浸透した二世帯住宅という言葉を作ったのは、HEBEL HAUSなんですよ」と話しました。 変わって行く社会に価値観 「今日は主に共働き世帯に注目して、価値観の変化と住宅商品開発の歩みをみていきます」と、河合氏はさまざまなグラフや表を提示しました。日本では1980年代以前は専業主婦世帯が当たり前で共働きはほとんどいませんでした。1986年に男女雇用機会均等法が成立。1990年代ころから共働きが徐々に増えていき、2000年代頃に拮抗。その後専業主婦世帯は急速に減少していきました。いまでは7,8割が共働き世帯です。 河合氏は30年前と現在の女性誌を比べて、価値観の変化についても話します。「昔は主婦を応援するようなおかずの作り方などがメイン。家事や育児を上手にこなすことを求められていました。いまは仕事も子育ても両立し、自分自身が輝ける行き方を求めるようになっています」。 答えは生活者のなかにある 旭化成ホームズは世の中の変化に合わせて住宅を開発してきました。1989年には、「共働き家族研究会」を発足させ、フルタイムで働く夫婦をターゲットに家事の省力化を提案しました。ダブルボール洗面台や買いだめ可能な収納庫などを備え付けに。今でこそ当たり前なオープンキッチンも開発しました。しかし、当時は時代がその発想に追いついていませんでした。開放的なキッチンは、あまりにも先進的だったのです。 河合氏自身も共働き世帯。まだ子どもが小さかった2010年代、息子を抱っこして娘の手を引いて買い物していた際の思い出を話してくださいました。レジの女性から「お父さん大変ね、大丈夫?奥さんに逃げられたの?」と聞かれたと言うのです。当時も調査では共働き世帯は増えているデータを示していましたが、まだまだ浸透するのは難しい。それを痛感したといいます。「いつの時代も研究開発の出発点は生活現場です。今の時代もAIや新しい技術が出ていますが、正解は生活している人の現場にしか答えはないと思っています」と話しました。 2010年代に提供していた住宅は、家事に関心はあるものの、うまく取り組めない男性層を主なターゲットとしていました。家族全員が使いやすいキッチンはどんなものかを考え、空間の真ん中に作業台を設置。子どもも手伝いができるようにし、調理時間もシェアすることで思い出作りにもなる場所を提供しています。 これからの時代に求められる住宅とは? ここで河合氏から改めて課題の発表がありました。テーマは「新しい住宅のサービス・商品の企画を行う」というもの。「皆さんの思う、こんな住宅やアイデアがあったら面白いなという考えを考えて見てください」と河合氏は話します。そして「このときに使えるのが5W1Hのフレームワークです」。5W1Hは、いつ・どこで・なにを・どうして、といった要素を考えることで課題解決や企画発案を考えるフレームワークです。 課題の発表の際にはどんな住宅の提案か、どんな人がターゲット向けか、どんな工夫があるかをポイントに考えることを伝えました。また「この企画が世の中や使用者にどんな役に立つのかを考えましょう。自分たちが楽しいだけで終わらないものを提案してください」と話します。 「皆さんに問いたいのは、今の世の中にどういった商品、住宅を提供するのか。ユーザーはどんなことに困っている?いまはどんな社会変化があるかを考えてみてください。そのためにはターゲット層を具体的に決め、実際に話を聞いてみましょう。検索では出てこないオリジナルな情報を使ってみてください」。 4班に分かれ、学生たちはグループワークを開始。高齢化に着目する班や、30代の独身女性をターゲットする班など着眼点もさまざま。11月のプレゼンテーションに向かって資料作成に努力していきます。 担当教員からのメッセージ 3、4年のゼミ生は「都市と地域の社会学」と「ライフスタイルの社会学」というテーマに基づいてオリジナル報告を実施してきました。今回の講義は、家庭生活や働き方の変化をふまえた企業活動のお話だったので、学生もこれまでの社会学系の講義で学んできた事柄とのつながりを理解することができたようです。11月の発表に向けて、ヘーベルハウス/へーベルメゾンの取り組みをふまえながら、学生らしい提案ができるように奮闘中です! ご多忙の中ご講義頂いた河合様、本当にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
企業の美意識を知る!国文学マーケティングプロジェクトの授業で、資生堂企業資料館館長大畑昌弘氏による講演が行われました。
10月2日(月)に国文学マーケティングプロジェクト(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)にて、株式会社資生堂(以下資生堂)資生堂企業資料館館長の大畑昌弘氏をお招きし、企業の歴史と理念についてご講演をいただきました。国文学マーケティングプロジェクトは、文学部国文学科を対象に開講されている専門教育科目です。日本文学とかかわりの深い企業を主体的に調査研究することで、マーケティングと文学の関連性を意識し、学科で学ぶ意義をより深めていくことを目的としています。 講演のはじめに大畑氏は、「資生堂は『変わらないために変わり続けてきた会社』」と紹介し、「『世のためにという思い』『いつの時代も〈本物〉を造り出そうとしたこと』『創り出した〈本物〉の価値をきちんと届けること』この3つのこだわりを大切にしてきました。今回の講演で、それを感じていただけたら」と述べました。 資生堂企業資料館について 静岡県掛川市にある資生堂企業資料館。1992年に設立され、創業当時から今につたわる貴重な資料の保存・収集・展示を行っています。設立のきっかけは、1972年に社史である「資生堂百年史」を編纂したこと。資料収集を行う中で、統一された収集ルールと保管システムが求められ、企業資料の長期保存を目的に資料館が企画されました。 「資生堂企業資料館」公式サイトhttps://corp.shiseido.com/corporate-museum/jp/ 「資生堂企業資料館オンラインツアー」https://corp.shiseido.com/jp/company/museum/ 資生堂の創業 資生堂は1872年、福原有信が日本初の民間洋風調剤薬局として創業しました。1888年には、日本初の練歯磨〈福原衛生歯磨石鹸〉を発売。当時としては高価格でしたが、科学的な機能性や高級感を打ち出し、大きな成功を収めました。大畑氏はこれを「資生堂の本物志向や高品質へのこだわりが表れた商品」と紹介しました。 1897年には、資生堂初の化粧品〈オイデルミン〉を発売。赤い化粧水をガラス瓶に詰めたこの商品も高品質を追求したもので、「資生堂の赤い水」として評判を呼び、資生堂を象徴する存在となりました。 資生堂パーラーについて 資生堂のDNAである「先進性・高品質・本物志向・西洋風」を象徴する事業が、化粧品会社が飲食店を経営するというすこしかわったビジネスである、資生堂パーラーです。1900年、創業者・福原有信はパリ万博視察の帰路にアメリカを訪れ、ドラッグストアで人気を博していたソーダ水に着目。日本でも導入を決断し、機材だけでなくグラスなどの食器もすべて本場から輸入しました。本物へのこだわりが「まるでアメリカにいるよう」と評判を呼び、休日には遠方からも人が訪れる一大名物となりました。 これが発展し、1928年に薬局から独立したレストラン〈資生堂アイスクリームパーラー〉が開業。西洋料理の草分けとして人気を集め、高級志向と本物感を追求する場は文化人のサロンとしても機能しました。当時の小説に「資生堂」や「パーラー」が登場するほど文化的存在感をもち、その洗練されたイメージは資生堂全体のブランド形成に大きく寄与したと紹介されました。 「美と文化の発信者」という企業文化の確立 資生堂の美の提案意識を確立したのは、創業者の理念を継承した初代社長・福原信三でした。画家志望から家業を継ぎ、アメリカで薬学を学んだ信三は、1916年に意匠部と試験室を設立。パッケージや店舗設計、研究開発の体制を整え、現在の研究拠点の礎を築きました。また、鷹の図柄を廃し〈花椿マーク〉を考案、1927年には「資生堂書体」を制定するなど、時代に先駆け企業ブランディングを実施。資生堂のイメージの定着を図りました。 さらに、〈資生堂ギャラリー〉を開設して若手芸術家を支援し、美容科や子供服科を通じて総合的な美容文化を提案。文化情報誌〈花椿〉では、最先端の生活文化の発信と共に、時代の波によって刷新されていく新しい女性像を発信しました。大畑氏は「資生堂は単なる化粧品会社ではなく、文化を創造し生活に彩りを与えてきた」とまとめました。 資生堂の発展 二代目社長・松本昇は、震災や戦争の動乱期に資生堂の価値伝達の仕組みを経営的な側面から確立しました。大畑氏はその具体例として、「品質本位主義」など社員の精神を示す〈五大主義〉や、社員が本物の価値を届ける〈ミス・シセイドウ〉などの取り組みを紹介。 特に重要と話すのが、1923年導入の〈資生堂連鎖店(チェインストア)制度〉です。これは「お客さま・小売店・資生堂が共に栄える」という〈共存共栄主義〉の実践であり、乱売(大変安く売ること)されがちだった化粧品を契約小売店で正規価格のみ販売する仕組みでした。震災で販売網が打撃を受けた中、新しい販売経路を築く狙いもありましたが、資生堂の高級志向のブランドイメージが信頼を呼び、業界の冷笑をよそに契約は年間目標200件に対して1700件を突破。ピンチをチャンスに変え、資生堂の価値を世に広く伝える契機となりました。 時代に合わせた変化 資生堂は戦争で化粧品が奢侈品に指定され生産販売ができなくなった時代も、形を変えて存続しました。戦後では日本初となるカラーポスターを発表し人々に希望を届け、1960年代には特色ある販売キャンペーンを展開。その中で生まれた広告では「上品で清廉な資生堂スタイル」に対抗し、女性自身が求める新しい女性像を提示する「反資生堂スタイル」が登場しました(「太陽に愛されよう」ポスター)。さらに1980年代には「サクセスフルエイジング」を掲げ、老いを前向きにとらえる視点を社会に広めます。近年も、2011年の東日本大震災支援や、2020年のコロナ禍で手に優しい消毒液を開発し売上の一部を寄付するなど、社会の困難に寄り添う取り組みを実施。資生堂は災害や疫病の時代にも「できること」を模索し続け、常に時代に応じた価値を発信し続けています。 本物の価値を創造し、それらを伝えるため、時代や社会に合わせて様々な変化に挑んできた資生堂。大畑氏は「私も『今の私にできることを精一杯やろう』という気持ちで常に活動している。その中で何かしら皆さんや社会に寄与する会社でありたい」と、社員としての在り方を述べ、講演を終了しました。 鑑賞と質疑応答 講演の最後には、資料館から持参された貴重な品々を間近で鑑賞する時間が設けられました。会場では、大畑氏の解説を受けながら、1897年に販売が始まった化粧水「オイデルミン」のレプリカや、シーンに合わせたメイク方法を紹介する「ビューティーチャート」などが紹介されました。なかでも注目を集めたのは、日本で初めて女性ホルモンを配合したクリーム「ホルモリン」です。容器には、繊細な装飾と資生堂の花椿のロゴが施されており、大畑氏は学生に「率直な感想を聞きたい」と問いかけました。学生からは「小さくてかわいい」「ロゴのワンポイントが素敵」などの声があがり、大畑氏は「今の感覚を知りたかったのですが、やはり“かわいい”と感じてもらえるのですね」と満足そうに話しました。 その後の質疑応答の時間でも活発な意見交換が行われました。 学生から「働いている人の男女比率はどのくらいですか?」という質問が出ると、大畑氏は「美容部員を含めると女性が8割。含めなくても5:5か4:6くらいで女性が多いと思います」と回答。学生たちは、その割合が予想以上だったのか、驚いた様子を見せていた。 また「館長の仕事はどのようなことをしているのですか?」という質問には、「開館日・閉館日にかかわらず、見学案内や問い合わせの対応、資料整理や資料の貸出など、資料館ならでの仕事をしています。同時に複数の業務を並行して行うことも少なくないので、メンバーやアシスタントさんたちに対応いただくタスクの優先順位を決めたり、館内における基本的な決裁も私の仕事ですね。」と説明しました。 今回の講演は、文化にも寄与する企業の意識に触れる貴重な機会となりました。 担当教員からのメッセージ 国文学の学びと企業活動を結び付けて考えることをコンセプトにした本講座も6年目を迎えました。本講座には、資生堂と叶匠寿庵の2社にご協力をいただいて授業が進行していきます。まずは、資生堂企業資料館の大畑館長からの講話をいただきました。150年を超える長い歴史を持つ資生堂、常に時代の先導者として、「美」へのこだわりを繋ぎ続けてきた社員たちの深い思いがあります。そして、近代文学の中にも数多く登場する資生堂パーラーなど、国文学の学びが、企業の歴史の中に散りばめられていることを改めて学びました。大畑館長には、この場を借りて心から感謝申し上げます。










